「おぉ、ジャンヌよ!」
大声でしゃべるのはキャスター。どこぞの笛吹男のように子供達を引き連れて夜の町を練り歩く。
「私もそれ相応の準備をして参りました!」
この狂人の目指すところが私にはわからない。ジャンヌなる偉人が果たして狂人の所業を喜ぶのだろうか。おそらくは、キリスト教の聖女ジャンヌダルクを指しているのだろうが。
「このジル・ド・レェめが催す悪徳と背徳の宴を」
…狂人よ。あなたでは、誰かを喜ばすことはできませんよ。狂い方が根本的に間違っています。あなたはジャンヌなる者を愛していましたか?理解していましたか?蒙昧な記憶に頼って行き場のない感情で狂ってはいませんか?自らの抱いた妄想と他人からの妄言に惑わされていませんか?本当に愛を抱いて人を喜ばそうと狂いましたか。否、否、きっと否。あなたにあるのは自己満足。崇高な心も消え果てて空虚な隙間を叫んでいる。
あぁ、なんて悲しい人だろう。なんて哀れな愚者だろう。望まれぬ道化ほど悲しい生き物はいませんよ。
中空を見つめて妄言を撒き散らす狂人。
私は、その脇腹に刃を突き立てる。
「どうかご「えいっ!」…え゛?」
私が振るうは懲愚の剣。王より賜る聖なる剣。
「【シャスティフォル】!」
真名を解放。変装スキルが無効化されて魔力の渦が生まれる。それを肌で感じながら突き立てた刃を通じて敵の体内に魔力を叩き込んで内側から壊す。
規格外の魔力を叩きつけて相手の魔術回路を暴走させ、自滅に追い込むのだ。仮に魔力回路を持たなくても行き場を失った魔力が内側から身体を傷つけて対象を死に至らしめるだろう。
…なんだか、使い方を間違っている気がするが。
「あぁああぁぁぁ!!!」
血涙を流しながら陸に打ち上げられた魚のようにもがき苦しむ様は、私が1つの命を傷つけたことを攻め立てるようでもある。出力を考えないとマスターの命に関わるのだ。苦痛を与えたことには謝罪しよう。
「じゃ、んぬ…?」
でも、私は間違ってはいない。獣を仕留める時は獣に仕留められる覚悟を持たねばならない。剣を向けるということは、そういうことだ。あなたは私を私はあなたを殺そうとした。その結果がこれだ。狩人が獣に仕留められただけ。従順な子羊に化けた狼に気づけなかった狂人はここで終わる。
「ダゴネット!無事か?どこも怪我はしていないか?」
「あぁ、王さま。まったく遅いですよ。見ていたなら手伝ってくれればいいのに。」
私は努めて明るく返す。
「騎士王、そいつは…?」
あのランサーを出し抜けるとは…。知恵を絞った甲斐があったというものです。