水晶に映し出されるのは遠くの景色。所詮、遠見の魔術というやつだ。
「…ちょっと待ってください。アイリスフィール。」
さっき、キャスターに連れられている少女の一人が見覚えのある仮面を被っていた。一瞬であったが、認識するには十分であった。キャスターは気づいていないようだが、彼女が化けているようだ。
「…遠見の魔術に気づいている?」
でも、彼女はお世辞にも強いとはいえない。彼女も英雄の一人。騎士の一人だ。この表現は侮辱になるのかもしれないが、私は心配なのだ。
「すみません、アイリスフィール。」
妄言を叫ぶキャスター。怯えた様子で動けずにいる幼子たち。あれは、狂っている。いつ、その暴力が牙を剥くか予想ができない。
「いいわ、セイバー。あのキャスターを打倒しなさい。」
「感謝します。アイリスフィール。」
正義のために剣をとるのなら、あれは叩くべき悪。闇夜に紛れて悪をなす。あれは敵だ。私の騎士が剣をとった。ならば、彼女の王が剣をとらないことがあろうか。あってはならない。騎士王である私が彼女に任せきりでいいはずがないだろう。
遠くから聞こえる音。真名を解放したシャスティフォル。私が鸚鵡の騎士と呼ばれた頃に使っていた剣だ。
「ダゴネット!無事か?どこも怪我はしていないか?」
闇夜を全力で駆けてきた。彼女や幼子たちが心配であったから。しかし、やはり私は間違っていたらしい。ダゴネットは確かに強くないかもしれない。でも、彼女もまた英雄だ。そして私の騎士だ。
「あぁ、王さま。まったく遅いですよ。見ていたなら手伝ってくれればいいのに。」
そういいながら仮面のまま私を見る。少女に化けて潜入した貴女と違って、私は正面からキャスターの使い魔と交戦してたどり着いたのだから仕方ないだろう。
「騎士王、そいつは…?」
怪訝そうな顔でランサーは言う。ランサーはダゴネットの姿を知らないのだ。バーサーカーは黒い鎧を着用した不可思議な騎士である。そういう認識なのだろう。小柄な道化師を怪訝そうに見るのは仕方がないことだ。
「お初にお目にかかります。ディルムッド・オディナ様。私は円卓の騎士。その一人にございます。」
「お前、俺の名前を…!」
名乗った覚えもないのに知られている。しかし、相手を見た覚えがない。姿を知らない。これは確かに不気味であろう。
「しかし、わかったぞ。貴様の真名。その衣装で円卓の騎士を名乗るなら、貴様はアーサー王に仕えた道化師騎士【ダゴネット】だろう。」
「そうとも、私がダゴネット!私も有名になったものですね、王さま。」
ダゴネットは嬉しそうに名乗りをあげた。
「…っ!どうやら俺の主に危機が迫っているようだ。」
子供達を救出し、キャスターを討伐したことで生まれた柔らかい空気を凍らせたのはランサーの一言だった。
「子供達のことは任せましたよ。ダゴネット!」
私もまた帰路を急ぐ必要が出てきた。どうして私のマスターはサーヴァントを用いずに血を流すような戦いを好むのか。理解しがたいところだが、早く戻らねばなるまい。なんだか、嫌な予感もする。
「…は、はい!」
子供達に囲まれながら手を振る彼女。私は、振り返らずに手をあげて応える。