「…桜ちゃん、一緒にお風呂でもどう?」
地下室送りに耐えるのは、誰かの存在が必要だと思う。私にとってそれは葵さんで。それは、まるで陽だまりのように暖かく、肉親のように優しくて…。
だから、私も葵さんのようにはなれずとも桜ちゃんの傘くらいにはなれたらいいな。
「いい。だってすぐ汚れちゃうから。」
「ダメだよ桜ちゃん。君は女の子なんだから。」
雨に濡れた私を有無を言わさず風呂に連れ込んだ葵さんの台詞。まさかこの私が言うとは思わなかった。
“ほら、転んだんでしょ?泥だらけ。ダメだよ。雁夜ちゃん。あなたは女の子なんだから。”
「はーい、目をつぶってくださーい。」
その日から一緒に風呂に入ってあげることにした。最近は、体の左半分がよく動かなくなった。その事を悟られないように気を付けながら洗ってあげるのだ。難しいけれど、私だって大人だ。そのくらいはできてしかるべきだ。
「じゃあ、雁夜さんはお母さんと一緒にお風呂入ったの?」
あぁ、田んぼに落ちた日は本気で泣いたよ。
「うん、泣きながらね。みっともないでしょう?でも、これが不思議なことに今となっては笑い話になるんだよね。」
「なんだか、そんな気がする。」
そうだよ。きっと大きくなって大人になれば、大抵のことは笑い話になる。こんな辛い思い出だって朧気な記憶、記録になり下がる。
「ねぇ、これも笑い話になるのかな?」
「…なるよ。きっとなる。」
ごめんなさい。嘘をつきました。
「きっと、きっとすぐに迎えが来るよ。凛ちゃんも葵さんも時臣さんも。それで悪い夢は覚める。きっとその頃には私も「来ないよ。」桜ちゃん?」
「お父さんに捨てられたって…。そんな人いなかったって思いなさいってお爺様がいってた。」
「そんなことないよ。あり得ない。きっと些細な行き違いがあったんだ。お父さんはそんなことしないよ。」
魔術は基本的に一子相伝。子供は二人。きっとここに答えがある。遠坂にだって考えがあったのだ。きっとそうだ。そうじゃなきゃいけない。
「じゃあ、こうしようか。全部終わったら葵さんのお母さんに叱ってもらおう?あの人は怒ると怖いからね。それで仲直りしてから皆で遠いところに旅行にいこう?」
私は仕事柄色々な場所に出向いたからね。
「うん。」
あぁ、ちくしょう。左腕が上手に動かない。
「きっと楽しいよ?葵さんは英語とか得意だし、お父さんは外国好きだしね。通訳なしでもきっとバリバリ話せちゃうよ。」
「雁夜さんは?」
…私?私かぁ。
「じゃあ、ガイド役に立候補しちゃおうかな!」
おばさん、頑張るよ。