「…ダゴネット。」
鎧を解いて後ろから抱き締める。小柄で線の細い彼女は抱き留めておかないと消えてしまいそうな気がするのだ。あの日、どうして彼女が死んだのか。誰が彼女を殺したのか。気の弱いところのある彼女に訪ねるのは悪手だ。下手をすれば、錯乱しかねない。彼女は力ある者ではない。
「貴女のマスターは幸せ者ですね。貴女を引き当てるなんて本当に幸福です。」
彼女は確かに騎士としては弱い。実力もないし、武勇に優れた逸話も残っていないだろう。
「そんなことはないですよ。」
しかし、彼女は優しく誠実で聡明だ。先の問答のような諫言。自分の主に賛同するばかりでなく、きちんと諫める発言ができる臣下は貴重な存在だ。彼女は臆病なところもあるが、彼女の持つ慎重さに感謝することもあるだろう。
「…いけませんよ、王さま。」
わかっている。私が願いを叶えるためには彼女を斬り捨てなければならない。
ライダーには否定された私の願い。私の願望は過去を改編すること。その願いのために彼女や多くの人々と共に歩んだ道を消し去る結果になろうとも。私は、やはり望まずにはいられない。あのような結末を迎えてどうして何も思わずにいられることか。彼女を含め多くの人々を思って願うことが悪であるとは思えない。
「王さまはきっと疲れているんです。少しくらい立ち止まってみても悪くないと思います。」
誰かのためを思う祈りが悪であっていいはずがない。正しくないはずがない。
「ダゴネット、あなたの願いは何ですか?」
「まだ決まっていません。いや、正確に言えば候補はあるのですが…。笑いませんか?」
正面から抱き直して仮面を剥ぎ取る。彼女は頬を赤らめながら問いに答える。
「私にとって大切な人々の未来が幸福で満ちることです。」
…なるほど。彼女はそういう人間だ。彼女は野望に溢れた英雄ではないし、清廉潔白で正義に燃える模範的な騎士でもない。
「でも、そのためには私にとって大切な人々が無事でなくてはなりません。そうなれば、一番の願いとしては“この聖杯戦争に参加した人々の願いの成就”がよいのでしょうか。
…とにかく、私は計画性がないので個別具体的な願いを考えるのが難しいのです。目の前の現実に精一杯ですし、まずは聖杯を手中に納めること。これを目標に今日まで戦ってきました。」
「相変わらずですね。ダゴネット。」
あの頃と少しも変わらない。彼女は自分の周囲にいる人を大切にする。(逆に言えば、関わりのない人には無関心なのだが。)そんな彼女らしい願いを少し微笑ましく思ってしまった。