「葵、お茶をいれてくれるか?」
目の前の遠坂さんが言う。奥にいる葵さんの旦那さんだ。遠坂邸と呼ばれるだけあって立派な家。優雅にソファーに座り私と対面している男は“貴族”と形容するのがふさわしいような人。…正直、私は嫌われているようだと思う。私自身、彼に関しては複雑な思いを抱えているから人のことは言えた義理ではないけれど。
「…さて、ずいぶんと変わり果てた姿になったじゃないか。」
「間桐の魔術は身を蝕みますから。」
私の姿を見て考えろ。自分が娘を地獄に送り込んでしまったと気づけ。
「率直に聞きます。どうして間桐だったのですか?あの家は地獄です。未来なんてありません。」
「それは、君にとってそこまで重要なことかね?」
まさか、知らずに送り出したのか?いいや、知っているはずだ。知らないなんてことはあり得ない。
「それに君が未来がないだなんてよく言えるじゃないか。魔術の道から逃げた落伍者が。血の責任から逃げ、浅ましくも聖杯を求めて舞い戻った君は優雅ではない。それどころか、君は魔術師の恥だ。」
「それは、私が間桐の魔術を継承しなかったことを…?」
何も知らない癖に好き勝手なことを言わないでほしい。あれは魔術なんかじゃない。あれは外道だ。ただの外道だ。あそこで行われるのは、人の肉を食み生き永らえる妖怪の餌になるための儀式だ。
「そうだとも。そもそも君が逃げたことで間桐の魔術の後継者が不在になった。君の家から未来を奪ったのは君だ。もっとも、君のために桜は間桐の後継者として迎え入れられたのだから感謝もあるが。」
…感情を抑制しろ。下手に興奮すると不味いことになる。もしここで体内の虫が暴れ始めたら会話どころじゃなくなってしまう。
「君の父上から持ちかけられたのだよ。後継者がいなくなって困っていると。魔術は一子相伝。だから二子を持つ魔術師は苦悩する。葵は母胎として優秀すぎた。類い稀なる才を持った二人の娘。しかし、選べるのは一人のみ。残る一方は凡俗に落とさねばならない。しかし、間桐の後継者となれば別だ。それに廃れたとはいえ、名門である間桐。聖杯戦争のご三家の1つだ。娘やその子孫が根源に到達する可能性は飛躍的に上昇する。」
…酷く見下した目だ。この目が嫌いだったんだ。
それに私には理解できない。
当たり前の日常を魔術がないだけで“凡俗”とまで貶す。葵さんを母胎などと表現する。
これが魔術師という生き物なのだろうか。
「遠坂と間桐で姉妹で骨肉の争いをしろと…?」
だとするならば、それは人ではない。
「そうなれば、二人は幸福だ。どちらか一方は根源へ到達し、残る一方は名誉を得ることができる。」