「そうまでして聖杯が欲しいか…」
ランサーの持つ槍が胸部を貫いている。二槍を操る騎士は血涙を流しながら口を開く。
「そうまでして勝ちたいのか…」
必滅の槍を持つ左腕が持ち上がる。本人の意思を無視して持ち上がる。令呪。マスターの持つ切り札。サーヴァントに絶対的な命令を下す呪い。あるいは、奇跡を起こさせることもできるであろう強力な呪い。
<騎士道に誉れあれ!>
そう語りながら私と斬り結んだフィオナ騎士団の一番槍。輝く顔のディルムッドは、憎悪に歪んだ顔で私たちを睨み付ける。
「許さん、この俺のただ1つ抱いた願いさえ踏みにじり、騎士の誇りを辱しめる…」
車椅子に乗った金髪の男。絶望したような表情を浮かべながらも慈しむように女を抱き抱えている。その傍らに立つのは私のマスター。
「貴様らは何一つ恥じることはないのか!外道に走り、騎士を貶める亡者ども。許さん、断じて許さん…!」
二本の槍が胸を貫く。私ではなく、彼自身の手で以て。いかほどの屈辱だろうか。どれだけの絶望だろうか。自分の掲げた夢を誇りを自分の槍で壊されるのだ。
「聖杯に呪いあれ…!」
その無念。その絶望。突かれていない筈の私の胸が痛む。なぜ、どうして…。こうまでしてするのだろうか。
「その願望に災いあれ…!」
口より血を吹き出しながら
「いつか地獄の釜に落ちるとき」
その怒りを憎しみを吐き出しながら
「このディルムッドの怒りを思い出せ…!」
騎士は砂のように崩れていく。何ということだろう。誇り高き騎士が背後からの裏切りで絶命した。その尊厳を誇りを理想を最悪の形で裏切られながら死んでいった。
乾いた音がした。
銃声だ。人体が地を転がる鈍い音。無機質な車輪の音。
「貴方って人は…!」
殺したのだろう。嗅ぎなれてしまった血の臭いがする。ランサーを殺したのに。まだ殺し足りないというのだろうか。
微かに息のある金髪の男の口が動く。
「僕は、殺していない。」
…マスターの助手であるマイヤが銃を持ったまま近づいてくる。地面に広がる血液。致命傷だろう。これ以上の暴力は不要だ。
銃声
「マスター!」
私の声に振り返ることもない。彼はあれだけの憎悪の叫びを聞いて表情1つ変えていない。
「ちょっと、切嗣!」
アイリスフィールが叫ぶ。雪景色の中で幼い娘と遊んでいた彼と今の冷酷な殺人者としての彼。本当に同じ人物なのだろうか。
「お疲れさま、アイリ。これでランサーの陣営は全滅した。セイバーの呪いも解かれた。」
事実ではある。私の左手は自由になった。ランサーは脱落した。その手段を除けば目標は完全に達成されたとしていいだろう。
「そういうことじゃないわ。ちゃんとセイバーの声に答えて!」
…私には自分のマスターがわからない。