「…もとより、飛行機のチケットなど取ってはおりませんから」
我が師の背中に突き立てるのは、私を一人の魔術師として認める証という名目で渡されたアゾット剣。背後から胸を貫通させ、肉を抉るように抜く。セイバー陣営との同盟の条件として私の国外追放を受け入れたようだが、私が裏切るとは思わなかったのだろうか。
「ガハッ…!」
…流石は我が師。あれで即死しないとは。しかし、そう簡単に運命は変わらない。元より代行者として異端を討ち滅ぼしてきた身。それに脊椎ごと心臓を破壊された上で幅広な刀身が体内を蹂躙したのだ。もはや、死ぬのは時間の問題である。
「ご息女のことに関しては、ご心配なく。安心してお眠りください。」
開いていく瞳孔。血の気の抜けていく顔。戸惑いと絶望の入り混じった顔。ただ、これは目標の一歩に過ぎない。セイバー陣営との共闘によるライダーの撃破。遠坂時臣は、これについて打ち合わせるために間桐雁夜を呼び出した。私は、その裏で遠坂葵を呼び出した。
「さすが、一流の魔術師の作品なだけはある。」
首が落ちる。アゾット剣も作り手の殺害に使われるとは思わなかっただろう。
ここからが、シナリオの始まりだ。アーチャーには単独行動スキルがある。その気になれば、魔力供給なしでも暫くは現界し続けることができよう。ここで英雄王が行うのはセイバーを相手に遊ぶこと。
「ほぅ、これはこれは…。よもや、飼い犬に首を食いちぎられるとはな。」
愉快そうに笑う英雄王。
アサシンに命じてアインツベルンの聖杯を奪えば、その入れ物の夫である衛宮切嗣を呼び出すことも可能であろう。そうすれば、私は彼を私を知ることができる。
私の召喚したアサシンはライダーを相手に7割を消耗したが、未だに3割が残っている。計画に齟齬が生じた場合の修正役として教会にも一部のアサシンを残す。
「まったく、相手がセイバーでなければ我は動かなかったぞ?」
殺された父の遺志を読み取って移植した監督役のための予備令呪。ありがたく使わせてもらおう。
アサシンを残したのは、やはり正解だった。私はアサシンを通じて各陣営の動きを監視することができる。人数が減ったことは残念であったが、彼らは任務に忠実だ。余計な情を抱くこともなく、非常に扱いやすい。
そして彼らが用済みとなれば、令呪をもって自害させ英雄王のマスターとなる。
我が師の頭をあるべき場所へと戻す。残された令呪が消える前に剥ぎ取り、己の腕に移す。裏切りは原初の罪だ。しかし、私は己の胸の高まりを抑えることができなかった。
「しかし、お前にしては上出来だ。楽しみにしているぞ。」