「…また、白くなってた。」
最初は気のせいだと思った。お母さんよりも年下で“おばさん”よりは“お姉さん”と呼ぶのが正しいような見た目だったのに。髪の毛が少しずつ白くなってきた。
「細くなってた。」
抱き締めたときの感触が変わってきた。歩き方も変になってきた。
気付かない振りをしよう。白髪に触れられた時、酷く悲しそうだったから。
「大丈夫?」
「平気平気よ。」
嘘だ。雁夜さんは嘘が下手。私、知ってる。あなたがトイレで戻していたことも。階段を上がってきただけなのに汗が滴り落ちていることも。
「…本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。お爺様と一緒に今夜は大事な儀式があるの。それで緊張しちゃったんだ。」
そう、今日は地下室にいかなくていい日。でも、何の儀式を行うのだろう?
「…これ、持っていって。今日は雁夜さんの方が辛いと思うから。」
「いいの?ありがとう!ごめんね。今夜からお仕事でしばらく忙しくなっちゃうけど終わったら一緒に遊びにいこう。それまでに旅行先、考えておいてね!」
壁に身を任せながら歩いていく姿は、酷く小さく儚いものに見えた。
「バイバイ、雁夜さん。」
薄暗い地下室。虫の気配に怯えながらも階段を降りる。大丈夫。令呪は現れた。濁ってしまった左目と同様に包帯を巻いて桜ちゃんには隠した。転んで怪我をしたなんて嘘はきっとばれているだろうけど。
「おぉ、今度は逃げずに降りてきたか。」
「当たり前ですよ。それより、準備の方は?」
魔方陣が描かれた床。真ん中にあるのは錆び付いた剣?これが、噂に聞く聖遺物とやらだろうか。
「カッカッカッ…。よもや、お主を聖杯が選ぶとは思わなかったわ。大きな口を叩くのは結構じゃが、詠唱はできるのじゃろうな?」
「えぇ、きちんと頭にいれてきました。」
過去の英雄を使役して争う戦争。なるほど、言葉にするだけで狂っているのがわかる。
「ただなぁ、雁夜。お主は脆弱ゆえに調整を施したとて他のマスターには及ばん。」
「存じております。」
最近は、隠せないくらいに調子が悪い。魔術を使えば、左半身の血管が浮き出して酷いことになる。そうでなくたって麻痺の症状は悪化するばかりだ。
「じゃからな、お主にはバーサーカーを呼んでほしいと思う。」
「バーサーカー?」
狂戦士?何だってそんな物騒なものを?
「いかに良いサーヴァントを引き当てようとマスターの性能の是非によって無価値になり得る。しかして、バーサーカーならばパラメーターが向上するためにマスターの性能の不足を補うに足りるだろうて。」
「それで、どうすればいいので?」
…悔しいけれど現実だ。
「簡単なことじゃ、二節加えればよい。」