「あな、た…?」
葵さんの声がする。私は声も出せなかった。そこにあったのは、死体。現代社会で生きる上では遭遇することのないものだ。
肩から首が転がり落ち、あとを追うように胴体が生々しく崩れ落ちる。
「…あ、ああおいさん!」
声が震える。…寒い。ここは、寒い。背筋を冷たいナイフでなぞられるような感覚。肌が泡立つ。ここは、嫌な予感がする。
…笑い声。高らかなものではない。影に潜み他人を嘲笑する者のする嗤い声。
「危ないっ!」
虚空から飛来したモノがダゴネットによって弾かれる。弾かれて机に突き刺さったのは月明かりにすら反射しなそうなほどに黒々した短刀。
…イスカンダルの差し出した柄杓を破壊した物と同じだ。つまり、ここにいるのはアサシン。
「よくぞ避けたな道化師よ。」
「…刃物の扱いには慣れているもので。短刀はジャグリングするもの。人に向けて投げてはならないって教わりませんでした?」
安い挑発だ。
「生憎と我らの教義とは異なるようだ。」
虚空から現れた暗殺者は口を開く。…部屋のすみに天井に窓枠に。白い仮面が浮かび上がっては消えていく。手に手に武器を持ち、今にも私たちの首を落とそうと構えているのだ。
あまりの恐怖に現実感が追い付かない。空想ではないのか。空想であってくれないのか。
「えっ、本当ですか?…あとでパロミデスさんに聞いてみようかな。」
音を立てて背中に突き立つ短剣
「…何か、刺さったんですが。」
ゆっくりと引き抜くも、怪我をした様子はない。
危なかったぁ…。セイバーのマスターの旦那さんにもらった防刃チョッキがなかったら死んでたかもしれない。高位の宝具だったら貫通されていたかもしれない。正直なところ、ナイト オブ オーナーを発動してなかったら死んでたと思う。
「ちょっと、刺さったら危ないでしょ!」
…反応なし。
しかし、下手に避けるとマスターが危ない。葵さんもマスターも精神的に正常じゃない。こんな状態じゃ逃げるのも難しい。だからといって室内でチャンバラするわけにもいかない。それこそ危ないし、私は得意じゃない。
「来るなら来い!できるなら、来るな!」
考えろ。考えろ。このままだと確実に終わる。白旗をあげてマスターだけでも助けてもらう?いや、皆殺しにされるだけだろう。
何かヒントがあるはずだ。
“個にして群、群にして個”
相手は集団
“あれは、貴様の連れか?”
征服王の問い
“おのれ、よもや我の出る酒宴に刺客を差し向けるとは”
マスターを殺されたアーチャーの答え。
…考えろ、思考を止めるな。