英雄王と共にワインを片手に見下ろす。私は、己の胸の高鳴りを確かに感じていた。
「逃げましょう、マスター!」
必死に叫びながら四方より襲い来るアサシンに削られていくバーサーカー。この密室では派手に動くことができない。下手に動けば己のマスターを傷つけることになりかねないからだ。
『だが、バーサーカーだけは残せ。』
英雄王につけられた注文はそれだけだ。
…どうすればいい?ランスロットさんならどうした?彼の場合は、瞬時に殲滅するだろう。それだけの力がある。ガウェインさんも一瞬で突破して建物ごと消し飛ばすだろう。ダメだ、参考にならない。できないことはないが、あまりにもリスクが高い。
“他人の武器や姿を借りることができる”ことと、“他人になれる”ことは違うことなのだ。
例えば、私がここでランスロットさんの姿を借りたとしても魔力で作られたアロンダイトの真名を解放することはできない。
侮られている。こちらを痛め付けようという意思が透けて見える。そんな気がする。
ここで、アサシンに化けて混乱を起こすか?
その程度で伝説にまで昇華された暗殺者の混乱を誘えるだろうか。
真っ先に狙いそうなマスターを狙わずにいる。生け捕りにするのが目的か?
相手は、主に鎖や短刀の投擲で私を釘付けにしている。接近してきたのを捉えようと剣を振るっても私の腕では当てられない。それどころか、防具の隙間を狙われる始末。
「そこっ!」
だから、どうにかする。セイバーのマスターの旦那さんに頂いた銃で解決しよう。銃剣をつけた機関短銃を使えば、それなりに使えるはずだ。
徐々に退いて私を殿にして大急ぎで逃げ出せば、二人は助かるかもしれない。聖杯よりも命が大事だ。桜ちゃんだってマスターの帰りを待っているんだ。死んでしまったら終わりだ。そこで終わりだ。それだけはあってはいけない。
攻撃する瞬間だけは、どんなに訓練した騎士でも獣でも隙ができる。それは暗殺者とて変わらないだろう。気配遮断のスキルも攻撃する瞬間だけは無効化されるようだ。しかし、全員が同じような格好をしているために数えにくくてしかたがない。
夜が開けるまで耐えきるべきか?いや、それは色々と現実的ではない。そこまで悠長な連中ではないだろう。
仮にも円卓の騎士の一人にある者が銃を使うとは…。機関短銃を破壊されれば、袖口から自動拳銃。それも壊れれば、袖から再び新しいものを出す。
…力なき存在の足掻く様もまた魅力がある。
撃たれるのを無視して大柄なアサシンが飛びかかる。
アサシンは痛みに強い。ハサンの語源は“ハシシ(大麻)を吸う者”である。つまり、彼らは薬物によって痛みや恐怖を克服していたのだ。
バーサーカーは銃剣を突き出して心臓を貫く。
近距離から叩き込まれた弾丸と銃剣は確かに一体のアサシンを殺した。
…自己の一部を殺されたことに動揺されることもなく、殺されたアサシンの背中に潜んでいた小柄なアサシンが躍り出る。
今さら慌てても遅い。避けるにも迎撃するにも近すぎる距離。
死角を利用して放たれた一撃は“蹴り”。バーサーカーはゴム毬のように吹き飛ばされ、残る二人と共にドアに激突する。
美しい衣装をズタズタに切り裂かれ、各所から赤い血液を滴らせるバーサーカー。
私の魔術によってドアが開かないことに気づき、騒ぐ己のマスターと放心状態の遠坂婦人を横目で確認しながらも彼女は不敵に笑った。