「風よ…」
魔力を練り上げる。本人になれなくても模倣程度ならば可能だろう。イメージするのは、鸚鵡の騎士。つまりは、この剣を使っていた頃の王さま。
“風王鉄槌”
これは、王さまの宝具として成立しているけれど魔術の一種である。風で鞘を作るのは大変だが、相手に叩きつけるという点に限れば技術的な壁は低くなる。
「【風王鉄槌】!」
渦巻く風を押し出すイメージで叩きつける。部屋の隅まで飛ばされたために可能になった技だ。部屋の中に隠れ潜む暗殺者たちも室内での範囲攻撃は予測していないだろう。していないといいな。していたら困るな。
荒れ狂う風は嵐のように部屋を蹂躙した。品のある柱時計も美しい彫刻も火の消えた燭台も皆等しく瓦礫の山と化した。…もう、いないだろうか。
「…ほら、たってください!」
ただ、背中を向けるのは躊躇われる。彼らは騎士ではない。どこからでも殺しにかかるだろう。暗殺者というのはそういうものだ。きっと彼らには彼らなりのプライドがあり、騎士のそれとは異なるのだ。
「開かない!」
…まだ開かないか。
どうしてもここから出したくないらしい。
「…退いてください。」
シャスティフォルを用いれば大体の術式は強引に破壊できる。これ以上の無茶は危険だ。主にマスターの身体が持たないという点で。顔面蒼白で不自然な呼吸。さらには隆起した血管からは血液が流れ出ている。魔力の供給も不安定になりつつある。
「どこへ向かおうというのか、雑種。」
…聞きたくない声がした。どこまでも不遜であり、しかしそれが当然のように許されてしまう声。
「そりゃあ、家に帰るんですよ。」
マスターを家に送り届け、葵さんは交番にでも預けようか。私は王さまのところへ走ります。
「おい、道化師よ。お前は、セイバーの人形だろう?人形風情が随分と大きな口を叩くではないか。」
「…よい騎士とは、神を恐れ王を敬うもの。しかして、私は道化師でもあります。道化師が王を恐れて何としましょう。」
さて、どうしてマスターを失ったサーヴァントがここに?それに機嫌も悪くなさそうだ。機嫌が悪かったら道化師だろうと何だろうと消し炭に変えるだろう。
「ほぅ、その割には、膝が笑っているようだが?」
「緊張すると笑ってしまう膝なのでしょう。人間、追い詰められると笑ったり泣いたり忙しいものです。」
動けない。その威圧感、存在感は並大抵のものではない。動いたとたんに殺されるような。そんな感覚。
「人形が人間を語るか。」
「人形…。私は、確かにホムンクルスではありますが人形ではないつもりです。」
…私は、王の姉のエレインに産み出されたホムンクルスだ。それでも、私には心があるし感情がある。思い悩むことだってあったし、自分の心臓を抉り出したくなるような後悔だってある。この苦痛も思い出も感情も私だけのもの。
「私は、人間です。」
王さまが教えてくれた。王さまに与えられた。
「そうか、そうか。あの小娘の好きそうなものよ。…気に入った。お前に選ばせてやろう。騎士としてセイバーとの婚儀を黙って見守るか。セイバーの嫁入り道具として物言わぬ人形となるか。」
…随分と好き勝手に言うじゃないか。
「王さまは、過剰な装飾を嫌います。黄金趣味など持ち合わせていないでしょう。王さまは、妻であるギネヴィア様を愛しています。…あぁ、それと私の王さまが負けることはありません。」