「…まだ。」
まだ帰ってこない。夜が来て朝となった。作りおきされた食事を一人で食べた。
優しく髪を整えてくれた。口についたソースを微笑みながら拭き取ってくれた。雁夜さんもダゴネットもいない。この家は空っぽだ。まるでお化け屋敷だ。いや、お化け屋敷よりも怖いもので一杯だ。
「あぁ、そうか…。」
お化け屋敷は皆で一緒に入った。ここには、私が一人。雁夜さんのお兄さんも私には興味がないようだ。お爺様は怖くて近寄りたくない。
「…さみしいなぁ。」
探しても探しても広くて薄暗い家には電話がない。誰かの声が聞きたい。独りでいるのは嫌。雁夜さんはケータイ持ってなかったし、持っていたとしても番号も知らない。一応、お家の番号は覚えている。きっと、お母さんが電話に出る。お父さんは機械が苦手なのよって言いながら普段より少し高い声で“もしもし、遠坂です”。
「会いたいな。」
格好よくて少し機械が苦手なお父さん。しっかり者で頼りになるお姉ちゃん。かわいくて優しいお母さん。…私がいなくなっても元気にしてるかな。でも、もうすぐ帰れる。雁夜さんのお仕事が終われば帰れるって雁夜さんが約束してくれた。
「きっと、あと少し…。」
きっと、ダゴネットと二人で大慌てで仕事を終わらせようとしているんだ。
「あれと、それ…!」
雪景色の中でキリツグを待つ。クルミの芽を探す練習をして、キリツグのズルがあったって次は負けないようにするんだ。
ただ、一人はやっぱり寂しい。見つけたってお母様は誉めてくれない。一緒に遊んでくれたキリツグもいない。いけないことをしても叱ってくれない。
怖い夢を見た。
イリヤの中に大きな塊が7つも入ってきて、世界が終わってしまう夢。なんだか、現実感がないようで絶対に訪れる未来を教えているような不気味な夢。
泣きながら飛び起きても誰にも言えない。
「早く帰ってきてー!」
窓を開けて叫んでみる。どうしてか、怖くなった。お留守番するのは初めてだけど怖くなった。どこか遠いところで怪我をしているんじゃないか、飛行機が壊れちゃったんじゃないか。不安になる。お母様は長くなるらしいけど、キリツグは先に帰ってくる。
キリツグが教えてくれたヤマビコは、山に住んでいて聞こえた言葉を真似して大声で叫ぶ不思議なヨーカイ。ヤマビコはキリツグのところまで声を届けてくれるだろうか。
お土産とか要らない。ただ、早く帰ってきてほしい。イタズラだって我慢するし、お勉強だって頑張る。
…ここは、少し冷えるの。