夢を見た。尊く美しい夢を見た。それは、彼女の夢。
王を孤独にしないための人形。
はじまりは、王の姉が産み出した人形だった。この頃は空っぽの中身のない人形だった。
しかし、湖の魔女で王の姉であるエレインは彼女を愛した。共に過ごすうちに情が生まれたのだろう。
彼女は親により多くを教えられ、教養のある宮廷道化師の一人として宮仕えを始めた。
宮廷道化師
人ならざる存在【ホムンクルス】。これまで閉じた世界にあった彼女は戸惑いながらも前へ進んだ。
まだまだ中身の足りない彼女であったが、生まれ持った汚れを知らない純粋さをもって王の心を掴んだ。
円卓の騎士
彼女は多くを学習し身に付けた上で、王の傍にいる。一身に寵愛を受ける姿に多くの者が嫉妬した。彼女を深く知らない人を彼女も知らない。そもそも、そういう他人からの視線に関心がない。
宮廷道化師とは、愚者であるがゆえに王と対等に話し合える存在。王は悩んだすえに彼女を円卓の騎士にした。彼女の持つ聡明さと民衆からも好かれる人柄。その身に抱く純粋な忠誠心。
その地位を与えるのに不足はなかった。
シャスティフォル
彼女に与えられたのは、【懲愚の剣】。かつて王の手で振るわれた剣だ。きらびやかな舞台で王より手渡された剣を彼女は水浴びの時でさえ手放さなかった。
騎士たちの冒険や出陣に同行し、様々な体験をした。宮廷の中では見えなかったものを見た。たくさんの人に愛された。
そうやって彼女は出会いと別れを繰り返しながら動乱の時代を駆け抜けていった。
富にも名声にも興味はなく、ただひたすらに受けた愛に報いようと必死になって。時に傷ついて時に傷つけて。空虚な人形はいつの間にか中身のつまった人間になり、道化師は騎士になった。
王さま
それでも、滅びの足跡は迫り来る。王の笑顔は日に日に曇り、円卓の団結にもヒビが入る始末。彼女の小さな体躯では、とても追い付けないほどに目覚ましく移り行く世界に己の非力を呪う。
周囲を見れば、誰も彼もが優れた人ばかり。溢れる涙を道化師の仮面に隠して狂い始めた旋律に身を任せて踊った。
終幕
縺れる脚。肩が上下し、息が切れる。旋律は狂い、頭が割れるようだった。
その終わりは唐突に訪れた。自室に戻り、涙を拭くために対魔力の術式を埋め込んだ仮面を外したところを燃やし尽くされたのだ。
彼女は願う。
私を大切にしてくれた人を笑顔にしたい。その愛に報いたい。富とか名声とかに興味はない。
それだけで、彼女は満足なのだ。