「…泣いているのですか?」
ダゴネットが心配そうに尋ねてくる。鎖に縛り上げられたままでも私を気遣ってくれる。
「あなたの夢を見ていたの。」
一人の騎士の夢を見た。動乱の時代を駆け抜けた少女の夢を見た。
「そうでしたか。」
「とても、美しかった。」
すべてを見たわけではない。それでも、わかることがある。彼女は誰かを笑顔にする道化師であり、幸せを守ろうとする騎士であった。そして、紛れもなく英雄だった。
「ありがとうございます。」
奪われていた剣は持ち主の腰に収まっている。これから死地へと入るのに不思議なくらいに落ち着いている。
「ねぇ、ダゴネット。」
何て言葉を掛けたらいいのだろう。
「なんです?」
…彼女は勝つ。彼女は常勝の王の伝説を彩る円卓の騎士の一人。私の騎士が彼女が負けるなんてことはない。私は、彼女と共に歩んできた。なら、私が信じなかったら誰が彼女を信じるのだろう。
「…サー・ダゴネット。勝ちなさい。あなたの王と共に勝ちなさい。」
「我が身は騎士なれば、主が命に応えましょう。」
縛られたまま、左右に揺れながら彼女は騎士のように宣言する。堂々と恐れを知らない愚者のように宣言する。
残るサーヴァントは3騎。私は、アーチャーとダゴネットを斬り捨てる。自分の理想と正義を信じて彼女を殺すのだ。今さら、後戻りなどできない。100を生かすために10を切り捨ててきた。
契約をした時から覚悟は決めていた。最初にアーチャーを倒そう。ダゴネットと協力して打ち倒そう。
そして同盟が失効してから堂々と戦おう。
騎士らしく名に恥じぬよう精一杯ぶつかろう。お互い、望まない衝突だ。思うところもある。それでも、仕方がない。今はマスターの剣。私も彼女もマスターに仕える騎士だ。
そして、もう一度やり直そう。聖杯の力で王国は救済され、彼女の笑顔も戻る。もう二度と、血塗れの丘を築かないために。あの惨劇を永遠に回避するために。
「遅かったな、セイバー。」
黄金の鎧。不敵な笑みを浮かべる王。アーチャーは言う。万人を見下し裁定するような目。
「愛いやつめ。自分の人形を取り返しに来たか小娘。」
「戯れ言は大概にしろ、アーチャー。」
私は王。騎士たちの王だ。ブリテンを預かり、正義と理想をもって剣を引き抜いた王。
「そう怒るな。我はお前が気に入ったぞ。」
「何を…!」
鎖を手繰るような音。金属音とともに聞こえるのは聞き慣れた少女の声。
「騎士は、暴君より貴婦人を助けるものであろう?」
空中の波紋より飛び出したのは小柄な騎士。
「そら、どこからでもかかってくるといい。」