「あれが、聖杯…。」
言峰綺礼に打ち勝つことができたのは、アイリから渡された騎士王の鞘【アヴァロン】のおかげだ。そして、聖杯を壊そうとしている僕はとんでもない人でなしだ。
「この世すべての悪。」
あんなものでは、世界平和など叶いはしない。すべての願いをねじ曲げて呪いに変えることしかできやしない。今の僕にできるのは、惨劇を産み出す前にこの聖杯を壊し尽くすことだけだ。幸いにも、令呪は3画揃っている。仮にセイバーに抵抗されたとしても複数の令呪に抗うことはできないだろう。
「…衛宮切嗣が令呪をもって命ずる」
セイバーは、バーサーカーと共にアーチャーと戦っている。聖杯は今にも溢れそうだ。ここに誰か一人でも脱落したならば、間違いなく聖杯は完成し呪いを撒き散らす災厄となるだろう。それこそ、人類を絶滅するような呪いが世界に放たれることになる。
「…マスター?」
傷だらけになったセイバーが転移してきた。剣を振り上げた状態で来たのは戦闘中であったためだろう。
「令呪をもって命ずる。セイバー、聖杯を…」
アイリを失った。アイリは杯になった。その聖杯を僕は今から壊すのだ。
「破壊しろ。」
ステータスとして高い対魔力を持つセイバー。予測はしていた。1画程度なら耐えられてしまう。残る1画も温存する理由はない。この聖杯戦争はここで終わりだ。
「重ねて命ずる。」
悲鳴を上げながら必死になって逆らうセイバーに向かって言い放つ。
「セイバー、宝具をもって聖杯を」
これで正しいはずだ。
「破壊しろ」
空気が震えた
「…マスター!」
言葉にするのも躊躇われるような災厄が来る。泥となり河となり人馬を問わず呪い潰すような厄災が来る。夜の町を昼のように変える呪詛と怨嗟の混合物。
「逃げますよ!」
あんなものに触れてはならない。いったい、どこの誰がこんなことをしているのか。
「令呪、使ってください!」
斬りかかろうとしたところで、王さまが消えた。おそらくは、令呪による転移。王さまのマスターと王さまが無事ならいいけど…。
「…た、助けて!」
今は我が身とマスターが優先だ。気づけば、アーチャーの姿もない。逃げるなら私も連れていってほしかった。
<月は満ちた>
…幸い、今夜は満月だ。彼女を呼び出すのには都合がいい。バックアップされて魔力も十分だ。
<天を仰げ。今宵、星揃う時来る。>
星の動きにエネルギーを借りて彼女を召喚する。
トリスタンが紹介してくれた私の友達。フランス出身の頼れる味方。
コウモリの翼に鷲の足。額に光る宝石は第三の目。
『来たれ、有翼の貴婦人よ!』