「…やはり、こうなったか。」
前回の聖杯戦争において召喚されたアンリマユ。この世すべての悪。これが聖杯を汚染しているために此度は諦めておったが、中々に愉快なものを見せてもらった。
「聖杯の欠片。」
これが得られたことも大きい。上手くいけば、次回の聖杯戦争の時に“マキリの杯”として機能しうる。手元に出所不明の聖杯を持つとなれば、戦いは有利に進められるだろう。
不老不死。身体を虫に置き換えることで500年の時を過ごすことができた。しかし、それは不死ではない。聖杯を求めるのは、不死身となるため。500年も待ったのだ。次の聖杯戦争が開かれるのは周期通りになれば60年後。その程度、待てないはずがないだろう。
サーヴァントの作成したルーンストーンを飲み込んだことで魔力を補っているようだが…。星の裏側から幻想種を召喚などすれば、長くは持つまい。もっとも、あの状況では空の他に逃げ場などなかったが。
「…さて、最後の仕上げにかかるとしよう。」
「あぁ、マスター。」
燃える町。泣き叫ぶ声。呪詛はすべてを焼き潰す。人の善悪を問わず、貴賤も厭わず命のすべてを呪い尽くす。あれは、悪。筆舌しがたい悪性のナニか。
…魔力の大量消費で気絶したマスターは幸福かもしれない。
「…ほぉ、雁夜。サーヴァントまで残しているとは。お前にしては上出来だ。」
「お前…!」
マスターの父だという人間。否、かつて人間であった存在。
「そう睨むな。此度の聖杯戦争、実に愉しませてもらったゆえ。褒美こそ取らせど、危害は加えんよ。」
“良い魔術師ほど人でなし”
かつて、母に教わった言葉だ。魔術師と人間では価値観が違うために色々と気を付けた方がいいのだ。
「…それは?」
「聖杯の欠片じゃ。欠片とはいえ、聖杯を手中に納めた。これで次回の聖杯戦争に期待が持てる。」
『有翼の貴婦人』は再び世界の裏側へ還っていった。この世に繋ぎ止めるのは、令呪や天体魔術を用いても容易なことではないから。
「じゃが、勝利を確実にするには足りない。」
「…何が言いたい?」
実体化する魔力すら枯渇してきた。手短に話を終わらせないと。
「このままだと雁夜は魔力を絞り尽くされて死ぬ。お前も消えることになるだろう。桜は解放されぬし、ワシにとってもメリットがない。だが、ここで提案だ。ここで、お主が受肉したならば聖杯の欠片を雁夜に埋め込む。さすれば、桜を解放する。将来的に聖杯が手に入るのだから遠坂の娘など要らぬ。欠片とはいえ聖杯。人一人の命を紡ぐことなど容易いことよ。そして、次の聖杯戦争までにじっくりと治療する。さすれば、雁夜は人として死ねるし、誰も損はしない。」
…信じてもよいのだろうか。しかし、私には蘇生などという魔術は使えないし、今ここでマスターを助けられる手段もない。
「…その言葉、二言はないな?」