「マスター、素敵なお洋服を有難うございます。」
バーサーカーに子供の頃の服を着せてみた。実際のところ、彼女は他人に化けられるので別に洋服を与えなくてもいいらしいが、着せてみたかったのだ。
「桜ちゃんも誉めてくれました。それに主のお下がりは嬉しいものです。」
自分で買っておきながらタンスの肥やしになっていた可愛らしい服。
「ごめんよ、荷物持ちなんてやらせちゃって。」
せめて、人並みに動けたならよかったのだけど。これじゃあ、買い物だって一苦労だ。
「いえいえ、私もこの時代を知りたいので。」
“知っていることと、体験することは違うのです!”
…そう笑いながらくるくると回るダゴネット。
「そういえば、今日は何をお買い求めにいかれるので?」
「食料とレターセットかな。他にほしいものはある?」
まだペンを握れるうちに書きたいことを書き残しておきたい。もうすぐ死んでしまうのだから。立つ鳥跡を濁さず。雁は水鳥だ。白鳥には及ばず、カモよりは大きい。そんな水鳥。なら、雁夜である私は憂いを残すことがあっちゃいけない。
「では、お守りというものを。」
お守り?サーヴァントがお守り?
「いいよ、いいけどどうして?」
ダゴネットは円卓の騎士。普通、キリスト教やイギリスの宗教に信仰を持つのではないのか?
「験担ぎってやつです。あとは、桜ちゃんにお土産を。」
「なるほど。ここから近いとなると、柳洞寺かな?」
地元の名所として定番の寺院だ。それに桜ちゃんにお守りをプレゼントするのはいいかもしれない。お土産としても悪くないだろう。
幸いなことに魔術を使わなければ、血管は浮き出てこない。顔色の悪さと白髪は隠せないが、それでも半身ゾンビよりはずっといい。あんな姿を見られたら10人中9人が顔を背け、残りの一人が逃げ出すだろう。
「…ありがとうね。君のお陰で桜ちゃんが元気になった。」
「誰かを笑顔にするのが、道化の仕事なのです。えっと、だから当然のことなのです。」
あぁ、英雄だ。彼女はまさしく英雄だ。伝承の中では狂人だの愚者だの言われているけれど、少なくとも私と桜ちゃんにとっては彼女は英雄だと思う。
「へぇ、こっちの参道は階段じゃないのですね。」
「ちょっと遠回りになるけど、たぶん石段は無理だから。ごめんね。」
転んで不戦敗だけは避けたい。それに葵さんと初詣に来た思い出の場所を汚したくはなかった。
「ふふふ、エスコートしますよレディ。光栄に思ってくださいね。私がエスコートさせてもらえることなんて殆どなかったのですから。」
何だか、自慢になっているのかなっていないのかわからないことをいいながら手を差し出すダゴネット。
「ありがとう、騎士様。」
しかし、その姿は確かに騎士であった。