神殺しの三王は元はみ出し者   作:不浄皇

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遅くなって申し訳ございません!!
仕事や体調の影響で時間が掛かりました。
それではどうぞ。



第1章 奈落からの再誕
戦禍に呑まれる者達


 透サイド

 

 あの後、僕達は先程の出迎えた集団の長で、聖教教会教皇"イシュタル・ランゴバルト"と名乗ったお爺さんに、長テーブルとイスが置かれた別の広間に案内されて説明を受けた。

 それによると、この世界はトータスと呼ばれており、北一帯を支配する人間族、南一帯を支配する魔人族、そして東の巨大な樹海の中でひっそり暮らしている亜人族と、大きく分け三つの種族が存在している。

 その内人間族と魔人族は何百年も争っていて、個の持つ力が大きい魔人族に対して、人間族は数で対抗していた。そのお陰で戦力は拮抗しており、ここ数十年は大きな戦争は起きてないとのこと。

 だが最近、魔人族が大量の魔物の使役に成功したらしい。魔物とは魔力を取り入れ変質した野生動物の総称で、それぞれ種族固有の強力な魔法が使える厄介で狂暴な存在らしい。これにより、数で有利だった人間族は大きく不利な状況に立たされており、このままだと人間族は遠からず滅ぼされる運命との事。

 

イシュタル

 「そこで人間族が崇める守護神にして、この世界の創造主とされる"エヒト様"は、その運命を回避するためにあなた方を喚びよせました。この世界よりも上位の世界から来たあなた方は、この世界の人間よりも優れた力を有しているのです。」

 

 ドクン

 

 (っ!?……エヒト?)

 

 何故だろうか?初めて聞いた名前のはずなのに、何か引っ掛かる感じがする。

 

イシュタル

 「あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい。」

 

 そう言うとイシュタルさんは神託を聞いた時のことを思い出したのか、どこか恍惚とした表情を浮かべていた。

 

 (……間違い無く狂信者だ。この人。)

 

 そんな事を思っているとある人物が突然立ち上がった。

 

愛子

 「ふざけないで下さい!結局この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!私達を早く帰して下さい!きっとご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」 

 

 そう猛抗議しているのは畑山 愛子(はたやま あいこ)先生。見た目は…、はっきり言って小学生にしか見えないが、常に生徒の為に一生懸命頑張ってくれている。…もっとも大抵は空回りしてばっかりで頼りになるかというと正直言って微妙だ。

 そんな感じなので、生徒からは"愛ちゃん"と呼ばれていて完全にマスコット扱いされているけど、生徒達からは非常に慕われている。現に理不尽な召喚理由に対してイシュタルさんに食ってかかる姿を生徒全員が微笑ましく眺めていた。

 ………だがそんな雰囲気も次のイシュタルさんの言葉で霧散した。

 

イシュタル

 「お気持ちはお察しします。しかし………あなた方の帰還は現状では不可能です。」

 

 

 

   ………………………………………

 

 

 

 一瞬で広間に静寂と重い空気が満ちた。さっきまで猛抗議していた畑山先生すら何も言えなくなっている。

 

晴彦

 「失礼ながらイシュタル殿。不可能とは、どういうことでしょうか?」

 

 そんな中、七彩路君が今僕達全員が思っている疑問をイシュタルさんにぶつけた。

 

イシュタル

 「先程言ったようにあなた方を召喚したのはエヒト様です。我々があの場にいたのは、単にあなた方を出迎える為と、エヒト様への祈りを捧げる為のみです。人間の我々に異世界へ干渉する魔法は使えません。」

 

晴彦

 「…つまり、我々を元の世界に帰還させられるのはそのエヒト神のみで、あなた達では不可能ということですか?」

 

イシュタル

 「その通りです。全てはエヒト様の御意志次第、ということですな。」

 

 イシュタルさんの返答を皮切りに他の生徒達も事態を把握しだした。

 

 「ウソだろ?帰れないってなんだよ!」

 「いやよ!何でもいいから帰してよ!」

 「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」

 「なんで、なんで、なんで………」

 

 案の定みんなパニックになり騒ぎ始めた。当然だろう。こんなのさっき畑山先生が言ってた通り事実上誘拐と大して変わらない。しかも、まだ確証がないとはいえ別の世界にだ。

 冷静でいられる訳がない。現に龍ちゃんは未だに放心状態だし、香ちゃんは口に手を当てて顔を真っ青にしている。シズちゃんはそんな香ちゃんを宥めているけど、本人も相当動揺しているのだろうか、さっきからずっと手が震えている。

 更に長テーブルの最後方では五十嵐君が鬼の形相でイシュタルさん達を睨んでいた。今は南雲君が必死で抑えているけど、何時向かっていってもおかしくない。

 そんな生徒達をイシュタルさんは静かに眺めている。だが、その目には微かに侮蔑の感情が見て取れた。

 このままではいけないと思い、何とか出来ないかと考えようとして、ふと、ある事に気が付いた。

 

 (っ?そういえば光ちゃん、さっきからずっと黙っているけど、どうしたたんだろう?)

 

 そう疑問に思うと同時に、()()()()()()()がして光ちゃんの方を向いた直後、

 

 

 

      バァン!!!

 

 

 

 光ちゃんは突然立ち上がりテーブルを両手で叩いた。そしてその音で全員が自分に注目するのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

光輝

 「皆、ここでイシュタルさんに文句を言ってもどうしようもないんだ。……俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って放っておくなんて俺にはできない!」

 

 

透・ハジメ

 「「………っな!?」」

 

 「ちょっ!?えっ!!?」

 

 「はあぁ!!?」

 

晴彦

 「……………………」

 

 (ちょっと、光ちゃん!?何勝手に決めてるの!?)

 

 狼狽える僕らを他所に、光ちゃんは続けざまに話す。

 

光輝

 「それに、人間族を救済すれば元の世界に帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」

 

イシュタル

 「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい。」

 

光輝

 「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い皆が家に帰れるように、俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 (いや、確かにその可能性もあるけど根拠が無さすぎるでしょ、ソレェ………。)

 

 だが、周りの生徒達は光ちゃんのその言葉に希望を見つけたという表情をしている。もっともそれはある種の現実逃避で、誰も()()()()()で状況を理解していないだろう。

 その様子に僕は少し焦りを感じていた。このままだと全員が戦争に参加する事になる。だけど他に帰還の方法がわからない上、断れば向こうが何をしてくるか判らない以上、迂闊には意見できない。

 

晴彦

 「イシュタル殿。少々お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

 

 何とか流れを変えられないかと悩んでいると、ここで七彩路君が口を開いた。

 

イシュタル

 「構いませんよ。……え~と、あなたは?」

 

晴彦

 「あぁ、これは失礼。自己紹介がまだでしたね。七彩路 晴彦と申します。クラス委員長……、簡単に言えば、このクラスの代表みたいモノです。以後、お見知り置きを。」

 

 そう言って洗礼された動きでお辞儀する七彩路君。その姿は堂々として様になっており、生徒達からも感銘の声が上がった。尚、生徒達を率いる立場である教師の畑山先生は立つ瀬がないのか若干涙目である。

 

イシュタル

 「えぇ、こちらこそ。…それで、聞きたい事とは何でしょうか?」

 

晴彦

 「我々に戦えと申しますが、元々我々は戦争とは無縁の生活を送ってきた身です。いくら能力があっても戦う術が無ければ意味が無いと思いますが?」

 

イシュタル

 「フム、もっともな懸念ですな。しかし、それに関してはご安心ください。」

 

 イシュタルさん曰く、現在僕達がいるこの聖教教会本山は《神山》と呼ばれる場所にあり、その麓には、教会と密接な関係にある《ハイリヒ王国》という国がある。そこで僕達は座学と戦闘訓練を受け、戦う術を身に付けてもらうとの事。

 

イシュタル

 「ハルヒコ殿、でしたかな?他に質問があれば遠慮なく申してくれて構いませんよ?」

 

晴彦

 「……そうですね。細かい部分はまた後日にお聞きすることにしまして、とりあえずこれだけは答えていただきたい。」

 

イシュタル

 「何でしょうか?」

 

晴彦

 「最終的な行動の決定権は、我々の意思を尊重してもらえるのでしょうか?」

 

 そう言って七彩路君はメガネを直しながら、イシュタルさんを真っ直ぐ見つめていた。

 

イシュタル

 「……えぇ、それはもちろん。()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に他なりませんからな。」

 

 対して穏やかに微笑みながらそう答えるイシュタルさん。だが僕はその笑みに妙な寒気を感じていた。

 その後しばらく広間は沈黙に包まれていたが、やがてそれを打ち破るように七彩路君が大きく息を吐いた。

 

晴彦

 「………分かりました。それなら私に異論はありません。先程天之河が言ってた仮説以外、他に可能性はありませんし………その話お請けしましょう。」

 

 

 「んなっ!?」

 

ハジメ

 「ええぇぇ~……。」

 

 「…………マジかよ?」

 

 (あっコレもう無理だ。流れ変えるの……。)

 

 結局、七彩路君の参加表明を皮切りに、他の全員も次々と賛同する流れになってしまった。そこでふとイシュタルさんの方を向くと、彼は満足そうに頷いていた。

 

 (ッ!!?……やられた!)

 

 その様子を見て、僕は今更になって気が付いた。

 先程の事情説明の際、イシュタルさんは魔人族が人間族にどれだけの非道を働いたかを強調して語っていた。恐らく彼は光ちゃんを観察して、彼が生徒達の中で一番影響力があり、正義感が強いことを見抜いて、戦争に参加する様誘導していたんだ。

 

 「………………」

 

 どうやらシズちゃんもその事に気付いたらしい。お互い無言で頷きあった。その後シズちゃんは香ちゃんに、僕は龍ちゃんに小声で話しかける。因みに光ちゃんはイシュタルさんや七彩路君と今後について話し合っていた。

 

龍太郎

 「…なぁ、ルー。この後どうすんだ?光輝の奴、すっごくやる気満々だけど?」

 

 「……今は大人しく従った方がいい。僕達はこの世界について何も知らな過ぎる。とにかく情報を集めて、何とか他の方法を模索するしかない。」

 

龍太郎

 「…そうか。だがそれだと俺、役に立てそうに無いんだが……。」

 

 …まぁ、正直龍ちゃんに情報収集は向いて無いことは重々承知している。それは僕とシズちゃんと香ちゃん、後は南雲君と五十嵐君で行うつもりだ。南雲君もイシュタルさんの策略に気付いたらしく、五十嵐君と密談しており、五十嵐君も今は冷静さを取り戻しているようだ。

 それに龍ちゃんにはやってもらいたい事がある。

 

 「龍ちゃんは光ちゃんが暴走しないか常に見張ってて。今回ばっかりは下手すると洒落にならないからね…。」

 

龍太郎

 「…わかった。」

 

 

 

 その後、僕達は受け入れ先のハイリヒ王国に向かうため、移動を始める。

 その道中、僕は制服の裏のポケットに入ってる()()()()()()()()()に触れながら、今後の事を考えていた。

 

 (……残ってるのは昼用が5日分か。)

 

 医者からはなるべく毎日食後に服用する様言われていたが、()()()()()()()()()()()()()なら2、3日に1回でもいいとも言っていた。

 

 (つまりもって2週間。それまでに何とかしないと。)

 

 幸い、小説のようなファンタジーなこの世界なら、代用できる物があるかもしれない。

 いや、もしかしたら()()()を治せる事も……………。

 

 

 

 

 (………ははっ。今更何言っているんだか…。)

 

 あの時、誓ったハズだ。『残りの時間を悔いの無い様に生きる』と。なのに僅かな可能性がちらついたとたんに、その考えに至った自分自身に思わず嘲笑する。

 

 

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

 

 「っ?ルー、どうしたの?」

 

 「……あぁ、何でもないよシズちゃん。」

 

 (まぁ、それは後から考えよう。)

 

 今はみんなのためにできる事をしよう。そう決意して、僕はシズちゃん達の所に向かっていった。

 




以上になります。
アンケートにお答えいただいた方々、本当にありがとうございます。良い参考になります。
今後ともよろしくお願いいたします。

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