帆船クルージングから一転、嵐の漂流を経て、何処とも分からぬ島に漂着した千空たち7人。
一番の問題は、ここが無人島であるかどうか・・・だが。
「みんな見てくれ。あれはボートじゃないか?」
司の発見したものは木製のボートであった。とてもではないが、乗って本土に帰ってこられる代物ではない。
「金具の錆つきに木の劣化具合。最後に使われてからそう時間は経っちゃいねぇ。島に人がいる可能性はあるな」
千空の推理に喜ぶ6人。
だが、そこに水を差す怒声が、森の中から響いた。
「誰だ、お前らは!」
森の中から姿を現したのは海パン姿の老人であった。髪は伸び放題、焼けた肌に険しい表情。
この島に一人で住む、世捨て人といった様子である。
「ここは俺の島だ。余所者は出ていけ」
怒り心頭の老人は木の棒を振り回し7人を威嚇している。とてもではないが遭難者の救助をするような雰囲気ではない。
「すまないが俺たちは乗っていた船が沈没した。出ていくも何も、その手段がない」
「ぁ? ぁぁ・・・嵐に巻き込まれたのか。自然の怒りに触れたな。最近の若いヤツは自然を知らないからこうなるんだ。天罰だ天罰」
好き勝手言いまくる老人を睨む司の目は、未来や友人がそばに居なければ何をしでかすか分からないほどの殺気を帯びていた。
「御老人、失礼ではありますが、貴方はこの島の所有者で?」
どう見ても島を購入できる資産に恵まれた人生を送っているとは思えない老人に、喧嘩腰に問いかける司。
その意図を察した老人は逆切れするように、司の足元に木の棒を投げつけた。
「消えろ! 俺の目の届かんところに! 貴様らのような馬鹿どもは、大自然の偉大さに謝りながら野垂れ死ねばいい!」
老人は海岸に足で線を引き、この線からは進入禁止だと命令して森の中へと消えていった。
「司、怒らせたら駄目だろ。あの人が電話でも持っていたら、救助呼ばせてもらえるだろ?」
大樹の指摘に、司は未来に目を向けて「・・・すまない」とつぶやき反省した。プライドが邪魔をして守るべきものを守れないのであれば本末転倒である。
「まぁ、かのような者が俗世との関わるための手段を持っているとは思えん。そもそも心配するな。俺からの連絡が無ければ財閥も遭難を察する。1週間もすれば捜索隊が編成される。気長にドンと胸を張って待っていれば良いのだ」
気楽なことをいう龍水であったが、それはつまり未来の幼い精神を心配させるような気弱な雰囲気を見せるなという励ましでもあった。
「で、無人島生活のスタートか?」
「その通りだが心配するな。俺にサバイバルの心得くらいある。まず必要なのは」
流れを無視した千空が耳の穴をほじりながら尋ねると、龍水は指をパチンと鳴らし堂々と宣言した。
「火だ」
お水じゃないの? と尋ねる未来に、フランソワが寄り添う。
「たしかに、海水にまみれた私たちは数時間もせず脱水症状に倒れてしまうでしょう。ですが低体温症はもっと恐ろしいものです」
その断言を聞いた大樹と司は木々を手に、うおおおギュルルルと秒で火を灯して見せた。
「こんな原始式のキリモミ式で火をつけるとは・・・」
「嵐直後の多湿の木で秒とか。化け物すぎんだろ」
パワーぶっぱの燃焼で得た火にあたりながら、7人は服の代わりに草で体を隠し、それぞれの服を乾かした。
[千空たちは火を手に入れた]
「今度こそ水だな」
「あぁ。飲用に耐えうる水を手に入れる方法と言えば・・・蒸留だ」
千空の案に龍水は「濾過ではないのか?」と首をかしげる。
「たしかに濾過は一発で大量に水をゲットできるが、煮沸とフィルターの交換が必要だ。手間がかかってやや効率が悪い。水蒸気の安全性と、副産物を考えたらコッチに軍配が上がる」
千空の解説にほぉ~と感心する龍水。
「だがまぁ足りねぇもんがある。器だ」
そう言うと千空は手でお皿のようなものを作って見せた。
「器か・・・木を彫ったり土器を作るのか?」
「なんちゃってソユーズをバラすぞ。使えるモンは何でも使えばいい」
「俺らの命を救ってくれた箱が、こんな形で役に立つとはな」
大樹と司は感心しながら、ソユーズの扉やら外壁をメリメリと剥がしていく。工具が無い今、この手段しかないとはいえ、フライパンを曲げるどころの騒ぎではない腕力だ。
「ところで蒸留ってどうやるの?」
「2つの鍋に海水を満たし、上段下段に並べておく。下の鍋を沸かせば、発生した水蒸気が上の鍋の底に付着し、それが冷やされれば底をつたって水滴が集まる。そいつが垂れたところにコップを置けば完成だ」
杠の問いに龍水が答えると、「っつのがサバイバルの本に載ってる方法だ」と千空が口を挟んだ。
「上の鍋の代わりに漏斗とチューブを使えばいいだろ。見た目まんま蛇口になる」
千空の指示通りに司と大樹が鉄板を曲げていき、出来上がった装置の鍋に火をつけると、チューブの先からポタポタと水滴が垂れはじめた。
「おばあちゃんの知恵袋みたい」と未来が呟くと、千空は「どんなマッチョババアだよ」と苦笑いした。
[蒸留装置を手に入れた]
火と水を手に入れ、ひとまずの生命維持手段を確保した千空たち。
これでようやく食料、生活基盤の確保に着手することができる。
「の前に、まずは道具だ。原始人200万年のリーサルウェポン、石器を作る」
そう仰々しく言わずとも、ほぼ全員が「だろうな」と思っていたことであった。
「だが、どの石がいいかのノウハウが分からんな」
「チャートっつう、割った時の断面がカラフルなやつが理想だ。トライ&エラーで砕きまくれ」
千空の号令に「よしっ」と拳を握った大樹が石を海岸の岩に投げつけ粉々に砕いた。
カラフルな石の粒が飛び散る。
「砕きまくんなデカブツ。加減ってもん知らねぇのか。てめぇは石器の持ち手にする木の枝でも拾ってこい」
こうして見つくろった石器に適した硬い石を岩に擦りつけて研ぎ、石のナイフを作り出した。
「あとはナイフで草の蔓を裂いて紐を作って、木に結べば。マンモスを絶滅させた人類最初の武器の完成だ」
[石器を手に入れた]
道具さえ手に入れば、あとは手分けして次の作業に入ることができる。
「狩猟は俺に任せてくれ。絶対に獲物には不自由させない」
司は石槍を手に海へと入っていった。勿論、海水パンツなんて気の利いた衣服もないため真っ裸。女性陣は海岸への立ち入りを禁止されることに。
「なら俺は木で家を建てよう! 目指せログハウス」
石斧を手に木に立ち向かう大樹。ザグッと一振りで木をなぎ倒した。
「効果音。普通、回数振ってトンテンカンだろ普通」
「この調子なら本当にログハウスできそうだよね」
「いや、家なら木の上に作るべきだ。ネズミに寄られては落ち着いて眠れん」
杠は更なる道具作り。
蔓の紐で籠を編むくらい、手芸部の彼女には朝飯前。ズバババと、あっという間に背負い籠が完成する。
それを未来に託して司の元に持って行かせる。
「じゃあ、あとはカーテンとお布団だ」
意気込んで腕まくりする杠。そこに千空が“とあるリクエスト”をしていったのは、また別のお話。
その頃、フランソワと龍水は森の中へと入っていった。
食べられる野草やキノコ類を判別して、籠の中に突っ込んでいく。
その中で最も大事なアイテムが“ハーブ”である。
「未開の地で虫除けは必須です。感染症に罹ったらお仕舞いですので」
「その通りだ。この島で美女たちが倒れる事態は許させんからな」
残る千空は、紐を利用したトラップを使いウサギを狩っていた。
「餌が豊富な島で助かるな。締まった肉も、ブクブクの脂肪も、丸っと利用させてもらうぜ」
そうニヤついた千空は司の元に向かい、海藻と貝殻の採取も依頼した。
「こんなものどうするんだ? 食べるのか? 海藻はわかるが、貝殻? 中身はいいのか?」
「クソほど重要だぜ。司、力を貸してくれ」
千空の指示を受け、司は貝殻を粉々に砕いた。
「貝殻は炭酸カルシウムの塊だ。焼けば酸化カルシウムに変化して、そこに水をぶっかければ水酸化カルシウムになる。それとは別に海藻を焼いて炭酸ナトリウムを作ったら、2つ合わせて水酸化ナトリウムの出来上がりだ。おっと未来、離れてろ」
千空は未来を手で制しながらクククと笑う。
「危ない液体なのか?」
「ウルトラやべぇぞ。ヤクザが死体溶かすのに使うくらいだからな」
この解説にゾゾゾゾと背筋を凍り付かせる未来。
「あとは水酸化ナトリウムと、ウサギから頂いた脂肪を合わせれば、ばい菌浄化する医者代わりの命の石、石鹸の完成だ」
市販の真っ白な石鹸とは違って凸凹の激しくブサイクな見た目ではあるが、少し擦っただけで泡泡とシャボンが発生した。
「!? キミは素晴らしいな千空。悪いが正直、キミの体力ではこの自然の中で生きていくには心もとないと思っていた。ところがどうだ? 科学で自然を凌駕している」
手放しで褒める司に、千空は「いやホモはキメェぞ」とドン引きする。
「いやこれは純粋な尊敬であって」
「冗談通じろよ。まぁ一つ勘違いしてっことがあるけどな。あのジジイもテメェも」
千空の言葉に司はムッと顔を曇らせる。
「そもそも科学っつうのは人類が自然を理解するために発展した知恵の塊だ。科学を前に、自然は敵でも下にするもんでもねぇ。俺は、自然を味方につけるぜ」
ニヤッと笑い石鹸を袋詰めにする千空。その姿に司は「やはり、俺たちのリーダーなんだな千空キミは」と笑った。
「じゃ~早速、司先生の魚どもを煙のアルデヒドで燻して、微生物ブチ殺しまくるか」
意気揚々と燻製を始める千空に、司は「自然を味方に・・だよな?」と目を丸くした。
こうして“食”を揃えた千空たちが大樹・杠の秘密基地製作チームに合流すると、そこには驚きの光景が。
「少年様の夢、ツリーハウスが2棟・・・だと!?」
木々に並ぶ2棟の木の家。とはいえ支柱と屋根だけの小屋ではあるが、あとは杠が編み込んでいるカーテンを取り付ければ、“住”が完成である。
「おお千空、司! 力を貸してくれ! ここの支柱の具合が少し悪いんだ!」
力仕事を頼む相手が約1名間違っているが、バランス調整の意見を求めるには適した人材である。
杠と未来が草のカーテンを運ぶ中、龍水とフランソワは丸太で作られた食卓を前にしていた。
「ちょっと待ってくれ。御曹司、キミは一体何をしている?」
司と千空が作った魚の燻製と、野草とキノコのサラダを前に箸を手にした龍水を、司はギロリと睨んだ。
「何を、とは?」
「皆が働いている最中に、自分は特権階級の人間だとでも言いたいのか?」
一触即発の雰囲気。既得権益を嫌悪する司の苛立ちが声に現れていた。
「信頼を作っている、と言えば納得か?」
「信頼だと?」
司が眉をピクと動かすと、龍水は「はっはー」と笑って話をつづけた。
「食の安全が保障された国で生活する俺たちは日頃1ミリも気にしておらんだろうが、食事というものはそれを生産した者たちへの信頼があってこそ。ではこの無人島で採れたこれらの安全はどうだ? 皆で卓を囲み、一斉に腹を下すわけにはいかんだろう」
その言葉に司は目をカッと開いて「毒味・・ということか?」とつぶやいた。
「その通りだ。役割を考えれば、お前たちの腕、杠の衣と居を支える力、フランソワの食、千空の科学が全員生還の必須キー。となれば優先度を考えれば、俺が適任であろう」
龍水はただの道楽金持ちではない。その覚悟はまさしく船長の器であろう。
「とはいえ、食って腹を下すようなモノには見えん。つまりは誰の手も入っていない綺麗な状態に箸をつける特権を独り占めしている事実は否定しないぞ」
そう言うと龍水は指をパチンと鳴らし、魚の燻製を口に運んだ。
そして、ジャリっという音を立て、その不味さに倒れた。
[生活基盤を手に入れた]
こうして7人の遭難生活1日目は、生活基盤の確保に費やされ、あっという間に過ぎていった。
都会からは決して覗くことのできない満天の星空に胸を躍らせ、仲間と過ごす床の中で、明日の行方も知れぬ夜が更けていく。
そんな中、千空の目はすでに、胸躍る次の段階に向けられていた。