ドラえもんのび太のDr.STONE   作:三柱 努

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もしドラ(もしも千空たちが映画ドラえもんに参戦するなら)

「ご搭乗ありがとうございます。当便は東京発カザフスタン行き・・・」

単調な機内アナウンスが眠気を誘う、そんな飛行機に千空は乗っていた。

目的地はカザフスタンのバイコヌールにある宇宙基地。

その付近の大平原に、ISSからソユーズが着地予定なのだ。誰あろうリリアン・ワインバーグらの地球帰還に立ち会うため。

「それにしても、アンタらのスケジュール鬼すぎない? 詰め込みすぎでしょ」

ニッキーの指摘に「違ぇねぇ」と、疲労の色を隠せない千空が答えた。

無人島から救助されたその足で空港に向かい、ニッキーと合流して現在に至る。

とはいえフルメンバーではない。

世界的歌手・リリアンの地球帰還イベント立ち合いは世界中でもごく限られたレア中のレアチケット。

そこをリリアンがマネージャーに無理を言って、千空たちのために3枚だけチケットを確保してくれたのだ。

 

となると、問題は“誰と誰と誰が”行くかということになる。

リリアンの大ファンであるニッキーを外すことは道義的にありえないためメンバー確定。

千空もまた、リリアンや宇宙飛行士たちの熱望もあるためメンバー確定。

残り1枠。

大樹と杠はどうせなら一緒に会いたいということで2人して辞退していた。

残るは獅子王兄妹。

「兄さん、千空さんと一緒に行ってきて。せっかく友達になれたんやし、私のことを気にしないで楽しんできてほしいわ」

未来にそう言われて、司は感動を覚えながら承諾していた。

 

ということで今、千空は霊長類最強の高校生と、今のテンションなら霊長類最強の女性にも勝てそうなくらいテンションのあがったニッキーという地上最強コンビに挟まれ、ユーラシア大陸の空を飛んでいる。

「それにしても、本当に俺で良かったんだろうか?」

「上空10,000mに来といて今さらかよ」

「俺じゃなくて、もっと適任がいるような気がするんだ。弱気になるとか遠慮とかそういうんじゃなく、予感としてね」

司の直感的に感じている不安を、非合理的だと一蹴したい千空であったが、その理論を積み上げていくほどの体力は残っていなかった。

だが、司の指摘する“リリアンたちと出会うべき、もっと適した人間”、“科学王国に不可欠な要員”であるメンタリストは今この時、自身がイメージキャラクターとして宣伝する新しいテレビゲームのプロモーションの打ち合わせに奔走しているのだった。

「それよか集中力分散してたら、こっから参加する世界的イベントに失礼だろ」

そう言って千空が指さした先では、ニッキーがヘッドホンを付けてリリアンの曲を聴きまくっていた。すごく集中しながらリラックスして緊張している。とてもではないが話しかけていい気配ではない。

「こういう時ゃ、無意味な話でもしてグータラ過ごそうぜ」

「そうだね、千空の言う通りだ」

そう言うと司は座席に浅く座りこみ、背もたれに最強の体を預けた。

 

「そういえば、ずっと考えていたんだ。ドラえもんって、本当に存在したんだろうか?」

「無意味な話かソレ?」

前を向いたまま司が口にすると、千空もまた同じく前を見てつぶやくように答えた。

「2人の姿は、未来しか目撃していないじゃないか」

「せん妄。寝ぼけて夢と現実の区別がつかねぇっつうヤツだな。可能性あるが、逆に存在しねぇほうが道理に合わねぇだろ」

千空は空に矢印やら円を描きながら語る。

「俺も想像してみたんだが、俺たちがドラえもんと冒険をしたという流れが読めない」

「ククク、たしかに。最強格闘家と柔道選手、財閥御曹司に普通の高校生。この組み合わせがどういう流れで出会うっつうんだろうな」

「そこに漫画のキャラクターが現れる。もしくは俺たちが向こうの世界に行ってしまう」

「ありえねぇ方はともかく。そういやぁあの冒険のほとんど、秘密道具頼みのゴリ押しバトルで解決だ。俺が活躍する余地がねぇし。そもそも司、テメェだけが死ぬパターンが想像できねぇな」

高度なのか低度なのか、よくわからない次元の話だが、これは2人にとっては十分に楽しめる雑談であった。

 

「ところでどんな冒険だったと思う?」

「悪ぃ、文系仕事は得意じゃねぇ。ゼロから想像すんのは・・・」

「そうか、俺もだ。なら、今まで千空が見たドラえもんの話ならどうだい?」

司の問いに興味ありげな顔つきになった千空は人差し指を立ててしばらく黙りこみ、不意に口を開いた。

「ブリキの迷宮」

「・・・未履修だ。どんな話なんだい?」

「簡単に言やぁ、ロボットの反乱の鎮圧だ。のび太のパパがテレビ越しに他の星のヤツと交信するところから始まるから、俺らみたく関連性の無ぇ奴らが集められたとしても不思議じゃねぇ」

「なるほど敵の戦力は?」

心なしかワクワクした千空の声に、司は優しく微笑み話をつづけさせた。

「自律型ロボ作る科学力のある星を乗っとれるロボット軍団。物量からしてアホほどヤベェ」

「だけどドラえもんは勝った。それにキミにも勝算があるんだろ?」

「ああ。攻略ルートは2つ」

千空は指を2本立ててニヤリと笑った。

本当に楽しそうな顔だと、司も満足する。

「1つはブリキ攻略」

「ブリキ?」

「敵のロボットの主材料。鉄をスズで表面加工したもんだ。腐食に強ぇし、重ぇが耐久性も抜群の便利素材様だ・・・云々云々」

ブリキ攻略についての科学的攻略法を延々と語り始める千空。

さすがにこれはついていけないと、司は遠い目で前の座席を見つめて右耳から左耳に話を聞き流す。

「で、もう1つのルートは?」

「正攻法の原作ルートだ。タイトルの通り、迷宮を攻略する」

「実に千空向きだね。その先に武器でもあるのかい?」

「コンピューターウイルス入りフロッピーディスク。時代感が不釣り合いだが、まぁそこはご愛嬌だろ。これ1枚で敵全滅っつうご都合主義すぎんアイテムだ」

クククと笑う千空に司も合わせて笑う。なるほど、それならますます千空の独壇場だ。

「そんな重要な物なら、そこにたどり着くのが大変そうだ。なるほど、俺はその途中で命を落としたのか」

「いいや。迷宮はスタート地点。味方の基地の入り口にあっからな。のび太も映画始まってすぐに見つけたくらいだ」

「なるほど」

「ただな、問題があるとすりゃぁ全長が184kmあるっつうところだ」

東京から軽井沢ほどの道のり。司や大樹であればそこまで絶望的ではない数値であるが、千空であれば何ケ月かかることやら。

「でもドラえもんがいるなら、そういえば千空、キミは不要じゃないか?」

「ところがどっこい。今作は初っ端からドラえもんが不在だ。のび太のおかげで途中復活すんがな」

「ハハ、たしかにその世界なら、俺たちが行って活躍して知り合う。そんな流れもありうる話か」

話が弾んできた頃、ちょうど機内アナウンスが流れ始めた。

まもなく、目的の空港に到着する。

雑談もそろそろ切り上げよう、というところで千空が最後に付け加えた。

「まぁ、この映画に俺らが参戦するとして、問題があるとすりゃ1個」

「なんだい?」

「最初に言ったように、物語の最初はのび太のパパが寝ぼけてテレビ交信に応じるところから始まる。ところがだ、俺はそういう怪しいもんを信用しねぇ。100億%、最初っから始まる気配がねぇんだよ」

 

無意味すぎる時間であった。

だが、寝る間を惜しんでまで無意味な時間を過ごすというものは、友情を育む時間という意味では、全くの無意味ではないのだ。

 

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