「今日のゲストは、花田仁姫ちゃんこと、ニッキーちゃんでした~! ありがとね~」
あさぎりゲンのアスリートメンタル。毎回、ゲストのアスリートとのフリートークやゲームコーナーを通じて、相手の隠れた魅力を暴いていく人気番組。
この日のゲストは日本の女子柔道期待の星、今話題のニッキー。
収録のわずか1週間ほど前、立小便をしていた警察官と口論し逮捕されるもすぐに釈放。
その後正式に警視庁から謝罪を受けたものの、国家権力に真っ向から立ち向かった姿から、頼れる国民的兄貴姉御『アニッキー』と世間で呼ばれはじめていた。
そんな彼女の本性もまた、意外や意外、とても乙女。純情すぎてゲンは自分の心の軽薄さを実感してしまうほどに乙女であった。
「では、お友達紹介のコーナー、よろしくね~」
「はい。えっとぉ、最近知り合って仲良くなったばっかなんだけど・・・ですけど。獅子王司・・・くんを紹介したいと思います」
ニッキーから出た衝撃のビッグネームに、ゲンは「ジーマーで?」と口をパクパクさせることしかできなかった。
獅子王司。霊長類最強の高校生。
10日ほど前の突然の試合放棄騒動。そして次の週には帆船で遭難。からの海外旅行。から帰国直後の再戦。からの1ラウンド3秒KO。
伝説が伝説を作りすぎて渋滞している、今話題の超級アスリートである。
ゲンは特番で一緒に出演したことはあるが、自分の番組にはとてもではないが呼べないほどの世界レベールの存在だ。
「何処で司ちゃんと知り合っちゃったのよ? 打ち合わせの時には1ミリも出て来なかったよ?」
撮影終了後にゲンが「オフレコだから教えて」と頼みこむと、ニッキーは少し照れながら「共通の友達がいてね」と答えた。
「もしかしてだけど、コレ?」
そうゲンが小指を立てて耳打ちすると、「そ、そんなわけないじゃん!」とニッキーは頬を赤らめながらゲンの背中をバンッと叩いた。
こうして、ゲンはパイプ椅子にダイブした痛みと引き換えに、世界レベルのトップアスリートを自身の番組に呼ぶことができた。
いや、正直に言えば半信半疑。実際に本人にアポを取れなければ意味が無い。
「うん。いいよ」
即答であった。司はアッサリとOKを出してくれたのだ。
ただし、忙しさを理由に撮影はスタジオではなく、司の指定した場所に番組の方から足を運ぶことが条件。
高校生が大人たちを呼びつけるというのは少し傲慢ではあるが、それを差し引いても手に入るカードが強い。ゲンに断る理由は無かった。
そして撮影日。
ゲンが呼ばれたのは都内にある広末高等学校。
の科学実験室。
科学部部室である。
「どゆこと?」
聞けば司は最近この学校に転校したそうだ。所属は運動部ではなく、まさかの科学部。
「どゆこと?」
いざ科学部に乗り込んだゲンの目の前にいたのは、たしかに獅子王司。
頭にヘッドギアと、何かよくわからないアンテナを付けている。
ボクシングパンツとボクシンググローブ、心電図のような変な装置を体に付けている。
「どゆこと?」
ゲンが目を丸くしていると、司は「やぁ、ようこそ科学部へ」と爽やかに迎えた。
獅子王司は以前会った時と印象が大きく異なっていた。
一言でいえば、軟らかくなった。以前のギラギラとした闘志が和らぎ、良い意味で余裕が生まれている。
「えっと~、それじゃあヨロシクね~」
対談開始。
和らいだとはいえ、いざ相対すると司の威圧感は健在であった。
ちょっとした話題や格闘家としてのビジョン、心意気についてはお手本のようで無難な回答ばかり。
しかしプライベートに関する話となると、そう易々と懐に入れさせてくれない。
例えるならば子を守る獅子。家族や友人が下手にマスコミに弄られないように警戒感MAXといった様子なのだ。
そんな調子で対談は面白くも無い時間が流れ、次はゲームコーナー。
今回はゲンがプロモーションしている発売前のテレビゲームを一緒に遊ぼうという企画である。
「このゲームは2人プレイよりも3人以上が面白いのよ。部員の誰かも一緒にどう?」
そう言ってゲンがコントローラーを向けると、さすがに司と並んでテレビカメラの前に座るのは勇気がいると、誰も前に出ようとしない。
「千空、一緒に遊んでくれないかい?」
司から指名があったのは科学部部長であり、ゲンたちが部室に入った時に司の機械に繋がったPCモニターを睨んでいた生徒。インタビュー中ずっと番組に興味無さそうに部室の端で何やら大きな機械をガンガン動かしていた彼であった。
「あ? いいぜ」
気怠そうにしながらも、どこかワクワクしたようなオーラを漂わせた千空は、司の隣の椅子に遠慮なくドカッと座り込んだ。
テレビカメラどころか獅子王司にすら物怖じしない態度。これは凄い大物か。それとも司の親友か? おそらくは前者だとゲンは思った。
「じゃあ司ちゃん、千空ちゃん。簡単にゲームの説明をしちゃうね~」
ゲンはTVモニターを3つ用意し、それぞれ画面が見えないように席を配置して3人でゲームを起動させた。
「これはガチャ要素のあるリアルタイムストラテジーゲームだよ。簡単に言っちゃえば運勝負で出てきた駒を動かし放題の広~い将棋かな~。150種類のキャラやアイテムをガチャで引いて自軍を強化して、他のチームをやっつけちゃうの。リーダーが倒されちゃったらゲームオーバーね」
「ガチャ?」
「そうよ。戦闘キャラかサポートキャラ、サポートアイテムを出せちゃう。一度引いたら時間経たないと次を引けない。バトルはサポートより、次のガチャまで時間がかかる。だからバトル10揃えるか、バトル1にサポート50みたいにするか。プレイヤーの采配次第ってこと。こういうのって、遊ぶ子の人間性とか出てくるんだよね~」
そう言ってゲンは、最初の画面に出てきたガチャのボタンを押し、『ライオン』を手に入れた。
「ちなみに戦闘キャラは最初の1キャラは自動的に仲間になるけど、次のキャラは倒さないと仲間にならないから。ライオンちゃんは強キャラだよ。俺ってば意外と運がいいね」
ゲンが上っ面だけ喜んでいると、千空は退屈そうにガチャを回した。
出てきたのは『ゴリラ』であった。
「ゴリラ~。千空ちゃんもラッキーだねぇ。まぁ実は、最初のガチャだけはある程度の強さ以上のキャラしか出ないのよ~。ゴリラもライオンも、その下限レアリティのSRなのよね~」
ヘラヘラと笑うゲンに、千空は驚いたりショックを受けたような様子もなく「だろうな」と流した。
「じゃあ次は俺の番か」
そう言ってガチャを回す司。その画面のエフェクトはキラキラと光っており、明らかに千空やゲンの時と様子が違う。
「ゲン、これはどういうキャラなんだい?」
デデーンと登場したのは猛獣ではなく、仰々しい衣装を着た人間キャラであった。
司のモニターを覗き込んでそれを見た途端、ゲンは目を丸くする。
「ジ~マ~? 『勇者王』だよ~それ」
それは、近接キャラ最強のバトルキャラであった。レアリティはUR。
通常であればガチャで召喚しても倒すのに苦労するため仲間にできるのは軍勢が整ってから。それが開始1秒で出てくるのだからゲームバランスが崩壊する話である。
「最強キャラ?」
「えっとぉ、どのくらい強い子なのかは、俺のをちょっと見ててね~」
そう言ってゲンはライオンを操作して勇者王の前に移動させる。
司が攻撃ボタンを押すと、勇者王はライオンを一撃で吹き飛ばしてしまった。
体力ゲージが、まるでレベル100のピカチュウの10万ボルトを喰らったレベル20のギャラドスのように、グーンと一気に減っていき、ライオンは秒で倒れてしまった。
絶対の越えられない強さの壁が、そこにはあった。
「クソゲーじゃねえか」
「あはは~、いやいやゴイスーな運だね~」
ゲンは冷汗を流した。圧倒的な力の差が存在してしまうと、もう駆け引きも性格もクソもなく、ボタン連打だけで司は簡単に勝ってしまう。
これではゲームのPRの画にはならない。
「どうだ千空? これでは勝負にならないように見えるが」
司は言葉では煽っているようであったが、その声には千空への信頼がこもっていた。
「リーダー倒しゃ勝ちなんだろ? なら、攻略法はあるんじゃねぇか? 唆るじゃねぇか」
千空は諦めていなかった。未知のゲームであるが、攻略の糸口を探る余地を探すことに興味を覚えているのだ。
「じゃ、じゃあゲームスタートするよ~。分からないことがあったら俺に聞いてちょうだいね~」
こうして、武力の司 VS 無力の千空 のストーンウォーが始まるのだった。