ドラえもんのび太のDr.STONE   作:三柱 努

19 / 50
科学王国集結 マイナス2回目

「ついに、来たぞ。アメリカァ。ヒューストン国際空港ォ!」

大樹の大声が空港ロビーに響き渡る。迷惑極まりない行動を、杠が「静かにしなきゃダメだよ」と叱りつけた。

千空、大樹、杠、司、未来、ゲン、ニッキーの7人は、それぞれがスーツやらのフォーマルな正装を身に纏い、アメリカの地に足を踏み入れていた。

「ジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル・ヒューストン空港、な。で、俺らはコッチだ」

千空がスタスタと道案内し、一行は各々のバッグを手に歩き始める。

「いや~千空ちゃんって迷子知らず? 予習してきたの?」

「クレカ目当てに2回来たことがある」

ケロッとした顔で答えた千空に、ニッキーは「クレ・・・闇が」と千空の親子金銭関係事情を察した。

 

「ハッハー、来たな」

指をパチンと鳴らした音が響くのは、VIPエリアの出口。そこに立つのは見慣れた3人組であった。

どういう手段で来米したのか、想像に易い。

「プライベートジェットだ!」

宣言がすぐに発信源から飛び出したところで、もはや誰も驚かなかった。

「貴様たちも一緒に乗ってくればよかったではないか」

「いいや龍水。こういうイベントには自分の足で歩いて向かうのが大事なんだよ。特に、友と一緒に歩くときはね」

司の断言に、プライベートジェット便乗の羽京は立つ瀬がなく「あはは」と苦笑いする。

「自衛隊でお休みを取るのが大変なのは、私たち知ってますから気にしないでください」

杠のフォローに、そんな事情を知らない大樹もウンウンとうなずく。

「そんなことより、今日は美女が増えたな。素晴らしいぞ」

そう言ってパチンと指を鳴らす龍水。

その指先が向く先に立つニッキーであったが、その真の指先が彼女の背後にいる司・・・の、隣に立つ女性に向いているであろうことに、『うん、分かってるから』と空を眺めた。

「ム? タイプは様々あれど、女たちは皆美女だぜ。違うか? それより、その美女は俺も会ったことがある気もするが・・・聞いていた人数をオーバーしているぞ」

龍水が指摘した女性は、手には大きなカメラを持ち、遠慮がちに7人の後ろについてきていた。

「彼女は記者さ。密着取材を頼まれてね、許可したんだ」

「霊長類最強様はマリリンモンローみてぇなのがご贔屓なんだとよ。他んとこ断って。許可基準は顔か?」

「いや、なんというか直感でね。そういう俺たちのリーダーは、ドラえもんがご贔屓だからね。無人島でも作っていただろ? もぐら手袋にSOS発信機、蒸留器は“さすと雨が降る傘”のデザインにするように杠に頼んでいたくらいだし」

「ケケケ。司、お前も随分詳しくなったじゃねぇか」

そう言い合って拳をガンと合わせる千空と司。そのシャッターチャンスを逃さんとする女性記者・北東西であったが、直後に手を押さえてうずくまる千空の姿しか写すことができなかった。

 

 

「オッホー。ようこそヒューストンへ」

「みんな元気? 飛行機大丈夫だった?」

豪華すぎるお出迎え。宇宙飛行士のヤコフ・ダリヤが、千空たちを迎えに来てくれていた。

「初めまして」と、頭を下げる杠や司、羽京、ニッキー。それに遅れてゲンや大樹、未来が頭を下げる。フランソワはとっくに頭を下げていた。

頭部の位置より手が先に出ていたのは、千空と龍水。

「千空だね。百夜に聞いてた通り、っつうか思ってたよりヒョロすぎでしょ」

そういってダリヤがバンと千空のお尻を叩くと、ヒョロガリ1名が床にダイブした。

「これは、一体どういうご関係なの?」

北東西が目を丸くしながらシャッターを押すと、司は優しく説明を始めた。

「ざっくり言えば、なんとなくの仲間さ。千空つながりで知り合って、今日のイベントのために集まった」

「自衛隊員さんが、わざわざ足を運ぶほどのイベント?」

「そうだね。僕も自分自身不思議だけど、今回は来なくちゃいけないって思ったんだ」

羽京の力強い言葉には、当人たち以外では言い表せない確信のようなものが宿っていた。

 

 

その後、13人の大所帯はジョンソン宇宙センターへと辿りついた。

今日は特別なお届け物が宇宙から落ちてくるのだ。

ISSからの宇宙飛行士の帰還。当然、中にいるのは百夜、シャミール、コニーの3人の宇宙飛行士。千空とテレビ電話で約束をした、彼の仲間を全員揃えてのお出迎えの日なのだ。

「ソユーズ着陸地点の近くに行くのは危ないから、家族や関係者はここのフライト管制室のモニターで見守ることになるぞい」

ヤコフとダリヤが引率の先生のようである。この遠足に参加した面々は、緊張で見学どころではないニッキーや杠、未来を除けば、他はワクワクが止まらないでいた。

ガラス越しに管制室を見学できる席に座り、12人はその時を今か今かと待ち侘びる。

 

 

1人足りない。それは大樹である。

 

「大丈夫だぞ!」

と、伝わらない日本語で豪語しながら、アメリカ人の小さな男の子を肩車していた。

大樹は一人トイレへ向かっていた。そこで出会ったのが迷子の子供。英語は偏差値1桁の能力しかない彼であったが、「ママ」という言葉と涙の意味は理解できる。

「この子のお母さんはいませんか!」

伝わるわけのない大声が建物中に響き渡る。

NASA職員の誰もがその声の主に目を向けて、手を差し伸べようとするが、英語が全く通じない相手に困惑していた。

『そういえば彼なら。たしか日本語がちょっとだけなら分かるって言ってたわ』

女性職員がそう思い出すと、休憩ブースでくつろいでいた白衣姿の男性の手を引いて大樹と迷子の元に走って来てくれた。

「どうしたんだ? 日本人だね? 日本語はつたないが、多少力になれるはずだ」

白衣の男性は値踏みをするようにジロリと大樹を見ながら、ハッキリと分かりやすい口調の日本語で話しかけてきた。

「おお! ありがとうございます! 実はこの子が迷子みたいで、お母さんを探しているんです!」

少し目つきの悪い白衣の男性に、大樹はまくしたてるように助けを求めた。

「なら、総合案内に連れて行くといい。地図は読めるかい? 今がこの位置で、この場所に行って受付に引き継げばいいだろう」

「ありがとうDr。あとは私が案内してあげるわ。この少年まで、また迷子になっちゃうと困るから」

そう言うと女性職員はウインクして大樹と男の子を案内した。

 

 

それから数分後、館内アナウンスのおかげで迷子が無事に母親と再会したことを見届けた大樹は管制室へ戻っていた。

「大樹くん、何処行ってたの? 迷子になってないか心配してたよ」

「フランソワさんが大樹さんを探しに行っちゃったよ?」

と、未来が言ってるそばから、フランソワが戻ってきた。

「大樹様。迷子を親御様に引き合わせていらしたんですね」

アナウンスと経過時間から推測したフランソワの先読み力は、ピンポイントで正解していた。

「フランソワなら当然だ」

そう指をパチンと鳴らした龍水。いや、パチンと音を鳴らさなかった。

何故なら、彼らのいる場所は“こっそりと”いるべき場所。

その列の中央に座るマスクと帽子姿の女性を、皆で隠さなければならないからだ。

誰あろう、お忍びで訪れた歌姫・リリアン・ワインバーグを。

「まさかリリアンさんが来るとは思わなかったね。ワオだよ」

「ということで大樹ちゃんの席、リリアンちゃんにあげちゃったんだ。ジーマーでごめんね~」

「構わん! 立ち見も悪くないからな!」

大樹の立ち見は、それこそ正解だったかもしれない。

大気圏突入まで、あと30分。長いようで短い。見ている側からしても短いこの時間。宇宙飛行士たちの命を預かる管制官たちにとっては短すぎるであろう。

そして、家族にとっても、落ち着いて座ってなんかいられないほどの時間であったのだ。

「大丈夫よ千空。ワシらだって、こうやって帰ってきたんだ」

最後尾の席で小さく震える千空の手に、ヤコフとダリヤが優しく手を添える。

「つってもロスコスモスと勝手が違うんじゃねえか?」

「あんま変わんないって。ロシア語か英語の違いくらいさ」

ダリヤの励ましに千空は小さく笑う。

 

帰還シークエンスに入り、スラスターが射出される。

エンジン区画が切り離され、あとは落下するのみ。

パラシュートカバーが分離し、ドラッグシュートが開く。

ガクンとポットに衝撃が走り、逆噴射しながら地表へと着地した。

管制室のモニターの映像には、落下地点で高く昇る土煙の中から徐々に姿を現したソユーズの姿が映し出される。

しばらくの沈黙が、自然と管制室を包んだ。

「ソユーズ、着陸成功だ!」

管制官の宣言を合図に、その場にいた全員の歓声が一気に沸き上がった。

「やった! 帰ってきた帰ってきた! 千空、百夜が帰ってくるよ!」

興奮するリリアンに抱き着かれながら、千空は目を見開いてモニターを凝視し、拳をギュッと握りしめて歓喜した。

「あぁ・・・そうだな」

 

 

その後、地上回収スタッフに救出された百夜、シャミール、コニーの3人はヘリコプターに乗せられ、千空たちの待つ宇宙センターに戻ってきた。

メディカルチェックにリハビリと、やることが山積みの帰還宇宙飛行士3人だったが、3人ともがあるリクエストを口にして、特設テントへと運ばれていた。

テントで待つ人々が、温かい笑顔で3人を迎えた。

「おかえりなさい。シャミール、コニーちゃん、百夜」

「どうじゃい? 久々の地球の重力は?」

頬の重さをしっかりと感じながら、3人はニコッと笑顔を見せる。

「髪の毛も重いよ~」

「ああ。土の匂いが最高だよ」

「でもって、宇宙もいいが。やっぱお前らに会えるのが、めちゃくちゃ楽しみだったぜ」

そう言って百夜は重い腕を必死に伸ばした。

その手に軽く触れるのは、彼の息子・石神千空。

「無理すんじゃねぇよ親父。無重力の筋力低下、舐めると肉離れ起こすぞ」

相変わらずのセンチメンタルな感情ゼロの安定千空に、何故か涙を抑えられない百夜。

「ただいま。だな」

「あぁ、おかえり。だな」

 

 

 

 

 

 

こうして、ここに逆3700年ぶりの、科学王国再集結が相成ったのだ。

 

そしてこの日の光景は、それぞれの立場を代えて、数年後・・・

 

 

 

千空の地球帰還を祝う形で再現される。

 




※ 次回『千空、JAXA受けるってよ』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。