石化光線から逃れた宇宙飛行士の子孫の住む石神村。
科学王国として生まれ変わり、この2年ほどで原始生活から爆発的に発展したこの村には、石化から復活した者たちも在籍していた。
元・自衛官で潜水艦のソナーマン、西園寺羽京もその一人。
彼は今、勉学を知らない石神村の子供たち(一部例外を含む)に向けて『科学学園』と称した青空教室を開催していた。
「はい、じゃあ今日の授業はここまで」
帰りの会も終わり、子供たちは“船造り”の手伝いのために散らばっていった。
この村、この科学王国では大人も子供も年寄りも、誰もが自分にできる役割を精一杯に果たして、石化した人類の救済のために立派に働いている。
羽京も授業を終えれば、次なる仕事が待っている。その準備をしていると生徒の1人、村の子供のスイカがパタパタと走ってきた。
「羽京~。もうすぐゲンが帰ってくるんだよ~」
「えっ? ゲンが? まだ鉄運搬の仕事があるはずだよ?」
何かの間違いじゃないかと頭を傾げる羽京だが、ゲンからの電話を受けた村人たちは船着き場の近くに並んで、何やら歓迎ムードを漂わせていた。
「みんなして仕事の手を止めて、何を待っているの?」
「知らないんだよ」
スイカの言う通り、村人たちは理由も分からず、とりあえず待っているだけであった。ゲンいわく、アッと驚く特別サプライズが待っているらしい。
「アッと驚くねぇ」
羽京が怪訝な目で見つめる先、村に続く水路に一隻の舟が現れた。
乗船しているのは鉄鉱山で採掘された鉄の積み荷。村人3人。運搬の陸路担当であり、今その船に乗っているのはおかしいゲン。そして見慣れぬ子どもと青い塊。
「誰だろ? 何だろうアレ?」「青い狸?」「あの子、金狼みたいな眼鏡してるよ」
視力の良い原始人の村人たちは、現代人の羽京よりも早くその新参者の姿をとらえて、ヒソヒソと相談を始めていた。
「青い狸に眼鏡の子供? ハハッ、まるでドラえもんとのび太くんみたいな話・・・」
その2つの姿をようやく視界にとらえた羽京は、アッと驚いた。
「せせせ、千空ぅ! 早く、早く来てくれ!」
科学王国の鉄工所は今、船に取り付ける巨大エンジン製造のためフル稼働していた、
3mの炉に鉄鉱石をぶち込んで炭を燃やし、酸素を奪って溜まった鉄を回る炉に流して酸素ガスを吹き込み、不純物を取り除いて鋼鉄を作っていたのだ。大量に。
という面倒で大変な作業に、数名の村人と国の長である石神千空が従事していた。
そんなところに比較的クールなキャラである羽京が血相変えて飛び込んできた異常事態に、千空をはじめ全員が手を止めた。
だがその様子に、危険が迫っているような感じは無い。敵の襲来や危険生物の出現であれば、他の足の速い村人の方が先にコチラにくるはずなのだ。
「どうした? ゴジラでも出てきたっつうなら、ちったぁ唆るから顔を出してやってもいいがな」
「ゴジラ? ゴリラの親戚か何かか?」
千空の呆れたような様子に逆に安心感を覚えた村娘のコハクは話を合わせた。
「そんなんじゃない。それこそ100億倍すごい物、人? 物? とにかく来てくれ! 絶対に後悔しないから」
羽京の必死の説得に、千空はやれやれと重い腰を上げ村へ向かうことにした。
「はぁああああああ!?」
ドラえもんとのび太。2人の姿を見た途端、千空は髪の毛を逆立て白目をむいて涙を流しはじめた。
村人も誰も、ここまで取り乱した千空を見たことはない。
かと思えば、今度はハッとなって頭を抱えて悩み始めた。
「どうしたのだ千空?」
「情緒不安定すぎるんだよ」
コハクとスイカが心配する中、千空は指を立てて静かに口を開いた。
「神様シートだな?」
千空の問いに、その場に居合わせたゲンと羽京は顔を見合わせ、ドラえもんとのび太は「神様シートのことまで知ってる」と驚いた。
「いやいや千空ちゃん、俺らを置いてけぼりにしないでよ。それに先に言うことあるでしょ?」
つい先ごろに嘘つき呼ばわりされたゲンが「ほら言った通りでしょ?」とニヤニヤとしていると、千空は当然のようにそれを無視してドラえもんに問いかけた。
「つまりこの地球はのび太の夏休みの宿題の産物っつうことだ」
「話の理解が早くて助かります」
ドラえもんが目を丸くしていると、千空はのび太の頭上のフワフワリングを指さして「こいつが俺たちの世界を作った神さまだ」と村人たちに紹介した。
「神さま?」「創始者様みたいなものか?」と多くの村人はキョトンとした顔であったが、ゲンと羽京は「ジーマー?」「嘘・・・」と、いつもの千空トンデモ提案の100億倍は驚いた。
「創世日記の、あの話の?」
「そうだ。それがこの世界の真実っつうことだ」
「そうなんです。それとさっき石にする道具をこの地球に落としちゃって」
のび太の口から語られた衝撃の真実に、さすがの千空も喉の奥から心臓が飛び出すくらいに驚いた。
「・・・・・ぁ・・・ぅぁ・・・」
過去にいくつもの窮地にも堂々とした態度だけは崩すことの無かった千空が、これには声も出せなかった。
それはゲンも羽京も同様であった。
「3人が凍りついてしまっては話が進まんが、ひとまず千空たちの知り合いなのだろう? 復活液も無しに復活したこの子たちを、まずはもてなしてはどうだろうか?」
動けなくなった復活組知識人3人を放置したコハクの提案に、村人たちは「とりあえずそうしようか」と賛同した。
「ドラえもんとのび太。お前たちを歓迎しよう。腹は減っておらんか?」
コクヨウに尋ねられると、2人のお腹がグーと鳴った。
「そういえば羊羹、食べ損ねてたね」
「では、お言葉に甘えて」
ドラえもんとのび太はペロと舌を出して、村人に招かれ『レストランフランソワ』に入っていった。
「そうだ。フランソワは今、元・司帝国の麦畑に行っちゃってるんだった」
シレッとご馳走のおこぼれにあずかろうと潜入していた銀狼が残念がると、その背後から「問題ありません」という声とツカツカという足音が響いた。
誰あろう科学王国のシェフ、用意が早いことでおなじみのフランソワである。
「ゲン様からのご依頼で道すがら、簡単なものをご用意させていただきました」
そう言ってフランソワは銀メッキのお盆からフルコースの料理を取り出した。
「いやいつの間に!?」
飛び上がって驚く村人たち。その傍らから顔を出すのは、フランソワと共にモーターボートで帰ってきた龍水、大樹、杠、ニッキーであった。
「はっは~! ゲンから大至急の招集を受けてきてみれば、何やら騒がしいではないか。何だ? 人類石化の秘密でも見つけた祝杯か?」
そう言って高らかに笑う龍水に、大樹は「そうなのか!」と同調し、杠とニッキーは「いやいや」と冷静に手を横に振ってなだめた。
が、その4人もドラえもんとのび太の存在に気付くと、人生最大級の白目と驚愕にぶっ倒れるくらいに仰け反った。
一方その頃、時間差でようやく正気を取り戻した千空、ゲン、羽京。
「いや、まだ夢みてる感じだけど・・・これって現実なの?」
「ガキん頃から腐るほど読んできた漫画だ。俺でも幻覚かと思うが、100億%現実だ」
「でもどうして漫画の登場人物が俺らの前にジーマーに存在すんのよ?」
ゲンの当然の疑問に、千空も自信なさげに無理やりな考察を始めた。
「まぁ偶然、のび太が作った世界に藤子不二雄が存在しちまって、神さまと全く同じ存在の物語を作っちまった・・・つうことだろうな」
確証の無い推理ではあるが、ひとまずは納得するしかない羽京とゲン。
「でも、のび太くんが人類石化の原因となると、僕らは彼とどう接すればいいんだろう」
「責任論なんてモンには興味ねーよ。っつうかアホほど地球救ってんだ。今さらチャラだろ」
「でもさ、それってドラえもん世界の話だから、俺らのこの地球の話と一緒に考えるのはリームーな理論じゃないの?」
「それこそ俺らのベースが昆虫人類から逃れられたっつう話だ。過ぎちまったもんを語るより、実物が来てくれたんだ。もっと唆る話があんだろ?」
千空のニタッとした企み顔に、常識人の羽京は苦笑いし、同類のゲンはニヤァと笑みを零した。
「こっからは忙しいぜ。なんてったって全世界の科学オタクの憧れ、22世紀の未来道具が使いたい放題だ」
「まぁ今は58世紀だけど」
羽京の冷静なツッコミにも、千空とゲンのニヤツキは止まらない。
「だがまぁ、人類復活も復興もやりたい放題っつうワケにはいかねぇ。手順間違えっと、司が危惧したみたく人類総権利主張でグダグダのまま今度こそ人類が絶滅しちまう」
「それ以前に、そんなに長期間もドラえもんたちに居続けてもらうわけにいかないよ。のび太くんには義務教育だってあるんだし」
「大丈夫よ羽京ちゃん。俺らの欲しい未来道具だけ置いて帰ってもらうだけでOKよ」
羽京の心配は千空とゲンが易々と完封していく。
「でも、そんな簡単に貸してくれるのかな?」
「そこは断れねぇように強請r・・・じゃねぇ誘導すりゃいいだろ? なぁ、ゲン?」
千空のオーダーに、ゲンは演技染みたお辞儀で応えた。
「勿論よ。既に懐柔策の根回しはしといたよ~」
そう言ってゲンが指さした先、村の外れのレストランフランソワに集まる人々の中に、豪華料理に舌鼓を打つドラえもんとのび太の姿があった。
「フランソワちゃんには“金に糸目はつけないで”って電話しといたから。ドラえもんちゃんたちが何ドラゴ持ってるか分からないけど、代金が払えなかったら・・・ね」
ゲンの謀略に、羽京は「それって逮捕される案件だよ」と指摘するが、千空は「日本国憲法も刑法も消えた世界じゃ無効だろ」と後押しした。
「やべぇ、唆りすぎんだろ。最高最善の最強効率で道具を使って、風化した人類も漏れなく救ってやるよ」
卑しい企みさえ無視すればこれ以上に無く頼もしいリーダーに賛同せざるをえない羽京。
ゲンはメンタリスト人生最大の勝負所に胸を高鳴らせ。
千空もまた幼い頃からの夢を現実に、人類の存亡をかけた大プロジェクトを前に興奮を抑えられずにいた。
「千空~! すごいぞ、ドラえもんだ! 助かるぞ、俺たちの地球!」
そして、そんな3人の元に大樹が大手を振って走ってきた。
「ああデカブツ。明日から“3629年前”の道具使って、人類まるっと効率よく救って・・」
「タイムマシンで石化道具を使う前に戻って、全部無かったことにしてくれるぞ!」
こうして、100億%最強効率の人類救済方法は発見され、千空とゲンの野望は打ち砕かれてはいないが、絶妙にチリと化した。