ISSでの任務に一区切りがついた頃、突如として発生した大規模な太陽フレア。
その影響が今、千空たちの目の前に現れていた。
「なんだ、あの光・・・」
地球を包むほど巨大で、壮大でありながらどこか不気味さすら覚える光の帯を前に、龍水は悪寒を覚えていた。
あの光に当たってしまったら・・・自分は一体どうなってしまうのだろうか、と。
「ただのオーロラだ」
「オーロラか!」
平然とした千空の声に、龍水は恐怖していたことを恥ずかしく思い顔を真っ赤にする。
そこにスイカモードから戻れなくなったAIクロムが近寄り、「オーロラって何?」と龍水の腕に中に入った。
「オーロラっつのは太陽から届いたプラズマの悪戯だ。完璧に解明されちゃいねぇが、酸素と窒素をお元気にして発光させた現象だ」
「さすが分かりやすい解説だ。ところで千空、そのカメラは?」
「そりゃお前、今からオーロラん中に突っ込むんだぞ? 100億%ウルトラレア体験だろうが」
そう言って千空はキューボラというISS内の展望室に向かった。
その隣でせりかが仰々しい一眼レフカメラを手にしている。
「ダグさんが、NASAヒストリーの表紙を飾るくらいの写真を撮ってね、って」
「ククク。責任重大だな」
オーロラが目の前に近づく中、千空はカメラを連写しまくった。
「綺麗なんだよ」
怖いくらいに綺麗な光の中に溶けていくISS。AIスイカも、この感動的な光景に目を輝かせる表示に切り替えた。
が、同時に耳に届いた百夜の交信が龍水を焦らせた。
「こちらISS。大気摩擦の影響で高度が10kmほど下降した」
百夜の管制とのやりとりに、龍水は「だ、大丈夫なのか!?」と戦々恐々とする。
「んなもん想定の範囲内だ。いちいちビビんな」
「そ、そうなのか・・・」
「まぁ、10kmも落ちりゃデブリ帯が怖ぇけどな」
デブリとは、宇宙に漂うゴミのことである。衝突すれば1g分の大きさでも手榴弾並みの威力。ISSの壁に穴が開く。
「それは怖いんだよ」
「ククク。もっとヤベぇことがこれから起こっぞ。お子様はとりあえずスリープしとけ」
そう言うと千空はAIスイカの電源を落とした。
「何をしているんだ千空?」
「今回のは過去最大のプラズマだ。電子機器に電源入れっぱだとショートすんだよ。でもって龍水、お前が一番ワーワー騒ぎそうな事が起こる」
「・・・ということは・・・停電か」
「正解。100億点だ」
「なるほど、俺たち5人は地上から隔絶されてしまうということか」
宇宙空間での停電は地上で遭遇するものと比較にならない重大アクシデント。
だが、龍水は怯えていなかった。たとえISSと地上との通信が遮断されてしまったとしても、ここにいる仲間たちがいれば、何も不安に思うことなど無いからだ。
・・・ということをカッコいい言葉で千空に伝えようとしているところに、千空がいつものような気怠い顔で口を挟む。
「つっても、停電はせいぜい1時間だがな。当面一番の問題は、俺らの引継ぎのクルーが来るのが遅れるっつうとこだな。1週間くらい滞在期間が延びる」
「って、そっちか!」
その後、千空たちCTV-28の後任であるCTV-29のクルーたちは、予定より4日遅れでISSに到着した。
いよいよ、千空たちの旅も終盤を迎える。
日本製の補給船FUJIに、今までの実験成果、努力の結晶を積み込んでいく。
勿論、ALS実験の貴重なタンパク質結晶も、である。
「ついでにお前“ら”も同乗だな。クロム、スイカ」
「じゃあな千空」「行ってくるんだよ」
AIロボット用の格納エリアにクロム・スイカを積み込み、これでしばらくの別れとなる。
「無事に地球に届きますように」
祈りを込めて、FUJIの分離を見届けるせりかたち。
約4時間後、日本の種子島近海に着水予定だ。
「はっはー、心配は無用だ。“日本初”の帰還型補給船のFUJIにはコウノトリの制御技術が使われている。姿勢制御のバックアップは取りこぼし無く完璧だ。何があっても必ず、無事に地球には届く!」
そう豪語するのはFUJI開発会社スイングバイの出資者兼新入社員の龍水。
「お前が金出して作ったわけでもじゃねぇけどな。出資前から開発されてんだろ」
「その通りだ!」
そう言いながらも胸を張る龍水と共に、FUJIの帰還を見守る千空たち。
高度落下、再突入と、無事にシークエンスを経過していく。
が、そこでハプニングが発生した。1基のスラスターに異常が発生したのだ。
「ふん。1基程度の故障ならば問題ない。茶でも飲んで落ち着いて待てばよいのだ」
鼻を鳴らす龍水。
だが、大気圏を越える頃にさらに1基。別のスラスターまで故障してしまう。
「ん? んんん!」
顔色の変わる龍水に、ISS内でも不安の色が広がる。
「ヤベぇんじゃねえか?」
「いや、パラシュートとパラフォイルの展開さえ無事であれば、ブツは必ず無事に地球に届く。届きはする・・・のだが」
「着陸ポイントが大幅にズレやがる・・・・ってことか」
千空の心配は当たってしまった。
本来であれば海上保安庁の回収船が目視で確認できるほどのピンポイントで地球にたどり着くはずのFUJIカプセルが、予定を大きくズレてしまったのだ。
着水地点は種子島から北東に100kmと推測される。
カプセルが海の中に沈んでしまうことはないが、一刻も早く無事な姿が確認できなければ開発会社スイングバイの評判に影響してしまう。
「こりゃマズイんじゃねぇか? お前の会社、大損すんぞ」
「ああ・・・これはピンチに入る。世間の体裁を考えて、信頼を損ねずいられるのもせいぜい1時間。それまでに“誰かが”発見してくれなければ・・・」
戦慄する龍水の祈りが届いたわけではないが、それはFUJIの内部から起動していた。
「ヤベーことが起こってやがんな。ここは俺の出番だろ!」
FUJIの情報を解析し、自らの判断で起動したのはAIクロムであった。
とはいえ、カプセルには自動操舵システムも無く、設定されていない周波数の救難信号を発信するシステムも搭載されていない。
「だがな、当たるぜヤベー科学使いのカンは。いるな、俺たちの仲間がな!」
クロムは内在プログラムの中でそう叫ぶと、周波数を調節し、ある場所へ救難信号を発した。
そしてついに、海上保安庁がFUJIの捜索に難航する中・・・
「見つけた! FUJIだ!」
海上に突き出た潜望鏡がFUJIの姿を捉える。
発見したのは海上自衛隊の潜水艦。クロムの発信した周波数を捉えたソナーマンが、現場急行を上層部に進言してくれていたのだ。
「あはは・・・一企業のメリットのために潜水艦動かすなんて、普通は自主退職ものだけどね。でもこの中には世界中の患者さんの夢が詰まっているんだよね? 千空、龍水!」
こうして、本人のたっての希望でFUJI発見の一報はソナーマン・西園寺羽京によって種子島に伝えられた。
こうして、世界中が待ち侘びたALS治療実験の成果。そして数年分の実験成果が詰まったISSからの荷物が地球に届き・・・
残すところはその立役者たちの帰還。
CTV-28、クローバーズ。
石神百夜
ダグ・ホワイト
伊東せりか
石神千空
七海龍水
5名の帰還を残すだけである。
次回:最終回
お楽しみに!