ドラえもんのび太のDr.STONE   作:三柱 努

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千空宇宙滞在編 【最終回】

長くも短い3か月であった。

宇宙飛行士・石神千空の初フライトも、この日で終わる。

 

「忘れもんはねーな? 取りに来たくたって、しばらく来れねーぞ」

「修学旅行じゃねぇぞ」

宇宙服に着替えながら、百夜がヘラヘラと笑い、千空は呆れたように言いながらもニヤリと笑いヘルメットを被った。

こうして呑気な話を“無重力の自由空間”でできるのもこれで最後。

その1秒1秒も名残惜しくも、5人は楽しんでいた。

 

「それじゃあクローバーズ。無事を祈る。次会うのは、地球だな」

交代クルーたちに見送られ、帰還船オリオンに乗り込む5人。

ISSとの間に空気漏れが無い事を確認し、座席に座る。

「さあ、帰るぞみんな」

百夜の呼びかけに4人は胸をバクバクさせ、「はい」と答えた。

 

 

帰還シークエンスに入り、ゆっくり時間をかけてISSから離れていくオリオン。

ISSの窓からクルーたちが5人を見送ってくれているのが見える。

「ありがと、ISS・・・・またね」

特に名残惜しそうにISSを見つめるせりか。

今回の贈賄疑惑で、一時は宇宙飛行士人生すら再起不能になっていたかもしれない彼女。

今でも、この騒動の収拾をつけることができなければ、2度とISSに戻ってくることはできないかもしれないと、心の隅に不安を残している。

そんな彼女の様子に気付いた龍水が優しく肩を叩く。

「心配するな。貴様の功績は俺たちが、世界中が知っている。ならばいずれ向こうから『またISSに行ってくれ』と言ってくるだろう。ドンと構えておればいい!」

「・・・ですね」

せりかの笑顔に、龍水は「その意気だ」と励ましの言葉を贈る。

 

 

ISSとの距離がある程度離れ、いよいよ2回目のスラスター射出。

ガタガタと衝撃が5人を包み始める。

ますます帰還の雰囲気が高まっていく。

「予定通りオリオン高度上昇。順調だ。次の噴射まで待機してくれ」

管制からのアナウンスに耳を傾ける。

次の噴射は地球に向かうための噴射。ついに無重力と、宇宙とお別れの時間ということだ。

「色々、ありやがったな」

千空はこのISSでの日々、今までの宇宙飛行士としての訓練の日々、宇宙飛行士になるまでの日々に想いを馳せていた。

10年。

ドラえもんをきっかけに仲間が集まり、ISSから帰って来た白夜たちを迎え、宇宙飛行士を志してから10年が経っていた。

それが今、自分が宇宙から地球に帰還する番である。

 

 

 

「オリオン、軌道離脱噴射まで残り20秒」

いよいよだ。

5.4.3.2.1.メインエンジン点火

秒速128m分減速を確認。

 

もう後戻りできない域に入った。あとは落ちていくだけである。

エンジン区画が切り離され、バンという強い衝撃が走る。

大気圏へ突入だ。

 

 

「見ろよ千空、窓の外を」

大気圏を突破する時に発生する火花のようなプラズマが、窓を鮮やかに彩る。

「これは宇宙旅行の終わりを告げるもんだが、こいつを見た宇宙飛行士はまた次も宇宙に上れる。祝福の火花って呼ばれてんだよ」

「ククク。そういうゲン担ぎにゃ1ミリも唆らねぇが、悪くねぇじゃねぇか」

千空が笑う中、振動はますます激しくなる。

「パラシュートカバー分離確認。ドラッグシュート出ます」

2段階のパラシュートのうち1段階目が開き、5人にガクンと強い衝撃が走る。

千空は、かつてアスキャンでコンペに参加した日々を思い出していた。

あの時は自分たちの手でキャンセットを飛ばし、パラシュートを開かせるために自分たちで畳んだ。

それに今、自分たち自身の命を預ける。

 

ガクン!

 

続いて2段目が無事に開き、いよいよ地表への着陸となる。

窓の外に見えるのは、3か月ぶりの地球の青い空。

 

ゴッ!

 

強い衝撃と共に土煙が舞い上がった。

さっきまでガタガタいっていた振動が止み、不気味な静寂がオリオンを包む。

 

 

今見ているのが、果たしてリアルなのか・・・それとも失敗して死んで幻覚の世界にいるのか、一瞬判別がつかなかった。

だが、体に残る痺れは。ジェットコースター100億回ほどの痺れは、生きている証。

「うわああ、すっごい」

「ははははっはー!」

せりかと龍水の笑い声がオリオンに響き渡る。

「ヒューストン、CTV-28オリオン、着陸成功だ!」

百夜の報告に、オリオン船内に届く管制の歓声が響き渡った。

ついに、千空たちは地球に帰って来たのだ。

 

 

「おかえりだな、千空」

「ああ百夜。ただいまだな」

そう言って握手しようと手を伸ばしあう百夜と千空。

その手は鉛が入っているのかと思うくらいに重く感じられた。

口を開けば舌まで重い。

髪の毛も重い。

それでも2人は手を伸ば・・・したが、その仲睦まじい親子の絆的なものを和やかに見守る他3人の視線を感じ、千空は気恥ずかしそうに手を引っ込めてしまった。

 

 

しばらく待っていると、救助スタッフが現れ千空たちを抱えてオリオンから出してくれた。

3か月ぶりの地球の大気。

拍手で出迎えるスタッフ。

外の空気、土の匂い、風の心地よさ。これが地球。

 

 

スタッフに両脇を抱えられ、千空は専用のヘリに乗せられた。

目指すはジョンソン宇宙センター。そこで彼らの帰還を待つ人々に元気な姿を見せに向かう。

「ついに、ISSからクローバーズが帰ってきました!」

ヘリから降り立った5人に、観客から割れんばかりの拍手が贈られる。

5人は片手を挙げ拍手に応える。

その実、立っているだけでやっと。3か月毎日欠かさなかった筋トレの成果があって、立って笑顔を絶やさずにいるだけでやっとであった。

「ふははは。偉いぜ千空、さすが宇宙飛行士だ」

「ククク。まだくたばるわけにいかねぇからな。ウォームアップに丁度いい」

報道陣にある程度挨拶を交わし、5人はメディカルチェックに向かう。

そして、健康状態を判断したうえで、百夜・千空・龍水は特設テントへの移動を許可された。

そこに待つ人々と、再会を喜び合うために。

 

 

 

「千空ぅーーーーー!!!」

「だー、鼓膜がバグるわ」

大樹の大声に耳を塞ぐ千空。いつもの面倒くさそうな表情でありながら、しっかりとリアクションする姿は、いつもの千空のままであった。

体が重く、起きていられずにベッドに横になっている以外は、元気そうな姿に誰もが安心する。

「お兄様ぁ!」「兄上!」

その声に一瞬怯んだ2人の少女、瑠璃と琥珀が千空の胸に飛び込もうとするが、寸でのところでリリアンが2人をキャッチする。

「駄目って言ったでしょ。抱っこしたら肉離れ起こしちゃうって。リハビリが終わったら、ハグでも何でもさせてくれるわよ」

リリアンが「ねっ」とウインクすると、千空はニカッと笑い「ああ」と答えた。

 

「そのくだり、パパには一切無いのね。やっぱり」

そう言って枕を涙で濡らす百夜の元に、彼の仲間4人が集結している。

「やあオジサン。墜落させちゃうんじゃないかって心配してたよ」

「もうシャミールったら。百夜さん、本当にご無事でよかった」

シャミールとコニーがそれぞれ息子2人、黒髪と金髪の兄弟を抱きかかえ、百夜を労う。

「オホー。元気そうじゃん百夜。親子3か月水いらずの旅はどうじゃった? 宇宙空間は水は何でもリサイクルするから文字通りなのよ」

「何ウマいこと言ってんのよヤコフ。おかえり百夜、イベント一杯で楽しかったんじゃない?」

ヤコフとダリヤもまた、子供を抱え百夜に微笑みかける。

「まぁな。またそのうち行きたいぜ」

ニヤリと笑う百夜は、4人としばらく笑いあった。

 

一方で千空の方にも、瑠璃・琥珀が席を譲ると多くの人が集まっていた。

「千空くん・・・ほんと、無事に帰ってきてくれてよかった」

「ああ。家ん事、迷惑かけたな」

目に涙を浮かべる杠に、千空は優しく微笑みかけた。

「いや~、今の流れジーマーの夫婦のやり取りじゃない? や~、お久~千空ちゃん」

「ゲン、お前もずいぶん好き勝手やってくれたな。おかげでALS治療を守れたぜ」

「何言っちゃってんの? 俺は自分の売名のためにやっただけだよ~。失敗してたらおじゃんの賭けだったけど。だって分かってたから。千空ちゃんたちなら実験成功させるって」

作り笑顔で本音を語る。そんないつも通りのゲンの姿に、千空はニヤリと笑って返した。

 

「千空。実験成功と帰還、おめでとう」

「千空さん、おかえりなさい」

そう言ってシンプルに出迎えるのは獅子王司・未来の兄妹。

「おお、難病チャリティーマン。肩身狭くなかったか?」

「その点は大丈夫さ。あの程度のことで日本人のモラルは低下“させない”」

「兄さんが呼びかけたから、今すっごくチャリティー運動が流行ってるんですよ!」

心配ご無用といった獅子王兄妹に、千空は逆に心配して損した気分になっていた。

 

「やあ石神千空飛行士。ひさしぶりだね。ここなら堅苦しくなくてありがたいわ」

ISSで唯一、テレビ番組越しに顔を合わせていたニッキーもまた、この日のために休みを取って駆け付けていた。

「ああ。人気タレント様も辛ぇな。また今度、酒でも飲もうぜ。リリアンとか連れてな」

「!!! や、約束だよっ!」

そう言ってニッキーは思わず肩をバンと叩きそうになり、必死に自分を抑えた。

 

その後ろから元・最後のドラえもん仲間の自衛隊員、羽京もロボットを手にして顔を出す。

「やあ千空。おかえりだね」

「よお千空! 先に帰ってきたぜ」「スイカもだよ!」

無重力用ロボットAIクロムが元気よく声だけスピーカーから響かせる。

「ああ羽京。てめぇの最強のアナログ耳が、スイングバイを守ったな」

「ハハハ。それがバレたらマズイけどね。とりあえず、みんな無事で良かったよ」

そう言って笑う羽京が視線を向けた先では、龍水の側に立つフランソワの姿が。

 

「フランソワ。杠に養育手当と、大樹に傷病手当は?」

「既に支給済みでございます」

「さすがだ。他に変わりは無かったな? であるなら明日から早速、リモート会議だ」

「いや仕事しすぎだろ社長」

元気すぎる龍水と、それを当然のように受け入れるフランソワに呆れる千空。

「大木夫妻! 俺は決めたぞ。日本初の民間宇宙旅行会社を、俺は作る! 貴様らは明日からその立ち上げ部署に異動だ!」

「おう、任せろ龍水!」

「大樹くん、社長だから。でも今はいいよね。かしこまりました、龍水くん」

そう言って頭を下げる杠と、下がっているのかよく分からない大樹。

 

 

そんなガヤガヤとした雰囲気に、心地よさを覚える千空。

「ククク。ようやく帰って来たな。地球様によぉ」

そうつぶやくと千空は百夜のほうに寝返りを打ち、手を伸ばした。

 

「百夜。やっと帰ってこれたな」

「そうだな、千空」

 

そう言って2人は手をしっかりと握り合った。

 

 

 

 

 

= 終 = 

 

もし続編があるとしたら、どんな話を読みたいですか?

  • 瑠璃や琥珀、他のメンバーの日常
  • 映画ドラえもんに千空たちが合流
  • 歴史修正後の世界で石化光線発生
  • 秘密道具レビューの続き
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