ドラえもんとのび太に22世紀のミステリーツアーに招待された千空たち。
「それでのびちゃん。ツアーっていつ頃から始まるの? 遅れちゃうのは嫌だよ~」
「それが、僕にもよく分からないんです」
ゲンの問いにのび太は肩をすくめる。
「そりゃミステリーツアーだからな。だが部屋で休むだけっつうのも味気ねぇだろ」
千空のフォローにゲンも「だよね~」とニヤニヤと笑う。
実の所この2人の魂胆としては、誘ってくれたドラえもんとのび太に『ツアーのココが不満だった』と後になって駄々をこねて、帰ったあとで『お詫びにひみつ道具をいくつか置いていってよ』と強請るつもりでいた。
そして今、列車で待たされるという落ち度を見つけ、それを印象付けようとしているのだ。
そんな魂胆に気付かないのび太であったが、ちゃんと千空たちをもてなす手札を持っていた。
「じゃあ展望車に行きませんか? 景色がすごいんですよ」
「てんぼうしゃ? スイカは初めて聞いた言葉だよ。でも楽しそうなんだよ!」
のび太の声のトーンから、スイカもテンションを上げ、千空も目をキラキラとさせる。
数々の宇宙の大冒険を潜り抜けてきたのび太。目の肥えた彼が“すごい”と言うのだから凄いのだろう。
「でも俺は先にお部屋の探検をしたいな~。22世紀の客室ってどんなのかジーマーで楽しみで仕方ないんだけど~」
「たしかに。部屋というものが一体、どのように発展しているのか、めっぽう興味あるぞ!」
「そうだな。軽くジャブでも挟まねぇと体力が持たねぇな」
ワクワクを100倍にして客室の扉を開く千空。あとに続く4人もソワソワする気持ちを抑えられない。
「うぉおおおおお! これが22世紀・・・なのか?」
クロムの期待とは裏腹に、客室はサッパリとした何もない部屋であった。たしかに広くて綺麗ではあるが、正直に言えば期待外れの空間である。
ことクロムたち石神村の常識で言えば、家を建てる際に支柱をしっかりと作らなければいけない以上、狭い場所にモノがごっちゃごちゃに置くのが普通の部屋であって、逆に何も置かれていない広いだけの空間は新鮮でもあるが、寂しさのほうが強く印象に残るものだった。
強いて褒める点があるとすれば、部屋に入ってすぐに「宇宙ドリンク」という飲み物が石鹸の泡に包まれた状態で5人の元に5本も配られたことくらい。
「これは何とも拍子抜けではないか・・・ん?」
ドリンクを飲みながら部屋を見回したコハクは何かに気付き、突然部屋から通路に出た。
「どうした?」
「千空・・・おかしいぞコレは。距離的に・・・隣の部屋とこの部屋、繋がっていなければおかしいのではないか? 扉のあるべき距離に壁しかないぞ?」
コハクの指摘にクロムとスイカが通路と部屋を出入りする。
「えっ? んなわけねぇだろ・・・ん?」
「ほ、本当なんだよ!」
「ククク。気付きやがったかコハク。こいつはおそらく圧縮空間ってやつだ」
「あぁ~圧縮空間ね。こういうの見るとドラえもんの世界に来ちゃったなってジーマーで思うよね~」
圧縮空間とは広い空間を狭い入れ物に押し込める技術。つまり外から見るより中は広い状態である。
原始時代には絶対にありえない概念のこの現象に、視覚的な違和感からすぐさま気付いたコハクに、千空は心から感心した。
「さっそく科学土産ができたな。ルリ姉に見せてやるのが楽しみだ!」
「いやいやいや。22世紀の科学だ。俺にもサッパリだし、科学王国にゃ無理な芸当だ」
ウキウキとした様子を見せるコハクであったが、千空が秒で白旗を上げるとショックを受ける。
「まぁまぁそろそろ展望車に行こっか~。あんま、のびちゃんを待たせちゃっても悪いでしょ?」
「たしかにな。圧縮空間っつうの以外、そう面白そうなモンもねぇからな」
ゲンに促され、部屋を出ていくクロムたち。
千空としてはまだ22世紀の客室を発掘し足りない確信はあったが、これ以上は石神村の3人を落胆させすぎてしまうため、いっそ展望車のデカいスケールを見せてハードルを下げるべきと判断した。
「じゃあコレをどうぞ。ハイ、タケコプター」
展望車は58号車。120両編成のこの列車内の移動はそれだけで遠足並みであるため、千空やのび太のような運動神経ゼロ人間には楽な移動手段が必須なのだ。
「出たぜタケコプター。こいつをどれほど待ち侘びたことか!」
待望のタケコプターを前に、珍しく千空の鼻息が荒くなる。
「それ、千空がこのあいだスイカたちにくれた玩具なんだよ!」
「ククク。こいつは、んな竹細工とはワケが違ぇ。脳波感知式反重力場発生装置だ」
「よく噛まずに言えるね」
ゲンが苦笑いする目の前で、千空は震える手でタケコプターを頭に装着させる。
するとタケコプターのプロペラが回転を始め、千空の体は静かに浮かび上がった。
「おお! 千空が浮いているぞ!」「スゲェ!」「ちっちゃいのに気球みたいなんだよ!」
コハクたち3人は興奮し、自分たちのタケコプターを頭の上に乗せようとする。
「ちょっと待ってね~。のびちゃん、これって仕組み理解してないと上手く飛べなくてバイヤーなことにならない? あらぬ方向に飛んでっちゃって壁に衝突しちゃったりとか」
「あっ、そうか。ごめんなさい、そこまで考えていませんでした」
のび太も失念していた通り、タケコプターで空を飛ぶイメージを十分に持っていない人間、例えば原始人が使用すると、飛行を制御できずにタケコプターに振り回され、下手をすれば大怪我をする危険があった。
そのことを確認し、ゲンは3人からタケコプターを回収する。
「まぁツアーで広いとこに出たら、時間がある時に練習させてあげるから」
「ちぇっ・・・まぁ科学は危ねぇもんを危ねぇって理解するのが大切だからな」
日頃、科学に関して千空から口を酸っぱくして聞かされているクロムたちは渋々ながら理解を示した。
結局、のび太と千空とゲンがタケコプターで。スイカを抱いたコハクがクロムと共に走って展望車に向かうことに。
そして扉を開けた先に広がる・・・
「どう? この素晴らしい眺め!」
「眺め?」
展望車があるはずの空間には、宇宙空間のような真っ暗闇が広がっていた。
どうなっているのか理解できずパニックになるのび太。
その直後、空間は突如として閃光と爆発に包まれ、驚いたのび太は目がくらんで気絶してしまった。
「なっ!? 何が起きているんだ、千空!」
「大丈夫だ。ちぃっと待ってろ」
千空の落ち着いた声に、コハクたちはどうにか冷静を保ち待機していると、展望車は淡い光に包まれ内観が徐々に見えてきた。
どうやら光と爆発の正体はヴァーチャル映像のようだ。
「千空! のび太が目を覚まさないんだよ!」
「どうしたんだね? 診てあげよう・・・・心配ない。軽い脳震盪だ」
気絶したのび太を見て騒ぐスイカであったが、偶然居合わせた他の乗客が手当てをしてくれた。
ヴァーチャル映像の正体は列車がワープ中に流される宇宙創世の歴史であった。
「なるほど、大銀河の誕生か」
「何それ? 聞いたことがあるような無いような」
「ビッグバンっつったほうが早ぇか?」
「あ~、ベジータの技ね~」
星々が生まれていく映像はロマンティックでミステリアス。
普段見る夜空の景色をリアルに100億倍もスケールアップした映像に、クロムやコハク、スイカは目をトロけさせて見入っていた。
「いや~、たしかに凄いけど・・・うん、そりゃすごいけど」
「う~ん、難しすぎてわかんない」
映像に感心するゲンであったが、正直に言えば理解に追いつかない領域の話に退屈を感じていた。
目を覚ましたのび太も同意見ではあったが、かといって2人して抜け出してよい雰囲気でもないため、どうにか我慢して千空たちに付き合うしかなかった。
フォフィフォーーーーーー
突然、列車中に汽笛が鳴り響いた。
「どっどうしたの!?」「何事だ?」
困惑するのび太。コハクはスイカを背に守りながら、周囲を警戒した。
すると血相を変えたドラえもんが車掌と共に走って現れた。
5人とのび太はドラえもんに指示され自分たちの客車に戻る。
緊急事態が発生していた。
無人の小惑星を根城に海賊船で暴れまわっている“ダークブラックシャドウ団”という強盗団が迫っているというのだ。
「それってジーマーで? 俺ら運悪すぎでしょ。まだココ来て1時間も経ってないよ~!」
嘆くゲンに、このツアーに誘った側のドラえもんとのび太が申し訳なさそうに項垂れる。
その後すぐに列車がワープを抜け、小惑星群の近くにワープアウトすると、列車は右に左に大きく傾き始めた。
急旋回の度に部屋ごと転がされる7人。
「千空、これってヤバくねぇのか!?」
「だろうな。強盗団に列車ごと捕まっちまえば、殺されて宇宙のチリに消えるか。あるいはどっかの星に奴隷として売られる運命か」
千空の推理にガクガクと震えはじめるスイカ。
そんな中、ドラえもんとのび太は立ち上がった。
「皆さん。ここはボクたちに任せてください」
「僕たちはこういうピンチを何度も乗り越えてきました。だから今回も、悪者たちを戦ってきます!」
子供とは思えない勇敢な言葉に感心する千空とゲン。
「任せていいんだな?」
「もちろんです。ねっ? ドラえもん」
「うん! まずはボクとのび太くんで外に出て様子を見てきます。皆さんはここで待っていてください」
そう言うとドラえもんは“通り抜けフープ”を天井に取り付け、2人で列車の外へと戦いに向かった。
「行ったか?」「行ったね~」
ドラえもん達の出陣を見送った千空とゲンは、2人が出払ったことを確認するとソファーにドカッと座り込んだ。
「おいおい千空もゲンも、何を悠長に座っているのだ!?」
「そうだぜ。あんな子供が戦いに行ってんだ。そりゃ科学力じゃ俺らは絶対勝てねぇが、それでも科学使いの端くれ。悪党どもと戦う準備をしねぇと!」
呑気にしている千空とゲンの姿に怒るクロムとコハクであったが、当の2人は耳に指を突っ込んで耳掃除を始めた。
「ククク、安心しな。こりゃドッキリだ」
余裕の笑みを浮かべる千空に、コハクもクロムも頭に「?」を浮かべる。
「どういうことなんだよ?」
「これはね~、皆にドキドキハラハラしてもらうためのショータイムなの」
そう言って手の中からトランプを出現させるゲン。それを見たコハクは「つまり、嘘?」と問いかける。
「まぁ100億%な」
「そうなのか? なんでお前ら、嘘だって分かんだよ?」
「どこの世界に“ダーク・ブラック・シャドウ”なんて黒い三連星のクソダセェ名前を名乗る強盗団がいんだよ?」
名前を口にしながら鼻で笑う千空に、コハクも苦笑いして「いや、ネーミングセンスは人それぞれではないか?」と言いつつも半分納得した。
「それにね~。ワープ中に強盗団襲撃の情報を得るって、どうやって?って話。危ない場所にワープアウトしなきゃいいだけの話でしょ?」
「まぁ、仮にワープ先を指定できねぇっつうなら、そもそも強盗団はどうやってこの列車の運行予定を調べたんだ?っつうとこだ。まぁそういう秘密情報を手に入れられる組織力があんなら、逆にこの列車側に襲撃情報が漏れてんのは不自然。セキュリティの攻守がチグハグなんだよ」
千空とゲンの言う“ワープ”というものを全然理解できないクロムたちであったが、これまでの経験から2人の余裕っぷりが本物だということは理解できた。
「でも、それならどうしてドラえもんとのび太にもそのことを教えてあげなかったんだよ?」
首を傾げるスイカであったが、クロムとコハクにはおおよそその理由に見当がついた。
そしてその見当の通りに、千空とゲンはニヤリと悪い顔をして口を開いた。
「“こんな怖い目に遭わせてくれちゃって、どう責任とるの?”って、ドラちゃんたちと、この列車を脅す・・・じゃなかった。お詫びをしてもらうためだよ。だから俺らはドッキリに気付いてないってことにしてるの」
「慰謝料目当てっつうことだ」
こうして、ミーティングルームに千空とゲンの(悪者みたいな)高笑いが響く中、列車は強盗団の手によって“無事に”撃ち落とされ、惑星へと“安全に”不時着するのであった。