22世紀のミステリーツアーという未知の領域に、まずは西部の星で肩慣らしした千空たち5人。
そんな58世紀人の彼らはドラえもんとのび太と別れ、5人だけで回る次なるアトラクション、それは。
「メルヘンの星へようこそ」
レンタ・ロケットが突入したのは、星全体が少女趣味の小惑星・メルヘンの星であった。
ピンク色の空にかかる大きな虹。
白く空を覆うペガサスの群れ。
裸の子供・キューピッド。
「なんかよく分からないんだけど凄いんだよ」
「ぉお。ヤベー感じは分かるが、なんかよく分からねーな」
「摩訶不思議な光景だな」
58世紀の地球には存在しないファンタジーさに、どうリアクションを取っていいか分からないスイカたち。
「うわ~、ゴイスーに乙女チックな世界。場違い感がドイヒーだ~」
21世紀の地球では女の子なら喜ぶようなファンタジーさに、ゲンもまた若干引いていた。
「それで千空ちゃん、どうしてこのメンバーでメルヘンチョイス? もっと他に面白そうな星あったでしょ? これ普通だったらしずかちゃんの担当のとこじゃない?」
ゲンのもっともな質問にニヤリと笑う千空。
「ククク。この星は童話の主人公を演じるアトラクションの星。つまり原作プレイだ。むしろ石神村のこいつらだからこその“童話”がある」
千空の言葉にますます首を傾げるゲン。石神村と童話に関係も何も、そもそも石神村に存在する昔話といえば、千空の父・石神百夜が残した百物語しか存在しない・・
「ま、まさか」
「ああ。日本一有名な童話で、百物語其之一」
最後の一言に、コハクたちは目の色を変え興奮を爆発させるだろう。
そんな空気の中、千空は静かに言い放った。
「“桃太郎”だ」
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、川上の方からドンブラコドンブラコと、大きな桃が3つ流れてきました。
「おや、これは良いおみやげになるわ」
おばあさんは大人が入りそうなほどの大きな3つ桃を拾いあげて、家に持ち帰りました。
その怪力たるや。桃の大きさを直径80cmと仮定した場合、市場に出回る桃が直径8㎝で重さ200gであるため、大きな桃の重量は約200kgと推定されます。
しかしそこは22世紀の科学。質量無視の機能が備わった桃は、おばあさんの筋力でも易々と運ぶことができました。
おじいさんとおばあさんが桃を食べようと桃を切ろうとすると・・・
「おぉ、桃が勝手に割れやがった。どういう仕組みなんだ!?」
「スイカ太郎なんだよ!」
「ほぉ、これは広くて綺麗な家ではないか」
なんと中から元気の良い少年と小さな女の子、少女が飛び出してきました。
「これはきっと、神さまがくださったにちがいない」
子どものいなかったおじいさんとおばあさんは、大喜びです。
桃から生まれた『受付で「俺が桃太郎とやりたい!」「いいや私だ!」「スイカもだよ!」と騒ぎ、係員から「でしたら3人の桃太郎で同時進行もできますが」と提案された』少年たちを、おじいさんとおばあさんは3人とも桃太郎と名付けました。
桃太郎は言いました。
「なぁ、この床ってどうなってんだ?」
畳を指さして尋ねる桃太郎に、おじいさんは『いやソコ?』と驚きながらも「畳というんじゃ。イグサという植物を編み込んで作るんじゃよ」とおしえてあげました。
別の桃太郎が言いました。
「そんなことよりもクロム。私は早くキビ団子で、熊とライオンと、ゴリラとワニをお供にしたいぞ」
おばあさんは『いや無理だよ!?』と驚きました。
「クロムもコハクちゃんも、早く鬼退治に行かなきゃいけないんだよ」
まともなことを言う最後の桃太郎は、おじいさんの鎧兜と刀を、おばあさんにきび団子を作ってもらうと、鬼ヶ島へ出かけました。
「あ~げましょお~」
「あげましょお~」
「これから鬼のぉセイバツにイ~」
「ついて~く~るな~ら~」
「あ~げま~しょお~」
一面拓けた田畑道。日本の原風景の中を容器に歌う桃太郎たち。
その途中で、桃太郎たちはイヌに出会いました。
「チョークみたいなイヌなんだよ!」
「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くところだ」
「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。お供しますよ」
「いや、こんな犬じゃ足手まといになるだけだろ?」
そう言ってイヌを放置して先を急ごうとする1人の桃太郎。
するとそこに、今度はツルピカザルが現れました。
「おお、千空! そうかお供の役も演じることができるのか!」
「そうだが・・・それよりお前ら、言っただろ? 原作の桃太郎じゃ猛獣なんざ仲間にしねぇ。犬・猿・雉の3匹だ」
そう言うとツルピカザルはイヌにキビ団子を与え、お供にしました。
「っつうか、こんなキビ団子1つの給与体系で、よくもまぁ命がけの鬼退治なんかについてくるもんだな」
すると桃太郎は、今度は雉っぽい派手な衣装を身に纏った、中身コウモリ男に出会いました。
「おひさ~。おぉ、ちゃんと桃太郎の恰好してるじゃない」
「スイカに刀を持たせるのは危ないと思うのだが」
「まぁ、どうせ名刀・電光丸だろ。宮本武蔵並みの戦闘力を自動ゲット。スイカでも司にすら勝てるぜ」
「いやいや千空。それはねぇだろ流石に」
「ククク。まぁ鬼戦になりゃ分かる話だ。むしろ俺とゲンみたく無防備な方が危ねぇ」
こうしてイヌ、ツルピカザル、コウモリ男の仲間を手に入れた桃太郎たち。
小船を漕ぎ、荒波を越え、鬼ヶ島へと向かいます。
「ここは水の民、石神村の俺たちの出番だな!」
「とはいえクロム。キミはあまり舟仕事が得意ではなかった記憶があるが?」
「そういうコハクは素潜りばっかだったろ?」
「スイカはどっちも苦手なんだよ」
「っつうか心配すんな。22世紀はモーターボート真っ青の小舟がアホほどあんだ」
「そりゃ普通、この波でこの船なんてリームーだものね~」
桃太郎たちは賑やかに鬼ヶ島へとたどり着きました。
鬼ヶ島では、鬼たちが近くの村から盗んだ宝物やご馳走を並べて、酒盛りの真っ最中です。
そこに襲い掛かる桃太郎たち。もちろん正々堂々という言葉は彼らにはありません。
敵が最も油断している時に奇襲をかける。そこに躊躇の無い者が勝つのです。
イヌは鬼のお尻に噛みつきます。
ツルピカザルは
「ちなみにだが、桃太郎の鬼の正体にゃ諸説ある。漂流したり侵略に来た外国人や東北の他民族。鬼に金棒っつうくらいだから、製鉄技術の栄えた国との戦争っつうのも1つの説だ」
とうんちくを語ります。
コウモリ男は
「それって科学王国と司帝国のストーンウォーみたいだね~。でもそれじゃ俺らが鬼側。うわぁバイヤーな解釈」
と、離れた安全圏から笑います。
そして桃太郎も蹴りをふり回して大あばれです。
「桃太郎さん桃太郎さん! お腰につけた刀で戦ってよソレ」
「すまん。しかしこの刀、刃も無ければ光沢も鈍い。鉄が弱いと折れてしまうのではないか?」
「心配すんな。カセキのじいさんが作る刀の100億倍は丈夫だ」
他の桃太郎も、そのおぼつかない足取りからは想像できない殺陣で次々と鬼たちを成敗していきました。
とうとう鬼の親分が、
「まいったぁ、まいったぁ。降参だ、助けてくれぇ」
と、手をついて謝りました。
桃太郎と桃太郎と桃太郎とイヌとツルピカザルとコウモリ男は、鬼から取り上げた宝物を荷車に積んで、元気よく家に帰りました。
おじいさんとおばあさんは、桃太郎たちの無事な姿を見て大喜びです。
そして7人は、宝物のおかげで幸せに暮ら・・・
「せるわきゃねぇよな」
「暮らせないのか?」
「盗品を盗品だと認識しながら自分のモノにしちゃうとね、盗品譲受の罪に問われちゃうのよ」
「ってことは、盗まれた人たちに返してあげなきゃいけねぇな!」
「スイカも頑張るんだよ!」
「ところがだ。奪われる過程で鬼に殺された奴もいりゃあ、その分配をどうするかで揉めることになる。奪われた量を過大報告するやつもいりゃあ尚更、計算が死ぬほど面倒くせぇ」
「なるほど。だが、皆のモノは皆のモノ。共通財産にしてしまえば解決ではないのか?」
「たしかに共産主義だとそういう面倒は無いよね~。石神村や今までの科学王国もその感じだったし。でもね~、龍水ちゃんがガッツリ資本主義経済を回し始めちゃったからね~」
「人間の欲望に忠実な社会の方が、科学技術も発展しやすいからな。科学使いの俺らにとっちゃ都合のいい仕組みだ」
そんな夢の無い話をしながら、桃太郎の話は終わるのでした。