ドリーマーズランド2日目の朝。
コハクの入浴シーンを覗かれ、千空はUFOを手に入れた。
そしてゲンが引率し、クロムとコハク、スイカを連れて忍者の星へと向かった。
支離滅裂だが、何一つ偽りはない。
「ということで忍者の星だよ~」
「忍者ってなぁに?」
「戦争の時の郵便屋さんってところかな~」
スイカの問いにゲンはニコニコッとした顔で答えた。
この手の顔をするときのゲンは何かを企んで口から出まかせを言っているも多いが、意外と本当のことを言っていることも多い。
せっかちなコハクはその力強い拳をグッと握って突き出して、真実を述べよとゲンを脅した。
「いや~ジーマーなんだけどなぁ。ほらぁ、司帝国との戦いのときに実感したでしょ? 情報戦が勝敗を大きく左右するって。千空ちゃんみたいな科学力が無い時代の、そこんところ担ってたのが“忍者”なの」
「ほぉ、つまり昔の携帯っつうことか!」
クロムの盛大な勘違いを、ゲンは面白いから否定しなかった。
「あとは心理戦のスペシャリストの一面もあるかな~。嘘を混ぜたりして敵を攪乱させたりして、戦いを優位に進める役割ね~」
「なるほど。つまり忍者の星で遊ぶだけで、私たちにもゲンや千空の悪っい戦術が身に付くというわけだな」
原始時代においては周囲との軋轢を生みそうな発想力ではあるが、こと現代においてはメンタリスト的発想力が貴重な武器となる。
21世紀の科学力を持って発展を続ける科学王国には、科学方面以外の成長、戦略的思考力というものがこれから求められていくだろう。
そう言う意味で、ゲンの選択・忍者の星はうってつけである・・・・
かに思われた。
4人が到着した忍者の星は、まるで水墨画がそのまま飛び出してきたような日本の原風景が広がる星であった。
メルヘンの星の“桃太郎エリア”のさらに山奥に行ったような山の中、ゲンの叫びがこだましていた。
「ジーマーでドイヒー!」
忍者の星では、参加者に忍者服が支給され、それぞれの能力に応じて修行が課せられる。
その修行のクリア状況に応じて資格が与えられ、より複雑な忍術を教えてもらえるようになるのだ。
そんな中、ゲンとスイカは入門の段階でつまづいていた。
それはもう盛大に。地味に。
「ゲン・・・スイカはもう腕が駄目なんだよ」
「スイカちゃん、ガンバだよ~」
崖に垂れ下がった綱を登る修行に取り組むゲンとスイカ。これを登り切らないと、忍術を教えてもらえないため、2人は必死に頑張っていた。
「ああ・・・もう駄目だよ」
スイカの腕が限界を迎え、地面へ向かって落下していった。彼女を助けようと手を離したゲンもまた落下する。
そんな2人を、何処からともなく現れた仙人が、杖から放った術で助けた。
「未熟者めが! まだまだ修行が足りんぞ!」
「あの~、これジーマーで俺ら以外にお客さんいる?」
説教にゲンが割って入ると、仙人はシュンとした表情になる。
「もっとこうお客さんのニーズを考えないとね~客離れに繋がっちゃうよ。忍術を使って楽しく活躍したい子が、こんな体育の授業みたいなことして。しかもジーマーのハードなアスレチックで。今までにクリアできた子っていた~?」
ゲンの指摘にスイカも(言葉半分も理解できてはいなかったが)ウンウンとうなずいて抗議の姿勢を示した。
「ムムム・・・たしかに昨日からお客さんの入りは悪いが・・・」
おそらくその指摘は間違っていなかったようで、仙人は分かりやすく項垂れた。
だがそれでも係員ロボットとしてのプライドはあるようで、どうにか反論を出そうと頭を捻っていた。
「じゃが、お主らの連れは順調にクリアしておるぞ?」
そう言って仙人は杖を振ると、空間に雲でできたゲートを作り出した。
どこでもドアのようなそのゲートの先には、巻物を手にしてガッツポーズするクロムの姿があった。
「すごい科学なんだよ」
「もはや妖術だけどね・・・こういうのを教えてほしいんだよね~俺ら」
ブツクサと言いながらゲンとスイカがワープゲートを覗き込むと、クロムもまた2人に気付いて声を上げた。
「おっ? ゲンにスイカじゃねぇか。俺、仮免許皆伝っつう試験をクリアしたぜ!」
得意気に巻物を見せびらかすクロム。
「クロム、凄いんだよ」
「ほれ、お主らが軟弱なだけじゃないのか?」
「いや~、クロムちゃんみたいな原始時代の標準体力と比べられても・・・」
科学王国の事情を知らない仙人は得意気になったまま続けざまに新たなワープゲートを作り出す。
そこには、今まさに高所から着地したくノ一・コハクの姿があった。
「コハク殿なんぞ、もう中忍試験を突破されておるぞ!」
「フガフガフガフフガ」
口に巻物を咥え、両手の指で印を結んだコハクの足元から水柱が噴き出し、たちまち1本の巨大な水流と化した。
心なしか水の龍のようにも見える凄まじい光景が広がる。
「水遁・水龍弾の術じゃ。とはいえ水の勢いはシャワー程度。こけおどしの術じゃ」
「いやこういうの! ジーマーでこういうので遊べなきゃ楽しくないでしょ!」
仙人の得意気な顔にゲンがツッコミを入れると、コハクが3人に気付き術を止めた。
「ハッ誰かと思えば。この星はめっぽう楽しいではないか! この難易度、私は気に入ったぞ」
コハクの興奮する様子に、仙人は「ほれ」とドヤ顔を見せる。
「いやいやコハクちゃん基準で難易度決めたら駄目でしょ」
「ソうじゃロうカガガガガガガッガg」
その時、異変は誰の目から見ても明らかに起きていた。
仙人のロボットが突然、ショートしたようにバグり始め、その場に倒れてしまったのだ。
「おじいちゃんが、どうしたんだよ!」
「急病か?」
「いやコハク、こいつは“ロボット”っつう科学の発明だっつってたろ?」
「普通に故障じゃない? え、ジーマーでこのドリーマーズランド、管理がバイヤーすぎ」
杜撰な遊園地の管理に呆れ果てるゲンは、3人を連れて忍者の星の本部へ向かうことにした。
だが、事態は彼らが思っていた以上に混沌としていた。
ロボットの異常は忍者の星全体で発生しており、本部も大混乱をしていた。
しかも本星にあるコントロールセンターとも応答が取れない状況。
「なっ何だ!?」
事態は見る見るうちに更に悪化した。ロボットたちが暴走を始めたのだ。
「コントロールセンター、応答してください! コントロールセンター!」
本部の人はパニックになり、ゲンたちに構っていられる余裕が無い。
「これでは遊べないではないか」
「だよな~。ロボットが動かねぇんじゃ何もできないって、そういうとこ科学って不便だな」
「いや~遊べる遊べないどころの騒ぎじゃなくなっちゃったみたい・・・とりま修理が終わるまでロッジのトコに戻ろっか?」
係員や本部のスタッフの緊迫感がいまいち理解できないコハクたち。
ゲンは嫌な予感を覚えつつ、3人を誘導してレンタ・ロケットの元へ戻る事にした。
こうして忍者の星を出ることにした4人。
途中、侍ロボットが「曲者だ!」と遠くから追いかけてくるのが見えたが、コハクたちは「なんだアトラクションがちゃんと動いているではないか」とつぶやき、ゲンは「これに捕まったらジーマーで面倒なことになりそ」と足を早めた。
「ところで千空ちゃんとの連絡ってとれた?」
運転席に座るゲンが振り返り、後部座席でガイドカードのテレビ電話機能を試しているクロムたちに声をかける。
「いんや。千空も応答なしだ。どうなってんだ?」
「電波が悪い? いや、22世紀にもなって圏外とかジーマーでありえる?」
不穏な予感を覚えるゲン。
本星に戻ると、その不安はゲンたちの心にジワリと迫った。
「えっとぉ、ドリーマーズランドってこんなに静かだっけぇ?」
4人が戻った時、本星は夕方であった。
夕陽に照らされた街並みは21世紀や58世紀と同じくどこか寂しげである。
元から惑星1つをツアー客だけで貸し切りなこともあり、道路を誰も歩いていないことはあったにはあった。
だがそれにしては、テーマパークにしては静けさが妙に耳に来るほどに静かであった。
「なんだかちょっと不気味なんだよ」
「そうか? 俺、洞窟とか探検によく行くけどよ、こんなんだぜ?」
「それは比較対象としてどうなのだ? しかし静かと言えば静かだが、行く時と大して変わりはないぞ」
不気味さという主観的な情報を抜きに、冷静な比較をするコハク。
するとガイドカードが鳴り、誰かからの通信を知らせた。
「ん? なんだ、千空ではないか」
コハクがカードの画面を覗くと、そこには千空の表情が映し出されていた。
[よぉお前ら、帰ってきてやがったか]
千空は何処か屋外なのだろうか。夕陽の反射のまぶしい背景の中に立つ千空はどこか不気味な笑みを浮かべているようであった。
「千空。どうやらアトラクションが故障しているようでな。ひとまず帰って来たのだ」
「こっちの星は何も壊れてねぇか? 大丈夫か?」
クロムも顔を出すと、千空はいつものようなニヤリとした顔を見せた。
[ああ、何も問題はねぇ。今、ロッジの近くにいるから早く来いよ]
いつもの千空の気怠そうな姿は妙に安心感を覚えさせてくれる。
ロッジへと急いだ4人は、何の疑問にも思わずに走っていた。
「おっ! いたいた。ただいまだ千空」
ロッジ前の道路のど真ん中に千空は立っていた。
駆け寄るゲン、コハク、クロム、スイカ。その姿にニヤリと笑みを浮かべている。
「よぉ、皆揃っているな。よし、やっちまえ!」
千空の言っている意味を、その場にいた誰もが理解できなかった。
理解できなかったからこそ、いつもであれば反応できる強襲にも対応が遅れてしまった。
いや、分かっていても回避はできなかっただろう。
突然、千空が手を上げ、それに応じて客車の屋根から天使が弓矢を持って姿を現した。
その一斉掃射がゲンたちに降りかかった。
「なっ!?」「せ、千空!?」「何を!?」
ゲンたちの足元は煙に包まれ、その臭いを吸い込んでしまったゲンたちの意識が急に遠のいてしまった。
何があったのか、誰にも認識できなかった。
意識が戻った時、そこは客車の個室の中であった。
「あっ、目が覚めた。ゲンさん、大丈夫ですか?」
「う、う~ん・・・ドラちゃん? それにのびちゃん・・・ここは? 俺ら・・・千空ちゃんに・・・あれ?」
ゲンの顔を心配そうに覗き込んでいたのはドラえもんとのび太。
その雰囲気に、何か嫌な気配を感じずにはいられないゲン。
「あの、ボクらも千空さんに呼ばれて、眠らされて、気が付いたらここに閉じ込められていたんです」
「・・・とじこめられ?」
意識が鮮明になるにつれ、その場違いなワードがゲンの危機感を急に目覚めさせた。
個室を出て客車のドアに向かう。
そこには、まるで門番のようにドアの前に立つ千空の後ろ姿が。
「せ、千空ちゃん? どしたのこれ。ドアが開かないみたいだけど・・・」
「うるさい。大人しくしていろ」
声を荒げる千空の姿に、ゲンは唖然とした。ゲンの知る限り、静かにしてほしい時に自分が静かにしないというのは千空らしくない矛盾だ。
何かの冗談かにも思われたが、千空のキャラではない。
ゲンが呆気に取られていると、ドラえもんとのび太に起こされたコハク、クロムも姿を見せる。
「ゲン、ドラえもんたちは何を言っているのだ? 千空は?」
「閉じ込められたって? 千空に? どういうことだ?」
状況を理解できない2人に、千空は苛立つように口を開いた。
「千空じゃない。俺様はヤドリ0009号だ。宇宙最高の存在だぞ! 喜べ。お前たちもいずれ、ヤドリ主様に乗り移ってもらえるんだ」
「は、はぁ!?」
言葉の意味がわからないコハクとクロムが首をかしげるが、ゲンだけはドラえもんやのび太と一緒に戦々恐々とした。
「おそらく、千空さんは寄生生物に操られているんです。体を乗っ取られて、意のままに操られて」
「それって・・・映画のエイリアンとかみたく? ジーマーで?」
ゾワゾワと背筋に悪寒を覚えるゲン。
千空の体に宇宙生物が寄生しているだけでも信じられないほどの絶望であるが、千空の話から察するに、ゲンたちもまたいずれその生物に寄生されてしまうというのだ。
その状況を打破しようとドラえもんは四次元ポケットに手を突っ込んだが、超空間を封鎖されてしまっていたため電流が逆流して倒れてしまった。
「おい・・それって本当なのかよ」
「千空が敵になってしまったのか」
「俺らの体もそのうち千空ちゃんみたく操られちゃう・・・これ、バイヤーすぎるよ」
ガクガクと震える3人と、状況に成す術無く落ち込むドラえもんとのび太。
この状況を好転させられる者は、この客車の中にはいなかった。
ただ1人。
寄生された千空が見落とした
植物の中に隠れていた1人を除いて・・・