寄生型エイリアンに操られた千空により、ロッジに監禁された科学王国のメンバーとドラえもんたち。
コハクとクロムは、千空が敵になってしまった絶望に頭を抱えていた。
「まぁ正確に言えば千空ちゃんの人格がおねんねしてる感じだね~。だから余計に悔しいとこもあるけどさ。こんなワケ分かんないエイリアンに騙されちゃったのは」
ただ1人、ゲンだけが苦々しい顔をしながらもどうにか口を開く。
「その通りだ。さすが理解が早いじゃないか浅霧ゲン」
ロッジの外から5人を監視している千空がニヤリと笑った。
その笑みはいつもの彼の悪者笑顔でもなければ、仲間を称賛する素直な笑顔ではない。
千空であれば絶対にしない、相手を見下した笑みであった。
「もしかして千空ちゃんの知識、そのままヤドリちゃんも共有しちゃってる系?」
「ああその通りだ。どうやらコイツの脳は原始的な科学知識で埋め尽くされているようだな。お粗末なものだが」
そう言って自分の頭を指でトントンと突く千空。
4次元ポケットの超空間を封鎖する科学力を持つヤドリにとって、21世紀最強クラスの知識すら児戯に等しいのだろう。
「マジか。千空の科学が原始的扱いかよ」
「お前は・・・クロムか。ほぉ、違う宇宙の住人とは驚きだ。喜べ、俺たちヤドリがこの銀河を征服し、そのうちお前の宇宙も、お前らの家族も仲良く乗っ取ってやる」
高笑いする千空に、クロムは歯ぎしりして悔しがった。
その時、ゲンは気付いた。
千空に寄生したヤドリは、千空と同じ知識を持っているとはいえ、そこにタイムラグがある。
おそらく完全な同化ではなく、一回一回必要な情報を検索しているのだろう。
事実、ヤドリはゲンたちを捕らえた時に、決定的な“ある者”を見逃している。
そこにゲンはわずかな突破口を見出した。
「ところでヤドリちゃん。ジーマーな話、寄生してもらうヤドリって選べちゃったりする?」
ゲンの人を舐めたような話し方に、千空は「あ?」と不機嫌な顔を見せた。
ヤドリは映画でよく見る狂暴なエイリアンとは違い、話が通じる相手だとゲンは把握していた。
彼の分析として、千空に寄生したヤドリはある程度のプライドのある性格であり、挑発すれば必ず反論に出てくると考えた。
「いや~、正直言っちゃうとどうせなら出世できる子に寄生して欲しいわけよ」
実はこの時、ロッジから見える林の中から、千空の様子をうかがうスイカの姿が確認できていた。
ただ1人、ヤドリから人間として認識されずに“ただの西瓜”として放置されていた彼女は、助けを求めに奔走し、初日に列車で知り合った記者のボームと再会し、彼と共にゲンたちを救いに来ていたのだ。
そのことに気付いたゲンは上手くヤドリ千空の注意を引きつけようとしていた。
「ガハハ。浅霧ゲン、お前は何かを企んでいるな?」
ヤドリ千空の邪悪な笑みにギクリとなるゲン。
「お前のことは分かっている。信頼できるペラペラ男。科学王国には無くてはならない大嘘つき、か。なるほどなるほど」
腕を組み、ゲンを睨みつけるヤドリ千空。
「つまりお前は、俺たちヤドリの情報を得ようとしているのだな? ふん、誰がその手に乗るか」
残念不正解。
ヤドリ千空の推測は外れていたが、ゲンにとっては好都合。
見当違いの方向であろうが、話を盛り上げることができればスイカたちのために隙を作ることができる。
「いや~駄目か~。それにしても今の、千空ちゃんの本音から拾ってきた感じかな? いや~、悪口半分だけど“信頼できる”とか“無くてはならない”とか言われると嬉しいね~」
「フフフ。そんなことを知ったところで何にもならないがな」
千空らしくない笑い方に嫌悪感を抱きながらも、ゲンは『本音を教えてくれる?』と小さなイタズラ心を胸に抱いた。
「ちなみにだけど、千空ちゃんが他の子の事どう思っているとか、本音を聞けちゃったりする? ほらさぁ、ヤドリちゃんだって見張りばっかじゃ暇でしょ~?」
ヘラヘラと笑うゲンに、ヤドリ千空はニヤリと応じる姿勢を見せた。
「ほぉ、面白い。試しにそこのクロムとかいう奴だが、『チョロさがアホすぎるが、科学のトップを任せられる発想力クソチート』らしいぞ」
ヤドリ千空が吐き捨てるように答えると、クロムは顔を真っ赤にして「は、はぁ!?」と叫んだ。
「わ、私の事はどう思っているのだ!?」
クロムへの本音が炸裂したことで、コハクが食い気味にドアに顔を寄せた。
「女、お前のことは・・・グハッ」
その時、隙をついて現れたボームがヤドリ千空の頭を殴りつけた。
「可哀想だけど、しばらく眠っていてもらうよ」
「ゲン! みんな、助けに来たんだよ!」
救世主2人の登場に、ドラえもんとのび太は歓喜した。
が、お預けをくらったコハクを筆頭に、ゲンとクロムは頭に手を当て「惜しい!」と仰け反っていた。
その後、ドラえもんたちはヤドリ千空を縛り上げて客室に監禁。車掌ロボと合流し、無事なメンバーで状況の整理を始めた。
本星は既にヤドリの支配下にあり、動ける人間は全てヤドリに寄生され、残された列車の客はほぼ全員が眠らされてロッジに閉じ込められている状態であった。
警備隊のいる星に救援を求めるべきであるが、通信手段が無い。
レンタロケットや列車で移動しようにも、ヤドリたちが監視をしている可能性が高い。
「1つだけ方法があります。でも、うまくいくかどうか・・・」
車掌ロボが自信なさげに提案したのは、ありったけの発煙筒を焚いて火事を装い、煙の中を列車で突き進んで宇宙空間まで脱出しようという作戦であった。
作戦は、半分は上手くいった。
ヤドリの監視の目を潜り抜け、さらには他の客を丸ごと救助しつつ、宇宙空間へと脱出することに成功。
だが・・・列車の燃料が抜き取られていたことに、ドラえもんたちは気付いていなかった。
結果、列車は本星から遠くはない『禁断の星』という炭鉱跡の星に墜落し、脱出不可能となってしまった。
地平線の向こうまで、何処までも続く荒廃した大地を前に絶望感が広がる。
「何もない、寂しい景色なんだよ」
昨日までの22世紀の文明的な景色から、草や木も無い世界へ急転直下。
鬱蒼と生い茂った原始の地球で生活していたスイカたちですら、この光景に無力感を覚えるしかなかった。
が、車掌ロボはロボットであるためか意外と気楽な様子。
「居住区の跡地があるので水や食料は残っていますよ」
「燃料もあると良かったんだけど・・・でも仕方ないね。まずは腹ごしらえして、後で作戦を考えよう」
大冒険や宇宙的危機に慣れすぎたドラえもんが呑気に提案した。
これだからロボットは・・・とゲンは思ったが、腹が減っては戦はできぬもの。
廃墟と化した街に向かうと、貯蔵されていた熱々のハンバーガーやスパゲッティ、デザートパフェに舌鼓を打つことができた。
「ヤベェエエエ!!!」
美味しいものを食べたゲンの絶叫(リアクション)に車掌ロボやボームが驚く。
「いや~、景色と食卓のアンバランスがジーマーでリアリティ無いけど、ピンチの時でもしっかりお腹は空くんだよね~」
美味しいと温かいは食欲を満たし、活力を生み出すもの。
空いたお皿が重なるたび、ドラえもんたちは徐々に元気を取り戻していった。
その後、ボームが廃墟の中から炭鉱の地図を発見。当時使われていた機関車の存在に気付いた。
燃料の切れた列車の代わりに機関車を使えば、この星から脱出できるのではないか?と。
だが車掌ロボは猛反対した。
元から複雑な迷路となっていた炭鉱は、廃坑になってから至る所で落盤が発生して危険すぎる、と。
残念がるボームは地図を捨て、車掌ロボと共に別の作戦を考えることに。
だがそのやりとりを、横でクロムが聞いていたことに2人は気付いていなかった。
『危険だから止める? いや、逆転の手段があるなら挑戦すりゃいいんじゃねえか? 千空がいない今、このピンチを打破できる科学使いは、俺だ』
洞窟探検経験者、冒険のプロ、炭鉱主、そして科学王国最後の科学使いのクロムは、ボームの捨てた地図を手にし、キリッとした目で炭鉱山を見上げるのだった。