幼馴染がVTuberを始めたら友人Aちゃんと呼ばれるようになった私の恋愛事情 作:yosshy3304
2次STARS、所属クリエイター募集。募集要項は働ける年齢である事と配信時にVTuberで行う事だけです。
その文字が目につく。
「2次STARS?」
「そう、2次STARS!」
ほら朝陽ちゃんが前に言ってたじゃん? 事務所の名前、VTuberに関連した名前入れたいって。
だからアニメとか絵の2次元を意味する2次と会社名のスターで2次STARS。
お兄さんが興奮気味に話す。
マイクラの実況動画がそこそこ上手く行き、なんと1動画あたり視聴回数が20万を超えたらしい。
それなりに金銭的余裕が出来たため、新しくクリエイターを募集しようとなったのだと。
「朝陽ちゃんにも後輩が出来るんだねぇ。」
「いや、お兄さん、私お手伝いだけだよね?」
「えっ? でも十分貢献してくれてるよ?」
確かにお兄さんの為になればと、未だに動画や、生配信は行っているが、それでもまだ私は中学生なのだ。
募集要項には働ける年齢と確かに明記されている。
私には当てはまらないのだ。
これから所属するクリエイターの人達は分かりやすく言うならプロになろうと言う人たち。
「仕事に対してきちんと責任を持てる人達に対して、誰かに責任を持ってもらわなければいけない私が先輩面出来るわけないでしょ。」
「ほんと、しっかりしてるなぁ、朝陽ちゃんはww」
お兄さんに笑われながら、それでもちょっとうらやましくもある。
楽しくなって来た所なのだ。
VTuberになりたい訳じゃない。
クリエイターになりたい訳じゃない。
ただただお兄さんの楽しそうにしている所を間近で見られる私だけの特等席だったのだ。
「まぁ、最初だし5~6人でも募集してくれたら十分でしょ。」
そう言って笑うお兄さん。
2011年の12月、面接と合否はクリスマスに行われる。
学生でも気軽に応募できるよう冬休みになるよう調整された日付。
「朝陽ちゃん。」
「はい?」
「ありがとう。」
「ちょっ、ちょっといきなり何なんですか!?」
いやね、会社を立ち上げたのはいいんだけど、どれだけ稼げるようになったとしても自分のやりたい事が出来なかったんだ。
いらいらして、むしゃくしゃして、で会社を出た所で朝陽ちゃんにぶつかって、で逆ナンされて。
「それは……忘れてください。」
「あっはっはっ、忘れないよ、大事な大事な思い出だしね。」
受験シーズンなのに足りないクリエイターの代わりをしてくれて。
そして最初の、仲間を呼び込む所まで来た。
だからこその感謝の言葉。
「それはまだ取っといてください。募集掛けても集まらなかったらどうするんです!」
「その時は4月から朝陽ちゃんを正式に雇うかな?」
「もう! そんなこと言うんでしたら私もお手伝い止めますよ!」
ごめんごめんなんて、いつものじゃれ合い。
それがただただ楽しかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「やりぃ!」
「くぅ、あそこで花魁化しなければ勝ってたのに!!」
画面内では
花魁人生というタイトルの年齢制限のあるフリーゲームをプレイし終わったところだ。
年齢制限と言っても15禁で多少、表現がエッチィのはあるが直接的な表現がないやつである。
12月に入ったある日、春乃 朝日の動画がややマンネリ化してきた所にお兄さんからコラボのお誘いがあった。
このゲームだが、ただの人生ゲームである。
プレイヤーは男と女のどちらかを選び、ゴールまでの人生を歩み、最後により大成した方が勝ちというゲームだ。
男性プレイヤーには切腹があり、女性プレイヤーには花魁落ちというマイナス面がある。
切腹はスタートからやり直し、花魁落ちは手持ちの価値がある資材全部を手放すという。
自身の配信時アバターをこのゲームに出てくるキャラと同じ格好をさせてプレイすると言うのが今回のコラボ内容だった。
「はっは、余にはまだまだ届かなかったようだな、女狐!」
「どよ~ん……」
「えっ、いやあのな、女狐も頑張った方だ、うむ!」
一瞬だけ素のお兄さんの声がするも、コメント欄でおや? 殿下、何を慌てておいでです? という文字を目にして慌てて取り繕う。
朝日ちゃんの花魁姿もかわいかったよーというコメントを目にして、頬が自然と緩む。
コメントを流し見しながら気になったコメントを拾い、そして今日遊んだゲームの宣伝も忘れない。
「はい、今日の配信はここまで。また見に来てねー!」
「うむ、またな、皆の衆!」
挨拶をすれば、少し待ってからマイクオフ、カメラオフ、配信画面を閉じた。
「ふぅ……」
「ちょっと疲れたかな?」
「いえ、大丈夫です。」
配信画面が切れた途端にいつものお兄さんに戻る。
そんなお兄さんが少し話があると、声を掛けて来た。
「えっと、ここじゃダメなんですか?」
「ああ、まぁ、ね?」
別に大丈夫そうだが、大人しくお兄さんの後ろを付いていき、まだ物がない一応社長室となっている部屋に入る。
「朝陽ちゃんに頼みがあってね。」
「えっと、何ですか?」
お兄さんは真剣な顔をいている。
「アサヒちゃんを買い取りたいんだ。」
「はえ?」
顔がキューと赤くなるのを自覚する。
熱を持ちボーっとしてくる。
「あっ!? ちがっ! いや、違わないけど、違うからねっ!?」
「あっ、はい!!」
失言に気付いたお兄さんがワタワタと慌てながら訂正してくる。
さっきまでしていたゲームの所為もあって二人して気まずくなる。
花魁を買うではなく、買い取るという事はそれすなわち内縁の妻にするという事。
実際ゲームでは私はお兄さんに買い取られた訳だしとまだ顔が赤い。
「春乃朝日ちゃんの立ち絵を会社で使いたいんだ。」
「えっと、元からですよね?」
「あーと、そうじゃなくてね。」
2次STARSの1期生の活動開始にあたって、一つ問題が出て来た。
それなりにお兄さんも活動時期が長い事もあって、何がやってもよくて何がやっちゃいけないかはそれなりにわかる。
だがそれでも会社としてもVTuberとしても経験が無さ過ぎる。
その為にすでにそれなりに周知された朝日を試金石にしたいという事であった。
お兄さんのアバターでは知っている人が多過ぎて、わざとらしい炎上商法だと思われかねない。
だからこその朝日、登録者、視聴回数も増えて調子に乗っている女の子という体でいけば、確かに使えそうだ。
「だけど問題は君にまで火の粉が降りかかる。」
「だからこそ朝日はここで死ぬですか。」
「うん、アバターだけのゾンビ。人を使わず合成音声だったとしておけば燃えても言い訳するのは会社側だけだからね。」
中の人を守る為の措置でもある。
ただ、なんとなく嫌だ。
「何をすれば炎上するか調べた後はどうなります?」
「普通に破棄だろうね。」
「嫌かい?」
「えっ?」
顔に出ていたらしい。
確かに私はVTuberになりたい訳じゃない。
お兄さんの役に立つという事なら朝日を返せばいいだけだ。
朝日はただのデータ、ただの絵だ。
だけどそこに命を吹き込んでいたのは間違いなく私で。
「……嫌です。」
「だろうね。」
「えっ?」
「気付いてなかった? 朝陽ちゃん配信開始する時は嫌そうな顔するけど、画面に映った朝日のことを子供を見る様な目で見てたよ?」
別の意味で顔が赤くなる。
そうな顔してたんだと言う意味と、それをお兄さんに見られていたという事。
「炎上キャラを別に作るか、それか朝日のなりきりでやるしかないかぁ……」
「えっ?」
私の答えはどうやら予想されていたらしい。
考え込むお兄さん見つめる。
「うん、ごめんね。そろそろ帰ろうか。」
「あ、はい。」
納得いかない、正確には納得できていないが、少なくとも朝日は消されなくてよくなったようだ。
お兄さんに手を取られ会社を後にする。
2次STARS始動まで後少し。