樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話 作:exemoon
出会い
―――だれにも頼ってはいけない。
この体になってから常にこの強迫観念染みた考えが頭にこびりついていた。
その考えを自覚したのがいつだかは分からない。
ただ、理由は分かる。
自分、赤嶺
前世の自分は失敗も多かったが懸命に働き、比較的若くに死んだ。
それ故に、なのだろう。
身体は子供でも、自分は大人なのだという意識が心に巣食い、歪んだプライドが醸成されていった。
無論、自分は幼く一人では生きていけないことは自覚していたし、この体の親は優しく、感謝の気持ちもあった。しかし、どうしても心の底から家族だと思うことはできなかった。
この人たちは前世の自分より年下なんだ、という捻くれた見方を無意識にしてしまい、彼らに甘えることをプライドは、自分は拒否した。
本当に、こんな狂った強迫観念があるのに頼人なんて名前は皮肉が効きすぎているとしか言いようがない。
こうして、子という役割を果たし親を困らせない「いい子」という歪な存在が生まれた。
思えば、この時から俺には生の実感というものが致命的に存在していなかったように思える。
何をするにも、前世の自分が思い描く完璧な振る舞いでしか行動できない。
おかげで、この世界の節々に感じる違和感もそれほど気にせずにいられる。
自分が新たに生まれ落ちた家はどうやらそれなり以上の名家であったらしく、子供には少々過度な教育を施していた。
自分が小学校に入った時点ですでに基礎的な武術、高等教育レベルの教養を叩きこまれていた。
だがこれは、俺には前世から引き継いだ記憶と知識があったことが原因であろう。前世の世界とは文化の細部が違っていたとはいえ、これ等の蓄えは大いに役立ち、家庭内教育において常に期待以上の結果を自分は出し続けていた。
それに応えるよう親は教育のレベルを上げ、当初の想定以上の教育を自分は施されたのである。
ほどなく、自分は赤嶺の麒麟児と呼ばれるようになった。
小学校に入ったばかりの子供が高等教育水準の教養と知性をモノにし武術などの才能も持ち合わせていたのだ、ある種当然の反応だ。また、こう呼ばれたもう一つの要因は大人に対し、可能な限り理知的かつ礼儀正しく振舞っていたからであろう。早い話が前世で学んだ処世術だ。この国は礼節を重んじるものを好むものが非常に多い。特にそれが幼子であれば余計にだ。余所の大人たちは自分の振る舞いに甚く感服したらしく、こうした贔屓目もこの呼び名の原因であったのだろう。
小学校に入ってからも、前世の処世術は役に立った。クラス内で快適に過ごすのは簡単な話だ。適度にクラスメイトと外で遊び、勉強を教え、分かりやすい形でみんなに優しくする。
例えば、クラスで孤立している子には積極的に話しかけて、友人関係を結ぶ。孤立している子ほど優してくれた相手に懐きいろいろと便宜を図ってくれる。故に、これは周囲に優しさをアピールするだけではなく、自分の味方を増やす非常に有用な策となった。
そして、神樹館小学校は名門で風紀や生徒のモラルが良好だったため、表立って自分を嫉むような存在もいない。実に理想的な環境であった。
だが、相変わらず生の実感は得られていない。
理想的な環境にも拘らず、毎日に現実感がなくまるで夢を見ているように生活する日々。
あるいは、実感がないからこんな理想的な、人形染みた生活を送れているのだろうか。
どちらにせよ、前世の記憶が思い描く理想的な日々を人形のように過ごすだけで、自分の一生は終わりを告げるのだろう。
小学校に入り二度目の秋を迎えたある日、自分は風邪をひいた。厄介なことに小学校に登校してから症状を自覚してしまい学校を休むことはできず、また早退はしなかった。早退となると親に連絡がいき、車で迎えに来てもらうことになる。それは、自分にとって親を頼るようで、また体調管理のできない人間とも思われるようで酷く耐えがたいものだったからだ。なので、結局自分は保健室で適当な理由をつけて風邪薬だけもらい、そのまま授業を受けた。それは、大人としてみても不完全な対応で、とても完璧な振る舞いとは言えなかった。
そして、放課後。
この熱は思ったより重傷だったらしく、案の定というべきか、当然というべきか、俺は下校途中で動けなくなってしまった。馬鹿な話だが、それでもなお誰かに助けられることを嫌がった自分はできるだけ目立たない場所で小さく蹲っていた。その姿はまるで路傍の石。
―――そんな石ころを、彼女は見つけた。
「おい、大丈夫か!?」
大きくも、幼さを色濃く残す女児の声。
どうやら、自分を心配しているらしい。ここまで来たのに、まさかこんな女児の手を借りるわけにはいかない。
最早、ただの子供の我儘だ。
大丈夫だから、と彼女を拒絶する。しかし―――
「そんな格好してて大丈夫だなんて、そんなはずないだろ!?って、すごい熱じゃないか!とりあえず、アタシの家行くぞ!すぐそばだから!」
彼女に肩を貸されて、ふらふらと歩く。制服を見ると、どうやら彼女も神樹館小学校の生徒らしい。しばらく彼女に連れられていると、少し大きな日本家屋に入った。その時にはもう意識も朦朧としていて、目を開けるのも一苦労だった。やがて、身体が柔らかな感触で包まれ、意識が遠くなっていく。ああ、布団に入れられたんだと気づくと同時に彼女の名前を聞きそびれたことが妙に気になった。
気が付けば自室。あのあと、家の人間に迎えに来てもらったようだ。久方ぶりに両親に怒られた。いや、ここまで怒られたのは初めてかもしれない。もう少し親を頼りなさいだとか苦しいことは苦しいと言いなさいだとか色々な事を言われて、抱きしめられた。
両親の、俺への愛情は本物なのだと感じ、少し胸が痛んだ。
だが、そんな事は俺にとっては些細なことだ。
自分を助けたあの少女の事が気になって仕方がない。
両親に尋ねると俺を助けてくれた彼女は三ノ輪さん、というらしい。
彼女が学校経由で迎えを呼んでくれ、その上看病までしてくれていたそうだ。
両親の口ぶりからするに自分と同学年の生徒のようだ。
学校に行ったら、探してみよう。少女に借りを作ったままというのはいただけない。
二日後、熱が下がった俺は学校に行き、担任の教師に三ノ輪さんのことを尋ねた。
数日前、下校中の俺を助けてくれたのでそのお礼が言いたい、と事情を説明すれば先生は快く教えてくれた。
どうやら、隣のクラスの子らしく朝はいつもギリギリの時間に登校するらしい。遅刻することも少なくないそうだ。
ならばと、休み時間に彼女を訪ねると今日は風邪で休むとあの後連絡があったらしく、教室にはいなかった。
ほぼ間違えなく、彼女は俺に風邪をうつされたのであろう。
彼女への負債が膨らんでいくのを感じ、何とか返済方法を考える。
そこで隣のクラスの担任教師に、その日のプリントや連絡事項を家に伝えに行く役目を自分に任せてほしいと頼む。先程と同じことを説明すると教師は簡単に了承してくれた。
教師の覚えめでたい振る舞いをしていて助かった。日頃の行いの大事さを実感する。
そうして、放課後。俺は三ノ輪の家の前に立っていた。
呼び鈴を押してしばらくすると、三ノ輪さん本人が扉を開けて出てきた。
少し、驚く。これはつまり病人が、しかも小学生の子供が家に一人きりであることを示している。
負債がまた少し大きくなった気がした。
「あれ、この前の…?」
どうやら、俺を覚えていたらしい。
この前の礼を言うついでに学校のプリントを届けに来たと伝える。
「そっか、もうよくなったんだな。よかった、よかった。あ、プリントありがとな」
不思議だ。
同じクラスでもなく、ほとんど初対面同然の相手が突然押しかけてきたのだ。もう少し戸惑ってもいいはずだ。
それに風邪を引いた原因は俺なのだ。なぜそんなに無邪気に喜べるのだろう。
まぁ、考えても仕方ない。
これ以上病人に立ち話をさせるわけにもいかないので、続きは家の中でにしよう。
看病させてほしいから家に上げてくれと頼む。
「えっ、いや、そんな気にすんなって。アタシはへーきだからさ」
そう彼女は言うがそんな赤い顔で平気だと言われても説得力は皆無だ。しかも、現状彼女は家に一人。そんな状態の彼女を放っておくのは危険だ。
何より、借りを返さないまま帰るのは俺の気が済まない。
なので、風邪の原因が自分にあることと先日助けてくれたお礼をしたいからと告げ、半ば押し入るような形で家に上がる。ここまでしたら彼女も看病を受け入れる気になったようだ。単純に断るだけの気力がなかっただけかもしれないが。
三ノ輪さんには布団に戻ってもらい、自分は台所へ向かう。昼食を用意するためだ。彼女は先ほどまで眠っていたらしく、まだ食べていないらしい。案の定、冷蔵庫にはお粥が入っていた。彼女の親が用意していたに違いない。ついでに、見舞いの品として持ってきた洋菓子を冷蔵庫に入れておく。お粥を電子レンジで温め、買ってきておいたスポーツドリンクと共に三ノ輪さんに食べてもらう。
その間に、濡れタオルと水をためた桶を用意しておく。
彼女がおかゆを食べ終わったので食器を片付け、風邪薬を飲ませる。
その後、汗を拭くから上の服を脱ぐように指示する。
「いやいやいや流石にそれは」
小学生とはいえ流石に女の子。少々恥ずかしいらしい。
自分が拭くのは背中だけだし、そのままでいるのは気分が悪いだろうと告げると
「……いいって言うまでこっちみんなよ」
と彼女は顔を赤らめながら言い、此方を可愛らしく睨んだ。おとなしく顔をそむける。
いい、と言われたので背中を拭き始める。
不意に…
「なぁ、なんでここまでしてくれるんだ?」
と尋ねられた。
…なぜだろう?
正直なところ、自分でもなぜここまで彼女の看病をしているのかよく分からない。
恩返しにしろ何にしろ、ここまでする必要はないだろう。
見舞いの品とプリントを渡すだけでも良かったのだし、看病するにしても昼食の準備をするだけで十分だったはず。なのに自然と、必要以上に看病していた。
心当たりはないではないが、いくら何でも子供相手にそれはあり得ないだろう。
やはり分からない。
分からないが、理由は作っておかないと彼女に不気味に思われるだろう。
なので、先日看病してくれたと聞き自分も同じことをしただけだし、病人が家に一人きりというのは放っておけなかったからとその場で考えた理由を伝えると
「そっか…優しいんだな、赤嶺くん」
なんて言って納得していた。
行き倒れの俺を助けてくれた三ノ輪さんにはかなわない、と伝えると
「そうかな?じゃ、おあいこだな」
なんて言って笑った。
そういえばなぜ彼女は俺の名を知っていたのだろう。
ふと気になって尋ねる。
「ああ、うちらの学年じゃ赤嶺くんは有名だからなー。新入生代表のあいさつもしてたし、それでだよ」
なるほど、そういえばそんなこともあった。四月生まれという理由で代表のあいさつを任されたことが思い出される。だが、それで顔を覚えられていたのなら納得だ。あとはそれなりに周りの子の人気を得ていたから名前を知っている子が多かったのだろう。
気が付けば背中は拭き終わっていたのでタオルを洗い、彼女に手渡す。
三ノ輪さんが自分で体を拭いている間、台所にいるから何かあったら呼んでくれと言い部屋を出る。
今の間に先ほどの食器を洗い、ついでに簡単に掃除をしておく。あまり余所の家事をするのは気が引けるが、どうにも落ち着けず、何もせず待つことができなかった。
掃除が一段落したので三ノ輪さんがいる部屋に向かう。
部屋に入る前に一応、彼女にもう入っていいかと襖越しに尋ねる。
しかし、返事がない。もしかしてと思い部屋に入ると、彼女は静かに寝息を立てていた。
薬が効いたのだろう。
これ以上、自分にできることもあまりない。日も暮れてきたので、じきに親御さんも帰ってくるだろう。
タオルを片づけたらお暇させていただこう。
片づけを済ませて、玄関に向かうと小さな男の子を連れた女性と鉢合わせた。
三ノ輪さんの母君らしい。とすると、男の子は彼女の弟か。
彼女に銀のお友達かと尋ねられる。
挨拶をして、ここにいる訳の説明と先日のお礼、そして勝手に家の物に触ったことの謝罪をした。
母君は得心いったとばかりに微笑み、家の物に触ったことも快く許してくれた。
あと、小さいのにしっかりしてるね、なんて言われた。まあ当然ではあるが。
見舞い品の洋菓子を冷蔵庫に入れているので召し上がってくださいと告げ、挨拶をして家を出る。
帰り際にいつでも遊びに来てほしいと言ってもらえた。
なぜだか、その言葉が妙に嬉しかった。
次の日、なんとなくいつもより遅めに登校する。
普段なら学校に到着してるような時間に家を出ると、両親やお手伝いさんから不思議がられた。
まあこれまでこんな時間に家を出るなんてことがなかったので、そう思われるのも当然か。
歩いていると、自然と足が三ノ輪家に向いてしまう。
なんてことはない、存外、家が近かったから少し登校ルートを変えただけのことだ。
なんて、自分に言い聞かせ、三ノ輪の家の前に差し掛かるとちょうど三ノ輪さんが家を出てきた。
心臓が弾んだような気がした。
あの様子だともう元気なようだ。後ろから声をかける。
「あれっ?赤嶺くん、なんでここにいるんだ?」
驚いた顔をして三ノ輪さんが尋ねる。
歩きながら、自分の家もここから近いので通学路が重なるのだと説明し、体の具合を尋ねる。
「なんだ、そうだったのか。アタシはもう大丈夫だ!おかげさまで完全復活!あ、昨日はごめんな。折角、看病してくれてたのに、勝手に寝ちまって。」
途中で寝てしまったのはお互い様だから気にしないでほしい、と言うと彼女はそれもそっか、と言って笑った。
その笑顔に少しどぎまぎしてしまう。
おかしい。生まれ変わってから、こんなことはなかったはずなのに。
平静を装いつつ、彼女に昨日の洋菓子の感想を聞いたり、他愛のない話をしながら登校していると、道端で泣いている女の子と遭遇した。
三ノ輪さんが気付いて駆け寄っていく。
どうやら、女の子は転んで怪我をしたらしい。服装を見るに近くの別の小学校に通う子供のようだ。
このまま、女の子が自然と泣き止むまで待っていては遅刻してしまうので、手早く泣き止んでもらうことにしよう。
自分も駆け寄り、女の子の手当てをする。手持ちのハンカチや水筒に入れた水、絆創膏を使えば処置は簡単だ。おまけで、飴玉を一つあげれば女の子はそちらに気を取られて簡単に泣き止んでくれる。
ほとんど時間はかからず、女の子はお礼を言って再び学校へ向かっていった。
時計を見ると、歩いて行ってもまだ学校には間に合うことが分かる。
三ノ輪さんに行こうと声をかけ、再び歩き出すと、
「赤嶺くんって、すげえな!あんなに、パパッと怪我を治せるなんて!」
唐突に言葉をかけられる。
少々こそばゆい気持ちになる。
前世の知識内のことであるし、家で教えられていたことでもあるので大したことではない。
それより三ノ輪さんの方が動きが手慣れているような感じがした。
そのことについて尋ねると、
「ああ、なんでか妙に困ってる人とかトラブルに遭遇すんだよなアタシ。慣れてるように見えたのはそのせいかな」
なるほど。ということは遅刻することが多いというのも、それが理由か。
何故、先生にそのことを伝えないのだろう。
遅刻よりも困った人を放っておくほうが叱られる事由のはずだ。
そう聞くと彼女は
「それは、なんかさっきの子とか困ってる人のせいにしてるみたいで……結局どんな理由でも遅れたのは自分の責任だしさ」
何でもない事のようにそう言った。
いやはや、まったく呆れてしまう。
三ノ輪さんは気付いていないが、そんな考えを子どもは、いや大人であってもそうそう持てない。
なんだかだんだんと腹が立ってきた。
彼女はいい事をしているのに損をしている。そのことに無性に腹が立つ。
気が付けば、
「明日から一緒に登校しない?」
なんて彼女に言っていた。
自分の発言に驚く。おかしい、考える前に言葉が出ていた。
俺はそんなに感情的な人間ではなかったはずだ。
だが、不思議と自分の言葉に違和感はない。
それどころか、今までで一番血の通っていた言葉のように思える。
「いいけど……毎日アタシに付き合ってたら、遅刻が増えちまうかもしれないぞ?」
なんて、考え事をしていると彼女が返事をしてくれていた。
さて、どう答えようかと頭は考えるが、心は勝手に浮き立って口走る言葉を止められない。
「構わないよ。それに、二人なら何かトラブルにあってもすぐ解決できるし、なにより俺が三ノ輪さんと一緒に登校したいってだけだから」
ああ、まったく恥ずかしい。
くさい台詞は、今までも口にしたことはあるが、ここまで恥ずかしいと思うのは初めてだ。
およそ、感情に任せて発していい台詞じゃない。
まったく、どうかしている。
他ならぬ自分自身の言葉のせいで頭が痛くなる。
そんな俺の内心を知ってか知らずか―――
「はは…そっか、それじゃ、明日からよろしくな!」
彼女は少し照れて、けれども満面の笑みでそう答えてくれた。
その笑顔から目が離せなくなる。
なぜだか、心臓は早鐘を打って、顔が赤くなっていくのが分かる。
こういうことをなんていうんだったっけ?
確か、これは……
―――ああ、納得した。
彼女の笑顔が全てを明らかにしてしまった。
どうやら俺は彼女のことを好きになってしまったらしい。
何たる様だ。散々自分は大人だと信じ込んでいたのに、こんな小さな女の子に絆されてしまうなんて。
何が大人なんだろう?
自分は、俺はこんなに単純な男だっただろうか?
正直、自分で自分の感情が信じられない。
それでも、認めざるを得ないだろう。
―――俺は三ノ輪銀に恋をしている。
それから、彼女と過ごす時間は増えていった。
「おはよ、銀」
「ああ、今日も悪いな頼人」
三ノ輪家の朝の忙しさを知ってからは、一緒に登校するだけでなく自分も朝の家事を手伝うようになり、自然と名前同士で呼び合うようになった。
「お、同じクラスじゃん。やったね」
「これで、朝も少しは楽できるなあ」
次の年にはクラスも一緒になり、ますます彼女といることが増えた。
「頼人ー算数の宿題手伝ってくれー」
「はいはい、ほら見せて」
また、この頃からは毎日のように三ノ輪家に寄り、銀に勉強を教えてあげたり、代わりに学校の準備をしておいたり、何かと世話を焼くようになる。
「頼人―。明日家族で出かけるけど一緒に来る?」
「そうだな。ご一緒させてもらおうかしら」
必然的に彼女の家族とも仲良くなり、三ノ輪家全員で出かけるとき自分もご相伴に預かったり、家に泊めてもらうなんてことも増えた。
「頼人にーちゃん、ご飯はー?」
「もうすぐできるよ。あ、銀。そこのカレールー取って」
「ん、はい。それじゃあ、アタシはサラダ盛り付けとくよ」
そして俺たちが五年生になるころ、銀のお母さんが妊娠したため、俺はより一層、家事など三ノ輪家の手伝いをすることが増えた。皆は俺に家族のように接してくれた。
ああ、本当に幸せを感じていた。
本当に、三ノ輪家の皆が大好きだった。
三ノ輪のご両親は、俺にまるで自分たちの子供のように優しくしてくれた。
鉄男は良い子で、しょっちゅう自分にじゃれてきた。まるで、弟ができたみたいで嬉しかった。
生まれたばかりの金太郎は本当にかわいくて仕方がなくて、世話をしてるだけで楽しかった。
本当に、銀の傍にいるだけで、トラブルにも何気ない時間にもかけがえのない価値を見出せた。
俺が彼女を好いているように、銀も俺のことを好いてくれているのが実感できた。
それがうれしくて仕方なくて、二人きりの時にはむしろ俺が銀に甘えていた。
膝枕をしてもらったり、お菓子を食べさせてもらったりとささやかなことであったが、俺が他人に甘える日が来るなんて想像すらしていなかった。
銀と一緒にいれば、不確かな生の実感なんて必要なかった。
ただ、彼女を感じているだけで満たされていた。
だから、銀とずっと一緒にいようと決めた。
そう、その時は彼女と共に一生を送っていくのだと信じて疑わなかった。
本当に…なんて甘い考えだろう。
自分は知っていたはずなのに……
人の命がどれだけ儚い存在なのかを……