樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

10 / 46
地味に難産でした…。


不屈

須美と園子が傷だらけの体に鞭を打ちよろよろと大橋を歩いていく。

二人の傷は動けるまでには回復していた。

 

「銀…頼人君…!」

 

「いこう!」

 

二人は嫌な予感を抑えきれずにいた。

敵が三体いるには静かすぎるのだ。

そして、彼女たちが倒れていたそばには、なぜか頼人の荷物が置いてあった。

にもかかわらず、彼の姿はない。

さらに、大橋の上にはおびただしい量の血痕が残されていた。

彼女たちの脳裏に最悪の想像がよぎる。

 

やがて、彼女たちの耳に微かだが声が届いた。

 

「この声…!」

 

「うん!ミノさんだよ!」

 

二人の顔が歓びに染まり、安堵の気持ちが広がっていく。

銀の声がするのなら二人とも無事のはずだ。

やがて、人影も見えてきた。

銀は座り込んで休んでいるようだ。

 

「ミノさんが……追っ払ってくれたんだね、凄い、本当に凄いよ~」

 

「すごいわ銀……!本当に…!もうすぐ樹海化が解けるわ。戻ったら病院に行かない……と――――」

 

言葉を投げかけていく二人。

だが、そこで気付く。

銀は休んでいるのではなく、誰かを抱きかかえているのだ。

 

「………須美、園子…!助けてくれ…!頼人が、頼人が死んじゃう!!」

 

銀が悲鳴のように叫ぶ。

銀のこんな不安と恐怖の入り混じった泣き顔を二人は見たことがなかった。

見れば、頼人の四肢はひしゃげ、体中から血を流している。

かろうじて息はある。

だが、これほどの傷だ。

長く持たないのは誰の目から見ても明らかだった。

それでも、彼女は諦めなかった。

園子が素早く行動する。

 

「わっしー!吸引器とAED、呼吸器も準備して!ミノさんはライ君を寝かせた後、上の服を破いて!」

 

的確に指示を出し、園子自身は持って来ておいた頼人の荷物から止血帯を取り出し、四肢の根本を縛っていく。

銀が頼人の服を破こうとするも、精霊を宿した頼人の装束はそう簡単に破けない。

 

「銀、これを使って!」

 

須美が矢を顕現させ、銀に手渡す。

銀は受け取った矢の鏃部分を使い、無理矢理、頼人の服を破る。

やがて、樹海化が解除された。

夕焼けが彼女たちを照らす。

平時なら見とれてしまうような景色。だが、今はそのような時ではなかった。

 

樹海化が解除された瞬間、園子は端末で大赦の医療班を呼び出す。

頼人の傍に転がっていたものを回収していたのだ。

この医療班は、勇者の治療を専門にしているため、通常の救急車よりも到着時間がずっと早く、また搬送中の処置が可能なドクターカーを配備している。

園子は通話を切らず、頼人の状態を可能な限り伝えていく。

インカムが生きていたため、その間も治療の手を休めない。

過去に教授された知識を最大限生かした、考えうる限り最善の対応。

 

だが、あまりにも頼人の体は手遅れだった。

呼吸も心臓も停止していく。

 

「ミノさん!心臓マッサージ!」

 

言われるや否や、銀が胸骨圧迫を始める。

須美が口腔内に溜まる血を取り除き、園子は人口呼吸器を用いて頼人の肺に酸素を送る。

やがて、AEDの準備ができる。

 

「二人とも、離れて!」

 

銀が体から手を離すと同時に、AEDの解析が開始される。

解析の結果、ショックが必要との判断が下され、須美が電気ショックを流す。

しかし、心音は回復しない。

再び、胸骨圧迫と人工呼吸を行う。

 

「嫌だからな!こんな別れ方絶対嫌だからな!」

 

三人とも涙をあふれさせがらも、最善の行動をとり続ける。

しかし、一向に頼人の心音も呼吸も回復しない。

三人の心に絶望が広がる。

 

「死ぬな、よりとぉおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大嶽丸

 

田村の草子において、鈴鹿御前に三明の剣のうち大通連と小通連の二振りをだまし取られ、弱ったところを田村丸という名の将軍に打ち取られた鬼神。

しかし、この話には続きがある。

一度死んだ大嶽丸は、天竺においていた三明の剣、最後の一振りである顕明連により、蘇生し、再度、田村丸と戦ったのだ。

 

それでは、精霊としての大嶽丸の能力は何だったのか。

それは使用者の武具に三明の剣の能力を付与するものであった。

この力により、頼人は初の戦闘にも関わらず、三体のバーテックスを圧倒することができた。

大通連は、武具の威力を底上げするモノ。

小通連は、使用者に最適な行動を悟らせるモノ。

そして、顕明連の力として付与された能力は使用者が絶命した際、一度だけ、使用者の致命傷を治癒し、蘇生させるものであった…

 

 

 

 

 

 

 

「…………がはッ!」

 

その瞬間、頼人が息を吹き返した。

途端、頼人の着ていた服が制服に戻る。

 

「頼人っ!!」

「ライ君!!」

「頼人君!!」

 

三人の心に希望が差し込む。

同時に、その場に医療班が到着した。

ドクターカーに頼人が収容されていく。

三人は頼人の傍に居続けたかったが、車両に彼女たちが乗れるスペースはなく、彼女らは別の救急車で運ばれることとなった。

と、そこで銀が倒れこむ。

 

「ミノさん!?」

「銀!?」

 

二人が、慌てて抱き留める。

もとから、満身創痍だったことに加え、頼人に打たれた薬の効果が残っていたのだ。

頼人が息を吹き返したことで、緊張の糸が切れたのだろう。

別の救急車が用意されていたことが幸いし、三人もすぐに運ばれる。

病院に到着すると、頼人は手術室に運ばれ、また銀も入院することになった。

銀は幸いにも命に別状はないとのことだったが、頼人は今夜が山場だという。

須美と園子は入院の必要はなかったが、希望によりその日は病院に残ることにした。

二人とも、疲労困憊だったが、とても休める気分ではなかったのだ。

 

 

 

二人は治療を終えた後、手術室の前へ向かった。

手術室の前には、安芸や赤嶺家の面々が集まっていた。

何やら怒鳴り声が聞こえる。

そこでは、周りの制止を振り切り、安芸が秋隆につかみかかっていた。

 

「死ぬのを前提としたシステムですって!?しかも、その協力を付き人であるあなたがしてたなんて……!あの子はあなたの主でしょ!?止めるのがあなたの仕事でしょ!?あの子が今までどれだけ頑張ってきたか…一番知ってるのはあなたのはずなのになんでそんなことができるの!?」

 

「先生のおっしゃる通りです…。言い訳はしません」

 

「逃げるなっ!理由を聞かせなさい!」

 

安芸がこれほど感情をむき出しにする姿を、誰も見たことがなかった。

周りの人間も彼女の怒気に圧倒されている。

 

「……………若はこれを保険だと、最後の手段だとおっしゃっていました。使わなければ、世界が滅ぶような状況でしか機能しないものだと…。そう言われれば、協力しない訳にはいきませんでした。特に、若の覚悟を無駄にするようなことは…」

 

「そんなっ……ことっ……だからって……だからって……!」

 

安芸が顔を歪ませる。

否定したいができない。

なぜなら、既に三人の少女を戦わせている身だ。

この言葉を否定することは、勇者というシステムを否定することにつながりかねない。

 

「………どういうことですか」

 

須美が呆然と呟く。

彼女には、彼らが何を言っているのか理解できていなかった。

 

「鷲尾さん……乃木さん……」

 

そこで、安芸が二人に気付く。

彼女は二人が見たことのないような顔をしていた。

やがて、園子がゆっくりと口を開いた。

 

「先生…。ライ君が今まで何をしていたか…全部教えて……?私…少しは知ってるんだよ……?」

 

「……え?……そのっち?」

 

「乃木……さん……でも……」

 

「ライ君が私のいないうちにこっそり家に来てたのも……ライ君が安芸先生と何かをしてたのも知ってるんだよ…?だから…教えてほしいな……」

 

そう、園子は頼人が裏で何かをしていることを知っていた。

しかし、詳しいことは結局わからず、また頼人が情報を隠そうとしていたことから、彼自身に尋ねることも憚れていた。

だが、このような事態になり、頼人に聞こうとしなかったことを園子は後悔していたのだ。

 

「…………先生、教えてあげましょう。きっと、若も許してくれます」

 

「でも………そう…ですね……あのね、二人とも、赤嶺くんはね――――」

 

 

 

そうして、二人は今までの、赤嶺頼人が行ってきたことを知った。

彼が、彼女らに隠していたこととその理由を。

彼が大赦と取引をしていたこと、勇者の現状を変えようと奔走していたこと、一人でバーテックスと戦ったこと。

 

 

「そんな、そんな事って……………!!」

 

「ライ君……。少しくらい教えて欲しかったよ………私も、ライ君の力になりたかったのに………」

 

須美と園子の頬を涙が伝う。

二人が知った事実は想像をはるかに凌駕していた。

特に、彼が自らの命を投げ捨てて戦った事実は、彼女らに計り知れないほどの衝撃を与えた。

彼女たちはただ、最善を尽くしただけだが、二人はどうしても、今彼が死にかけているのは自分のせいだと考えてしまう。

彼女たちの優しさや強さが、かえって彼女たち自身を苦しめていた。

 

「聞いて、二人とも。彼がああなったのは、あなたたちのせいじゃないわ。…………こういう状況を生んだ、わたしたち大人の責任なの。だから、どうか気に病まないで」

 

「でも…私があの時、攻撃をよけられていたら……勝ててたんだよ…?ライ君もミノさんも、きっとこんな怪我してなかったんだよ…?」

 

「違う…違うわそのっち……あの時のそのっちは間違ってない………あの時私が気付いていれば…もっと早く援護できていたら……こんなことには…」

 

それでもなお自分を責め続ける彼女たちを、安芸がそっと抱きしめる。

 

「いいえ、あなたたちは最善を尽くしてくれていたわ……その証拠に赤嶺くんはまだ生きてる。あなたたちのおかげよ。三人ともこれまでずっと、頑張り続けてくれていたわ。だから、お願い…自分を責めないで…」

 

その言葉を聞き、二人の瞳からさらに涙が溢れだす。

彼女たちは何もできない無力感を、今までで最も強く感じていた。

 

 

 

手術は、深夜まで続いた。

須美と園子は、お互いの手を握りあいながらじっと、手術の終わりを待っていた。

一言もしゃべらず、じっと、ベンチに座り待ち続けてる。

やがて、手術中のランプが消え、一人の医師が手術室から出てきた。

大人たちが口々に頼人の安否を聞く。

 

「手術は成功しました。未だ予断を許さない状況ですが、一先ず命の危険はなくなりました。しかし、四肢の損傷が激しく、後遺症は覚悟しておいてください」

 

「そう…ですか………乃木さん!?鷲尾さん!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、須美と園子がその場に倒れこむ。

張りつめていた緊張が切れ、それまで後回しにされていた疲労が一気に押し寄せたのだった。

安芸は二人の体を抱きとめることしかできなかった。

 

 

須美が目覚めると、そこは小さな和室。

どうやら、病院の仮泊室のようだ。

勇者のために部屋が用意されたのだろう。

となりを見ると、布団ですやすやと園子が寝ている。

時刻を見ると、もう昼に近い。

 

「そのっち。ねぇ起きて、そのっち」

 

「……うぅん。わっしー?…ここは?」

 

「病院のようね。それより、そのっち。銀と頼人君の様子を見に行きましょう?」

 

「うん、行こう!」

 

須美の言葉を聞いた途端、園子が元気に立ち上がる。

二人が部屋を出ると、安芸が待ち構えていた。

 

「おはよう、乃木さん、鷲尾さん」

 

「おはよ~、先生」

 

「……先生………おはようございます」

 

「赤嶺くんの様子を見に行きたいんでしょ?案内するわ、三ノ輪さんもそこにいるから」

 

「先生、ありがと~。あれ?学校はいいの?」

 

今日は平日だ。

クラスを受け持つ教師がなぜここにいるのだろうかと園子が訝しむ。

 

「ええ、私はあなたたちのお目付け役でもあるから。学校は別の先生にお願いしてるわ。あなたたちも今日は休むことは連絡しておいたから、安心しなさい」

 

「そうなんだ~先生、ありがと~」

 

「そうだったんですね…あの…先生、頼人君の具合は?」

 

「………昏睡状態が続いているわ。……今は集中治療室にいる」

 

「そう……ですか……」

 

須美が暗くなる。

未だに、昨日の衝撃をひきずっているのだ。

そんな須美に園子が明るく声をかける。

 

「ほら、わっしー行こ?」

 

「ええ、そうね。行きましょうそのっち」

 

 

 

 

頼人の部屋へ向かうと、銀が窓越しに頼人を見つめていた。

未だに部屋に直接入ることは許されていないのだ。

 

「銀!よかった、もう平気なの?」

 

「ミノさん、元気そうでよかったよ~」

 

「須美…園子……。ああ、アタシはもう元気だよ…アタシは…ね…」

 

いつになく、暗い顔をしている銀。

理由は病室を覗けば嫌でもわかってしまった。

頼人は体中に包帯を巻き、その姿は見るものに否応なしに痛々しさを感じさせる。

一瞬ほころんだ須美と園子の顔もすぐに暗く沈んでしまう。

 

「アタシさ、今までずっと、頼人に助けられてきたからさ………勇者の御役目なら、今までの借りを返せるって、頼人を守れるって思えて少しうれしかったんだ。だけど……結局、一番大事なところで頼人に守られて………」

 

「ミノさん…」

「銀…」

 

「頼人が死にかけてた時、アタシ一人では何もできなかった…。先生に話を聞いて、アタシがどれほど、頼人に甘えて、守ってもらっていたかを思い知ったよ……。アタシが甘えすぎたから、こうなったんだ…。だから…こうなったのは、アタシのせいなんだ…」

 

「銀、それは―――」

「だから―――!」

 

「だから…アタシは決めたんだ。もう絶対、こいつの傍を離れないって。今度はアタシが助けるんだって…!でも、今のアタシ一人じゃできない事ばっかりだ…」

 

銀が強く拳を握り、言う。

三人はその姿を黙って見守る。

 

「だから………頼む!須美!園子!力を貸してくれ!アタシは強くなりたい!今度こそ、頼人を守りたい!アタシと一緒に強くなってくれ!一緒に頼人を守ってくれ!」

 

銀が強い意志を込めた瞳で二人に呼びかける。

この不屈の精神こそが彼女を勇者たらしめる強さだ。

 

「ええ……ええ!銀!私たちみんなで、頼人君を守りましょう!一緒に強くなりましょう!」

 

「うん、ミノさん!強くなって、ライ君が起きたら、皆でびっくりさせよう!」

 

そして、その情熱は須美と園子にも伝播する。

凍った空気も熱を帯びる。

1+1+1+を10にも100にもしていく力。

これこそが、今代勇者の力。

 

「三人とも、病院では大声出さない」

 

「「「すみません…」」」

 

もっとも、病院ではトラブルにつながりかねないが…

 

「だけどよかった。このまま元気がないままだったらどうしようって思っていたけど……杞憂だったようね」

 

そう言うと、安芸は何かを園子に手渡す。

それは小さな記録メディアだった。

 

「先生……これは…?」

 

「それは、赤嶺くんがこれまで研究してきた戦術データよ」

 

「戦術データ?」

 

「ええ、彼が整理した過去のバーテックスの情報とその対応戦術がまとめられているわ。赤嶺くんのお父様から預かったの。あなたたちに渡すようにって」

 

「頼人君、そんなものまで…」

 

「まったく……あいつは心配性…なんだから…自分が動けなくなった後のことまで………考えてるって……」

 

銀の眼に涙が浮かぶ。

 

「ミノさん、大丈夫?」

 

「…ああ、アタシは平気さ。あいつが起きるまでは絶対泣かないって決めてるから」

 

「そっか…。それじゃあこれを見て、作戦会議をしよ~」

 

 

 

そうして、三人はデータを基に次に複数体のバーテックスが現れた場合の対応について徹底的に語り合った。

特に、どうすれば昨日の三体を倒せたのかについて、重点的に話し合った。

幸い、データには複数体のバーテックスが来襲した際の戦術パターンがかなりの数あり、対応策を考え付くのはそう難しいものではなかった。 

 

「それにしても、本当によくまとめられているわ。きっと、ここまで情報を集めるのも、並大抵の苦労じゃなかったはずよ…」

 

「そうだね……。私たちにすら隠されてた情報だもんね…。流石ライ君だよ~」

 

「あーもう!あいつは一人で抱え込みすぎだ!起きたら絶対説教してやる!」

 

「おー、ミノさんが説教って珍しいね~」

 

「銀はいつも説教される側だものね」

 

「二人とも、そこには突っ込まないでくれよ………」

 

三人は共に作戦会議をする中で、徐々に心の余裕を取り戻していった。

勿論、未だに口惜しさは消えない。

だが、まだ頼人は生きている。バーテックスはまたやってくる。

なら、こんなところで立ち止まっていてはいけない。

そんな強き思いが三人の心を支えていた。

 

 

そして――――

次の日、新たなバーテックスが襲来した。

 

 

「あいつか…今のところ一体だけみたいだな」

 

三人の勇者が大橋の上で敵を待ち構える。

樹海化した世界はいつも通り、厳かな雰囲気を漂わせていた。

前方から、一体の大きな異形が現れる。

かなり生物的なフォルムで、布を纏っている。

データにはなかったタイプのバーテックスだ。

 

「そうね…だけど時間差で来るかもしれないから、気を付けないと」

 

「こういう時になると普段、全体を見ててくれる頼人のありがたさが身に染みるな…」

 

「そうだね~。とりあえず、二体目が来る気配はないから基本に忠実に行こうか~。」

 

園子が双眼鏡を下ろして言う。

頼人が持っていたものを借りているのだ。

戦闘を前にしてもなお、彼女たちは冷静だった。

だが、普段よりも空気は張りつめていた。

油断なく隙も無く、バーテックスを排除する。

冷たく、鋭い敵意が彼女たちの心にはあった。

 

「わっしーは援護をお願い。私とミノさんで突っ込むよ~」

 

「了解!分かりやすくて助かる!」

 

「ええ、援護は任せて!」

 

銀と園子が異形に近づいていくと、異形は尻尾のような部分から、いくつかの丸い塊を射出させた。

人間大のその塊は、銀と園子に向かって飛んでいくも、須美が冷静かつ迅速に、すべて撃ち落とす。

撃ち落とされた塊は、銀と園子に届くことはなく、空中で爆発した。

 

「爆弾か!?ナイス須美!助かった!」

 

「わっしー!爆弾があいつから出てくる瞬間を狙って!」

 

「了解!」

 

返事が済むか済まないかの内に、須美が矢を放つ。

その一撃は正確無比。見事に射出される瞬間の塊を撃ち抜き、一際大きな爆発が起きる。

その爆発は異形を巻き込み、その巨体が大きく傾く。

 

「敵増援無し!行けるわ!」

 

周囲を確認した須美が叫ぶ。

その機を逃さず、銀と園子が突っ込んでいく。

すると、その突進にカウンターを合わせるかのように、異形が布のような部分を稼働させ、銀と園子に攻撃を仕掛けた。

 

「それは読んでたよ!」

 

だが、布の怪しげな動きを観察していた園子は、この攻撃を予測していた。

布の攻撃は容易く、盾で受け流される。

その瞬間、異形は完全に無防備となった。

 

「ミノさん!」

 

「頼人の分だ!受け取れぇえええええ!!」

 

銀が異形の隙を突き、吶喊する。

赤い閃光が異形の体を駆け抜け、その巨体が崩れ落ちていく。

爆発でダメージを受けていたこともあり、異形の体は瞬く間にその原形を失っていく。

 

「見たかぁああああ!!」

 

着地した銀が雄叫びを上げる。

やがて、辺りが光に包まれ、バーテックスは樹海からいなくなった。

 

「やったよ…ライ君…」

 

「これなら、頼人もほめてくれるかな?」

 

「ええ、きっと喜んでくれるわ」

 

これまでにないほどの、完勝。

彼女たちの心に達成感が生まれる。

そして、轟音と共に樹海化が解除されていった。

 

 

「しまったー、今日雨だったの忘れてたな。スリッパのまんまだし」

 

樹海化が解けると三人は雨の大橋記念公園にいた。

須美と園子は今日は学校に行っていたが、銀はまだ退院していない。

そのせいで、銀だけ患者服のままだ。

 

「ミノさんは病院からだったもんね~」

 

「傘を用意してきてるわ。ほら、そのっちも銀も入って」

 

須美が持っていた荷物から折り畳みの傘を取り出す。

 

「わっしー、よく傘なんて持って来てたね~?」

 

「ええ、頼人君みたいに襲来の時のための荷物を用意していたの。今日は雨が降ってたから、一緒に入れといて正解だったわ」

 

「おおー、えらいぞー須美。お礼に撫でてやる」

 

須美が顔を赤くしながらも素直に撫でられる。

しばらくすると、銀が真剣な顔で言った。

 

「だけどさ…今日は一体だけだったから何とかなったけど…」

 

「ええ…何体も来てたら、危なかったと思うわ…」

 

三体のバーテックスが襲来してから、まだ二日しかたっていない。

彼女たちの体はまだ回復しきっていなかった。

それにもかかわらず、バーテックスを圧倒できたのは、これまでの鍛錬の成果と戦術データを基にしたイメージトレーニングの力が大きかった。

 

「……ミノさん、わっしー。今は体を休めて、傷を治そ?勇者システムも強化されるみたいだし、これからもっと鍛錬すれば、今よりずっと強くなれるよ~」

 

「ああ、勇者システムのアップデートも頼人が頑張ってくれたおかげなんだもんな。なら、今は休まないと頼人に怒られちまうか」

 

「そうね。なら、今の内に頼人君が目覚めた後のことでも考えておきましょうか」

 

「あっ、わっしー、それ賛成!私は~みんなで夏祭りに行きたいなぁ~」

 

「それいいな!」

 

彼女たちはそうして、未来を語る。不安や罪悪感、好意、感謝、悲しみなどが複雑に入り混じった頼人への想いを心の奥底に押し込めて。

そうやって、前を向き続ける。

もう二度と、大切なものを失わないために…。

 

 

 

 




ちなみに大嶽丸の能力で治るのは致命傷だけなので、頼人の体はボドボドのままです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。