樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

14 / 46
理由

訓練施設に来てから、早くも三日目となった。

経過は順調。

今日は西暦の『丸亀城の戦い』を参考に、大量の星屑を相手取る際、どのような戦術が適してるかを考えさせている。

 

 

「数千体にも及ぶ星屑の侵攻、このような場合、どのような戦い方が望ましいと考えられるでしょう。分かる方は?」

 

真っ先に弥勒さんが元気よく手を挙げ、それに続くように三好さんや楠さんが手を挙げる。

 

「それじゃあ、弥勒さん。どうぞ」

 

「先手必勝ですわ!一気に総攻撃して素早く倒しきるのがいいと思いますわ!」

 

弥勒さんが立ち上がり元気よく話す。

元気があるのはいいけれど、この突撃癖は何とかしてほしい。

 

「確かに、進化体を出させないという意味ではいい考えですね。ただ、この場合だと星屑の数が多すぎて倒しきるのは難しいでしょう。一気に突撃してしまうと最悪、包囲されてしまいますしね。それじゃあ…楠さん、分かりますか?」

 

弥勒さんがむむむ、と唸りながら席に着き、入れ替わるように楠さんが立ち上がる。

 

「はい、この数ですと長期戦は避けられません。分散し星屑の侵攻を抑えつつ持久戦に持ち込むのがよいかと思います。また、人員に余裕があれば、ローテーションを回し、個々の負担を抑えるべきかと考えます」

 

「いい答えです。事実、西暦の勇者達は持久戦を選択しました。そして、役割を分け、ローテーションを回しながら戦闘を続けました」

 

やはり、戦術の講義だと楠さんが最も優秀だ。

彼女は指揮官としての適性が高いな。

三好さんも優秀だが、戦術においては楠さんが一歩先を行く。

そんなこともあり、この三日間を通して、勇者に選別されるべきはやはり、楠さんか三好さんのどちらかしかいないと感じた。

そういうわけで、今は特に、この二人の動向を注視している。

 

そして、四日目の早朝。

俺は訓練場を訪れていた。

理由は楠さん。

彼女に尋ねたいことがあって来たのだ。

 

訓練場につくと既に彼女は木刀を振るっていた。

これでもかなり早くに来たつもりだったのだが、彼女の様子を見るに、俺が来る結構前から剣術の練習を始めていたらしい。

休憩するまで待っていようと、離れたところから練習を眺めるが一向に休もうとしない。

先日も思ったが、少々ストイックすぎやしないかね。

とそこで、ようやく楠さんが手を止めた。

少し休むようなので、彼女に近寄る。

 

 

 

「おはよう、楠さん。朝早くから精が出るね」

 

「………おはよう、赤嶺君。さっきからじろじろ見てたけど、何の用?正直止めてほしい」

 

楠さんが棘のある声で聞いてくる。

選抜も最終段階に入ってるし、かなりピリピリしてる。

しまった。

少々、デリカシーが足りなかったかもしれない。

 

「それは申し訳ない。一つ聞きたいことがあってね。質問が終わったらすぐに退散するよ」

 

「ならいいわ。で、質問って何?」

 

早く訓練に集中したいのか、彼女は急かすように尋ねてくる。

 

「ああ、楠さんはなぜそこまで頑張れるのかなって。たとえ、どれだけ想いが強くても普通は体の方が追いつかないし、事実、倒れたこともあると聞いた。それでも、頑張り続けてる。なんでかな?」

 

そう。俺はそのことがどうしても気になってしまった。

彼女ほどひたむきな人もそうはいない。

選別の上で絶対に聞いておきたかった。

 

「………理由なんてないわ。努力を続けて、自分を高める。それが私の生き方。ただ、それだけよ。………そんなことを聞くためにわざわざ来たの?」

 

すごいな。

本当に、世が世ならかなりのスポーツ選手になってたんじゃなかろうか。

 

「まあ、ね。気になることがあるとどうしても知りたくなっちゃうんだ。ところで、それはやっぱりお父さんの影響?」

 

「パ………こほん。父さんを知ってるの?」

 

「勿論、大赦では結構有名だし。あの腕は素晴らしい。職人って感じが、楠さんに似てるかなって」

 

彼女の父は大赦から最も厚い信頼を受けている宮大工だ。

重要な社殿の建造や修復の多くに関わっているまさに職人。

いつぞやか四国の神社を調べたときに名前が出てきたし、事前にもらった資料にも情報が載ってたので知っていたのだ。

 

「そうね…。昔から父さんの背中を見続けてきたから、こうなったのは父さんの影響かもしれないわね」

 

「お父さんのこと、誇りに思ってるんだね」

 

「ええ、だから私も父さんのように尊敬される仕事ができる人間になりたいの………なんで私、こんなこと話してるのかしら……」

 

楠さんが額に手をやる。

ここまで話す気はなかったんだろう。

だけど……そうか、これが彼女の理由か。

 

「教えてくれてありがとう。お礼にこれどうぞ」

 

彼女に持ってきたスポーツドリンクを手渡す。

 

「………受け取っておくわ。ねぇ、私からも一つ聞いてもいいかしら?」

 

「何かな?」

 

「あなたは何者?やっぱり、勇者でもないただの小学生がバーテックスの研究をしてたなんておかしすぎる。家の力が強いのも、あなたに能力があるのも講義で分かったけどそれだけでは説明がつかないわ」

 

おっと、まだ気にしてたのか。

まあ確かに怪しすぎるもんな。

 

「………友達がさ、勇者に選ばれてね。どうしてもそいつの手助けがしたくて、家の力を使って無理矢理バーテックスの研究をさせてもらうことにしたんだ。まさか、第一人者とまで言われるとは思わなかったけどね」

 

これくらいなら話しても構わないだろう。

あながち嘘ってわけでもないし。

何より、彼女ならこのことを誰かに漏らすようなことはしないだろう。

 

「…………無茶苦茶なことするのね」

 

「おや?信じてくれるんだ」

 

「正直まだ信じきれないとこはあるけど、筋は通ってるし、一先ず信じてあげる。………ねぇ、今の勇者って―――」

 

楠さんが勇者について尋ねようとする。

が、それは駄目だ。

 

「悪いけど、それは答えられないな。選別に集中できなくなってもいいというのなら話は別だけど」

 

今、彼女たちのことを話しても楠さんのためにはならない。

勇者の人物像を話しても選別の役には立たないし、変に意識させても意味がない。

 

「…………………そうね。今のは忘れて」

 

それが分かったのか楠さんも追及しなかった。

 

「うん、それじゃあ自分は退散するよ。邪魔して悪かったね」

 

車椅子を旋回させ、出口へ向かう。

 

「ねぇ、もう一つだけ聞いていいかしら?」

 

と、そこで背中から声を掛けられる。

 

「ん、なんだい?」

 

「車輪の下敷きって意味わかるかしら?」

 

「―――――」

 

車輪の下敷きになる(Unter die Räder geraten)。ドイツ語で落ちぶれるを意味する。

だが俺は、言い回しそのものよりもヘッセの「車輪の下」を連想した。

天才的な少年ハンスが努力の末、神学校に入り、自分の生き方に疑問を覚え、やがては落ちぶれていく話。

楠さんの小学校時代の記録を思い出す。

彼女は誰よりも努力を欠かさず、小学校でも勉学、運動共に常に一番だったという。

考えてみれば、今の楠さんは神学校に合格するまでのハンスに境遇がひどく似ている。

 

「なぜ、そんなことを?」

 

「ここに来るとき、誰かから言われたの。車輪の下敷きにならないようにって。あなたと話してたら何故か思い出したの」

 

多分、それを言った人はただの激励の言葉のつもりだったんだろう。

だが、彼女の境遇を考えると皮肉が効きすぎている。

………何と答えるべきだろうか。

 

「…………それは古いドイツの言い回しだよ。落ちぶれるっていう意味」

 

結局、俺は正直に話すことにした。

どのみち、調べてしまえばすぐに分かってしまう言葉だ。

 

「――――そう………。教えてくれてありがとう………」

 

彼女に表情の変化はなかったけど、それでも何か思うところがあったようだ。

 

「…………それじゃあ、もう行くよ。無理はしすぎないようにね」

 

そう言って、今度こそ俺は訓練場を後にした。

なぜだか、一抹の不安を感じながら。

 

その後は、それまでの三日間と特にやることは変わらなかった。

報告書を纏めたり、バーテックス戦の戦術を纏め講義の準備を行ったり、真鍋さんと話して時間は過ぎていった。

ただ、問題なのはいよいよ銀に会えないフラストレーションが限界に近づいていることだ。

無論、毎日電話で話してはいるがそれだけでは到底足りない。

今のところ平静を保てているが、この調子であと三日間過ごすのは意外と辛い。

もっとも、ここまで来ておいて是非もないけど。

 

そんな調子で迎えた五日目。

俺はいつものように訓練場で候補生たちの動きを眺めていた。

真鍋さんには先に戻ってもらった。

やがて、夜も遅くなり、候補生は一人、また一人と去っていく。

ついには、訓練場に残っているのは三好さんと楠さんだけになった。

頃合いを見計らって、俺は一足先に訓練場を出る。

そして、訓練場から少ししたところで三好さんが出てくるのを待つ。

ストーカーすれすれの行為だが、周りに知られずに話すにはこれ位しないといけない。

しばらく本を読んで待っていると、三好さんが出てきた。

 

「やあ、三好さん。お疲れ様」

 

「赤嶺……?一体、何の用よ?」

 

三好さんが訝しげに尋ねてくる。

 

「一つ質問があってね。時々、他の人の訓練とか手助けしてるでしょ?一応、これは選別だし、理由を聞きたいなって思って」

 

「何よ、あんたも楠みたいに甘いって言いたいの?」

 

あらま、楠さんにも似たこと言われたらしい。

この反応は予想外だ。

 

「や、そういう訳じゃなくて……」

 

「私は甘くないわ!人に教えるのは自分の鍛錬にもなるし、他人を助けてるのも実は全部、私自身の鍛錬に結びついてるんだから!」

 

三好さんはそう言うと、立ち去ろうとする。

が、途中で俺の方に戻ってくると小瓶を手渡してきた。

 

「それ、効くから」

 

三好さんはそれだけ言うと、寮の方へと去っていった。

しまったな、もう少し色々聞きたかったんだけど……。

ふと小瓶を見ると、それはクエン酸のサプリメントであると分かった。

あれ……クエン酸の効果って……。冷たい汗が背中を流れる。

………とりあえず、部屋に戻ろう。

 

 

 

部屋に戻ると、真鍋さんが食事を用意して待っていた。

最近は特に真鍋さんとの距離が近く感じる。

毎日一緒に食事をとって、傍で過ごしているのだから当然だけど。

 

「だけど、今日はまた随分と遅くまで訓練見てたんだね」

 

「ええ、選抜も終わりが近いですし、見てたらつい考え事してしまって」

 

夕食を取りながら話す。

今日のメニューはチキン南蛮だ。

 

「それで、こんなに遅くまでか。つくづく君は変わってるね」

 

「そんな自分に合わせてくれる真鍋さんも大概じゃないですか?」

 

「ふふ、そうかもね」

 

「でも、本当にありがとうございます。ここまで良くしてくれて。真鍋さんがいなければきっと、こんなに楽しくできてなかったと思いますから」

 

「そんなことないよ。私の方こそ赤嶺くんと一緒にいれて楽しいよ?」

 

「そうですか?少し照れますね」

 

そう言って、二人笑いあう。

そんなこんなで夕食を食べ終わると、突然、真鍋さんが真剣な表情で俺に語り掛けてきた。

 

「ねえ赤嶺君、この前言ってた話なんだけどね……」

 

「ああ、初日にお願いした件ですか。なにか、分かりましたか?」

 

「うん……。思っていたよりもかなり大事だったよ。正直、真実を教えるべきか今も迷ってる。君にとってはかなり不都合な話だ。それでも、知りたい?」

 

「…………はい。不都合な真実だろうと自分は知っておかなければと思います。どうか、話してください」

 

「わかった。どうか………落ち着いて聞いてね」

 

そうして、真鍋さんはゆっくりと語り始めた。

俺の体に精霊が残留していること。

このままでは人間でなくなること。

このことを俺の周りの人間が隠していること。

 

「そんな…………嘘だ……人じゃなくなるなんて……絶対に嘘だ!」

 

「落ち着いて赤嶺君。信じられないのは分かるけど、頑張って受け入れないと」

 

「証拠は!?証拠はあるんですか!?」

 

「証拠ならあるよ。君の体がその証拠だ」

 

「……は?」

 

「あれほどの大怪我では本来、まだ退院できるような状態じゃないんだよ。なのに、君は一人で部屋にいても問題ない。それが証拠だよ」

 

「…………そんなの、信じられません!もっとちゃんとした証拠を見せてください。それがない限り絶対に信じません!」

 

「…………わかった。明日の夜持ってくるよ。それまでに心を落ち着けておいてね」

 

そう言って、彼女は部屋を出ていった。

彼女が出ていった瞬間、秋隆に電話を掛ける。

 

「秋隆、どういうことだ!?」

 

『若、落ち着いてください。どうしたんですか?』

 

「何故、俺の体について黙ってたんだ!答えろ!」

 

『若…まさか……』

 

「ああ、聞いたよ。真鍋さんからな!」

 

『今から向かいます。少し待っててください』

 

一旦息を落ち着け、深呼吸する。

 

「いや、来るな。今は会いたくない」

 

『しかし………』

 

「明日の夜、部屋に来い。そこですべて話してもらう」

 

それだけ言って、通話を切る。

その日は一睡もしなかった。

 

次の日、やはり顔色が悪くなっており真鍋さんに心配された。

だが、講義を休むわけにもいかない。

できるだけ、普段通りに過ごす。

だが、いろんな人に心配をかけてしまったらしく、いつもより多くの人から声を掛けられる。

少し、申し訳ない気持ちになった。

 

やがて、講義が終わり、夜になるまで自室で過ごすことにした。

日が暮れてきたところでようやく、真鍋さんがやってくる。

 

「おまたせ、赤嶺君。落ち着いてくれたみたいで良かったよ」

 

「いえ……。昨夜はすみません。話してほしいといったのは自分なのに、取り乱してしまって」

 

「気にしないで。あんな話されたら、誰だってああなるよ」

 

「そう言ってもらえると、気が楽になります」

 

「それはよかった。それでね……これが証拠だよ」

 

ベッドに座る俺に、真鍋さんが封筒を手渡してくる。

中には、病院での記録と、報告書が入っていた。

 

「………やっぱり……ほんとだったんですね」

 

「うん………辛いと思うけど……」

 

「………実は使用人をここに呼び出していまして、詳しい話を聞こうと思っています。その時、真鍋さんも一緒にいてもらってもいいですか?」

 

「勿論、一緒にいるよ?」

 

「ありがとうございます。だけど真鍋さん、この資料どこから手に入れてきたんですか?機密情報だったんじゃ?」

 

「ふふ、秘密だよ」

 

真鍋さんが小さく笑みを浮かべそう言う。

とそこで、玄関がノックされた。

 

「うちのものが来たようですね。すみませんが、出迎えてやってもらってもいいですか?」

 

「分かった。ちょっと待っててね」

 

そう言って、真鍋さんが部屋の入口に向かう。

扉が開く音がし、その後小さな悲鳴が聞こえた。

やがて、秋隆が真鍋さんを拘束し、複数の部下と共に部屋に入ってくる。

 

「あ、赤嶺君………」

 

「何をやってる秋隆、彼女を放せ」

 

「若、すみませんが、そのご命令は聞けません。彼女は不正に機密情報にアクセスしました。拘束しなければなりません」

 

「しかし……」

 

「これは御当主の命令です」

 

「親父の!?」

 

「ええ、そしてありとあらゆる方法を用いて、彼女に口を割らせるように言われています」

 

「そんな…………。何とかならないのか?」

 

「申し訳ありませんが不可能です。どうかご容赦を……」

 

「………すみません、真鍋さん。自分のせいでこんなことに」

 

「…………いや、大丈夫だよ赤嶺くん」

 

彼女は俺を安心させるようにそう言うと、秋隆に話しかけた。

 

「聞いてください。この情報は不正に手に入れたものではありません。上里家から正式に頂いたものです」

 

「あなたが上里の手のものだとでも?それを証明するものは?」

 

秋隆が疑うように言う。

 

「先日この書類にアクセスした者の名前を言えます。直接、上里の当主に確認を取っていただいても構いません」

 

「真鍋さん。あなたは一体何者ですか?」

 

「私は上里の命で反対派の情報を探っていたの。今回のはその伝手を使っただけです」

 

「すると……あなたは上里のスパイだったと?」

 

「ええ、赤嶺君。そういうことになるわね。だから大丈夫よ」

 

真鍋さんが俺に向かって微笑みかける。

ああ、本当に胸が痛むな。

 

 

 

「秋隆、録れたな?」

 

「はい、若。問題ありません」

 

 

 

瞬間、真鍋さんの顔が凍り付く。

 

「え……?赤嶺君………これは一体?」

 

彼女は混乱した様子で俺に尋ねてくる。

……始めるか。

 

「真鍋さん。あなたが上里の手の者であることは初めから分かってました」

 

「な………!?」

 

「そして、精霊の情報を俺に教えることこそが今回、あなたに与えられた役目なのでしょう?」

 

「違うよ!?これは赤嶺くんが困ってたから……」

 

真鍋さんが慌てた様子で話す。

 

「でも、調べることを提案したのはあなたですよね?」

 

「そんな……違うよ。私はただ……」

 

「勿論、証拠ならありますよ?」

 

「…………え?」

 

秋隆から文書を受け取り、彼女に見せる。

 

「これは………」

 

「はい、あなたがくれた報告書とほとんど同じものです。ただ、此方は概要4の項目が少々違います。お分かりですね?自分に情報を秘匿する旨が記されています。あなたがくれた資料にはなかった項目ですね」

 

本当に俺に言われて情報を手に入れたのなら、こんな小細工はする必要がない。

この細かな違いが、俺に見せることを前提にしていた証拠だ。

 

「待って!私はそんなこと聞いてない!」

 

真鍋さんは驚愕した様子で叫ぶ。

これが演技なら大した役者だな。

 

「おや、知らされてなかったんですね。まあ大した問題じゃないのでいいですが。」

 

もっとも、個人的な心情としてはそのほうが幾分か楽なんだけど。

 

「ちょっと待って。なんで貴方はこの文書のことを知ってるの?貴方には秘匿されてるはずでしょ?」

 

少し落ち着いたらしい彼女が俺に尋ねる。

 

「そんなの決まってるじゃないですか。この文書は赤嶺が偽造したんですよ」

 

そう。この文書は俺に手を出させるための仕込みだった。

作成し、実際に極秘資料として扱うことで真実味を持たせ、上里を誘導した。

故に、俺の体は未だぼろぼろだが精霊を宿してるわけではなく、ぎりぎり普通の人間のままだ。

人外になる危険性もない。

正直、俺に手を出させるように誘導できれば中身は何でもよかったのだが、少々趣味が高じてしまった。

 

「そんな……!?嘘でしょ、だって病院の記録は―――」

 

「そんなのこっちで改竄しただけですよ。あなた方を釣るために」

 

「でも、あなたの体は……まさか、あの記録も!?」

 

「いや、流石にそこまでは改竄してませんよ。本当ならまだ病院に居なければならない身ですし。いやはや、ぼろを出さないようにするのには苦労しましたよ。おまけに部屋に盗聴器なんてお人が悪い」

 

盗聴器が仕掛けられてるのは初日の時点で分かっていた。

おかげで、自室では碌にくつろげなかった。

何より、怪我を隠して生活するのは想像以上にきつかった。

盗聴器のせいで誰かの助けを借りることもできないし、心身ともに負担は酷いもの。

リアリティのために下手な演技までする羽目になったし。

それに真鍋さんと一緒にいるときなど、一時も気が休まらなかった。

食事の際に、食べるのが遅いと指摘されたのはまさに冷や汗ものだった。

危うく、腕が治りきっていないことがばれてしまうところだ。

何とか誤魔化せてよかった。

それでも三好さんからは軽くバレてたみたいだけど。

 

「本題に入りますか。大赦関係者内の勇者適正値リスト、流したのはあなたですよね?」

 

さてと、答え合わせといこうか。

 

「なっ………!違うよ!なぜ私がそんなことをする必要があるの!?」

 

しばらく絶句した後、混乱から立ち直った彼女は容疑を否認し始めた。

 

「そのほうが上里にとって都合がよかったからですよね」

 

「だから、そんなことをしてなぜ上里が得をするの?上里だって改革派だよ?」

 

しょうがない。一つずつ説明していこうか。

 

「ええ、勝ち馬に乗るために改革派についた。乃木や赤嶺を筆頭とした有力な名家が改革を宣言したのだから、上里単騎では分が悪いですからね。大義名分も改革派が握ってしまっていますし」

 

元々、上里は政治色の強い家だ。

権力闘争にかけては他の追随を許さない。

過去に大赦を完全掌握しただけのことはある。

だからこそ、かつて大赦を改革し最大の力を誇った上里こそが、今現在の大赦の腐敗にも大きく関わっていることは想像に難くなかった。

閉鎖的な組織の場合、腐敗で最も得をするのは他でもないトップなのだから……。

故に、改革最大の障害は上里家であると前々から考え、そのための策を練っていた。

それが、上里が気付いた時点で改革の状況を完成させておくという方法だった。

これにより上里も改革派に乗らざるを得なくなる。

本当に、親父殿はうまくやってくれた。

 

「しかし、改革により大赦内のパワーバランスは大きく変わった。勇者を輩出し、改革を主導した乃木の発言力は大幅に増え、乃木と上里のツートップ体制が崩れ始める。おまけに、赤嶺が上里に迫る勢いで大きくなっていく。上里のご老体は当然焦る。このままでは上里の立場が危うい。だが、改革の動きは余りにも速く、今から権力保持を狙っても間に合わない。なので、裏から反対派を動かし、時間稼ぎを図った。違いますか?」

 

「上里が反対派とつながっていた?そんなことありえないよ」

 

「反対派と繋がりを持ってたあなたがそれを言うとは、中々笑いのセンスがありますね」

 

「何のこと?確かに、私は反対派の動きを探っていたけど、それで繋がっていたといわれるのは心外だよ」

 

「認めませんか。まあいいです。話を続けましょう。上里は反対派を使い時間を稼ごうとしたが、ここで誤算があった。改革派の、もっと言えば赤嶺による反対派の排除が予想以上に速かった。だから……でしょう?リストを反対派に流したのは」

 

「分からないね。リストを流して何の意味があるの?」

 

「本当は分かってますよね?勇者選抜の遅延です」

 

真鍋さんが歯噛みする。

いよいよ余裕がなくなってきたらしい。

 

「全国からの勇者選抜を実質的に主導してきたのは赤嶺。これで、戦果が出てしまったら赤嶺の発言力はますます強くなる。そうなれば、上里の発言力を赤嶺が超えかねない。だから、リストを横流しして時間を稼いだ。反対派の目論見が失敗することを見越してね。そして、それを理由に大赦関係者の家族から先に勇者を輩出させる。大方、その勇者を上里の養子にして発言力を強めるつもりだったんでしょう。実際、この選別を提案したのは上里だったようですし、そのような状況で上里に反対できるものはいませんからね」

 

とどのつまり、上里は赤嶺が怖くなったのだ。

今度の改革で、赤嶺はその力を知らしめすぎた。

だから、できるだけ早く潰しておきたかったんだろう。

 

「自分に近付き、資料を見せたのは自分を丸め込むためでしょう。次期当主を押さえ赤嶺の力を削ぐ。うまくいけば、俺を通して赤嶺の力を手中に収めることができ、ご老体としては万々歳だ。しかも、万一俺が壊れて、今代の勇者を巻き込んでも、その時は追加の勇者を用意すれば問題ない。実に老獪ですね」

 

本当に、殺意が湧くほど老獪だ。

初代の、上里ひなたさんのことは尊敬してるが、今の上里の、特にご老体には心底腹が立つ。

三百年という時間はかくも残酷なものなのか。

 

「…………それで、そっちの証拠はあるんだろうね?なければ、この件は正式に抗議させてもらう」

 

意外としぶといな。わずかな時間で冷静さを取り戻すとは。

 

「ええ、もちろんありますので心配しないでください。秋隆、流してくれ」

 

俺が指示すると、秋隆の端末から声が響き始める。

声は真鍋さんがこれまでしてきたことを話していた。

 

「この声……まさかっ!?」

 

「ええ、上里の次期当主です。上里も最早一枚岩じゃなくてですね、我々に協力すれば、今後も上里の地位を保障すると言えば乗ってくれましたよ」

 

中々素直な方だったらしく、集めた情報片手に交渉すれば、あっという間に落ちてくれたらしい。

これは中々いいニュースだった。

この情報のおかげで、俺たちは彼女や上里の動きを察知でき、この作戦を実行できた。

赤嶺が諜報戦で一枚上をいったということだ。

 

「そ…んな………売られた……?私が……?」

 

真鍋さんが呆然とした様子でうなだれる。

流石に堪えたか。

ここで完全に折る。

 

「あとは、反対派に潜り込ませた者からの報告もありますし、それと、この部屋に仕掛けられた盗聴器も。これ以上何かありますか?」

 

「若、彼女の部屋から証拠品が出たと報告が」

 

秋隆が新しい情報を俺に教えてくれた。

赤嶺の者に手を回させていた甲斐があった。

 

「結構。これで言い逃れはできませんね」

 

「この手際……まさか………最初から?」

 

「はい。私がここに来た一番の理由はあなたですよ。真鍋さん。あなたを現行犯で押さえるためにすべての準備を進めてきた。上里の政治的手腕は侮れませんからね。確実に潰せる材料を確保しておきたかったんですよ」

 

相手は最大級の権力を持っている。

打倒するには、次期当主の裏切りだけでは足りない。

真鍋さんを押さえるだけなら簡単だったが、彼女自身に上里とのつながりを話してもらうことが重要であった。

 

「自分の世話係になったのも、ご自分の工作によるものだと勘違いしていたようですが、こちらで手を回した結果ですし、自分がここに来てからはあなたのことはこちらの者に監視させていました。どうです、他に何か言いたいことはありますか?」

 

「………私を……どうするつもり?」

 

そろそろ折れたか。

さて、ここからが本番だ。

 

「ここからは、あなたが選んでください。身の破滅か我々のために働くか」

 

「裏切れっていうの?」

 

「捉え方は自由ですよ。さて、あなたのことはこれでもかなり評価しているつもりです。今までの仕事ぶりは称賛に値する。報酬も上里以上のものを保障しましょう」

 

「もし………断ったら?」

 

「断れませんよ。いずれにせよ、今回の一件で上里のご老体が失脚することは確定です。断れば、あなたは大赦の敵となる。そうなれば、金も仕事も大義も信用も友人も家族もすべて失う」

 

この閉鎖的な世界において、大赦を敵に回すことは神樹を、つまり世界そのものを敵に回すということであり、そんなレッテルを貼られれば、まともに生きていくことはできない。

社会的な死と同義だ。

おまけに家族にまで影響は及ぶ。

 

「赤嶺君……あなたは優しいと思ってたけど、本当は悪魔だね」

 

真鍋さんが俺を睨みながら言う。

 

「いいですね、悪魔。その通りだと思います」

 

もとより、一度は鬼を宿した身だ。

今更、悪魔など言われてもその通りだとしか言いようがない。

 

「………………………………………分かった。使われてあげる」

 

彼女は長い間瞑目した後、ポツリとこぼした。

ようやく、陥落したか。

もっとも、たとえ偽りの降伏であろうとこれからの展開は変わらない。

最早、裏をかこうとしても無駄だ。

 

「大いに結構。それじゃあ秋隆、後は頼む」

 

そういうと、秋隆が部下に彼女を連行させた。

これでいい。

彼女の情報網を利用しこれからの不穏因子を一掃する。

これこそが俺の真の目的だったのだから。

それでも、心は痛む。

正直、彼女のことは嫌いではなかった。

願わくば、次に会う時にはお互い偽りなく話したいものだ。

 

「若、大丈夫ですか?」

 

「ああ、少し………疲れた……………」

 

額に手を当て、返事をする。

正直、本当に疲れた。

自分を偽り、相手を騙し、体の痛みに耐え生活する。

想像以上の負荷だった。

最後には彼女の心を徹底的に折ることになったし。

もう二度とやりたくないのが本音だ。

 

「とりあえず、今日はもう休む……一人になりたいから帰ってくれていい」

 

「かしこまりました。それでは失礼します」

 

秋隆が部屋を出ていこうとする。

が、そこで言い忘れたことを思い出し、声をかける

 

「秋隆、昨日は怒鳴って悪かった。すまない」

 

「いえ、そんなことお気になさらないでください。それでは、明日の講義が終われば迎えに来ますので。ゆっくりとお休みください、若」

 

微笑みながらそう言うと、今度こそ秋隆は部屋を出ていった。

本当にあいつには苦労を掛けっぱなしだ。

そういえば……昨日は寝てなかったな…。

もう睡魔が限界だ……。

 

気が付けば俺はベッドに倒れこんでおり、あっという間に眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

ふと、目が覚めた。

頭を撫でられてる感触がする。

とても心地いい。

ベッドの脇を見ると、安芸先生がいた。

 

「おはよう、赤嶺君。よく眠れたかしら?」

 

「安芸先生……。おはようございます。なんだか、随分久しぶりに話せた気がします」

 

「そうね。彼女がいる間、話せなかったものね」

 

そう、安芸先生と距離を取っていたのは事前に示し合わせてのことだった。

安芸先生がいると、真鍋さんは警戒して、最悪俺の演技に気付きかねなかったからだ。

俺自身、正直安芸先生の前で演技を続けられるか怪しかったし。

 

「なんというか……ほっとしますね。安芸先生といると」

 

「そうね。私も少し安心したわ。朝食を用意してあるから、食べましょう?」

 

見れば机の上にご飯、納豆、みそ汁、焼き鮭が用意されてる。

 

「あ、用意してくれてたんですね。ありがとうございます」

 

「気にしないで。………すこし、じっとしてて」

 

安芸先生はそう言うと、俺を抱きかかえ、車椅子に乗せてくれる。

どうしよう。

ここのところ、ずっと一人でしてたことだから、こういうふとした優しさがとても心にくる。

何というか癒される。

無条件に信頼できる人が傍に居る。

それだけで、こうも心は安らぐ。

 

「安芸先生、惚れちゃいそうなのでそんな優しくしないでください」

 

「はいはい、馬鹿なこと言ってないで食べなさい」

 

おっと、口に出てしまっていたらしい。

想像以上に心が参っているようだ。

注意しなくては。

 

 

「それで、選抜の方は決まったのかしら?」

 

朝食を食べ終わると、安芸先生が尋ねてきた。

 

「ええ、既に報告書も完成させてあります。あとで送りますね」

 

「分かったわ。それで、あなたは誰を推薦するの?」

 

「三好さんです」

 

「三好さん……か。選んだ理由は何かしら?まさか、性格的な面じゃないでしょ?」

 

やはり、安芸先生も三好さんがどこか銀に似ているところがあると気付いていたらしい。

 

「勿論、そんな事では決めませんよ。決定的だったのは彼女の視野です」

 

「視野……?ああ、そういうことね」

 

安芸先生もこの一言だけで理解したらしかった。

 

「ええ、彼女は自分の訓練中でも、周りの子が困っていたらすぐに気付いた。自分の訓練に集中しながらも周りの様子に注意を払える。この彼女自身も自覚していない才は、実戦で必ず役に立つ」

 

決定的だったのは、俺にクエン酸のサプリを渡したことだ。

どうやら、授業をしてる中で、俺の腕の動きが悪いことに気が付いたらしい。

大方、それを筋肉痛だと考えて、それに効くクエン酸のサプリをくれたのだろう。

本当によく気付いたものだ。

おかげで、ぼろを出したのではないかと思ってかなり焦った。

 

「なるほどね……。三人の連携に合わせることを考えたら、三好さんの方に分があるのね」

 

「そういうことです。……ただ、戦術の講義での成績は楠さんが一番でした。なので、楠さんにはあっちの件を任せたいと考えています」

 

「あれはまだ研究段階の代物でしょ?気が早いんじゃないかしら。上の説得もまだ済んでないんでしょ?」

 

「ええ。ですが、いずれは必要となるものです。どのみち、彼女たちの訓練は継続させるべきだと思います」

 

「そうね……。分かった、こっちでも手を回してみるわね」

 

「はい、お願いします。そういえば、時間は大丈夫ですか?」

 

見れば、もう訓練の始まっている時間になっている。

 

「ええ、他の人に任せてるから大丈夫よ。あなたの講義が終わるまでは傍に居るわ」

 

なんでまた人の琴線に触れる言葉を言うのだろうか。

弱った心も相まって、嬉しくて仕方がない。

いかんいかん、まだ講義も終わってないのだから意識を切り替えないと。

 

 

 

しばらく、安芸先生に連れられ、施設を見て回った。

一週間という短い時間であったが、候補生たちの懸命さは痛いほど伝わってきた。

それを実感できただけでも、ここに来た甲斐はあったと思える。

そうこうしてる間に、講義の時間となり教室へと向かった。

さて、この七日間という短い教師生活もこれで終わりか。

教室を前にして、しばし感慨にふける。

……行こう。

 

 

講義はいつも通り粛々と行われた。

彼女達は皆真剣で、良い生徒だったと思える。

なぜだか、あまり交流もなく、高々一週間近くで過ごしただけなのに、候補生である彼女達に感情移入し始めている。

まったく、なんて様だろう。

 

 

 

「これで、講義を終わります。皆さん、一週間という短い間でしたが、自分の拙い講義に付き合って頂きありがとうございました」

 

やがて、講義が終わり、最後の挨拶と共に頭を下げる。

と、そこで小さな拍手が響いた。

見れば弥勒さんが拍手してくれてる。

やがて、拍手は教室中に広がっていく。

 

参ったな。

俺にはそんな拍手を受け取る資格はないのに。

それでも嬉しいものは嬉しい。

俺は再び、頭を深く下げた。

 

 

 

 

「それじゃあ安芸先生、また連絡しますね」

 

迎えの車に乗り、安芸先生に挨拶をする。

 

「ええ、赤嶺君。ゆっくり休むのよ?」

 

「勿論です。流石に、少し疲れましたしね。では、失礼します。秋隆、出してくれ」

 

そういうと、車が発進し施設から離れていく。

いやはや大変な七日間だった。

やがて、車は病院に到着する。

入院しないといけない体なのに、七日間も外に出ていたのだ。

流石に色々検査しなくてはいけない。

多分また入院する羽目になるだろうけど。

 

 

 

「お疲れ、頼人。検査は終わったか?」

 

「え……銀!?」

 

検査が終わり、病室に移るとなぜか銀が待ち構えていた。

何故だろう。

とても会いたかったのに、銀の妙な迫力のせいで動けない。

まるで蛇に睨まれた蛙だ。

まさか、嘘がばれてるのだろうか?

いや、もしそうなら既に銀は、俺に怒りをぶつけてるはずだ。

こいつはどちらかというと、直情的に怒るタイプだ。

怒ってて、こんなに冷静なはずがない。つまり、銀は怒ってない。

そのはずだ。

というか、そうであってほしい。

 

「ところで頼人、一週間何処にいたんだ?」

 

「あ、ああ……。言っただろ……?高知にいるって……」

 

「そっか。あくまでしらを切るんだ……。これはきついお仕置きが必要だな……なあ、須美、園子」

 

途端、両肩に手が置かれる感触がした。

あかん……ばれてる……。

とてもじゃないが、怖くて振り返れない。

 

「頼人君………。私たちに隠れて危ない事したらどうなるかって……前に話したわよね………?」

 

「ライ君~?今度は私もちょっと怒ってるんよ~?」

 

あ、だめだこれ。

本格的に年貢の納め時らしい。

 

「…………怪我が治るまで待ってもらえないでしょうか?」

 

「無理矢理退院したお前が言うなぁああああ!!」

 

胸ぐらをつかまれ揺すぶられる。

病院ではお静かに…。

 

「アタシたちに嘘までついて!話聞いて、ほんとに心配したんだからな!」

 

「うう……ごめんなさい……」

 

銀にここまで怒られるのは初めてだ。

見れば少し涙目になってる。

罪悪感とか申し訳なさで胸が押しつぶされそうになる。

 

「それじゃあ、お仕置きしないとだね~」

 

と、そこで園子が物騒な事を言い始める。

いつもより笑顔が怖い。

 

「そうね。まさか、本当にお灸をすえることになるとは思わなかったわ…」

 

須美がまたあのバカでかいお灸を取り出す。

超怖い。

 

「頼人、約束を破ったんだ。覚悟はいいよな?」

 

三人に取り囲まれ、とても逃げられそうにない。

 

「お、お許しを……」

 

「だめ」

 

この後、滅茶苦茶お仕置きされて滅茶苦茶お説教された。

須美のお灸もやばかったが、園子のくすぐりが予想以上に辛かった。

大昔ではくすぐりが拷問に使われたというが、その理由がようやくわかった。

 

 

 

 

「はぁ……ひどい目にあった…」

 

ようやくお仕置きから解放され一息つく。

 

「これくらいで済んでよかったと思えよなー。須美なんて首輪着けると言い出してたし」

 

「ちょっと、銀!誤解を招くようなこと言わないの!」

 

本人は否定してるけど、正直言っててもおかしくないよな。

最近の須美ほんと怖い。

 

「はいはい。……だけど、なんで俺の嘘がわかったんだ?結構頑張って隠してたのに」

 

わざわざ、病院の記録まで改竄したのに、なぜバレたんだろう。

 

「ああ、それは園子が気付いたんだ」

 

「ん?どういうこと?」

 

「実はね~ライ君を担当してた先生って私の家でもお世話になってて~まだ退院できる体じゃないって聞いたんよ~」

 

「それで療養の件が嘘だとばれたのか………」

 

「そうだよ~。無理矢理退院してまで高知に行くのはおかしいからね~」

 

なるほど。流石に医者の記憶をどうにかできる訳じゃないからな。

だけど、それを聞き出せるとは……。

園子……恐ろしい子!

 

「まったく、頼人君もせめて一声かけてくれればそれでよかったのに」

 

「……はい、ごめんなさい。次から気を付けます……」

 

散々説教された後なのでおとなしく謝る。

さっき、同じこと言われて反論したら、余計怒られたし……。

 

「ライ君珍しくしおらしいね~。かわいいよ~」

 

慣れない事を言われ、つい顔が赤くなる。

落ち着け、子どもの戯言だ…耐えろ。耐えるのだ。

園子が変わった事を言うのはいつものことじゃないか。

 

「確かに頼人君のこういう姿は新鮮ね。少し……可愛いかも」

 

いかん。須美まで影響されてしまった。

このまま辱めにあう訳には……。

 

「おっ、顔が赤い。さては頼人、照れてるな?」

 

銀がそういいながら頭を撫でてくる。

ええい、かなり恥ずかしいのにこうも撫でられては言い返せない。

反論しようとしても、意識が全部銀の方に持っていかれる。

だんだん何も考えられなくなっていく。

もういいや、今日はこのままおもちゃにされよう。

なんだかんだ言っても、三人といるだけで楽しいんだから。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。