樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

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難産of難産。


或る晩夏

「ウフフ~。ライ君、髪留め似合ってるよ~。次はこのリボンとヘッドドレスもつけてみようか~?」

 

園子が色んな雑貨を片手に車椅子に座る俺の頭をいじくりまわす。

 

「ちょっと待って園子。頼むからもう許して……」

 

「駄目だよ~?今日は何でも言うこと聞いてくれるんでしょ~?」

 

「いや我が儘言っていいとは言ったけど…。銀と須美からも何とか言ってくれ……」

 

「いや~男なら約束は守らないといけませんなぁ、ねえ須美さん」

 

「そうよ、頼人君。おとなしく写真を撮られなさい。安心して、似合ってるわよ?」

 

にやにやしてる銀に、カメラから手を離さない須美。

残念ながら俺に味方はいないようだ。

今日は八月三十日、園子の誕生日。

園子がウィンドウショッピングがしたいと言うので、俺も病院から外出許可をもらい、同行しているわけだ。

今はイネスの中の雑貨屋に入っていて、俺が身動きできないのをいい事に園子が俺をおもちゃにしている。

まさかこんなことになるとは……。

 

「二人とも、絶対面白がってるだけでしょ……」

 

げっそりしながら呟く。

どうやら、この調子で弄ばれるらしい。

誰も止めてくれないうえに、他のお客さんや店員さんが微笑ましいものを見るかのようにくすくす笑っている。

恥ずかしい。

羞恥心が半端ない。

とはいえ、園子は無邪気に喜んでくれてるし、銀と須美も楽しそうだからこれくらいは致し方ないと割り切ろう。

 

「せっかくだから、今日はこのままでいよっか~?」

 

「頼むからそれだけは止めてくれ」

 

やっぱり、割り切れないかも…。

 

 

 

 

「そういえばさ、新しい勇者ってもう決まったんだっけ?」

 

雑貨屋を出て、モール内をぶらぶらしていると、銀に後ろからそんなことを尋ねられる。

 

「ああ、もう決まってて、二学期に合わせて神樹館に転校してくるらしいよ」

 

新しい勇者は三好さんで確定となり、連携のために自分たちのクラスに先んじて転校してくることが決まっている。

正直、小学六年生の二学期という時期に転校を強いるのは申し訳ないと思っていたのだが、本人は気にしていないらしく話はトントン拍子で決まったそうだ。

 

「どんな子なのかしら?愛国心が強い子なら理想的なのだけれど」

 

こんな時でも須美はぶれない。

最早尊敬の念すら抱く。

 

「あっ、私も気になってたんだ~。教えて教えて~?」

 

「ストイックな性格だけどいい子だよ。困っている人をほっとけないところとかは銀に似てるかも」

 

七日間という短い時間だったが、三好さんは根本的なところでとても優しい子だということは分かった。

きっと、三人となら仲良くなれるだろう。

 

「へぇ~、それなら仲良くなれそうだね~。会えるのが楽しみだよ~」

 

「銀にねぇ、それはまた仕込み甲斐がありそうね……」

 

「わーなんか須美が怖いこと言い始めた」

 

彼女たちの楽しげな声が広がる。

やっぱりこういう時間が一番落ち着くな。

とそこで、園子のお腹が小さく鳴った。

 

「えへへ~。歩いてたらお腹が空いてきちゃったよ~」

 

「それじゃあ、あそこ行こっか?」

 

「そうね、さっき準備ができたって連絡もきたし、ちょうどいいわ」

 

「ん~?あそこってどこ~?」

 

俺と須美の会話がよく分からないようで、園子がキョトンとした顔で尋ねる。

 

「へっへー。それは行ってのお楽しみだ!」

 

 

 

 

「パフェだ~!大っきなパフェだよ~~!」

 

園子が目を輝かせて喜んでいる。

テーブルの上には、アイスやフルーツが山盛りになったパフェが用意されていた。

 

「園子のために、三人で超大型パフェを予約しておいたんだ!」

 

「うふふっ。流石にこれは、家では食べられないでしょ?」

 

ここはモール内のデザート屋。

園子への誕生日プレゼントとして、密かに準備していたのだ。

それにしても、思っていた以上に喜んでくれていてよかった。

見ているこっちまで嬉しくなってしまう。

 

「みんなありがと~!とっても嬉しいよ~!」

 

「ふふ、園子ならこういうの好きかなって思って。喜んでくれたみたいで良かったよ」

 

「本当ね。そのっちがこんなに喜んでくれるなんて、私も嬉しいわ」

 

「そうだ、みんなで食べようよ~!ミノさんはい、アーン」

 

「いいのか?よーし、それじゃ遠慮なく、いただきまーす!」

 

園子がパフェをスプーンですくって、銀の口の中に入れる。

銀の顔がとろけている。

凄いうまそうに食べるな。

 

「ほらほら、わっしーもライ君も一緒に食べよ~?」

 

園子の言葉に甘え、俺たちもパフェをつつき始める。

なるほど、うまい。

このパフェは、見掛け倒しじゃない……!

 

「そういえば、誕生日っていえばあの占い思い出すよな」

 

パフェをつつきながら銀がふと、そんな事を言いだす。

 

「占いって園子が持ってきた古い本のあれ?」

 

「『占術秘儀宝鑑』…だったかしら」

 

「そうそれ、よく名前まで覚えてたな須美」

 

「あの占い結構当たってたよね~。だけど、ライ君のはちょっと外れてたんだっけ~?」

 

「いや、今だから言えるけどあの時期本当に色々あったから、正直占い見たときは冷や汗ものだったぞ」

 

ちょうど、俺が安芸先生や秋隆の助けを借りて改革の準備を始めた頃、園子が占いの本を持ってきた。

その本によると、四月生まれの俺と須美は、『古風で頑固な考え方の持ち主。でも周囲の人との触れ合いによって変化していくことも。間もなく大きな変化の時。蛹から蝶へ変わるかもしれません』……とのことだった。

あの頃は安芸先生や須美に感化されたりして、色々考え方を改め始めてた時期だったから聞いたときには戦慄が走った。

俺の場合、古風の意味が違ったけど占いというものも馬鹿にはできないなと思ったものだ。

 

「へえ~。じゃあやっぱりあの本すごかったんだね~」

 

「ほら、銀の占いも当たってたのよ」

 

銀の占いの結果は『正義感がとっても強く、やると決めたことは絶対にやり通す意志の強さを持ちます。でも、そのせいで猪突猛進になることもあるので、注意しましょう。普段の言動とは対照的に心の中は純情です。一番の乙女です』という内容だった。

まさしく、銀の本質を突いている。

本人は一部に納得がいってないみたいだけれど。

 

「いやいや、だから乙女ってのはないって」

 

「いくら自分で否定しても真実は変わらないぞー銀。今年の二月だって―――」

 

「わっ、わぁああ!その話はするなー!」

 

銀がポカポカと俺の肩を叩く。

全然痛くない。かわいい。

 

「やっぱり、ミノさんは一番の乙女だよね~」

 

「そうね、いい加減認めればいいのに」

 

須美と園子がパフェを頬張りながら、のんびりとそんな事を言っている。

平和だなー。

 

 

それからしばらく買い物を楽しんだ後、俺たちは乃木家でちょっとした誕生会をした。

今は園子の部屋に集まっている。

 

「改めて、お誕生日おめでとう、そのっち。これは私たちからのプレゼントよ」

 

須美がそう言って、園子に三つの包みを渡す。

 

「わああ……!こんなにいいの~?開けてみていーい?」

 

「勿論。三つとも三人一緒に考えて用意したんだ」

 

そう言うと、園子は嬉しそうに包みを開けていく。

 

「これは……フォトフレーム?遠足の時の写真だ~!。あ、今度はイネスに行った時の写真に変わったよ~?」

 

「みんなで撮った写真がかわるがわる写るのよ。気に入ってもらえたかしら?」

 

「うん!お部屋に飾らせてもらうね~!」

 

まず、最初のプレゼントはフォトフレームだ。

これには、今まで俺たちが撮った写真のデータがたくさん入っている。

選んだ理由は陳腐なものだが、思い出は金で手に入れられないと思ったからだ。

 

「喜んでくれて良かったよ。ほれほれ、他のも開けてみ?」

 

銀に促され、園子が他の包みも開いていく。

 

「ふぉおお~!ちっちゃなサンチョだ~~!これもしかして手作り~!?」

 

「いひひ、アタシたちの自信作だ」

 

次のプレゼントは小さなサンチョのぬいぐるみだ。

三人で協力して密かに作っておいたのだ。

 

「ありがとう~!これからは毎晩この子と一緒に寝るよ~!」

 

園子がぬいぐるみを抱きしめながら飛び上がって喜ぶ。

 

「もう、そのっちったらはしゃぎすぎよ」

 

「まあでも、園子らしいよな」

 

須美と銀が楽しそうに微笑む。

 

「ほら園子、最後のも開けてみてくれ」

 

「うん!これは~?ねこさんのストラップだ~!」

 

「ふふ、実はそれ私たちのとお揃いなのよ」

 

須美がそう言って園子のと色違いのストラップを取り出す。

つられて俺と銀も自分のストラップを園子に見せる。

少し気恥ずかしいな…。

 

「……わっしー、みのさん、ライ君……本当にありがとう~!こんなに嬉しいプレゼント初めてだよ~!」

 

「ははっ、園子は大げさだなー」

 

「ううん、そんなことないよ~。私、三人に会えて良かった。これからもずっと一緒にいてね」

 

「そのっち……ええ、私たちはずっと一緒よ」

 

「ああ、そうだよ。たとえ、御役目が無くなっても、ずっとな!」

 

彼女達が嬉しそうに言葉を交わす。

本当にその姿は微笑ましくて、尊くて、何よりもかけがえのないものだと思う。

この子たちに会えて良かったと心からそう思う。

 

「そうだな……今更、離れてくれなんて言われても聞いてやらないんだから」

 

「いや、アタシとしちゃあ、お前が一番心配なんだが……」

 

「そうね、勝手に突っ走っちゃうし」

 

「ライ君無茶ばっかりしてたしね~」

 

「そ、その節は御迷惑を……」

 

彼女たちの笑い声が響く。

それだけでなぜか心地よく思える。

本当に、こういう時間がずっと続けばいいのに。

 

 

 

やがて、夜も更けその日は解散となった。

銀と須美は先に帰ったが、俺は病院への迎えが来るまで園子の部屋で待たせてもらう。

しばし、園子と隣同士座って待つ。

 

「それにしても~ライ君と二人きりになるなんて久しぶりだね~」

 

「確かにね。このところ、ずっとみんなと一緒だったし」

 

御役目が始まってからは特にそうだ。

彼女達も常に三人で行動してたし。

 

「……ねぇ、ライ君覚えてる?ライ君が初めて誕生日プレゼントくれたときのこと」

 

「ああ、覚えてるよ。確か、クッキーか何か渡したんだっけ」

 

随分前のこと、初めてお菓子作りに挑戦した時のことだったからよく覚えている。

園子がとても喜んでくれた記憶がある。

 

「そうだよ~。私、すっごく嬉しかったんだ~。誕生日プレゼントもらうなんて初めてだったから~」

 

「あー。そういえば、なんでも誕生日前に揃っちゃうんだったっけ」

 

「そうなんよ~。だから、あの時のお菓子、もったいなくてなかなか食べられなかったよ~」

 

「いやいや、それはすぐに食べてくれよ」

 

それにしても、随分前のことなのによく覚えていたものだ。

少し、感心してしまう。

 

「ねえ、ライ君」

 

「ん?どうしたんだ、急に改まって」

 

「ありがとう。いつも、私たちを守ってくれて」

 

園子が俺の手を握り、優しい表情でそんな事を言った。

一瞬、言葉に詰まってしまう。

 

「……………………お礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だよ。いつも怖い思いをして、それでも頑張ってくれてるじゃないか」

 

「………ライ君はいつもそうだよね。いつもみんなのために何かしてて、でもそれを当たり前みたいに思ってる。私たちが今こうしていられるのはライ君のおかげなんだよ?本当のことを聞いても平気でいられたのは、ライ君が諦めずに頑張ってくれてたのを知ってたからなんだよ?」

 

「………園子」

 

「私にもライ君のしてること手伝わせて」

 

園子が俺の眼を見て、はっきりと言った。

なぜだか、園子がいつになく大人びて見えてしまう。

 

「……園子はもう十分頑張ってくれてるんだから、そんなこと気にしなくていいんだぞ?」

 

園子は乃木の長女で勇者だ。

それに普通の大人より、よほど鋭かったりする。

協力してくれたらきっと、これまで以上にいろいろなことがスムーズに運ぶだろう。

けれど、ただでさえ危険な勇者の御役目を行っているのに、これ以上大変な目に合わせたくない。

できれば、三人にはこんなこと気にせずに日常を送っていてほしい。

 

「もう、ライ君こそ頑張りすぎなんだよ~。入院してても無茶しちゃうし~」

 

「それは………でも園子がやる必要なんてないんだ。今は沢山の人が手伝ってくれてるし、心配しなくても………」

 

「私がやりたいんだよ~。それに、ライ君ほっといたらまた無茶しちゃうでしょ?………私は、もうあんなのやだよ」

 

彼女たちの泣き顔がフラッシュバックする。

そこを突かれると痛い。

 

「………………でも」

 

それでも園子を巻き込みたくはない。

これはたんなる我儘だけど、そう簡単には譲れない。

 

「私聞いちゃったんだ~。満開と…散華のこと……」

 

「――――――」

 

満開、それは初期に考案された勇者システムのアップデート機能案の一つ。

勇者が戦っていくうちに溜め込まれていく力を一気に開放し、全能力を一定時間飛躍的に向上させるシステム。

そして、満開を重ねる頃に勇者の力は強くなっていく。

単純に強さだけを追い求めるならこれ以上のシステムは存在しないだろう。

しかし、このシステムには散華と呼ばれる、体機能を喪失させるというおぞましい代償があった。

それを俺はどうしても許せなかった。

有用性を理解はできても、納得はできなかった。

故に、本システムの実装は見送られた……というよりも見送られるように追い込んだ。

この案の存在は忌まわしく思うが、このデメリットを材料に加えることで、勇者輩出家を改革に踏み切らせることができた面もあり、正直、複雑な気持ちだ。

ただ、こんなシステムが考案されていたことは、三人には知らないでいてほしかった……。

 

「園子……二人には……?」

 

「伝えてないよ~。きっとびっくりしちゃうから~」

 

「そう……か……」

 

「……本当、ライ君は一人で抱え込みすぎだよ~」

 

「……ごめん」

 

園子に余計な重荷を背負わせることになってしまった。

そのことを思うと胸が痛む。

 

「謝ることないよ。私たちの為だったんだよね。……だけどね、だからこそライ君が私たちを守ってくれてるように私もライ君を守りたい。わっしーやミノさんを守りたいんだよ…。だから……お願い…」

 

「…………………」

 

「駄目だっていうなら、私にも考えがあるよ」

 

園子は本気だ。

その目を見れば分かる。

……まさか、園子にここまで言わせてしまうとは。

きっと、今の園子ならどんなことでも押し通せてしまうだろう。

……俺の負けか。

 

「……本当にいいのか?多分、すっごく頼ることになるし、色々大変になると思うぞ?」

 

「わぁ~。頼ってくれるの~?嬉しいよ~」

 

園子がにこりと笑い返す。

この無邪気な笑顔には毒気を抜かれてしまう。

やはり園子には敵わない。

 

「はぁ……分かったよ。だけど、それは次の襲来を乗り切ってから。それでいい?」

 

そういうと園子の顔がほころぶ。

 

「うん!私頑張るよ~!」

 

……はぁ。

結局、頼ってしまうことになった。

不甲斐ない。

だけど、嬉しさも感じてしまう。

 

「……ありがとう、園子。正直、心強いよ」

 

そう言って、園子の髪をなでる。

すると、園子は目を細めて俺に抱き着いてくる。

温かい。

この温もりを大切に思えてしまう。

我ながらここまで絆されるとは思っていなかった。。

本当に……気付けば、随分と大切な存在が増えてしまった。

もう二度とこの子たちは泣かせたくない。

……もっと頑張ろう。

 

 

 

「若。今日は楽しめましたか?」

 

迎えの車の中、秋隆が車を運転しながらどこか楽しそうに聞いてきた。

 

「ああ、楽しかったよ。毎日がこうだといいんだけど」

 

「そういうわけにもいかないのが辛いところですね」

 

「ほんとにな……。それで、検査の実施は?」

 

頭を切り替え尋ねる。

確か今日、検査の日程を決める会議があったはずだ。

 

「九月中旬頃に開始されるそうです。やはり、先日の一件が大きかったようですね」

 

「そうか、それはよかった」

 

ほっと一息をつく。

上里の一件以来、大赦内の不穏分子は最早完全に力を失い、改革派の動きが妨げられることは無くなった。

そのおかげで、勇者適正値の検査実施の目途が立ったのだ。

随分と風通しが良くなったものだ。

未だ、全ての改革が終わったわけではないが、不要な手続きや慣習の多くが廃され、組織の意思決定プロセスが大幅に変わったことにより、以前とは比べ物にならないほど、大赦は組織としての柔軟性を取り戻していた。

そのおかげで、以前に比べ民間からの人材を大幅に登用できるようになるなど、様々な面でメリットが増えていっている。

勇者システムの開発部がいい例だ。

改革後、開発部には大幅な人員の増加が行われた。

無論、今までも優秀な人材が採用されていたのだが、大赦の性質上、家柄や思想などの面も採用材料に入っていた。

しかし、改革後は完全な能力主義となり、今まで大赦が忌避してきたような人物が各方面から多く登用された。

はぐれ者、一匹狼、変わり者、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児、挙句の果てには神樹の一部を切り取って解析したいなどと言い出す危険人物までもが開発部に加わった。

多少の不安はあったが、大幅に研究が進んだのは事実であり、満開の代替案など成果も確認できている。

 

 

「……そういえば、真鍋さんはどうだ?」

 

「予想以上に働いてくれています。能力は確かですし、いい拾い物をしたものです」

 

「そうか、彼女にも何か思うところがあったのかもな」

 

真鍋さんは今、秋隆の管轄で働いている。

彼女の持っていた情報網は想像以上に役に立ち、不穏分子の無力化に大いに貢献してくれた。

それにしても、思っていた以上に有能らしい。

 

「それで、政界に変わった様子は?」

 

「ええ、やはり多少の混乱は見られますが、表立って新体制に反発する人間はいません。念のため、上里や反対派とつながりの深かった者はマークさせています」

 

「引き続き頼む。ないとは思うが、これを機に大赦から実権を奪おうとする輩が出るかもしれん。注意を怠らないでくれ」

 

「かしこまりました。しかし、連中にそこまでの度胸はありますかね?」

 

「今の状況を正確に把握している政治屋なんていないんだ。失脚した連中に唆されたらやりかねんよ」

 

「真実を知らなさすぎるのも考え物、というわけですか」

 

「ああ。とはいえ、事が事だ。いつかは変えるが、今しばらくは無知のままでいてもらう必要がある」

 

少なくとも、大赦の改革が完了するまでは余計な横槍を入れられるわけにはいかない。

政府には今しばらくおとなしくしておいてもらう必要がある。

 

と、そんな話をしていると気が付けば病院に着いていた。

車から降ろしてもらうと、少し涼しさを感じる。

もう、夏も終わりか。

今年の夏は寝てばっかだったなと、自分の有様に苦笑してしまう。

来年はもっとみんなと過ごしたいと思う。

だから―――次の準備を始めよう。

 

 

 

 

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