樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

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ゆゆゆ3期決定やったー!


覚悟の在処

九月下旬、俺は大赦の訓練施設に来ていた。

理由は勿論、勇者の訓練を視察するためだ。

前衛組の連携を見るが……中々悪くない。

夏凜が合流して一か月足らずだというのが、信じられないほどだ。

 

「くっ、ワンテンポズレてる!銀、園子、もう一回お願い!」

 

「了解!最初からでいいか?」

 

「とーぜん!」

 

「よ~し、もう一回がんばろ~!」

 

夏凜には特に、銀と園子との連携を重視して訓練してもらっている。

これは勇者システムがアップデートされたことにより、須美の武器がライフルに変更されたことに起因している。

須美がこれまで以上に他の勇者とは距離を置いて戦うようになった分、前衛を務める三人の連携がより一層重要となったからだ。

勿論、四人での連携訓練も行っているが、須美が新しい武器の調整訓練を行っている際などには、こうして三人だけでの連携訓練を行っている。

正直、夏凜が他の三人の技量についていけるか少し不安だったが、よくやってくれている。

それにしても、夏凜も随分と馴染んできたものだ。

銀たち曰く、転校した直後は中々以上の尖り具合だったらしい。

ただ、一緒に訓練を行ったり、連携のために再び合宿をする中で信頼関係が築けたようで、また銀たちがいろいろと連れまわしてくれたこともあり、結構仲良くなってきているみたいだ。

夏凜本人は、仲良くなってないと言い張っているが、なんだかんだで彼女たちと行動を共にしていることからも照れ隠しなのは明らか、いい傾向だ。

ちなみに、俺は少し距離を取られてた。

哀しい……。

まあ最近になって徐々に話してくれるようになってきたからいいけど。

 

「安芸先生から見て、最近の夏凜はどう思いますか?」

 

「周りに合わせて連携を取るのがうまくなってきたわね。三ノ輪さんが引っ張ってくれてるのが大きいのかしら。学校でも訓練でもリラックスした表情が増えてきているし、この調子なら心配ないと思うわよ?」

 

彼女達から視線を離さないまま、隣にいる安芸先生と話す。

未だ、退院できていない俺にとって先生の情報は貴重だ。

 

「それは良かった。中々、様子を見られませんからね。少し不安だったんですよ」

 

「無理もないわ。ところで、退院は三日後だったわよね?」

 

「ええ、ようやく学校に戻れます」

 

「長かったわね……。足の調子はどう?この前の手術から、もう二週間ほど経ってるでしょ?」

 

「はい。術後の経過も良好で、リハビリも続けてるんですが、まともに歩けるようになるにはまだまだ時間が必要ですね。もうしばらく車椅子生活は続きそうです」

 

「そう……手伝えることがあったら何でも言うのよ。力になるから」

 

「ありがとうございます。でも、もう十分力になってくれてますよ」

 

そうこう話しているうちに、予定の時間が近づいてきた。

今日見た限りでは、仕上がりは上々。

それが分かったことだけで十分だな。

 

「すみません安芸先生、お先に失礼します」

 

「あら、最後まで見ていかなくていいの?」

 

「ええ、連携は問題ないようですし、それに人と会う約束があるので」

 

「ああ……今日だったのね」

 

「そういうことです。それじゃあ、皆によろしくお願いします」

 

そう言って、俺は訓練場を去った。

銀たちには後で連絡を入れておこう。

 

 

移動した先は、大橋近くのある喫茶店。

貸し切りにしているため、店内は閑散としていた。

奥の席へ行くと、背の高い、容姿の整った男性が俺をみて立ち上がり、お辞儀をする。

 

「お待たせしました。三好春信さん。お会いするのは初めてですね」

 

「いえ、赤嶺様が初めて本庁にいらっしゃったときに一度お目にかかっています。もっとも、あの時は仮面をかぶっていたのでお気づきにならなかったのも無理はありません」

 

「そうでしたか、それはとんだ失礼を」

 

三好春信。

夏凜の兄で現在、大赦で働いている。

若くして頭角を現しつつある、非常に優秀な人物だ。

前々から目をつけており、間接的に接触はしていたのだが会うのは初めて。

それにしても、こういう人たちに敬語を使われるのは、まだまだ慣れないな。

席についてもらい再び話しかける。

 

「それでは三好さん、改めて宜しくお願いします。あと、自分に敬語は使わなくてもいいですよ」

 

「なら、そうさせてもらうよ。それと、下の名前で呼んでくれていいよ。妹と紛らわしいでしょ?」

 

これはまた気さくな人だ。

この感じ、どこかの誰かを思い出すな。

 

「それではお言葉に甘えて、春信さんと呼ばせていただきます。それと自分のことも名前で呼んでくださって構いません」

 

「分かった。此方こそよろしく、頼人君。いつも、妹が世話になっているね。様子はどうだい?」

 

「訓練などでも、よく頑張ってくれています。他の勇者とも仲良くやっているみたいで、学校でもよく一緒に行動しているようですし、訓練の調子も上々。いい妹さんをお持ちですね」

 

「そうか……。ありがとう。少し、安心したよ」

 

春信さんは表情を緩ませ、ふっと息をついた。

きっと、あまりお互いの近況を知らないのだろう。

 

「妹さんのこと、大切に思っていらっしゃるんですね」

 

「ああ……、もっとも妹の方からは嫌われてるみたいだけど。随分長いこと、まともに会話もできてないから」

 

「いや、きっと彼女は春信さんを嫌ってはいませんよ。この前、軽く話を聞いた感じでは、むしろあなたに嫌われてると思い込んでいるみたいでしたから」

 

少し前に夏凜に春信さんの話題を振ったら、嫌われてるかのような事を言っていた。

ある意味、似たもの兄妹なのかもしれない。

 

「え……!?まさかそんなはず……!!」

 

春信さんが随分と驚いた顔をする。

やっぱり、夏凜に嫌われてると思っていたらしいな。

きっと、色々とすれ違いがあったのだろう。

それにしても、大事に思っている妹が勇者に選ばれるというのは、辛いはずだ。

それなのに、妹を巻きこんだ張本人を前にこれほど冷静に、優しく話しかけられるとは良い人、なんだろうな。

この人ならば、任せてもいいだろう。

 

「今度ゆっくり話してみてください。連絡は取れるようにしておきますので」

 

「いいのかい?……ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

「これくらい、気にしないでください。そう大したことじゃありませんし」

 

「そう言ってもらえると助かるよ。……それじゃあ、用件を聞こうか?」

 

春信さんが不意にまじめな顔になる。

切り替えが早いな。

こちらとしても助かる。

 

「……春信さんは、今の大赦内で赤嶺がどのように思われているかご存じですよね?」

 

「ああ、それはもう恐れられているね。上里の一件が決定的だ」

 

「はい。必要とはいえ、少々やりすぎてしまいまして。赤嶺を危険視する面々を放っておくと、次なる不穏分子になりかねません」

 

改革を通して、赤嶺はえげつない程に徹底的に反対派を排除した。

しかも、大赦内で最高レベルの権勢を誇っていた上里の御老体すらも排除してしまったのだ。

赤嶺を恐れる名家の連中は多く、それにより発言力も強まった。

しかし、過度な恐怖は時として理性を鈍らせる。

こういう状況を放っておけば赤嶺を危険視するあまり、その存在を排除しようなんて連中が出かねない。

流石に、これ以上の厄介事は御免被りたい。

 

「……そういうことか。つまり彼らを懐柔してほしいと」

 

「話が早くて助かります。彼らが次なる不穏分子になる前に、あなたに鎮静化して頂きたい。これ以上、組織が混乱するのは良くありませんからね。どうでしょう、引き受けてくれますか?」

 

「大赦を可能な限り安定させたいわけか。だけど、今の自分の立場では纏めきるのは難しい。なぜこの件を自分に?」

 

「理由はいくつかあります。春信さんは大赦内のあちこちにパイプを持ち、人心掌握にも長けている。能力面では今の大赦であなたに比肩する者はいないでしょう。それに、妹さんが勇者に選ばれている。赤嶺を敵に回しても対応できると皆思うでしょう」

 

「まさか、赤嶺と対立する派閥を作れと?」

 

「いえ、別に対立してもらう必要はありません。ただ、彼らの受け皿になっていただければと」

 

「なるほど。それで、方法は考えているんだろうね?」

 

「ええ、まず、あなたには半年で上まで駆け上がってもらいます。勇者を身内に持つ貴方が上に立ち、彼らを纏め上げれば、危惧される事態にはならないでしょう。ある種の抑止力という奴ですね」

 

おそらく春信さんなら、自力でも、あと二年あればかなり上のほうまで行けるだろう。だけど、これほど優秀な人材には、少しでも早く出世してもらったほうが都合がいい。

 

「半年……?無茶苦茶だ。何故そうまで急ぐ?……いくら何でも速すぎるし、状況を分かっているのならある程度そちらで管理できるはずだ。それに、そういった人間を纏めるだけなら、俺を出世させなくても他にいくらでも手段はある。他にも何か、理由があるんだろう?」

 

「ええ、おっしゃる通り、貴方を出世させる理由は他にもあります。半年後から始まる、あるプロジェクト。春信さんにはそちらを主導していただきたいと思っています。そのためにも、貴方には出世してもらう必要がある」

 

「もしや例の……?随分と買ってくれてるようだが、実際問題、そんなことが可能なのか?」

 

「問題ありません。そのための準備は既にすましています」

 

「……準備って具体的には?」

 

「上から色々と仕事を回します。非常に扱いが難しいものですが、その分成功させたときの手柄は大きい。貴方なら期待通りの結果を出してくれると信じてます。あとは、その手柄を最大限評価し、上層部へ続く切符とします。幸い、改革も完了していないのでポストの一つくらいは作れますしね」

 

「……そんなことができるとは……まるで君は大赦そのものじゃないか」

 

少し、顔が引きつっている。

まあそう簡単には信じられないよな…。

それにしても、この人でもホームズとか読むんだな。

少し意外だ。

 

「自分じゃなくて家の力ですよ。この件に関して、赤嶺が乃木と上里とこの方法での解決で合意した結果です。自分はあくまで提案しただけですから。」

 

「実質君が指示したようなものじゃないか………。それで……その仕事って例えば?」

 

春信さんが小さく溜息をついた後、俺に尋ねてくる。

 

「結界外の調査計画の立案だったり、次期勇者に関することだったり、他にも新プロジェクトに関わるものを色々沢山やってもらいます。大変だと思いますけど、頑張ってください」

 

「それ、やるの一つずつだよね……?」

 

「並行してやってもらいます。無理難題を押し付けられてる形にしないと、ただただ贔屓されてるようにしか見えませんからね。大丈夫、貴方ならできるはずです」

 

「……拒否権は?」

 

「勿論ありますよ。あくまでこちらがお願いする形ですので。ただ、どのみち仕事は振ります」

 

「聞かなきゃよかった……」

 

春信さんががっくりと肩を落とす。

正直、非常に膨大な量だし、一件一件が面倒な仕事だから、頼むのは非常に申し訳ない。

とはいえ、これくらいしないと半年という馬鹿げた短期間で上に駆け上がってもらうことはできない。

やってもらわないと少し困ったことになるし。

 

「安心してください。可能な限り優秀な人材をつけますので」

 

「やれやれ……。知り合いが君のことを悪魔だと呼んでたけど、その理由がなんとなく分かったよ……」

 

「あれ、真鍋さんとお知り合いだったんですか?」

 

「ああ、彼女からは色々と聞いたよ。君を子供だと思うなっていう彼女の言葉は正しかったようだ」

 

考えてみれば、真鍋さんも春信さんも顔が広い人物だ。

真鍋さんの仕事を考えると、顔を合わせていたのも当然か。

それにしても、やっぱり俺への恨みは中々のようだ。

会う機会があったら菓子折りの一つでも用意しておこう。

 

「ははは………それで、引き受けていただけますか?」

 

「答える前に、いくつか質問をしてもいいかな?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

さて、今度は俺が試される番か。

 

「まず、君が自分から出張った理由はなんだ?ほかの人を使えばわざわざ人目を気にすることもないし、リスクも低いはずだろ?」

 

「そうですね……春信さんとはこの先長い付き合いになると思いましたし、こういう大事なことは直接自分で話したかったんです。それに、春信さんとは前々から話してみたかったんですよ」

 

「それだけじゃないでしょ。俺を見定めに来たんだろ?」

 

「あ、やっぱりわかっちゃいます?」

 

「なんとなくね。どうやらお眼鏡にかなったようだけど、期待にそぐわなければ、どうするつもりだったんだい?」

 

「いやだなぁ、別にどうもしませんよ。ただちょっと頼む内容が変わっただけです」

 

「どうだか…どうせ碌な事じゃないだろうし。それで、も一つ質問いいかな?」

 

春信さんが再び表情を引き締める。

こっちが本題という訳か。

 

「なんでしょう?」

 

「なぜ満開の実装を却下した?どうせ、裏で君が糸を引いていたんだろう?」

 

その件に俺が関わっていたことに気づくとは……。

やはり、この人はかなり優秀だ。

しかもこの質問、一発で俺という人間を見定める腹か。

妹とも関わりのある問題だというのに、平然と聞けるとは剛毅なことだ。

 

「通達通りですよ。あんな非人道的な機能は認められませんからね」

 

「それは知っているけど、それだけじゃないはずだ。一番バーテックスの脅威を分かっている君なら、満開の使用は避けても、実装そのものは止めないはずだ。特に、以前の勇者システムが能力不足だと一番最初に指摘し、その身を投げ打ってまで戦った君がすることとは正直思えない。」

 

流石鋭い。

これは、今まであまり俺と関わってこなかったからこそ気付けたのだろう。

 

「そんなこと言って、本当は薄々気が付いてるんじゃないですか?」

 

「君の口から聞きたいんだ。それとも本当に情だけが理由なのか?」

 

「……情が一番の理由であることは否定しません。しかし、個人的な感情を無視しても、満開の実装は止めたでしょう。確かにあれは戦闘力という面では凄まじい有用性を持ちます。しかし、それ以外のメリットが皆無。それどころか実装した場合、全てを台無しにしかねませんからね」

 

「全てを?」

 

「ええ、順を追って話しましょうか。そもそも大赦は巫女や勇者という個人に頼り切った組織であるにもかかわらず、個々人に対する扱いを軽視しすぎていました。それは改革前の巫女の扱いや、勇者へのサポート体制の不備からも明らかです。一連の改革はこれは今後のことを考えると、絶対に是正しなければならなかった。あなたなら、その理由もお分かりのはずだ」

 

「やはり、本気であれを……」

 

「ええ、そのためにこれからより多くの人材が必要となる。そして、大赦が個人を犠牲にする組織だと思われるのは何としても避けたい。仮にそう思われれば、協力を渋る者や最悪、反体制的な勢力が現れかねませんからね」

 

「なるほど、大赦は正義の味方と思わせる必要があると」

 

「ええ、なので満開の実装自体が悪手なんです」

 

「それなら、情報を操作すればいいだけじゃないのかい?大赦のお家芸だろ?」

 

「今は改革でごたついています。中途半端な情報操作はむしろ組織への不信感を増長しかねません。それに、いつまた不穏分子が発生するかも分からない。満開実装の情報がそういった者たちに漏れたら非常に面倒なことになりますし、下手をすれば満開の実装自体が不穏分子を生むきっかけにもなりかねませんしね」

 

「そうか、となると満開の情報がこっちまで流れてきたのはやはり、大赦の意思表示という訳か」

 

「ええ、大赦の変革を知らしめ、なおかつ個人を切り捨てることはしないという意思の表れです。どのみち、改革が始まった時点で後戻りはできなくなったんですから」

 

そう、今後の計画のためにも、満開の実装は絶対に阻止しなければならなかった。

そして、大赦内の一定以上の立場の者にこの件を通知したのも、組織が根本的に変革したのだと彼らに自覚させるために必要だった。

こんな忌々しい計画でも使い道があったというのは、少し複雑だけれど。

 

「だが、実際問題、危険もあるのでは?次の襲来は今までで最も厳しいものだと言われているだろ?」

 

「確かに、次の襲来は大変なものになると思われます。ですが、今までの戦いのほうがよほど綱渡りなものでした。アップデート後と比べると、勇者の攻撃力も防御力も低く、また、敵を完全に殲滅する手段もなく、今世界が滅んでいないのが不思議なくらいです」

 

「つまり、今の戦力で十分だと言いたいのかい?」

 

「次の襲来のレベルが分からないので、十分だと断言するのは危険でしょう。しかし、今の彼女達には以前の三体が同時に襲来したとしても、完封できるだけの力があります。次の襲来が複数体によるものでも対処は可能であると考えています」

 

「少し、甘い考えのようにも思えるけど?」

 

これはまた随分と厳しい質問だ。

しかし、だからこそ安心できる。

彼ならばきっと、どんな時も感情に左右されずに正しい判断を下せるだろう。

この人なら仕事を任せられるという確信を持てたのは僥倖だ。

 

「かもしれません。ですが、勇者である彼女たちはどんな時でも諦めずに戦い続けてくれていました。ならば、彼女達に守られている我々が、安易に満開という手段に逃げるなんてことは許されるはずがありません。最大限、出来ることをすべきなんですから」

 

「勇者の力を信じるということか……」

 

「いえ、満開の実装見送りを受けて、色々な人がそれはもう頑張ってくれました。自分はその人たちの努力と、勇者の力の両方を信じたいと思います」

 

安芸先生や秋隆、両親、乃木や鷲尾、開発部など協力してくれた方々、彼らのおかげでここまで準備が整った。

そして、いつも頑張ってくれている勇者たちなら、この準備を最大限活用してくれるだろう。

訓練を見ていれば分かる。

本当に、自分一人では何もできなかった。

だからこそ、彼ら、彼女らの力を信じられる。

上も腹を決めてくれた。

勇者も世界も一蓮托生という訳だ。

 

「たとえ、世界が滅んでも?」

 

「これで世界が滅ぶようなら、そこまでです。これだけやっても、満開を実装しなければどうしようもないというのならば、どの道、この世界に未来はありません」

 

「世界を賭け金にするというのか?」

 

「はい。それが私の、いえ私たちの覚悟です」

 

世界をどうにかしようというのなら、この先奇跡なんてものはダース単位で必要なのだ。

この程度の覚悟も持てないのなら、よりよい未来を掴めるはずもない。

 

「……………なるほど……大赦も変わるわけだ。君は根っからの理想主義者なんだな」

 

「自分を理想主義者だと思ったことはありませんよ。ただ自分に出来ることをしているだけですから」

 

「やはり、君は面白い。分かった。さっきの話、受けさせてもらうよ。確かに君とは長い付き合いになりそうだ」

 

表情をふっと緩ませながら春信さんが言った。

どうやら、自分は認められたらしい。

少し安心する。

 

「それは良かった。それじゃあ早速こちらの資料を」

 

手元から、今後の仕事に関する資料を手渡す。

 

「………このレベルのを並行して?」

 

資料を読みだすと急に春信さんの顔が青くなった。

断りたいと顔に出ている。

 

「半年間だけですから頑張ってください。それからは多少、楽になるはずです」

 

「回す量……減らしてもらっても?」

 

「駄目です。回す仕事は全部、この半年の間に済ませないといけない代物ですし、これくらいしないと上層部へは食い込めませんよ?それに、半年後からは上の立場でやってもらいたいことがたくさんありますから」

 

「……鬼」

 

春信さんが急に恨み言を吐き出す。

仕事を振る張本人が言うのもなんだが、気持ちは分かる。

とはいえ必要なことだし、撤回するわけにはいかない。

 

「まぁまぁ、その代わりに色々と便宜は図りますので」

 

「……夏凜の写真」

 

「え?」

 

顔を俯かせていた春信さんがぼそりと呟く。

一瞬、何を言われたのか分からなくなって聞き返してしまう。

追い詰めすぎたのだろうか。

 

「これから毎週、夏凜の写真を送ってくれ。それで手を打とう」

 

「そんなことでいいのなら……」

 

「よし、それと……夏凜に手を出そうとするやつがいたら………ね?」

 

「あの、小学生相手に何言ってるんですか?」

 

急に元気になったと思ったら、春信さんは物騒なことを言い出した。

しまった、便宜を図るなんて安易に言うべきではなかったか。

 

「あんなにかわいい子なんだよ!?周りの男どもが放っておくわけないじゃないか!」

 

「頼むから落ち着いてください……。さっきまでのあなたはどこに行ったんですか……?」

 

やばい、この人かなりのシスコンだ。

違う意味で夏凜の兄とは思えない。

意外な弱点を知ってしまった。

早いとこ夏凜に何とかしてもらわないといかんかも……。

それはさておき、春信さんからの承諾を得られたのは大きい。

これからの計画の確度もあげられるし、万々歳だ。

 

 

 

「あ、ライ君戻って来たよ~」

 

「おお、やっと来たか」

 

「あれ、みんななんでここに?」

 

話し合いが終わり病院へと戻ると、病室に銀たちがいた。

丸椅子を並べて、駄弁っていたようだ。

夏凜までいるのは少し珍しい。

ちょっと嬉しくなってしまう。

 

「なによ、頼人。来ちゃ悪かったのかしら?」

 

「いや、来てくれたのは嬉しいよ。特に夏凜は中々来てくれないから」

 

「べ、べつに、今日はたまたま時間があったから来てやっただけよ!」

 

「それでも嬉しいよ。ありがとね」

 

そう言うと夏凜は顔を赤くしてそっぽを向く。

その赤くなった頬を園子がツンツンとつつく。

 

「相変わらずにぼっしーはツンデレさんだね~」

 

「誰がツンデレよ!」

 

それにしても、にぼっしーとはまた変わったあだ名だよな。

初めは、みよっしーとか呼んでたらしいけど、先日行った合宿であまりにも夏凜がにぼしを食べてたことから、にぼっしーに格上げになったらしい。

夏凜もしばらくは抵抗していたようだが、最早諦めている。

 

「あはは……それで、何かあったの?」

 

「特に何かあったという訳ではないのだけれど、今日頼人君、訓練の途中でどこかに行ってたでしょ?少し、気になってしまって」

 

「まったく、アタシらの訓練ほっぽってどこ行ってたんだ?素直に吐けば、かつ丼くらい用意してやるぞー?」

 

「田舎のおふくろさんが泣いてるぜぇ~」

 

「あんたらはどこの刑事よ」

 

しまった。

病院に戻ってから連絡すればいいと思ってたけど、もう少し早くに連絡しておけばよかったな。

これ以上要らない心配をかけるのはよくない。

 

「ごめんごめん。実は夏凜のお兄さんに会ってたんだ。すごく忙しい人だから、こういう時にしか会えなくて」

 

「え、兄貴に!?」

 

夏凜が立ち上がり、叫ぶ。

流石にここでお兄さんの話が出てくるとは思っていなかったのだろう。

 

「そうだよ、夏凜も随分お兄さんに愛されてるねー。夏凜のこと心配してたよ?」

 

「兄貴が……本当に……?私のこと、嫌ってたんじゃ…?」

 

「むしろあの感じだとお兄さん、夏凜のこと大好きだよ」

 

「だから言っただろ、夏凜。弟や妹が嫌いな兄ちゃん姉ちゃんはいないって」

 

「で、でも…兄貴、私に話しかけなくなったし……てっきり愛想尽かされたって………」

 

「全然違ったよ。逆に、夏凜に嫌われてるって思いこんでたから」

 

「は!?」

 

夏凜が一際大きく声をあげる。

どうやら、かなり意外なことだったらしい

 

「夏凜、自分からお兄さんのこと避けてたでしょ。それで、嫌われたと思って話しかけづらくなったんじゃない?実際、お兄さんへこんでたし」

 

「そんな……それなら、そうと……」

 

「まあ、いい機会だと思うわ。今度、お兄さんとゆっくり話してみてはどうかしら?」

 

「そうだね~。お兄さんもきっと喜ぶよ~」

 

「ほら、端末にお兄さんの連絡先送っといたから」

 

「べ、別に私は話さなくても……!」

 

「いいから連絡してみなって。兄妹なんだから、そんなに肩ひじ張る必要ないだろ?」

 

「そうそう。それに、お兄さんも寂しがってたみたいだから、ね?」

 

「……そ、そこまで言うならしょーがないわね!今度連絡してやるわ!」

 

銀と俺が促すと照れながらも夏凜は承諾した。

ふう、この分だと二人とも仲直りできそうだ。

よかった、よかった。

春信さんもさぞ喜ぶことだろう。

とそこで、須美に肩を掴まれる。

 

「ところで頼人君、本当にそれだけよね?ほかに危ないことしようとしてないわよね?」

 

言葉は穏やかなのに、圧がすごい。

謎の恐怖を感じる。

 

「は、はい!誓って危険なことはしておりません!」

 

「本当ね……?もし、また嘘を吐いてたら……」

 

須美が手元から縄を取り出す。

今度は縛られるんだろうか…?

 

「落ち着けー須美。そんなに脅かしたら聞けるもんも聞けなくなるぞー?」

 

「でも確かに、にぼっしーの話をするだけなら、病院で話せばいいよね~。他にも理由があったんでしょ~?」

 

流石に園子は鋭いな。

こういうことに、すぐに気付いてしまう。

 

「実は大赦がらみでちょっとした仕事を頼んでまして…。会ってたのが露見しますと少々困ったことになりますので、皆様におかれましては何卒口外されぬようお願い致します」

 

「なんで敬語なのよ……というか、ばれたらまずいってどういう状況よ」

 

「色々あるんだよ……でも危ない事ではないので信じてください」

 

「……はぁ。一先ず信じてあげるわ。だけど、何かあったら必ず相談するのよ?」

 

「そーだぞ頼人、あんまり一人で突っ走るなよー?」

 

「銀もあんまり人のこと言えないでしょ?」

 

「げっ!飛び火した!?」

 

「そうね、あんたもしょっちゅう突っ走ってるじゃない。何かあったら所かまわず首突っ込んでるし」

 

「ライ君とミノさんはそ~いうとこ似てるよね~」

 

「今はアタシのことはいーだろー!?」

 

彼女達がわいわいとじゃれている。

こうしてみると、本当に夏凜も馴染んできたなあ。

皆もリラックスできてるし。

よきかなよきかな。

 

 

 

 

 

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