樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話 作:exemoon
晴れ渡った空。
頬を撫でる風が冷たさを帯びてきた九月の末、俺はようやく退院した。
本当に、長い病院生活だった。
退院した翌日から、俺は再び学校に通い始めた。
久しぶりに教室に行くと、たくさんの級友が待ちかねていて、一斉に俺の退院を祝ってくれた。
少々驚いたものの、日常に戻ってきたことが感じられ、とても嬉しく思う。
顔ぶれを見れば、よそのクラスからも結構人が来ているようだ。
「ライト、もう体は平気なのか?」
「とりあえず大丈夫だよ。もうしばらくは車椅子生活だけど」
「その眼帯かっけーな!政宗みてーだ!」
「おいおい、政宗の眼帯は右目だろ?」
「……赤嶺。………学校で会えて。安心した」
「心配かけてごめん。もう平気だよ」
沢山の子たちが俺の体を心配してくれたり、回復を喜んでくれる。
素直にありがたく思う。
「ほら皆さん、嬉しいのは分かりますが、学活の時間です。席についてください」
そうこう話していると、安芸先生が教室に入ってきた。
そして、銀が車椅子を押してくれて…気付く。
「あれ?席の場所変わったんだ」
「ああ、頼人が入院してる間にな。アタシの隣だ」
席は二学期になって調整されていたようで、自分の机は最後方の廊下に面した場所にあった。
自分の席は、車椅子用の少し大きめの机になっていたり、隣の席に銀がいたりと安芸先生の配慮がうかがえる。
本当にありがたい。
ちなみに銀はいつも俺の車椅子を押してくれたり、朝も一緒に登校してくれたりと何かと世話を焼いてくれている。
今までは朝、三ノ輪家で過ごしてから銀と共に学校に向かっていたのだが、未だ車椅子を手放せない身ではそれは難しい。
そういうわけで、俺は車で直接神樹館に向かうことになっている。
ちなみに銀は朝、こっちの家に来てくれて一緒に登校してくれている。
ただ、車だとトラブルに遭遇することもないため、普段よりずっとスムーズに登校できてしまうのには苦笑してしまった。
本当に、こいつがいなかったら俺はどうしてたんだろう。
「にしても、あんたって意外と人望あるのね」
「確かに、朝のあの様子には驚いたわね」
「ライ君はすっごい人気だもんね~」
「まぁ、みんな良くしてくれてるから」
休み時間、いつものように集まって話す。
園子や須美も大体いつも傍に居てくれて色々と助けてくれるし、夏凜もよく一緒にいてくれて、何かとサプリを勧めてくる。
最近は、鉄やビタミンのサプリを主に持って来てくれてる。
その熱意は、流石の俺も少し引いてしまうほどだ。
銀はロックだなとか言ってたけど…。
「それにしても頼人、あんた、車椅子の下に色々入れてるみたいだけど、それ何入ってんのよ?」
「ああ、装備を色々と。双眼鏡とか簡易的な医療キットとか諸々、水や食料も少し入れてる。これがあれば何時でも御役目に対応できるからな」
この車椅子は特注でシートの下部、車輪の間のスペースが一般的な車椅子よりも大きくなっている。
そのおかげで、必要な装備の殆どはこの車椅子に常備することが可能となったのだ。
他にも、パソコンだったり、予備の通信機だったり色々と詰められている。
「へぇ、便利なのね」
「にぼっし―、せっかくだから~にぼしも入れてもらったらどうかな~?」
いや、いくら煮干し好きでも流石にそんなことは…。
「……ありね」
「「ありなのか…」」
中々予想外な反応が返ってきて銀と二人、驚いてしまう。
そこまで煮干し好きなのか…。
「車椅子に装備…。常在戦場の心構え、私も見習わないと……」
「や、ただ単に車椅子に装備突っ込んだだけだから、そんな見習うようなことじゃないぞ?」
「まあ、いいじゃん。頼人のそういうとこ、真似しても損はないし」
「そうよ!国防にかける頼人君の姿勢は、皆見習って然るべきなのよ!」
「おおう、急に話がでかくなったな…」
「でもライ君はそういうとこ、結構わっし―に似てるよね~。凝り性さんだったり用意のよさとか~」
「方向性がちょっとちがうけどな」
「方向性って何よ?」
「だって、あんたよく暴走するじゃない。お灸をすえるって言って、本当に用意するのは須美ぐらいよ」
その話を聞いて、背中のあの熱さを思い出す。
お灸怖い。
でかいの怖い…。
それにしても、こういう風に学校で話していると、退院したのだという実感がわいてくるな。
ただ、夏凜もいるから懐かしさと共に新鮮さも感じる。
こういうのもいいな。
その日の放課後、次の襲来の作戦会議をするため、神樹館の会議室に俺たちは集まっていた。
神託で近日中にバーテックスが襲来することが分かったからだ。
「御国を守るための作戦会議……否応なしに護国精神が高まるわ…!」
「おお、須美が謎に興奮してる!」
「わっし―、こういうの好きそうだもんね~」
「あんたら、もう少し緊張感ってやつを持ちなさいよ………」
夏凜が呆れたような声をあげる。
とはいえ、怒った感じはせず、夏凜がこの雰囲気に慣れてきたことがうかがえる。
良い傾向だ。
みんなが精霊を出してるから少々締まらないけど、とりあえず、始めるとするか。
意識を切り替える。
「こほん…まず、現在神託や過去のデータからわかっていることを整理しよう。神託の情報を纏めると、次の襲来ではバーテックスは三体で侵攻してくるものと考えられる。おそらく、西暦で確認され、未だ出現していない二体の完成型も投入されてくるだろう」
「確か、須美も神託受けたんだよな」
「ええ、まさかこんな形で役に立てるとは思ってなかったわ」
「勇者なうえに巫女の素質まであるなんて須美ってばロックな才能持ってるよな」
「ロックな才能って何よ……?」
「本当にわっしすごいよ~。この総合力の高さ、旧世紀の明智光秀超えてるよ~」
「…誰だか、知ってるの?」
「えへへ~、ただ何となく~」
「知らないんじゃない」
気付けば四人がじゃれ合っている。
それはさておき、須美の見たイメージは、三つの炎に包まれた星が降ってくるものだった。
星の数から襲来してくる敵の数は三、これまで以上の脅威が訪れることは明白であった。
イメージからして例の奴が出てくる可能性は高い。
「話を続けるが、次の襲来で最も注意するべき敵は、西暦の勇者でも倒せなかった獅子座のバーテックスだ」
スクリーンに獅子座のデータを映す。
大赦が用意したイメージ映像もあり、獅子座の巨大さがよくわかる。
ちなみに、新型の勇者システムにレーダー機能が付与されたこともあり、個々のバーテックスにはそれぞれ神託に基づき、名前が付けられた。
獅子座とは別の、分裂するタイプは牡羊座と呼称されている。
「こいつの攻撃力は埒外だ。しかも、大橋の構造上、攻撃の回避も難しい。その特性からしても、こいつが一番の難敵であるのは間違いないだろう」
「まさしく、敵の総大将って訳ね。まぁ、この私がいるんだから心配ないわ!」
「落ち着け夏凜、お前の力は認めているが、初陣でもある。油断はするな」
「い、言われなくても分かってるわよ!……まったく、いつもと感じが違うし調子狂うわね」
「ああ、なんか頼人、襲来の時とかになると雰囲気変わるんだよな。アタシも樹海以外では初めて見るよ」
「まるで別人じゃない……」
「そういうギャップもいいんだよ~」
「もう…。三人とも、話がそれてるわよ?……それで頼人君、対策は考えてるんでしょ?」」
「ああ、といっても言葉にするだけならそう難しい話でもない。基本的には獅子座を孤立させ、集中攻撃するというだけの話だ」
「でも、今度来るのは三体なんでしょ~?ほかのバーテックスに邪魔されちゃうんじゃないかな~?」
園子が皆の疑問を代弁してくれる。
こういう所で質問を入れてくれるのはありがたい。
「ああ、だから、想定されるいくつかの侵攻パターンに分けて、複数の作戦を考えている。それを今から説明する」
特に今回は、敵の数や種類をある程度絞り込めているため、想定するのは楽だった。
大赦内で新設された戦術研究部からのデータもあったし、
「侵攻パターンは大きく分けて三つ考えられる。三体が同時に侵攻してくるパターン。二隊に別れ時間差で侵攻してくるパターン、三体バラバラに進行してくるパターン。この中で特に危険となるのは、時間差での襲来パターンだ」
「あの時と同じ………」
「そういうことだ、獅子座以外の二体が先に侵攻してくる場合、撃破に時間がかかる。特に牡羊座は分裂するから、対処を誤ればかなり面倒なことになるし、獅子座がその火力で他の奴らごと攻撃してきた場合、かなり危険なことになる」
「なら、どーすんのよ?」
「須美の切り札を使う」
「国防砲ね!!」
「そんな名前じゃないだろ……」
98式大出力霊的エネルギー放射砲。
須美が勝手に国防砲と呼んでいる、須美専用に開発された武装。
バーテックスに一撃で『鎮花の儀』が発動できるほどの損傷を与えることを目的として設計された。
大地からの霊的エネルギーと勇者が持ちうるエネルギーを収束、加速させバーテックスへと放出する兵器。
桁違いな大きさの代物で、エネルギー充填中は移動は不可。
その分、威力は非常に高いらしいが、試射を行うこともできず、その威力に砲身が持たない可能性すらある危険な存在。
おそらく、満開が実装されていれば、世界で最も高価な鉄くずだと揶揄されていただろう。
とはいえ、獅子座を殲滅するには十分すぎるほど有用で、本作戦の要ともなる。
他にもアップデートにより様々な機能が勇者システムに追加実装された。
バーテックスの心臓部を引きずり出す『封印の儀』
致命傷となりうる攻撃を自動で防ぐ『精霊バリア』
戦闘中に蓄積された力の一部を消費し、武器の一時的な強化を可能にした『限定開放機能』
基礎性能もかなり上昇しており、今まで戦ってきたバーテックス相手なら圧倒できるとのことだ。
採れる戦術も幅広くなり、こちらとしたら万々歳だ。
「まあいい、聞いているはずだが須美が持つ大型砲で獅子座を狙撃する。ただ、エネルギーの充填にある程度の時間を取られる。その間、銀、園子、夏凜で先行する二体を叩き、敵の注意を引きつける。須美は、充填時間中は遠距離から援護射撃。二体の殲滅が完了し次第、大型砲で獅子座をアウトレンジから狙撃。封印、殲滅する」
「獅子座以外を倒しても充填が終わってなかったら、私たちでやっちゃっていいのよね?」
「ああ、充填が完了していなかった場合、三人は獅子座の封印に移行。封印が難しいようなら、充填完了まで可能な限り獅子座を攪乱。須美が大型砲で獅子座にダメージを負わせたところで再び突撃、封印するという流れだ」
「もし、獅子座が他のバーテックスごと攻撃してきたら~?」
「その時は園子が皆を守れ。強化された盾ならば、一度は奴の攻撃を防ぎきれるはずだ」
「よ~し!私が皆を守るよ~!」
「頼りにしてるぞ。…皆、今の時点で何か分からないことはあるか?」
「まあ要するに、アタシたちはとにかく突っ込めばいいんだろ?」
「ざっくばらんに言えばそうなるな、だが未確認のバーテックスを含め、奴らの能力は未知数の部分も多い。常に注意を怠るな」
「大丈夫だって。精霊のバリアもあるし、背中は三人に任せられるしな!」
その言葉に応えるかのように、銀の傍に精霊が現れる。
鈴鹿御前。
大嶽丸が言い寄ったという話を考えると、俺は徹底的に避けられるはずなんだけど、何故かそんなそぶりはない。
「銀、だからと言って突っ込みすぎは良くないわよ?しっかりとした状況判断を心掛けないと」
銀が須美に注意されてる。
この光景は久しぶりに見るな。
「分かってるって。須美は心配性だな」
「ふふ、ミノさん、またわざと注意されるようなこと言ってるよ~」
「もう、こういう所は治らないんだから」
「まあ安心しなさい。あんたたちの背中くらい、私が守ってやるわよ」
「おお~。にぼっしーかっこいい~」
「流石、姉御!頼りにしてますぜ!」
「誰が姉御よ!」
夏凜がつっこむ。
ほんと、仲良くなったねこの子ら。
「はぁ……。それで、他のパターンで攻めてきたらどうすんのよ?」
「同時侵攻の場合は、三体纏めての封印が可能になるため、一気に畳みかける。分散してきた場合は砲撃の準備をしつつ、獅子座を集中攻撃してもらう形になるな」
大橋のシステムと封印のシステムの相性は非常にいい。
敵の侵攻ルートを限定できることから纏めて殲滅するには好都合だし、万一封印に失敗しても、鎮花の儀という保険もある。
何より、敵の殲滅に必要な時間が大幅に短縮できる。
本当に、いいシステムを開発してくれた。
「皆。おそらく、次の戦いは奴らにとっても決戦となるはずだ。これまでで最も強大な敵を相手にすることになる。だが、こちらの準備も万端だ。夏凜も仲間に加わってくれたし、勇者システムも強化された。お前たちならばやれる。勝つぞ」
「もちろん、任せておきなさい!完全勝利よ!」
「ああ、アタシたちが力を合わせればなんだってできるからな!」
「大丈夫。絶対、皆を守って見せるわ!」
「うん!みんなで頑張ろうね~!」
彼女たちの力強い声が、胸に響いた。
この声を聞くと、不思議と不安は無くなっていき、何とかなる気がしてくる。
そして、それからさらに数日が経った日の放課後、俺たちはイネスに来ていた。
コンディションを整えるための久々の休息だ。
イネスの周りには、カボチャが多く並べられており、ハロウィンがもうすぐあるのだということを思い出させる。
「かぼちゃだかぼちゃだ~。外国のお祭りだ~!」
「我が国の懐の広さよね」
須美の視点はやっぱりどこかズレてるな。
「須美、なんか言い方が怖いぞ…」
「こんな感想もつ奴なんて、きっと須美ぐらいね…」
「でも~わっし―の言う通り、色んなお祭りが楽しめるのはいいよね~」
「だな!そうだ、今年のハロウィンもクリスマスもみんなでパーティーしようよ!」
「ほう、いいこと言うな銀。みんなでパッーとやろっか」
「さんせ~!ハロウィンの日は全員仮装だぜぇ~!」
「か、仮装?何でそんなこと…!?」
「まあいいじゃん夏凜、こういうのは楽しんだもん勝ちなんだからさ」
「仮装……やはり、ここは国防仮面を……」
「お~、わっしーノリノリだ~」
「外国由来のかぼちゃ祭りでこそ、真の愛国心を人々に知らしめる必要があるのよ……!」
「必要あるか……?」
須美、また暴走してる……。
というか、ハロウィンをかぼちゃ祭りと呼ぶのはいかがなものだろう?
「ま、まあ、須美も乗り気だしさ。夏凜もたまにはいいんじゃないか?」
「いい、仮装なんてガキっぽい真似する気はないわ」
俺の言葉を夏凜は拒むが、その守りは薄い。
「ほほう、もしや三好さんちの夏凜さんは仮装に自信がないのではございませんの?」
「な!馬鹿言わないで!仮装ぐらいなんだってのよ!ちょろいわ、それくらい」
あっさり銀に乗せられてしまった。
夏凜がちょろすぎて、心配になってくるレベルだ…。
さらに、そこで須美が援護射撃をする。
「それじゃあ、夏凜ちゃんは何かいい考えがあるのね?」
「あ、当たり前でしょ!仮装のアイディアぐらい、幾つも頭の中にストックしてあるわ」
うん、絶対嘘だ。
仮装のアイディアをストックしてる小学生はそうそういないぞ。
でも、ハロウィンの写真を春信さんに送ったら喜ぶだろうな。
「にぼっしーすご~い。私は何にしようかな~。…あっ、とぉう!」
「わっ、なに!?」
「わっしー、この帽子かぶって~」
そうこう話しながらイネスの中をぶらついていると、百円ショップの前に差し掛かったところで園子が突然足を止める。
そして、店の前に並べていた黒いとんがり帽子を須美に後ろからかぶせた。
「ほら、わっしー。似合ってるぜぇ~」
「そ、そう?」
「おー、確かに似合ってるぞ須美。そのまま箒に乗ったら、魔女に見えちゃうだろうな!」
「魔女は嫌ね……」
何故だろう、銀と須美の中の魔女のイメージがそれぞれ違ってるような気がする。
「その帽子でハトを出す芸覚えてみるの良いかも~」
と園子が言った瞬間、園子の頭の上に精霊、烏天狗が顕現した。
もしや今の話聞いて出てきたのか?
お前はハトじゃなくてカラスだろ…。
「こら、出てきちゃだめだよセバスチャン」
「あんたの精霊、そんな名前じゃないでしょ!?」
「えへへ~。実はミドルネーム付けてみたんだ~。烏・セバスチャン・天狗」
そう言うと、園子は指を鳴らす。
途端、烏天狗は姿を消す。
「な、なんでセバスチャン…?というかまだ浮いてるぞセバスチャン」
みれば、再び出てきて、かぼちゃの中に入って浮いてる。
傍から見れば怪奇現象だなこれ。
「えっ?もう、また勝手に出てきちゃだめだよ~」
「もう、精霊のしつけぐらいちゃんとしときなさいよ」
「神樹様が使わした精霊……この子たちがねぇ…」
こんな可愛らしい見た目してて、その能力は強力なんだから世の中分からないものだ。
ふと思ったが、俺が宿した大嶽丸も顕現すると、こんな感じの可愛い見た目なんだろうか?
なんか……イメージ崩れるな……。
そんなこと考えてたら通りかかった親子にかぼちゃが浮いてることを見られてしまう。
須美がマジックで浮かしてると誤魔化してくれて助かった。
その後、ハロウィンの仮装会場に寄ったのだが、まさかの衣装貸し出しを行っており、園子がみんなで仮装しようと言い出した。
最初は銀も乗り気だったのだが、途中で俺ごと逃亡。
園子がきわどい服ばかりを選ぼうとしたのが理由だろう。
ただ、銀のコスプレ姿は見たかった……。
残念。
「うーん、しょうゆ豆味はやっぱり私のなかでピンとこないわねー」
「ほう、人の取っといて随分なおっしゃり様ですなー須美さん」
しばらくした後、俺たちはフードコートにジェラートを食べに来た。
いつもなら銀が須美のジェラートを先にスプーンでとるところだが、今日は須美が先制攻撃を行い、銀のジェラートを少しだけ食べてしまった。
本当にたくましくなったものだ。
「ふっ、隙をさらした銀が悪いのよ」
「あんたらジェラートくらい静かに――」
「隙ありっ!」
「ってちょっと銀!私のとうふ味勝手にとるんじゃないわよ!」
「いひひ、ここはもう戦場だぞ夏凜。油断したものから食われるのだ」
「ちぃ、ならば…って須美!避けんじゃないわよ」
「ふっ、防御も戦術の内よ。私の宇治金時味は誰にも渡さないわ!」
「バトルロイヤルだ~、私たちも気をつけなきゃだね~。はい、ライ君あ~ん」
園子がバニラ味のジェラートをスプーンで掬って、俺に差し出す。
今までなら断ってるところだが、入院生活中にすっかり躾られてしまい、今では反射的にスプーンをくわえるようになってしまっている。
「ありがと、園子。バニラ味もうまいな。はいお返し」
自分の分のジェラートをスプーンですくって園子にあげる。
「うわ~和三盆味もおいしいね~」
と、そこで妙な視線を感じる。
ふと見ると、他の三人がスプーンを構え、こちらのジェラートを狙っている。
「あんたたち…何我関せずでいちゃついてくれてんのよ……」
「いや、別にそんなつもりは…」
「銀、夏凜ちゃん、ここは共同戦線を張るわよ」
「いいぜ須美、そういうの嫌いじゃない」
三人が同盟を組んでしまっている。
これはまずい。
「は、はわわ~」
「待て、話せばわかる!」
「問答無用!総員、攻撃開始!」
この後、滅茶苦茶ジェラート奪われた。
そうして、皆で帰路につく。
放課後にイネスか……。
随分久しぶりだったけど、楽しく過ごせた。
次に来るときには、自分の足で来たいものだ。
そうして、帰っていると一際強い風が吹き、須美が突然振り返る。
「……来るのか?」
「うん、来る」
「分かるようになってきちゃったね」
「そう固くなるなって。何があっても、アタシらなら大丈夫だよ」
「ええ、安心しなさい!この私が加わったんだから、負けはあり得ないわ!」
「そうね。ありがとう。皆で頑張りましょう!」
「うんうん、いっぱいがんばろ~」
彼女達が気合を入れていく。
心強い。
やがて、俺たちの端末から一斉に音が鳴り響く。
樹海化警報。
アップデートにより追加された機能の一つだ。
そして……時が止まる。
「みんな、準備はいいな?」
「当然!この時を待っていたわ!」
「私も準備万端だよ~。お休みのおかげでコンディションばっちり~」
「アタシもだ!強くなったアタシらの力、見せてやろうぜ!」
「勿論よ。気を引き締めていきましょう」
本当に、強い子たちだ。
こいつらなら、きっと大丈夫だ。
「よし―――それじゃあ、いこうか」
やがて、世界の色が変わっていく。
「―――火色、舞うよ」
言葉を紡ぎ、意識を切り替える。
戦いに余分な思考を削ぎ落し、冷静な判断を下せる人間に自分を変化させる。
さて―――
士気は十分。
打てる手はすべて打った。
これまでの襲来に比べ、圧倒的なまでに準備ができている。
この襲来はまさに、人間の力が試されることとなる。
信じよう、彼女たちの力を、人間の力を。