樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話 作:exemoon
四国の樹海化が完了し、まずレーダーを確認する。
……やはり三体か。
獅子座、魚座、牡羊座。
魚座は、データにないが、見たところ地面を自在に潜行できるようだ。
しかし、度々地上に出てきているということは、長時間の潜行は不可能なのだろう。
そうでなければ、潜行したまま神樹に向かうはずだ。
なら、やり様はいくらでもある。
何より、ほとんど想定通りの状況だ。
これなら十分に勝機はある。
それにしても、獅子座は桁違いにでかい。
大橋のかなり奥のほうにいるというのにはっきりと姿が見えるほどだ。
太陽のようだと前から思っていたが、実物を見ると増々そう思えてくる。
その存在感と神話の伝承を鑑みれば、やはりあいつがバーテックスの頭であることは間違いないだろう。
さて、現状、魚座、牡羊座の順に奴らは接近している。
獅子座はまだ動いていない。
様子見を決め込むらしい。
ならば――――
「どうやら獅子座は様子見を決め込むらしい。好都合だ。作戦通り、一気に前方の二体を叩け。念のため、もう一度言っておくが牡羊座は斬撃により分裂する。また、封印のチャンスは一度きりだ。注意しろ」
「問題ない!すべて完璧にこなしてやるわ!」
「ああ!あたしたちの力見せつけてやろうぜ!」
夏凜と銀が気合を込めて、叫ぶ。
そうして、彼女たちは端末を操作し、勇者の装束をその身に纏う。
すると、夏凜の精霊である義輝が現れ、「出陣」と声を出し、ほら貝を吹き始めた。
お前……話すだけじゃなくほら貝まで吹けるのか……。
不覚にも、少し力が抜けそうになった。
「よ~し、みんな行っくよ~!」
「バックアップは任せて!」
だが、彼女達には逆に力が入ったようで、戦場へと移動を始める。
まず須美には、事前に決めておいた、大橋の入り口にあたるポイントに移動してもらい、放射砲の準備をしてもらう。
『頼人君、設置完了よ』
須美は放射砲を顕現させ、狙撃位置につく。
ここから肉眼でみれるとは、放射砲も流石に大きい。
旧世紀の高角砲に酷似したその砲身は、見る者に威圧感を与える。
「了解、充填を開始する」
発射に至るまでの管制システムはこちらで受け持っている。
少しでも須美の負担を減らすためだ。
手元のパソコンを操作し、放射砲の発射準備を進めていく。
全緩衝装置、固定を確認。
霊的経路、接続完了。
充填、第一段階を開始。
薬室内、圧力、正常に上昇中。
よし、今のところ動作に問題ない。
と、そこで須美が声をあげる。
『頼人君、樹海が……色を…』
「何…?」
須美の地点を確認すると、確かに放射砲を中心に徐々にだが樹海が色を失っていく。
これは、放射砲の負荷が原因なのか…?
見たところ、バーテックスの侵蝕とはまた違った印象を受ける。
希望的観測ではあるが、現実世界への影響は少なくともバーテックスの侵蝕よりも低いだろう。
それに獅子座の殲滅にはこいつの力がきっと必要になる。
リスキーだが……発射態勢は継続せねばなるまい。
「須美、今は気にするな。援護に集中してくれ」
『了解、頼人君を信じるわ』
さて、そろそろか…。
意識を大橋に向けると、ちょうど三人が接敵するところだった。
魚座が跳ねる瞬間を狙い、夏凜が脇差を投擲する。
投擲された脇差は、魚座の巨体へと刺さり、爆発。
その衝撃に、魚座の動きが鈍った。
確実にダメージが入っている。
『一番槍ぃいいい!!』
夏凜はそのまま、魚座の頭部を切り裂き、その動きを完全に止めた。
その隙を見逃す彼女達ではない。
『アタシらも負けてらんねぇなぁああ!!』
『突撃ぃ~!!』
動きを止めた魚座に、銀の斬撃と園子の槍撃が襲い掛かる。
三人の猛攻に、魚座の巨体が次第に形をなくしていく。
そんな魚座の危機を助けようとするかのように牡羊座がにょろにょろと前進してくる。
だが、救援はかなわない。
『墜ちなさい』
須美が牡羊座の脳天と思わしき場所を正確に撃ち抜く。
この一撃で牡羊座の動きが止まり、さらに隙をさらす。
『すごい…これなら…!』
須美はそのまま冷静に牡羊座を狙撃し続け、そのウナギのような体をハチの巣にしていく。
これには、流石に牡羊座も浮遊し続けられなくなったらしく、魚座の隣に墜落する。
本当に、あの距離でよくあそこまで正確に命中させられるものだ。
須美がいなければきっと、戦いはさらに厳しいものになっていただろう。
さて―――
準備は整った。
獅子座は三人に接近しつつあるが、まだ距離がある。
いける。
「よし、この機を逃すな!」
『了解~!二人とも、位置について~!』
三人が二体のバーテックスを取り囲み、封印の儀の準備をする。
だが、封印が始まる直前、魚座が突如黒煙をまき散らした。
『何これ?何も見えない…!』
『ガス…?』
『煙幕なんてズルいよな…!これじゃあ…!』
面倒な…!
あれでは三人の視界は完全に奪われているだろう。
どうする…?
この状態で封印の儀を行うのは危険だ。
視界が奪われている今、封印を持続可能な時間内に殲滅するのは難しいだろう。
ならば、魚座にさらにダメージを与えて、黒煙を止めてから封印するべきか。
よし―――
「須美、そこから魚座の座標に―――」
『はっ!そんなの必要ないっての!封印開始!』
「夏凜!?」
だが、黒煙を意に介さず夏凜が封印を強行する。
くそっ、黒煙のせいでここからでは状況が…!
止めるべきか?いや、既に封印は始まってしまっている。
これ以上、時間をかけると獅子座に合流されてしまう危険性もある。
放射砲の充填も第二段階に入り、発射まで五分はかかる。
仕方がない、ここは夏凜に任せよう。
『こんな目眩まし……気配で見えてんのよ!』
夏凜の声が響くとともに、色とりどりの光が迸る。
同時に黒煙が晴れ、レーダーから魚座の反応が消失する。
あの状況下で、御魂を破壊できるとは…大した奴だ。
視界がクリアになり、牡羊座からも四角錐の御魂が引き釣り出されていることが確認できた。
どうやら、封印の儀は正常に作用しているらしい。
『やるな、夏凜!おっしゃぁあ、アタシもぉおお!!』
続けて、銀が牡羊座の御魂に二丁の斧剣を叩きつける。
瞬間、光が天へと駆けのぼった。
そして、牡羊座の体が砂となり、レーダーからも消滅する。
これで、残りは獅子座だけだ……!
『よし!これであとはあいつだけだな!』
『このまま、一気に殲滅するわよ!』
『みんな、油断しないで。ここからが本番よ』
『うん、まだまだ頑張るよ~!』
士気は高く、程よく緊張感も残っている。
疲労も少ない。
これなら問題ない。
獅子座が三人に接近してきている。
放射砲の充填完了まで残り三分。
あと三分間、奴を足止めできれば勝てる…!
「よし、三人は散開して、獅子座への攻撃を開始。須美は放射砲の発射態勢に。獅子座にも隠し玉があるかもしれん。全員、注意を―――」
と、言いかけたその時、獅子座に動きがあった。
奴の背部にあたる円形の部分が二つに割れ、その間からちいさな火球のような物体が大量にあふれ出してくる。
あの火だるまの形状は……星屑か!?
『わぁああ~!なんかいっぱい来た~!』
『……星屑!?』
「作戦変更だ!三人とも、その場で散開!園子は大橋中央に、銀は右翼、夏凜は左翼に!全力で星屑を食い止めろ!須美には絶対に手を出させるな!園子はいつでも盾を張れるようにしておけ!」
『了解~!わっし―は私たちが守るよ~!!』
『言われなくても……西暦に比べれば、この程度の数!』
『ああ、何体来ようと須美には手出しさせない!』
三人がその場で散開し、簡易的な陣を敷き、火だるまになった星屑との戦闘を開始する。
思考実験程度のものではあったが、彼女達に星屑との戦いを想定させておいたのは正解だった。
おかげで、かろうじてだが戦線を保てている。
正面と左右に広がることで、誰か一人が星屑に囲まれるような事態は起こりにくく、対処が比較的容易になる。
初代勇者達が採った作戦、まさかこんなところで役に立つとは……。
『せめて援護を…!』
「駄目だ須美、お前は砲撃の準備に集中しろ!」
『くっ、了解!』
充填完了まであと一分。
たった一分。
だが、その僅かな時間で、状況はさらに悪くなる。
突如、獅子座が巨大な火球を作り始めた。
獅子座の本体すらも凌駕する巨大さ。
此方を纏めて潰す気か……!?
「園子!!」
『うん!!みのさん!にぼっしー!』
園子が叫ぶと同時に、銀と夏凜が園子の傍に移動し、園子が盾を構える。
次の瞬間、獅子座が火球を発射した。
その火球に対抗するように、園子の盾が巨大化する。
本来、満開に回されるはずだったエネルギーをすべて、武器に注ぎ込み、盾を強化したのだ。
『気合ぃい~!!』
園子の盾が火球と激突する。
瞬間、世界が赤く染まった。
『こんじょぉおおおおおお!!』
『負けるかぁああああああ!!』
園子を銀と夏凜が支えていることもあり、何とか火球を押しとどめられている。
しかし、火球の威力は凄まじく、三人はじりじりと押されていく。
このままでは…!
『頼人君、まだなの!?』
「あと二十秒!」
『くぅ…!はやく……!』
施条回転開始。
砲身に祝詞の文言が浮かび上がり、周辺の地面が光り始める。
もうすぐだ…頼む、もう少し耐えてくれ……!
だがその前に、火球が突如、爆発する。
その衝撃で、三人が大きく吹き飛ばされた。
『みんな!!』
三人が樹海に倒れ伏す。
見れば、大橋が完全に崩壊してしまっている。
海上にいる獅子座を封印して撃破することは非常に難しい。
これで……須美の一撃に全てを賭けるしかなくなった…!
充填の完了を確認。
後は須美に託すだけだ。
「撃てぇえええ!!須美ぃいいいいいいいい!!」
俺の声に須美が応えた。
『当たれぇえええええええええええええええええ!!!』
須美が引き金を引いた瞬間、辺りを閃光が包んだ。
―――それは、文字通り光の線だった。
その一条の光は容易く獅子座の中心部を飲み込み、壁を掠め、結界外の天へと伸びていく。
獅子座からは、鮮やかな光が迸っていき、やがて残骸も砂となり、消滅していった。
「獅子座の消滅を確認……!」
『やった……?』
須美が呆然と呟く。
信じられないのも無理はないだろう。
俺自身、未だに信じられない。
それほどの威力だった。
だが、その代償として、砲は完全に機能を停止している。
第二射を放つことはできなかっただろう。
『あはは、一撃で倒しちゃうなんて、わっしーすごいよ~』
『まったく……いいとこ……持ってかれちゃったわね……』
『流石だな、須美……かっこよかったぞ』
三人の声が聞こえる。
どうやら無事のようだ。
良かった……。
「みんな、よくやってくれた。お疲れ様」
そういうと、普段より小さく、されど力強い声が返ってきた。
ただ、やはりその声には安堵と疲労が感じられる。
本当に、よく頑張ってくれたものだ……。
勝利…か……。
本当に、紙一重の勝利だった。
そして、払った犠牲もまた大きい。
先ほどの獅子座の一撃で、大橋が見るも無残に破壊し尽くされてしまっている。
獅子座の能力は可能な限り高く見積もっていたが、それでも、こちらの想像の上をいっていた。
現実ではどれほどの被害になることか……。
……今考えても仕方ないか。
彼女達は最善を尽くしてくれた。
続きは、現実世界で考えよう……。
―――瞬間、レーダーが光を灯した。
「……え?」
随分と間の抜けた声をあげてしまう。
レーダーが信じられずに壁のほうを見ると、赤く染まった巨体が次々と姿を現していく。
反応は次々に増え、やがて、その数は二十まで膨れ上がる。
『何て数……』
『何だよ……これ……?』
『まさか、これ全部が完成体だっての…?』
『うそでしょ……?』
彼女達が何か言っているが、脳が受け付けない。
……バカな。
なぜ今になって……?
思考が空白に染まりかける。
―――だが、そんなことは許されない。
胸ポケットに入れたボールペンを勢いよく左手に突き刺す。
鋭い痛みが脳を支配する。
なんて、バカな行為。
だが、思考は戻った。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。
こんなところで絶対に諦める訳にはいかない。
まずは観察しろ。
観察して、思考しろ。
俺に出来ることなんてそれだけなのだから、だからこそ、それをやめることだけは駄目だ。
目を瞑り、大きく深呼吸する。
……動揺は完全に鎮まった。
さて……始めよう。
双眼鏡で奴らを見ると、今まで見てきた完成体と違い、表面が赤く染まっており、また、完全な形を保っている敵は存在していない。
そして、先ほどまでの三体が敗れた後に奴らは現れた。
色を失った樹海、大橋を失った四国。
西暦の記録。
今までの戦術研究。
現勇者の能力。
ここから、導き出される結論は―――
『頼人!聞いてるのか頼人!?』
「ああ、聞こえてる。何だ?」
気がつけば、銀の呼びかける声が聞こえた。
『何だ、じゃないわよ!今からどう戦うかって話をしてんのよ!』
夏凜から怒られる。
どうやら、しばし思考に没頭しすぎたらしい。
いけない癖だ。
少々、彼女達を不安にさせてしまったかもしれない。
だが、既に話し合い始めてるところを見るに、皆諦めていない。
ならば、問題ない。
「すまん、作戦考えてた」
『頼人、何かいい考えがあるのか!?』
「一応な。とりあえず、みんなこっちに戻ってきてくれ」
『そんな悠長なこと言ってる場合?』
「現状、奴らとはまだ距離がある。作戦も説明したいし、まずは戻ってくれ」
そういうと、なんだかんだ言いつつ、夏凜は承諾してくれた。
さてと、あいつらが戻ってくるまでに色々決めておこう。
「さて、あまり時間はない。手早く済ませよう。まずレーダーを見てくれ。敵の数は二十。このままの侵攻速度なら、あと十五分ほどで上陸するものと考えられる。」
戻ってきた四人に休んでもらいながら、説明をしていく。
荷物に水分や食料などを入れといてよかった。
これで少しは体力を回復できるだろう。
ただ、夏凜からは「危機的状況なのに、緊張感がまるでないわね………」と呆れられてしまった。
もっとも、夏凜もにぼしをかじりながら話を聞いているので人のことは言えないと思うが…。
「十五分……あまり時間がないわね……」
「それで頼人、作戦はあるんでしょうね?」
「勿論。まず作戦の第一段階として、須美には沿岸部にてこちらが指定する敵への攻撃を始めてもらう」
「敵を足止めすればいいわけね。」
「ああ、だが一部の敵には攻撃を避けてもらう」
「上陸のタイミングをずらすんだね~」
「そうだ、可能な限りバーテックスの上陸が一体ずつになるように敵の動きを調節し、上陸してきた奴を各個撃破する。難しいとは思うが、須美ならできるはずだ」
「ええ!任せておいて!」
「頼りにしてるぞー須美ー」
「ってことは、私たち三人が敵を各個撃破すればいいわけね!」
「いや、射手座が二体いるからな。園子には須美の護衛をしてもらう」
「よ~し、わっし―は私が守るよ~!」
「よろしくね、そのっち」
「なら、上陸した奴はアタシら二人で倒していけばいいんだな!夏凜、アタシらの実力見せてやろうぜ!」
「当然!一匹残らず殲滅してやるわ!」
「それでライ君、下がるのは敵がいっぱいきたらでいいんだよね~?」
今の話を聞いてそこまで理解するとは…。
やはり園子は滅茶苦茶賢いな。
「ん?下がるってどういうことだ?」
「流石に、二十体全ての上陸をずらすのはできないからな。複数体の同時上陸が避けられなくなった時点で戦線を内陸部まで後退させ、さっきのように陣形を組んで戦ってもらう。フォワード三人は先程のように中央、右翼、左翼に広がってもらい、須美には後方からの援護を担当してもらう」
正直、もう少し戦力に余裕があればまた違った戦術を取ったのだが、現戦力で実現可能かつ最も迎撃成功確率が高いのはこの案なのだ。
それに、奴らが戦術というものを理解しているのなら、どこかしらのタイミングで孤立を避ける戦い方をしてくるはずだ。
そうなった時のことを考えると、この戦術が最も有効だ。
また、丸亀城の戦いなら彼女達も知っているため、作戦の理解度も他のそれより高い。
少しでも早く説明を済ませられるのは利点の一つだ。
「途中からは、一人で何体も相手にする訳ね」
「なんだ夏凜、自信ないのか?」
「まさか!少し物足りなかったくらいよ。誰よりも多く殲滅してやるわ!」
あえて挑発するような言葉を選んだが、期待通り夏凜はさらにやる気を見せてくれる。
頼もしい限りだ。
「だけど頼人、一人じゃ封印の儀はできないぞ?それはどうするんだ?」
「それも問題ない。奴らの体は不完全だ。おそらく、御魂を持たない急ごしらえだろう。西暦と同じように殲滅できるはずだ」
西暦の時代に御魂が確認された報告はない。
それどころか、体が欠けている未完成な大型バーテックスも多く見られたとのことだ。
ならば、見た目だけの完成体もどきが存在しうることは間違いない。
現に、今まで戦ってきたバーテックスならば、この話している時間に完全に回復しているはずだ。
だが、奴らの体は欠けたまま治りきっていない。
奴らが御魂を持たない出来損ないである証拠だ。
おそらく、本来は御魂を持つバーテックスだけが、結界を突破できるのだろう。
奴らが侵入できたのは、結界が弱体化しているため、といったところか。
大橋の破壊によるダメージと砲撃の負担が神樹に多大な負荷を与えてしまったのだろう。
このタイミングで侵攻してきたことがその証だ。
だが、星屑が侵入してない辺り、完全に結界が消失したわけではなさそうだ。
ならば、奴らを殲滅すれば事は終わる。
「ええと……なるほど、そういうことか!」
銀が分かったのかわかってないのかよく分からない答え方をする。
後でちゃんと確認しとこう。
「さて、みんな。奴らは戦術的に絶対にやってはならないことをした。戦力の逐次投入だ」
獅子座があの中にいるのならいざ知らず、完成体を一体も引き連れずに挑んでくるなど、愚の骨頂だ。
二十という数は逆に、個々の能力不足を如実に物語っている。
水瓶座に至っては、二体いるうちの一体は、頭部しかまともに残っていない。
質を下げて数で勝負といったところだろうか。
「確かに数は多くピンチに思えるかもしれないが、奴らは未完成で脆い。そのうえ、奴らの戦い方は既に割れている」
確かに、あれほどの数の敵が連携して攻撃してくれば、それなり以上の脅威だ。
しかし、これまでずっと研究を重ねてきたのだ。
相手の出方は予測できる。
また、圧倒的な火力を持たない分、獅子座を相手取るよりも神樹に攻撃される危険性は少ない。
「この延長戦、長く厳しい戦いになるだろう。だが、今のお前たちならば必ず勝てる。さぁ、かかるぞ!」
彼女達の気合のこもった声が耳朶を打つ。
大丈夫、勝てる。
自分にそう言い聞かせる。
こんなところで終わってたまるか。
『頼人君、位置についたわ』
インカムから須美の声が聞こえる。
さて、第二ラウンドの始まりだ。
「よし、まずは魚座を誘引する。遠距離攻撃が可能な射手座と乙女座は優先して叩け。また、魚座は二体いる、そのうちの一体は上陸間際で叩いてもらう。タイミングはこちらで知らせる。魚座の次は、牡羊座を誘引する」
『了解!』
まずは、魚座を誘引して叩く。
奴らは地中に潜行でき、煙幕を張れる。
混戦状態になればなるほど、非常に面倒な敵だ。
また、潜行しているため、その足止めにはかなりの注意を向ける必要があり、須美の負担も増大する。
そのため、可能な限り、早めに叩いておく必要があるのだ。
現状、バーテックスは横一列の単横陣のまま接近してきている。
魚座さえ何とか出来れば、侵攻時間の調整は容易だろう。
…と、そこで須美が射撃を開始した。
須美の迅速な攻撃を受けた敵は、次々と動きを鈍らせていく。
そして、その攻撃はとても的確で、乙女座の射出口だけを吹き飛ばし、その攻撃手段をうまく封じている。
もう一体の乙女座や何体かのバーテックスは須美の攻撃で、海中に沈んでおり、また、頭部のみの水瓶座などは、須美の射撃だけで撃破できてしまった。
あんなものをどうして戦力にしたんだろう……?
だが、こちらにとっては運がいい。
これで奴らに御魂がないことが証明された。
『確かに脆い……!行けるわ……!』
『わっしー、すごいよ~!もう、一体やっつけちゃった~!』
園子の興奮した声が響く。
敵は予想以上に脆い。
これなら……!
だが、うまい話ばかりでもない。
『蟹座が射手座を守ってる…?』
敵中央と右翼に一体ずつ存在する射手座。
その二体の射手座と須美の間にそれぞれ蟹座が割り込む。
予想以上に素早く、奴らは須美の攻撃に対応してきた。
だが、対処法は分かってる。
「射手座が二体ともに槍を装填、来るぞ」
『そのっち』
『うん!任せて~!』
蟹座がずれた瞬間、二体の射手座が同時に槍を射出する。
その瞬間、射出された槍を須美が狙撃し、相殺。
もう一体の射手座からの攻撃は園子が盾で受け流した。
そのまま、隙をさらす射手座に須美が冷静に射撃を命中させる。
射手座がその体勢を大きく崩し、海中に沈んでいく。
これでしばらく奴は動けないだろう。
続けて、須美はもう一体の射手座を守る蟹座に射撃を集中させる。
反射板を持たない不出来な蟹座はその射撃をもろに受け、いとも簡単に動きを止まる。
その隙に、須美はもう一体の射手座にも攻撃を仕掛け、その動きをも完全に封じ込める。
完璧な対処。
『おぉー。すっごいコンビネーション!』
『恐ろしいくらい正確な射撃ね…。須美がいてくれてよかったわ…』
銀と夏凜がそれぞれ感想を述べる。
夏凜の意見には全面的に賛成だな。
とそこで、魚座がいい位置まで接近してきた。
「よし須美、続けて二時の魚座を叩け」
『了解』
返事を聞こえた途端、頭を出した魚座に須美の射撃が命中する。
攻撃を受けた魚座は動きを止め、海中に没していく。
その間に、先行していた魚座が陸地に到達する。
「銀、夏凜、いけるな?」
『ああ、銀様に任せときな!行くぞ夏凜!』
『ええ!一緒にやるわよ、銀!』
跳ね上がった魚座に銀と夏凜の斬撃が炸裂する。
まったく同じタイミング。
銀と夏凜の鮮やかな連撃は、魚座を瞬く間に消滅させた。
やはり、銀と夏凜のコンビはかなり相性がいい。
破壊力が段違いだ。
「よし、二体目の魚座も同じように頼む。須美、あとどれくらい持つ?」
『あと十分はなんとか持たせられる。けど、それ以上は…』
須美が射撃を継続させながら答える、
これほどの数を相手に、それほど持たせられるのなら十分すぎる。
牡羊座の誘引もうまくいきつつある。
「了解した。園子は、一体目の牡羊座を誘引後、撃滅に参加。須美は中央の牡羊座の誘引完了まで足止めを継続、その後に指定のポイントへ移動を」
『了解!』
『わかったよ~!』
牡羊座は可能な限り素早く撃滅しないとまずいことになる。
須美を単騎にするのは、危険だがやるしかない。
と、そこで銀と夏凜が二体目の魚座も撃滅する。
残り、十七体。
『楽勝!次はどいつだ!?』
「次は十時から接近中の牡羊座だ。あれを試せ」
『了解!分裂なんてさせる間もなく細切れにしてやるわ!』
銀と夏凜が一体目の牡羊座の上陸予測地点に向かう。
そろそろか。
「よし、園子も向かえ」
『うん!わっしー、気を付けてね?』
『ええ、そのっちも』
園子が二人と合流し、樹海を駆ける。
良いタイミングだ。
おかげで、上陸した瞬間に三人は接敵した。
『じゃあ、いくよ~!』
『よし、タイミング合わせるぞ!』
『あったりまえよ!』
接敵の瞬間、三人は散開し、三方向から同時に攻撃を繰り出す。
園子が正面から槍を突き、動きを止め、銀と夏凜が牡羊座の体を細切れにしていく。
分裂する間もなく、牡羊座は完全に破壊される。
牡羊座を斬撃による攻撃で可能な限り、素早く倒すために考えた結果がこの攻撃だ。
西暦の時代、初代勇者がこいつと相対した際、判明した事実は二つ。
一つは、斬撃により分裂すること。
もう一つは、分裂しても司令塔となる個体を潰せば、各個撃破できるということ。
ならば、徹底的に奴を細切れにしてしまえば、分裂されずに撃破が可能になるのではないか。
そう考えたわけだが、どうやらうまくいったらしい。
三人は続けて、二体目の牡羊座も同じように排除した。
と、そこで動きを止めていた二体の射手座が海中から姿を現す。
やはり、不完全体とはいえある程度の再生能力は有しているらしい。
だが、対処を間違えなければ問題ない。
そう考え、須美に射手座の迎撃を指示しようとして―――気付く。
射手座が回復したのなら、乙女座も回復してる可能性は高い……なのになぜ動かない―――
―――まずい!
「須美、下がれ!!」
『えっ!?りょ、了か―――!?』
須美が返事をしきる前に、異変が起こる。
海中から突如、複数の岩のような塊が飛び出した。
乙女座の爆弾。
海中から射出したらしい。
バーテックスが死んだふりをするなど……。
このタイミング……やはり、奴らは戦術を駆使している…!
須美がその場を離れると同時に、二体の射手座が幾千もの矢を放ち、また、それに合わせるかのように、乙女座からの爆弾が、須美へ殺到する。
須美は滞空しながらも、爆弾を打ち落としていくが、複数の方向からの同時攻撃には対処しきれず、吹き飛ばされてしまう。
『わっしー!!』
『須美!!』
『須美!くそっ!』
「三人は牡羊座の殲滅を急げ!まだ間に合う!」
『くぅ……了解!』
三人が上陸したばかりの牡羊座へと向かう。
確かに射手座が生きている今、牡羊座への攻撃はリスキーだ。
だが、ここで牡羊座を叩いておかないと、最早陣形を組むどころの話ではない。
危険だがやらざるを得ないのだ。
「須美、大丈夫か!?」
『大丈夫……精霊の…バリアがあるから…すぐ動けるから…』
しかし、その声は苦しげだ。
当然だろう。
難敵との連戦だ、須美もみんなもかなり疲弊している。
そこに、あの攻撃を食らってしまえば、回復は容易じゃない。
だが、今須美に長いこと休んでいてもらうわけにはいかない。
全ての感情を抑え込み、彼女に指示を出す。
「っ……分かった。なら、三人の援護を急いでくれ」
『了解、すぐに……』
今回の戦い、彼女達みんなにかなり無理をさせている。
そうせざるを得ないほどに敵は強大だ。
流石に、このような状況になるとは、まるで予測できなかった。
だが、敵はこちらの都合などまったく考えない。
射手座の内の一体が上の口に槍を装填する。
「全員散開!!」
俺が叫ぶと同時にまとまっていたフォワードの三人が別方向に散る。
次の瞬間、射手座が槍を射出する。
だが、その狙いは勇者ではなかった。
射手座の攻撃が、牡羊座を直撃し、その体を二分する。
すると、牡羊座がぶるぶると蠢き始め、気が付けば牡羊座は二つに分裂していた。
『うわっ!ずっこい!!』
『わざと撃たれるなんて~』
『ちっ!増えたところで…各個撃破すればいいだけよ!』
『だな!』
三人が再び、集まり牡羊座を各個撃破しようと迫る。
しかし、攻撃の瞬間、射手座や乙女座の攻撃が、三人を妨害してしまう。
結果、攻撃は不完全なものとなり、射手座の攻撃により、奴はさらに増殖してしまう。
四体に増えた奴らは、そのうちの一体をそのほかの三体で守りながら、三人に迫る。
面倒な…!
三人なら本来、一瞬で殲滅できる敵だが、他のバーテックスの妨害が厄介だ。
『こいつ…頭に来るわね…!』
『ちょっとやばいかも~』
「仕方ない、一時後退を…」
と言いかけた刹那、須美の弾が司令塔と思しき牡羊座を撃ち抜く。
分裂した分、防御力が下がっていたのか一撃で撃たれた牡牛座は消滅する。
狙撃ポイントに向かう道中、空中で狙撃をしたのだ。
須美はそのまま、射手座や乙女座への攻撃を再開し、奴らを再び黙らせる。
『みんな今よ!』
『ナイス須美!』
『さすがわっしー!これでもう怖くないよ~!』
『こうなりゃこっちのもんよ!纏めて殲滅してやるわ!』
こうなれば、彼女達を阻む者はない。
三人が一気呵成に残りの牡牛座を殲滅する。
今度は分裂することなく消滅していった。
「よし、全員指定されたポイントまで後退しろ!」
四人が返事をしつつ、移動を開始する。
自分も移動することになる。
まだ使う装備をすべてカバンにまとめる。
車椅子はここに放棄していくからだ。
敵、残り十四体。
ここからは、まったく違う戦い方になる。
須美が後方から支援をしつつ、射手座や乙女座を押さえ、フォワードの三人がそれぞれ複数体の敵を相手どる。
彼女達にはかなりの負担をかけるが、数が数だ。
せめて、勇者がもう一人いてくれれば、もう少し負担は減らせたのだが、無いものねだりをしても仕様がない。
「頼人君、しっかりつかまってて!」
須美が戻ってきて、俺を抱きかかえる。
ここから一気に内陸部まで後退するためだ。
大橋前の土地は埋め立て地であり、陸繫島であるため敵が広範囲まで広がり、包囲しようとしてきた場合、面倒なこととなる。
そのため、陣形を築く地点は内陸部である必要があるのだ。
須美が俺を運ぶ理由は、陣形を組む際、須美の役割が後方での援護のため、俺が須美と同じ地点に位置することとなったためだ。
「すまない、苦労をかける」
「大丈夫よ。それよりしゃべらないで、舌を噛むわ」
そう言うと、須美は跳躍する。
それにしても、須美は迷わず俺を抱きかかえた。
普段ならもっと恥ずかしがるか、俺を背負うなどほかの方法を取るはずなのに。
やはり、相当余裕がなくなってきているのだろう。
やがて、全員が指定したポイントへ到着した。
内陸部まで下がった分、ある程度時間を稼げた。
敵の動きは俺が警戒しておき、奴らが到着するまでの短い時間、皆を休ませる。
少しでも体力を回復してくれればいいのだが……。
既に、樹海に入ってから一時間以上経過している。
そして、さらに戦いは激しくなる。
これ以上の長期戦は厳しい。
なら、ここから俺が採るべき作戦は―――
「みんな、そのまま聞いてくれ――」
バーテックスがまとまって押し寄せてくる。
可能な限り、須美の狙撃で先ほどと同じように、敵の一部を孤立させようとしたものの、予想通り、奴らはまとまっての進軍をやめようとはしなかった。
また、射手座はこちらに近付いたものの、敵の後方に位置し続けており、逆に乙女座は、前衛に加わっていく。
ゆっくりと確実に、こちらを突破するつもりらしい。
中央、園子のいるところに、計六体。乙女座、蟹座、水瓶座、山羊座が一体ずつ。天秤座が二体。
右翼、銀には、蟹座、天秤座、山羊座が一体ずつ、計三体が向かう。
左翼、夏凜は、計三体、乙女座、蟹座、天秤座を相手する。
中央に戦力を集中させ、中央突破を図る気だ。
想定した中で、最悪のパターン。
しかし、最も短期決戦を狙えるパターンでもある。
「須美、三人と奴らが接敵する前に、射手座と乙女座の攻撃手段を封じてくれ」
「了解、すぐに済ませるわ」
返事をした刹那、須美が発砲する。
その正確無比な射撃は再び、射手座を撃ち抜き、その巨体を地に叩き落とす。
孤立した分、無防備になっているのが幸いした。
直後、須美は素早く狙いを変え、乙女座への攻撃を開始する。
数度、他のバーテックスが攻撃を阻もうとするも、先ほどよりも距離が近くなっているためどうしても隙は生まれる。
須美の弾はバーテックスの間をすり抜け、乙女座に到達する。
その射撃により、乙女座の下腹部は激しく損傷した。
須美の圧倒的なまでの絶技。
これでしばらく爆弾は射出できないだろう。
おかげで準備は整った。
後は……。
「頼むぞ、園子……」
『待ってなさい、園子!こんな奴らすぐに片づけてやるからっ!』
『ああ、少しだけ辛抱しててくれ!』
『大丈夫だよ~。二人が来るまでは絶対に持たせるから、安心してね~!』
園子が間延びした声で応える。
俺たちを安心させるためだろう…。
こんな気遣いをさせてしまうとは…少し情けなくなる。
ここからの戦いは、まさに時間との勝負だ。
俺の立てた作戦はこうだ。
中央の園子は応戦しながら、ゆっくりと後退。
可能な限り時間を稼ぐ。
銀と夏凜は逆に戦線を押し上げ、右翼、左翼の三体をそれぞれ片付けた後、二体の射手座を排除。
その後、六体のバーテックスを三方向から包囲、殲滅。
須美は、射手座の無力化と園子の援護を担当。
口にするだけなら簡単だが、各人の負担は凄まじい。
不完全体相手の時間稼ぎだとはいえ、園子の相手は六体。
須美の援護があっても時間稼ぎだけでも一苦労だろう。
同様に、銀や夏凜にもかなり、厳しい戦いを強いることになる。
あの二人の攻撃力なら三体相手でも、時間をかければ問題なく殲滅できるだろう。
しかし、今回は時間をかける訳にはいかず、須美の援護もない。
奴らとの戦い方について簡単に説明はしているモノの、かなりの負担になるはずだ。
半ば賭けのような作戦。
だが、俺はこれが最も成算があると確信している。
「大丈夫、そのっちは私が守るわ!」
『お願いね~!わっしーもライ君も私が守るよ~!』
やがて、前衛の三人が接敵する。
直後、地面が激しく揺れ始めた。
山羊座によるものだ。
園子はいったん空中に跳び、地震による影響から逃れる。
そこを狙い、水瓶座の水球が園子を襲う。
園子が盾ではじくも、このまま地面から離れているのは危険。
確かに、山羊座の攻撃は面倒だ。
しかし、ここには須美がいる。
「須美、山羊座を。角の接続部を狙え」
刹那、須美が、山羊座の角と本体を結ぶ接合部を正確に撃ち抜く。
同時に地震は止まり、山羊座がバランスを崩し、倒れ伏す。
しかし、危機はそう簡単には去るはずもない。
園子が着地した瞬間を狙い、蟹座の鋏が、乙女座の白い巨大な帯が同時に襲い掛かる。
鋏は須美の狙撃で弾き、帯は園子の盾が受け止める。
盾が帯を弾いた瞬間、さらに水瓶座が水流を園子に叩きこんでくる。
園子はその水流を避け、そのまま、敵の懐に潜り込む。
侵入してきた園子に、分銅を叩きつけようと二体の天秤座が腕を振る。
しかし、奴らは腕が一本しかない不完全な存在、以前のように風のカーテンは作れずにいる。
故に、隙が生まれる。
園子はその勢いのまま、天秤座の攻撃をかいくぐり、そのうちの一体に突撃する。
『突撃ぃいいいいいい!!』
園子が天秤座の中央部に突撃、胸のような部分を抉り、大穴を開け、突き抜ける。
途端、胸を穿たれた天秤座は形を崩し、消えていく。
まさしく、獅子奮迅の戦いぶり。
須美の援護もあり、この分なら今しばらく持ちこたえられるだろう。
銀、夏凜もまた戦闘を優位に進めていた。
特に、銀は鬼気迫る勢いで戦い続けている。
空高くから繰り出される山羊座の角、蟹座の鋏、天秤座の分銅を、強化した斧剣により時には防御し、時には避け、そのまま、一本腕の天秤座に突っ込んでいく。
銀は跳躍し、斧を振るいながら天秤座の腕を駆けあがっていく。
そして、天秤座の頭頂部まで到達したのち、再度跳躍。
『墜ちろぉおおおおお!!』
無理矢理、山羊座のいる地点まで跳び、その巨体を二丁の斧剣で切り裂く。
元から不完全な体であった山羊座の巨体がゆっくりと崩れ落ちていく。
これで奴らは二体。
しかも、天秤座のダメージは深い。
最早、奴らは銀の敵ではない、じきに奴らの包囲網を突破してくれるはずだ。
一方、夏凜はその機動性を生かして、三体のバーテックスを翻弄している。
敵の攻撃を避けては痛撃を与え、器用な立ち回りで少しずつ着実に奴らにダメージを与え続けている。
だが、これ以上時間をかけるわけにはいかない。
「夏凜、乙女座の下腹部を狙え。須美が攻撃を当てた場所だ」
『分かってるっての!!』
夏凜は素早く乙女座の白い帯を躱しながら、その巨体に脇差を投擲する。
脇差は乙女座の下腹部に直撃し、その巨体が大きく崩れる。
その瞬間、夏凜は乙女座へ吶喊。
その動きを妨害しようと迫る天秤座や蟹座の攻撃を掻い潜り、乙女座に到達、その曲線的な体のことごとくを解体していく。
やがて、乙女座は完全に消滅し、ダメージの残った天秤座と蟹座が残される。
こちらももう少しで突破できる。
だが一方で、園子はかなり消耗してきている。
敵の攻撃を躱し、弾き続けているも、
この分だと、およそ―――
「銀、夏凜。あと五分で射手座を含め殲滅しろ。できるな?」
『…ったく、無茶言ってくれるわね!やってやるわ!』
『任せとけ…!それまで、園子も耐えてくれ!』
『りょう………かい……!ミノ…さん……にぼっしー……待ってる………よ……!』
園子が敵の攻撃を捌きつつ答える。
息も絶え絶えの様子で、かなり余裕がなくなってきている。
これ以上はまずいな…。
「須美、乙女座と水瓶座に攻撃を集中。遠距離攻撃を封じろ」
「了解…!」
「園子は一旦、距離を取れるか?」
『うん……ちょっと…やってみるね~』
そうして、須美が援護しつつ、園子が下がろうとするも、そうそううまくはいかない。
山羊座が残った角を園子に繰り出し、後退を妨害してくる。
さらに、そのタイミングで射手座に再び動きが見られた。
厄介な…!
あともう少しだけおとなしくしてくれれば良かったものを…!
「ちぃ…!須美、目標を射手座へ変更!園子、あと三分耐えてくれ!」
「くっ!こんな時に…!」
『大丈夫……三分くらい…持たせられるよ~』
園子はそう言うが、敵の多さやその消耗具合を考えると、一撃喰らっただけで動けなくなるだろう。
あまりにも危険な状態だ。
また、銀と夏凜はそれぞれ残りの二体を今、排除したところだ。
二人が射手座を排除し、園子の下へたどり着くにはもう少し時間がかかる。
須美は今射手座の対応を行っている。
事実上、園子は孤立している状況だ。
そんな中でも、園子の戦いぶりは凄まじい。
五体のバーテックスからの攻撃のことごとくを最小限の動きで躱し、弾き、時に反撃をしている。
初代勇者もかくやというほどの激しさだ。
そして、須美が射手座を再び黙らせ、銀と夏凜が射手座の巨体に迫る。
これなら、間に合うか…!?
刹那―――爆風が園子を襲った。
「そのっち!!」
「園子!?」
瞬間、体中を悪寒が駆け抜ける。
さっきのは乙女座の爆弾…。
なら…!
「須美――――」
口走ると同時に、眼前に爆弾が飛び込んできた。
殺られる…!
「頼人君!!」
直後、須美が俺に覆いかぶさった。
轟音とともに、体中に衝撃が走る。
感覚が麻痺し、今自分がどんな状況なのかもわからなくなる。。
「が………はっ……!」
肺から空気が溢れだす。
息ができない。
が、かろうじて意識は残っている。
どうやら、爆風に吹き飛ばされたらしい。
遮二無二、瞼を開くと、須美の顔が視界を占める。
何かを叫んでいるようだが、耳鳴りが酷くて聞こえない。
駄目だ。俺を気にするな―――
今は……!
「ぉれの……ことぁ……いい……!ぁやぅ、そのこの……ぉぇんごぉ……」
肺に残ったわずな酸素を絞り出し、須美に頼む。
園子への援護を頼む言葉、まともに発音できていたかも怪しかったが、果たして、須美は俺の頼みを聞いてくれた。
須美は一瞬、酷く苦しげな顔をした後、再びライフルを構え、援護射撃を始める。
強い子だ。
本当によくやってくれている。
俺もこんなところで倒れてなどいられない。
ようやく、僅かながらも息ができるようになってきた。
気分は最悪で体中が痛いが、四肢はついてるし、聴力も戻りつつある。
なら、戦況を把握しなければ…!
体を起こそうと、地に手をつくと、ぬるりとした感触。
見れば、小さな血だまりができている。
頭から出血しているらしい。
少々良くない出血量だ。
だが、今は構っていられない。
無理矢理体を起こし、状況を確認する。
途端、視界に園子が乙女座にとびかかる瞬間が移りこんだ。
槍が一撃で乙女座を地に叩き落とす。
だが、その動きは余りに直線的すぎた。
攻撃した直後、園子が水球に飲み込まれる。
園子が俺たちを守るために無理矢理乙女座に突っ込んだせいだ。
俺がこんなところで足手まといになるとは……!
須美が反射的に水瓶座を攻撃し、本体の動きは止まる。
しかし、水球は無くならない。
やはり、完全に叩き切らなければ駄目か……!
さらに、山羊座がその角を水球に突き入れ、同時に角を振動させ、水を高速でかき混ぜる。
あれでは脱出の策も打てない!
蟹座と天秤座は神樹と向かおうと動き始めている。
銀と夏凜は射手座の排除を完了しているものの、到着まであと少しかかる。
ここは―――
「須美、山羊座を園子から引き離せ!」
「了解!!そのっちに手を出すなぁああああああ!!」
須美が山羊座に火力を集中させ、その巨体を園子から引きはがす。
瞬間、水中の園子が槍を大きく伸ばし、その穂先を蟹座へと突き刺す。
そのまま、園子は穂先を起点に槍を縮め、水球から飛び出し、その勢いのまま、蟹座に接近。
『行かせ……ないよ……!!みんなは……私が守るんだ……!!』
槍を引き抜き、そのまま蟹座の胴体に槍撃を叩きこんでいく。
蟹座は体中に大穴を開け、消滅していく。
そうして、蟹座を倒し、着地した園子は大きく隙をさらす。
途端に、天秤座や乙女座が園子に向かい山羊座と水瓶座がその体を起こしていく。
だが、もう遅い。
「銀は水瓶座を!夏凜は乙女座!須美は天秤座だ!終わらせろ!!」
『アタシのダチに手ぇ出してんじゃねえぇええええええええええ!!』
『私たちの力ぁあああああああ!!思い知れぇええええええええ!!!』
二人が雄叫びをあげながらバーテックスに突っ込んでいき、園子が須美と天秤座に襲い掛かる。
「「「「はぁあああああああああああああ!!!」」」」
四人が吼え、人類の敵を次々と屠っていく。
まさしく、修羅のごとき戦いぶり。
これでもう……大丈夫だな………。
急速に意識が遠のいていく。
どうやら少し、血を流しすぎたらしい。
本当に頑張っているのは彼女たちなのに…情けない……。
意識を無理矢理繋ぎ、端末のレーダーに目を凝らす。
徐々にバーテックスの反応が消えていき、やがて完全になくなる。
ああ……良かった……何とか……なった……。
帰ったら……いっぱい……褒めてあげないと……。
もう……意識を保っていられない……。
……なんだろう?誰かの声が…聞こえる。
まあ……いいや。
目覚めたら……ちゃんと聞こう……。
そうして、俺の意識は闇におちていった。
捏造兵器解説
・98式大出力霊的エネルギー放射砲
いわゆるロマン砲。
理論は完成し、設計段階に入っていた千景砲を須美用に再設計した代物で見た目は旧海軍の四十五口径十年式十二糎高角砲そっくり。かなりでかい。
充填の第一段階で大地からの霊的エネルギーを吸い上げ、第二段階で勇者としてのエネルギーを充填していく。
そのため、充填の第一段階時には一応ライフルは射撃可能。
第二段階でも撃てるっちゃ撃てるが充填時間が余計にかかることになるため止められた。
千景砲同様に巫女の体が回路になるため、巫女と勇者両方の才能を持つ須美以外には扱えない。
ついでに建造費用も馬鹿みたいに掛かるうえ、一発で満開数回分の負担が神樹にかかる。
出力こそ、須美の満開展開時の最大値を超えるものの、それ以外の全ての性能が満開を下回るため満開実装されたらまじで要らない子。
ぶっちゃけ出すかどうかかなり悩んだものの、浪漫には勝てなかった…。