樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

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月末投稿が定番になりつつある今日この頃。
遅くてごめんなさい……。


戦間期
平穏な時と……


「あ~気持ちいい~」

 

「変な声出すなって。一応、お手伝いさんいるんだからな」

 

頭を怪我が治り、退院してから少ししたある日。

俺は、三ノ輪家にいた。

現在、鉄男は友達の家に行っており、金太郎は母君と共に定期検診へ行ってる。

家にお手伝いさんはいるものの、他に銀の家族はいない。

つまり、珍しく銀を独占できる状態。

なので、銀の部屋で俺は死ぬほど銀に甘えていた。

 

「銀の耳かきがうまいのが悪いんだぞぉ。こんなに気持ちいいの、声を我慢する方が無理ってもんだ……」

 

銀の耳かきはかなり上手い。

膝枕の心地よさも相まって、極楽状態だ。

 

「大げさな奴だなぁ……ほら、綺麗になった。もういいぞ」

 

銀の手が離れる。

とはいえ、もう少しこうしていたい。

 

「うーん銀、もうちょっと頭撫でて」

 

「はいはい。ったく、頼人は最近ふにゃけすぎじゃないか?今だってすごい顔してるし、そのうち須美に怒られるぞ?」

 

「誰かさんが、しばらく冷たかったからなー。その分を補充してるのだ」

 

頭の怪我で数日間入院したわけだが、その間の見舞いの際、銀はいつもこそこそしていた。

あの夜のことがずいぶん恥ずかしかったらしい。

 

「あれは頼人が悪いんだろ?いきなり人に、あ、あんなことしておいて……」

 

「知らない。それより、銀が入院中、冷たかったから寂しかった。」

 

頭をぐりぐりと銀の膝にこすりつける。

 

「あーもう。かまってやるから、じっとしてろ」

 

そう言うと、銀は俺の髪をくしゃくしゃにする。

 

「そーする。銀大好き」

 

「だから、そーいうの軽々しく言うなって。恥ずかしいだろ?」

 

「好きなのに好きって言って何が駄目なんだ!」

 

「なんでそこだけ真剣な顔に戻るんだ……」

 

と、言いながらも銀の頬が少し赤らんでいる。

少々照れてるらしい。

可愛い。

 

「でも……ちょっとほっとしたよ」

 

「ん、何が?」

 

少し気になって体を起こす。

何かしたっけ?

……心当たりが多すぎて分からんな。

 

「最近の頼人、いっつも気、張りつめっぱなしだったろ?皆で遊んでる時もさ、楽しんでるけど緊張感を残してるっていうかなんというかさ……」

 

「そーかな?」

 

「そーだよ。最近の頼人は馬鹿なこと全然言ってなかったじゃん。ほら、事件の香りがするだろ?」

 

銀が冗談めかして言う。

 

「なんと、俺はボケ役だったのか。そういうのは須美と園子で間に合ってると思ったんだが」

 

「園子はともかく、須美に聞かれたら説教されるぞ……。まぁ……だからさ、やっぱり無理してたんだろ?」

 

「……無理なんて」

 

「お前はそう思ってなくても、無理してたのは丸わかりだって。いい加減認めろ」

 

そう言うと、銀は隣に座る俺の頭をまた撫でる。

気持ちいい……。 

 

「……ほんと、銀って俺のこと見てくれてるよな。俺より俺のこと知ってるんじゃないか?」

 

「当たり前だろ?何年一緒にいると思ってんだ。……それで、しばらくはゆっくりできるんだよな?」

 

銀が俺の胸に抱き着いてきた。

嬉しいけど、少し驚いた。

 

「銀?」

 

「たまには、アタシにもいいだろ……。で、休めるんだよな?」

 

「ああ、流石に今度ばかりは、親父にもしっかり休めって言われっちゃったから。慌てるタイミングでもないし、少しは休むよ」

 

今回はかなり徹底して休まされてる。

秋隆を別件の仕事で駆り出すことまでしてくれて、俺が動けるルートの殆どが閉鎖されてる。

安芸先生も、最近は大赦に行ってることが増えてるし。

少し出ばなを挫かれた感じではあるが、少しは休んで皆を安心させないと、この先いよいよ仕事をさせてもらえなくなる。

そういう訳で、本当に久しぶりに、俺はこの日常を謳歌していた。

 

「そっか……。なら、よかったよ……。ほんと、お前は無茶しすぎるんだから、心配ばっかかけてさ」

 

「ちょっと前までは、心配かける側だった銀がそんなこと言えるのか?」

 

そう言って、銀のほっぺたをこねくり回す。

柔っこい。

 

「やーめーろ!話を逸らすな!」

 

そうして、銀が俺の手を掴むと、気が付けば、互いの顔が間近に迫っていた。

会話が途切れ、しばし、見つめあう形になる。

……こうしてみていると、やっぱり、すごく可愛い。

ずっと、見てていたくなる。

と、そこで、自分が随分惚気たことを考えてることに気付く。

本当に、こいつにいかれきっているな……。

と、頬が緩んだ瞬間、銀の顔が近づいてきて、唇をついばむようにキスされた。

思考が空白に染まる。

 

「え……銀……今の……」

 

唇が離れると、無意識に言葉が零れる。

 

「こっち見るな……」

 

銀が顔を真っ赤にして、もじもじしてる。

 

「でも今のって……」

 

「ア、アタシがしたかったんだ!いいだろ別に!」

 

銀が顔をぷいと背け、ぶっきらぼうに言う。

やばい可愛すぎるやばい。

 

「銀好き、大好き、愛してる」

 

銀を抱きしめ、その髪に顔をうずめる。

すごくいい匂いがする。

頭がくらくらしてくるほどだ。

 

「こら、調子に乗るな!はなせー!」

 

銀が腕の中で暴れるが、知ったこっちゃない。

嬉しすぎて、好きすぎて、どうにかなってしまいそうだ。

俺をこうしたのは、銀なんだから責任とってもらわないと嘘ってものだ。

しばらくすると、銀は諦めたのか暴れるのをやめ、ゆっくりと俺の背中に手を回してきた。

互いの心音だけが聞こえる。

温かい……。

 

「なあ、頼人……もしさ、もしも他の人と仲良くするなって、アタシだけ見てほしいって、言ったら……どうする?」

 

「…………え?」

 

唐突に、銀は小さな声で俺に質問を投げかけた。

少しの間、銀の言葉を頭で反芻して、飲み込む。

ちょっと……驚いた。

突然のことだったし、銀そんなこと言うなんて、思っていなかったから。

 

「……何かあったの?」

 

「そんなんじゃないよ。心理テストみたいなもんだからさ、答えてくれ」

 

……もしかして、少し不安にさせてしまったのだろうか。

例えば……俺の、須美や園子との距離の近さが気になったのだろうか。

いや、そうならこんな言い方はしないだろう。

もっと、冗談めかして、三股は駄目だぞとか言うに違いない。

第一、そうならばみんなでずっと一緒に、なんていうはずもない。

自惚れた考えではあるが、銀はずっと俺を好いてくれていたと思う。

あの話をした日も、きっと。

だからこそ、銀の言葉の真意が分からない。

分からないけど……ただ、銀を不安にさせたくはない。

だったら………実際にそう言われたらどうするかではなくて、自分の気持ちをはっきりと伝えておくべきだ。

 

「もし、銀がどうしてもそうしてほしいんだったら……そうするよ」

 

そう、俺は銀を幸せにすると決めたんだ。

もし、そうすることで、銀を幸せにできるのならすべきだと思う。

 

「………そっか」

 

銀が呟くように言う。

口調は変わらない。

もしかすると、銀の望んでいた答えではなかったのかもしれない。

なら、もう一つの答えもちゃんと伝えておこう。

 

「だけど、ほんとにそんなこと言ったら、その前に絶対理由を聞き出してやるからな。ただでは聞いてあげないんだから」

 

「うん……そうだよな。……よしっ!甘えるの終わり!そろそろ須美と園子が来るからな!」

 

そういうと、銀は俺から離れてしまう。

急なことだったので、つい抱き留める力が抜けていた。

胸の温もりがなくなったことに、少しの寂しさを感じてしまう。

 

「ほら、頼人も髪整えとけよ。だいぶ、くしゃくしゃになってるぞ」

 

「ああ、そう…だな……なぁ銀、さっきの質問って」

 

「気にすんなって。そんなに大した話じゃないからさ」

 

「でも……」

 

やっぱり、さっきの質問が気になってしまう。

いつになく、深刻な感じだった。

なのに、俺は銀の気持ちをちゃんと分かってやれなかった。

俺は銀の不安を拭えたのだろうか……。

と、そこで、玄関のチャイムが鳴る。

 

「来た来た。呼んでくるから、ちょっと待っててくれ」

 

「……ん。分かった」

 

どうやら、この件について聞くのはまたの機会になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、それじゃあ夏凜捕獲作戦の計画を立てるぞ!」

 

「銀……捕獲って、夏凜は動物か何かか……?」

 

「でもにぼっし―、ほんとにすぐどっか行っちゃうよね~。どこ行ってるんだろ~?」

 

最近の夏凜は何かと、俺たちを避け、すぐどこかへ行ってしまう。

そのうえ、SNSにも返信がない。

明らかにおかしい。

……というわけで、今日ここに集まったのは、夏凜をどうにかするためだった。

 

「やっぱり、どこかで鍛練か何かしてるんじゃないかしら。夏凜ちゃん好きそうだし」

 

「あー。確かに夏凜って鍛練厨だもんなー。あの熱意には負けるよ」

 

「たんれんちゅーって響き可愛いね~。虫さんみたい~」

 

「そんなこと考えんの園子ぐらいじゃないか……?」

 

やっぱり、園子のセンスはよく分からん……。

 

「でも、そうね……。一度、ちゃんと話を聞くべきよ。もしかしたら、何か悩み事があるのかもしれないし……」

 

「だけどなかなか捕まらないんだよなー。夏凜も休み時間くらいじっとしてればいいのに」

 

「確かに……。まずは足止めする必要があるわね」

 

「はいは~い!煮干しを机に置いとけばいいと思うんよ~!」

 

「猫かあいつは……。却下だ」

 

そんなこと言ってるけど、さっき銀も捕獲とか言ってたよな…。

 

「ええ~?いい案だと思ったのに~」

 

「実際にやったら、怒るぞ多分……」

 

「そうかな~?でもにぼっしーだよ~?」

 

「理由になってないだろ……」

 

「それじゃあ、直接家に行くのはどうかしら?家ならゆっくり話せると思うし」

 

「でも、夏凜の家行ったことないからな……。そもそもどこなんだろな」

 

「安芸先生に聞けば分かると思うわ」

 

「でも、突然行っても驚かれるだけなんじゃ?常に家にいる訳でもないだろうし」

 

「だったら、家の前に朝から張り込みましょう。一日尾行すればおおよその行動を把握できるはずよ!」

 

「ストーカーすれすれじゃねーか……」

 

しかも、やけに自信満々。

少々、気になるな…。

 

「そういえば、前にもわっしーと一緒にミノさんを家から尾行してたよね~。楽しかったな~」

 

「そんなことあったのか……。全く知らなかったぞ……」

 

いつの間にそんな探偵染みたことしてたんだろう…。

 

「ああ、頼人だけあたしんちだったもんな。ほら、三体目のバーテックスが来た日だよ。あの角持った奴」

 

「山羊座でしょ?銀たら、もう忘れたの?」

 

「へへ。いやさ、あんなに種類いたら、たまにこんがらがっちゃわないか?」

 

「ならないわよ。戦いの最中に度忘れしたらどうするの?」

 

「はい……ちゃんと覚えます……」

 

「話がずれてるぞ?それで、あの日、須美と園子がどうしたんだ?たしか、途中で一緒になってたような」

 

樹海化が起きる直前、三人とも合流してたよな確か。

 

「わっし―がミノさんの私生活を調査しようって言ってね~。尾行してたんだよ~」

 

「そんなことしてたのか……」

 

「だって、銀に何か問題があるなら、私達が力にならないといけないでしょう?」

 

「あ、改めて言われると、やっぱ照れるな」

 

銀が顔を赤くして頬をかく。

可愛い。

 

「でも、あの日のミノさんかっこよかったよ~。色んな人の問題次々解決してて~」

 

ああ、やっぱり……。

ジトッとした目で銀を見る。

 

「だ、大丈夫だったから気にすんなって。須美や園子も手伝ってくれたし」

 

「私たちはほとんど何もしてないわよ。……それにしても、頼人君がいない間、銀の遅刻が増えたのはやっぱり」

 

「まぁ頼人がいたら、トラブルにあっても割と何とかなるからな。その分いなくなった時の跳ね返りがね……」

 

「頼人君に頼ってばっかりじゃダメじゃない」

 

「ですよねー、はい。気を付けます」

 

「まあまあ、最近は俺も助けてもらってるし、随分、そういうのも少なくなってきたんじゃないか?」

 

朝とか逆に家に来てくれるし。

そういう意味では以前より遅刻することは少なくなった。

 

「そうかしら?」

 

「ねえねえみんな~。ちょっと思ったんだけど~」

 

「ん?どした園子」

 

「そろそろ、にぼっし―の話にもどろ~よ~」

 

「「「……あ」」」

 

閑話休題。

 

「ともかく、夏凜を捕まえるには学校より外の方がいいだろうな」

 

「そうね。学校だときっと、大捕物になってしまうわ。それでみんなに迷惑をかける訳にもいかないし」

 

「おーとりもの?……鳥?」

 

銀が初めて聞いた単語に首をかしげる。

 

「大騒ぎってことよ。きっと、あの様子だと夏凜ちゃん、本気で逃げかねないから」

 

「なるほど。アタシも安芸先生にはあんまり怒られたくないしね」

 

安芸先生か……。

ほんとに、最近の安芸先生は少し様子がおかしかったりする。

この前とか、「今、楽しい?」って聞かれたり、不意に抱きしめられたり、大赦で何かやってるらしいけど、それが大変なんだろうか?

結構心配だ。

今度、ちゃんと聞いてみよう。

と、そこでずれたことを考えていると気が付き、思考を元に戻す。

 

「それじゃあ、夏凜がどこにいるか考える必要があるな」

 

「そうだね~。だけど、にぼっし―がよく行く場所とかあんまり知らないよ~?」

 

「うーむ。こうなると園子の案が現実味を……」

 

「おびんわ。煮干しで釣ろうとすると、後が怖いぞ?」

 

銀に突っ込まれる。

意外といい案だと思うんだけどな……。

 

「やはり、張り込みを……!」

 

「須美はその発想から離れろ……」

 

「ピッカ~ン!ひらめいたよ~!」

 

「おお、何かピカーンしたか園子」

 

「にぼっしーのお兄さんに聞けばいいんだよ~」

 

「あ、そっか」

 

完全に盲点だった。

あの人確か今、夏凜と連絡を取り合ってたはずだ。

 

「そういえば、頼人は夏凜の兄ちゃんと知り合いなんだったっけ」

 

「ああ、最近会ってなかったから完全に忘れてた。ちょっと、聞いてみるけど……あんまり期待しないでくれ」

 

夏凜の行きそうな場所を知らないかと、メールを打つ。

流石に知らないと思うけど、連絡くらいはとれるはずだ。

 

「送信っと…………って早っ!」

 

秒で返ってきた。

夏凜は大橋記念公園の近くにある砂浜によくいるらしい。

鍛練でもしてるんだろうか?

それにしても、早すぎて怖い。

分かるのも怖い。

 

「なぁ、夏凜の兄ちゃんってさ……」

 

「やっぱり、シスコンさんだね~」

 

「それで、頼人君。なんて?」

 

「記念公園の近くにいることが多いってさ。鍛練か何かしてるみたいだな。休日なんかもずっとらしいよ」

 

「よし、早速行ってみるか!」

 

「待って、銀。いきなり押しかけても迷惑かもしれないわ。会ってどうするか、もう少し考えましょう?」

 

「そうだね~。よくいる場所は分かったんだから、会いに行くのは明日にした方がいいかも~」

 

「あーそっか。もう夕方だもんな。遊びに行くにしても中途半端なじかんだし、明日は休みだし」

 

なんやかんやで、今日は平日なのだ。

放課後のこの時間から遊びに誘うのは、やや悪手だ。

 

「じゃあじゃあ~、にぼっし―をどこに連れていくか考えとこうよ~」

 

「ふふふ、そういうことならこの銀様に任せときな。アタシのとっておきイネスフルコース巡りにご招待!これで夏凜も骨抜きになること間違いなしだ!」

 

「それじゃあ、明日は夏凜ちゃんを誘って、そのまま遊びに行きましょうか」

 

「うんうん。明日は一日、思いっきり楽しんじゃお~!」

 

こうして、夏凜を引っ張り出す作戦が決定し、その日はお開きとなった。

 

 

「それじゃ、お先に」

 

「ああ、頼人。また明日な」

 

「ええ、また明日ね頼人君」

 

「朝、迎えに行くからね~」

 

 

そうして、俺は一足先に、三ノ輪家を後にした。

あの三人は、別件で話し合いか何かするらしい。

詳しくは教えてもらえなかったけど。

銀の質問といい、少々気になるが……なぜかこの件を深く考えてはいけない気がする……。

何故だろう?

そういえば、最初のキスの件ももっと追及されるかと思ったらそうでもなかったし……。

謎は深まるばかりだ……。

そんなことを迎えの車の中で考えてると、ふと夏凜のことを思い出した。

もしかしたら、前の戦いで何か思うところがあったのかもしれない……。

それ以外にも悩み事があるなら、一足先に聞いておくべきだろうし。

もし、夏凜の悩みが予想通りなら、あいつらにあまり聞かせたくない話題になる。

………うん、やっぱり先に会っておこう。

思い立ったら、行動だな。

運転手さんに頼んで、夏凜がいるという場所に送ってもらう。

割とすぐ近くだ。

車を降りると、運転手さんが車椅子を用意しようとしたけど、丁重にお断りする。

リハビリがてら、少し歩きたかったし、大した距離でもないので、杖があればなんとかなる。

とはいえ、思った以上に疲労してしまう。

昔は一日中体を動かしても平気だったのに、今じゃ少しの距離を歩くだけで、息も絶え絶えだ。

やっぱり、あんまり調子に乗るべきじゃなかったかも……。

 

そうして、砂浜へ行くと、やっぱり夏凜がいた。

見れば、二本の木刀を器用に振っている。

いつ見ても、見事な剣舞だな……。

水のように滑らかでありながら、火のような激しさも併せ持つ。

見ていて飽きない。

そうして、近づいていくと、夏凜は不意に動きを止め、こちらに振り向いた。

 

「頼人……?」

 

「気配を消したはずだが、気づくとはやりおるの」

 

「何言ってんのよ。杖を突く音ですぐ気づいたわ」

 

「おっと、これは不覚だな」

 

「……なんで、ここにいんのよ。あんたたちにこの場所を教えた覚えはないわよ」

 

夏凜が少し不審そうな顔をして尋ねる。

疑問は最もだな。

 

「春信さんが教えてくれたぞ?一瞬で」

 

「なぁ!?あの、馬鹿兄……!人の個人情報をぺらぺらと……!」

 

中々怒ってる。

……当然か。

その間に、その場に腰を下ろさせてもらう。

それに合わせるかのように、夏凜もまた隣に座ってきた。

 

「はぁ……。で、何しにきたの?」

 

「最近の夏凜は、付き合いが悪いから。様子を見に来たんだよ」

 

「……ほっといて。今は鍛錬に集中したいの」

 

「でも、休み時間くらいは一緒にいてもいいだろ?皆寂しがってたし」

 

「だからほっといて。そんなことしてるほど私は暇じゃないのよ」

 

「時間ならあるだろ?せっかく、バーテックスがしばらく攻めてこないのが分かったのに」

 

そう、神託により、バーテックスたちが暫く攻撃を仕掛けていないことが分かったのだ。

おかげで、俺たちは休暇をもらえることになったのだ。

 

「……だからよ!私は戦うためにここに来たの!なのに、一回戦っただけで、すぐ休めだなんて、出来る訳ないじゃない!それに……それに、犠牲者だって出してしまったのよ!?のんびりしてていいはずがない!」

 

やっぱり……か……。

 

「夏凜……そのことなら何度も話し合っただろ?誰も悪くないって」

 

「でも……私がもっと鍛錬に集中してれば……!そうすれば、きっと……!」

 

夏凜の顔が歪む。

それを見て、また胸が苦しくなる。

夏凜は何も悪くないのに、苦しませてしまっている。

だけど、だからこそ、夏凜には事実に向き合ってもらわなければならない。

 

「…………いや……それでも大橋の崩壊は止められなかったと思う」

 

「違う!犠牲はなくせてたはずよ!私は初めての戦いだったんだから、遊んでる暇なんてなかったのよ!」

 

「…………俺もさ、似たようなこと思ったことあるよ。あの時こうしとけばよかったとか、こうすればもっとやれたとか」

 

本当に、もっと早く覚悟を決めて、大赦と取引しとけばよかったとか。

取引の約束を破ってでも、あいつらにもっと早く真実を教えておけばよかったとか。

大橋の件にしても、そう考えてしまうことは多々ある。

 

「…………あんたでも、そんなことあるのね」

 

「結構よくあるよ。……だけど、そのことをある人に漏らしたら怒られたよ。自己過信が過ぎるって」

 

「自己………過信……」

 

「ああ。あと、その理屈なら皆に責任があるともな。俺にも、あいつらにも……」

 

あの時の秋隆の言葉は衝撃的だった。

本当に、随分思い上がっていたと思う。

だけど、あの言葉のおかげで、俺はかなり救われた。

過去を忘れず、それでも前を向こうと思えた。

 

「それは……!」

 

夏凜が何か言いかけてやめる。

もしかしたら、夏凜自身にもその答えが分からないのかもしれない。

そうして、思う。

きっと……この件について、あいつらがあまり口にしないのは、俺達の為なんだろう……と。

少し、自惚れた考えだけれど、あの犠牲をなくせる可能性が高かったのは、俺や安芸先生、そしてあいつらの親御さんなど、大赦にいる人間だ。

そのために、いつも通り明るくしてくれてるんだとも思う。

俺達が暗くならないように……。

 

 

 

「……それにさ、こうも考えられるんじゃないか?連携が取れてなかったらあの戦いには勝てなかった。夏凜がみんなと一緒に過ごしてたから、うまく連携が取れて勝てたって」

 

「そんなの……ただの結果論じゃない……」

 

「そうかもな。だけど、それを言うなら夏凜のもそうだろ?」

 

「…………」

 

「……皆、本当に頑張ってくれてた。銀も、須美も、園子も…夏凜だって、自分の限界以上の力を出してた。あの戦いを直接見ていたから分かる。あの状況ではあれ以上の結果は出せなかった。……頼むから、自分を責めないでくれ。夏凜はよくやってくれたんだから」

 

本当に、あの戦いに勝てたのは奇跡のようなものだ。

それほど、ギリギリの勝利だった。

獅子座を一撃で仕留められたのも、結界を突破したあのバーテックスたちを前に、勇者たちの体力が持ったのも、本当に奇跡的なモノだ。

神託や過去の研究で、奴らの手の内がある程度わかっていなければ危なかったし、誰か一人でも欠けていればまず間違いなく負けていた。

勇者システムのアップデートがあれほどの完成度じゃなかったら、勝ち目はなかったし、全ての皆が限界以上の戦いをしてくれたから、何とかなったと、本当に思う。

それなのに、夏凜にそんな風に、思い詰めてほしくはない。

 

「……それでも、やっぱりあんた達といる意味なんてないわ」

 

しばらく沈黙した後、夏凜はぽつりとそう言った。

 

「夏凜……?」

 

「もう連携をとる必要もないのに、一緒にいる意味なんて……ない……!」

 

夏凜が俯き、絞り出すように言う。

まるで、自分自身に言い聞かせているようだ。

 

「まったく、何言ってるんだ?これからも一緒に戦ってくってのに。それに、もし勇者の御役目がなくなったとしてさ、それでサヨナラなんて寂しすぎると思わないか?俺もみんなも、そういうの関係なく、もっと夏凜と一緒に居たいって思ってるよ」

 

「でも……戦わない私になんて価値がなくて、だからあそこにも居場所なんて……」

 

「……てい」

 

夏凜のおでこに軽くデコピンする。

 

「な、何すんのよ!」

 

「夏凜が馬鹿なこと言うからだろ?価値がないとか居場所がないとか、そんなわけないんだから。それに言ったろ?皆夏凜と一緒に居たがってるって。今日なんてさ、夏凜を連れ出そうってみんな張り切ってたんだぞ?」

 

「あいつらが……?」

 

「ああ。まあ色々、えらそうなこと言ったけど、結局、ただ夏凜も一緒に居てほしいんだけなんだよ。俺もみんなも夏凜のこと好きだから」

 

「なっ……!」

 

夏凜が顔を赤くする。

どうにも、こういう言葉に耐性がないらしい。

 

「あと、銀曰く、俺はボケ役らしいからな。ツッコミの権化たる夏凜に居てもらわなきゃ困るんだよ」

 

「そんなもんになったつもりないわよ……。…………ったく!しょうがないわね!そこまで言うなら、付き合ってやるわよ!」

 

ようやく、夏凜が元気な声を出した。

うん、やっぱり夏凜はこうじゃないとな。

 

「よし。じゃあ明日みんなで遊びに行くから、SNSにちゃんと反応しろよ?スルーされるの意外と悲しいんだぞ?」

 

「……ほんと強引ね。兄貴に似てるなんて思ってたのが馬鹿らしくなるわ」

 

と、そこで端末が震える。

家からの連絡。

見れば、俺に客が来てるそうだ。

誰かは書いてないけど、もう帰らないとダメだな。

 

「それじゃ、俺はもう行くよ。また―――っと」

 

立ち上がろうとして、バランスを崩し転びかける。

と、そこで夏凜が腕をつかんで支えてくれた。

おかげで、なんとか転ばずに済んだ。

 

「なにやってんのよ?やっぱり、まだ治ってないんじゃないの?」

 

「あはは、大分ましにはなってきたんだけどな……」

 

「しょうがないわね。ほら、途中までついてってあげるから行くわよ」

 

「ありがと。……やっぱり夏凜は優しいな」

 

「うっさい!おいてくわよ!」

 

そんな事を言いながらも、夏凜はちゃんと車まで送ってくれた。

なんやかんやで、夏凜はすごく優しい。

なんにせよ、夏凜も明日、一緒に過ごせるのはよかった。

それに、少しは元気になってくれたみたいだし。

心労を僅かでも減らせたのなら良かったけど。

 

 

 

 

「……それで、お客人は?」

 

そうして、家に帰ると、いつものように使用人が出迎えてきた。

お客さんが来ていると聞いたけど、誰だろう?

なんか、真鍋さんの紹介だとしか言ってなかったけど……。

 

「応接室にいらっしゃいますよ?」

 

「そうじゃなくて、どなたがいらっしゃったんですか?」

 

こういう時、秋隆がいないのだと実感する。

秋隆ならもうとっくに……なんて、詮のないことを考えてしまう。

 

「犬吠埼風様です」

 

「………は?」

 

……………どういうこと?

 

 

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