樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話 作:exemoon
(誕生日記念回、短いです、一応セーフ?)
―――夢を見た。
懐かしい夢。
あれは、まだ銀と出会って、一年程しか経ってない頃のことだった。
互いのクラスが一緒になって、今まで以上に一緒に居る時間が増えてきた頃。
俺はもっと銀と居たいと思い、俺は赤嶺家で施されていた家庭内教育のカリキュラムを、さらに圧縮したものにしてもらい、少しでも早くすべてのカリキュラムを終えられるように、自宅では常に勉強や武術の稽古を行っていた。
あの日もそうやって、家で朝早くから武術の稽古をしていた。
その頃は夏休みの期間で昼過ぎから、銀の家に行く約束をしていたから、その分、早めにその日のノルマをこなしていたともいえる。
そうして、稽古を終えると、いつものように冷蔵庫に寝かせておいたお菓子を片手に、銀の家に向かった。
「なぁ頼人、やっぱりちょっと眠いんじゃないのか?ちょっと瞼がトロンとしかけてるぞ?」
「大丈夫大丈夫、ちょっとお腹が膨れて、一瞬、睡魔が来ただけだから、へーきへーき」
持ってきたプリンを食べてしばらくすると、突如として睡魔が訪れた。
夏休みな分、鍛錬を普段よりも密度を濃く行っていたからであろう。
若干の疲れが現れていた。
「そんな目して、まったく説得力ないぞ……?」
ジトッとした目で見つめられる。
随分、ひどい目をしているらしい。
「大丈夫だって、なあ鉄男~?」
俺の膝に座っていた小さな体を抱き上げてそう聞くと、鉄男はきゃっきゃと笑ってくれた。
かわゆい。
この頃には、鉄男は俺のことを、にーちゃ、にーちゃと呼び始めてくれて、かわゆさがより一層高まっていた。
「鉄男、お姉さまを差し置いて、頼人に尻尾を振るとは、大きくなったら覚悟しとけよ?」
「何言ってんだ銀。そんなこと言ってたら、いつか反乱を起こされるぞ」
「いひひ、そうならないようにじっくり教育してやるのサ」
「ほほう?それじゃあ、教育を知るためにもまずは、この宿題をどうにか片付けないとな」
「あの……頼人さん、今日はもういいんじゃないですかね?ほら、算数の宿題は終わったんだし」
「ダメ。言ってただろ?宿題は早めに終わらせて、八月はたっぷり遊ぶんだって」
「えーちょっとぐらい、いいじゃんかー」
「いいから、ほら国語のプリント出しな」
早いとこ、宿題を終わらせきってもらわねば、遊べないんだから。
「よし。これで国語も一通り終わったな」
そうして、またしばらく宿題を進めていき、何とかまた、一教科終わらせることができた。
といったところで、また眠気が来て、つい大きな欠伸をしてしまう。
やはり、鍛錬の疲れが少々たまっていたらしい。
当然、その様子は目の前の銀に見られていた。
「やっぱり、眠いんだな。しょうがないな、ほら、膝貸したげるから、ちょっと昼寝しな」
「いや大丈夫だから。それに、銀の足も疲れちゃうだろ?」
「気にすんなって。普段の借りもあるし、ちょっとぐらい甘えていいんだぞ?」
「おいおい、そもそも貸したつもりはないぞ?それに、鉄男も見とかなきゃだし」
「鉄男はアタシが見とくから大丈夫だって。ちょうど寝てくれたとこだしな。それより、銀様の膝枕なんて滅多に拝めないんだぞ~?見逃していいのか~?」
「でも……」
「いいから、休めって。それとも、アタシに膝枕されるのは嫌か?」
流石にそこまで言われたら断ることはできない。
俺は銀の厚意に甘えることにした。
それが、後戻りできない劇薬だと知らず―――
「それじゃあ……お邪魔します……」
そうして、銀の太ももの上にゆっくりと頭をのせる。
瞬間、安らぎで心が満たされた。
温かくて、柔らかでいい匂いがする。
今まで味わったことのない、本当にリラックスできる時間だった。
これほどまでに人に甘えたことは一度としてなかった。
特に、誘われたからとはいえ、自発的に人に甘えるなんてことは。
されど、一線は守り続けていた。
このまま、眠ってしまっては、何かがまた変わってしまうと思って。
そうして、瞬く間に微睡の淵に立たされながらも、何とか意識を保っていると、ふと、頭を撫でられる感触がした。
その時、理解してしまった。
俺はもう、この温もりから逃れることはできない。
それまでの意地だとかなんだとか、余計なものが銀の前でだけは気にしなくていいと、思えてしまった。
きっと、それは只のきっかけに過ぎなかったんだろう。
でも、十分すぎるきっかけだった。
それを自覚した瞬間、今までよりさらに銀のことが好きになってしまっていった。
気が付けば、自分なんかよりもよほど大切な存在になっていた。
この日を境に、俺は銀に甘えることが増えていった。
一緒に居るだけで、楽しくて、笑顔になれる。
そんなかけがえのない存在。
きっと、銀は大したことをしたとは思っていないんだろう。
けど、それでいい。
銀は、そのままでいるのが一番似合ってるんだから―――
―――夢を見た。
懐かしい夢。
あれは、まだ銀が頼人と出会ってあまり間がない頃のことだった。
互いのクラスは違っていたけど、登下校は一緒にしていた頃。
その日も、銀は頼人と共に帰路についていた。
よく晴れていたが、寒さが身にしみる冬の日。
朝、雨が降っていたせいか、水たまりが道端に残っている。
そんな道を、二人で歩いていた。
「なー頼人、昨日のあれ、かぼちゃのタルト、ありがとな!めっさ美味かった!お父さんもお母さんも喜んでたし、また作ってきてくれ」
「ほうほう、口に合ったみたいだな。良かった良かった。そんなに気に入ったんなら、今度作り方教えようか?」
「ほんとか!?よーし、頼人の技全部盗んでやる。鉄男が大きくなったら食べさせてやるんだ!」
「鉄男か……そういえば、赤ちゃん用のお菓子とかあったな。今度試しに作ってみようかな?」
「へー、そういうのも手作りできるんだな。お店とかじゃないとそういうの難しいと思ってたけど」
「確か、基本は離乳食とかと同じだったはずだから、材料とか気にすれば作れたはず」
「そのお菓子作りへの執念はどこから来るんだ?ここか?」
銀が頼人の脇腹をつつく。
そこは、頼人の弱点の一つだった。
「ちょっ、銀!脇腹はやめい!」
「はは!にしても、ほんと頼人ってお菓子作るの上手いよな。店開けるんじゃないか?」
「そんなに褒めても、新しいお菓子しか出ないぞ?」
「やっりぃ!吾輩はプリンを所望いたしまするぞ?」
いつも通りの、何気ない会話。
ただそれだけで、とても楽しかった。
まるで、同い年の兄弟ができたようで、何でも話せて嬉しかった。
そんな存在。
そうして、話しながら家へ向かっていると、二人の目の前を大きな柴犬が駆けていった。
それを追いかけるように初老の男性が走ってくる。
どうやら、犬に逃げられたらしく、男性は息を切らしている。
「よし、行くぞ頼人!」
「えっ、銀!?」
途端、銀は駆けだした。
銀はよく外で遊んでいたし、足もクラスの中で早い方だったから、すぐに犬を捕まえられると思ったのだ。
しかし、柴犬は狭い路地に入り込み、縦横無尽に逃げ回る。
中々捕まえられない。
「ちょこまかとっ!やるなワン公!って、そっちは駄目だ!」
そうこうしているうちに、柴犬は大通りの方へ向かってしまう。
朝から車が多い道。
下手をすれば事故が起きてしまうかもしれない。
あれだけ暴走している犬だ。
可能性は少なくない。
早く捕まえなければ。
そう思い、銀は脚にさらに力を籠める。
「もう……少しっ…!って頼人!?」
必死で犬を追いかけ、もう少しで届く…といったところで、進行方向に頼人が突然現れた。
柴犬は頼人に抱き留められ―――銀はその勢いのまま、頼人にぶつかった。
視界がぐるりと回り、少しの衝撃を感じる。
だが、不思議なことに痛みは感じない。
「あれ、頼人?」
「いつつ……銀、怪我はない?」
気が付けば、銀は頼人に抱き留められていた。
柴犬と一緒に。
とはいえ、頼人は完全に受け止めきれたわけではなく、銀は頼人を下敷きに倒れる形となっていた。
「アタシは平気だけどさ。頼人は?」
「あー、ちょっと良くないかも」
「えっ!?怪我でもしたか!?」
「いや、背中が……」
「あ……」
見れば、頼人の背中は水たまりにびっしょりと浸かっていた。
「ランドセルを下ろしたのは間違いだったな……」
「ごめんな頼人。アタシのせいで」
「銀は悪くないって。俺のタイミングが悪かったんだからさ」
柴犬を無事確保し、飼い主に引き渡した後、二人は一先ず三ノ輪家に帰っていた。
頼人は速く走るため、ランドセルを下ろしていたせいで、水たまりに背中がもろに浸かってしまった。
流石に、寒い日なので、風邪をひかないためにも、早めに服を乾かすべきだと考えたのだった。
「……なあ頼人。何で頼人はこんなにいつも手伝ってくれるんだ?アタシに付き合わなきゃ、こんなに苦労することはないだろ?」
出会ってから、度々抱いていた疑問。
今までは、あまり気にせずにいたが、今日のように巻き込まれても態度を変えない頼人を見て、つい聞いてしまったのだった。
「何言ってるんだ?別に銀は悪いことも何もしてないのに、それで苦労なんてするはずないだろ?今日だって、あのワンコを捕まえられたのは、銀が追い詰めてくれたからだし」
「でもさ、アタシが無理に顔を突っ込まなきゃ、頼人に迷惑掛けなかったことだっていっぱいあるだろ?……分かってるんだ、アタシはお節介だってこと」
何をいまさらと、呆れるように言う少年に銀は告げる。
銀は分かっていた。
自分が遭遇するトラブルに、無理に介入する必要のないものがあることを。
だから、そのことで頼人に迷惑をかけているのではないかと、気にしていたのだ。
「まったく、らしくないぞ銀。そんなつまらないこと気にしないでくれ」
「でもさ、今日だってアタシに付き合って、そのせいで濡れ鼠にしちゃったし」
「いいんだよ、好きで付き合ってるんだから」
「だけどさ」
「俺はそういう銀の困った人を放っておけないところも好きだからさ、そんなことは聞いてやらない」
その言葉を聞いて、銀は頬が紅潮するのを感じた。
好きという言葉に対する耐性がなく、少し照れたのだった。
と、同時に自分がそういうことをしなくなったら、頼人はどうするのか気になってしまい、質問が口から零れた。
「じゃあ、アタシがトラブルに顔を突っ込まなくなったらどうするんだ?」
「そういう時は俺が勝手に顔を突っ込むから、銀は放っておいてくれ」
「何言っんだ!そんなことできる訳ないだろ?」
「だろ?というか、そもそも銀が困った人を放っておける訳ないんだから、今更じゃないか?」
「むぅ……。分かったようなこと言って、こやつめ」
銀は口ではそう言いながらも、頼人の言葉が当たっていると感じてしまった。
故に、照れ隠しのような言葉しか出てこなかった。
それを知ってか知らずか、少年はさらに言葉をつづける。
「まぁ、俺もそういうの放っておけなくなってきたし、だったら一緒に解決した方がいいだろ?そっちの方が楽しいし」
「はは!楽しいってなんだそりゃ!?」
「そーいう性分なんだから仕方ないだろ?」
「ったく、頼人は物好きだな!」
嬉しかった。
トラブルも含めて、一緒に居るのが楽しいと言ってくれたことが。
困った人を放っておけないとこを、好きだと言ってくれたことが。
きっと、この日からなのだろう。
三ノ輪銀が赤嶺頼人を他の誰とも違う、大切な存在だと、思うようになったのは―――
―――そうして、目が覚めた。
目の前には自分の大事な、大切な人な顔が広がっている。
どうやら、二人とも同時に目が覚めたらしい。
思わず、笑みがこぼれる。
そうして、いつものようにじゃれ合って、互いを抱きしめた。
―――ずっと、一緒に居られますように
それはきっと、お互いに想い合っている言葉。
変わることのない想いなのだろう―――