樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

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投稿頻度上げられるよう頑張ります


In the end, everyone will be hypocrites

「彼女がここに?何故ですか?」

 

告げられた名前に衝撃を受ける。

犬吠埼風、先日亡くなられた犬吠埼ご夫妻の長女。

彼女らとは今まで面識など一切なかったはずだし、こんな形で名を聞くとは思わなかった。

 

「お聞きしたのですが、真鍋様はお名前をお伝えすれば分かると」

 

「……それで、真鍋さんは?」

 

「犬吠埼様をこちらにお連れになった後、お帰りになりました」

 

犬吠埼さんを一人残して帰った?

何か帰らないといけない理由でもあったのだろうか?

きな臭いにもほどがある。

……とはいえ、状況が未だに読めないし、まずは犬吠埼さんから話を聞くべきか。

 

「………………………分かりました。それでは、会いましょう。っと―――」

 

「大丈夫ですか!?」

 

一歩踏み出したところでふらついて倒れそうになった。

しまった。

少し調子に乗って歩きすぎたらしい。

 

「すみません。車椅子をお願いします」

 

「はい、ただいま!」

 

メイドさんが慌てて車椅子を取りに行く。

いやはや、随分リハビリにも慣れて来たと思っていたのに、これではな……。

もう少し、リハビリの時間を増やすかな。

と、今は余計なことを考えてる場合ではないな。

なにはともあれ、会わなければどうにもならない。

 

 

 

 

「は、初めまして、犬吠埼風です。と、突然お邪魔してすみません!」

 

「初めまして、赤嶺頼人です。こちらこそ、大変お待たせして申し訳ありません。どうぞ、おかけになって下さい」

 

応接室に向かうと、中学生くらいの少女が立ち上がって、大きな声で挨拶した。

どこか、緊張した様子だ。

 

「えと、本当に……あなたが赤嶺さんなんですか……?」

 

俺を見た彼女が、少し驚いたような顔をする。

 

「ええ。もしかして、真鍋さんから何かお聞きになりましたか?」

 

「た、大したことは……」

 

「そうかしこまらないで、楽になさって下さい。敬語を使われることもありませんよ?」

 

「いえいえいえ!そういう訳には!」

 

「そ、そうですか」

 

すごい迫力で断られた。

間違いなく、真鍋さんに色々と吹き込まれたのだろう。

やっぱり、それなり以上に恨まれているらしい……けどそうなら何故、俺のところを選んだんだろうか。

嫌がらせにしては、妙な感じだし……用件を聞けばわかるか。

 

「……して、本日はどういったご用件でしょうか?」

 

「あの……ここに来れば、おと…両親のことについて、教えてもらえると聞いて来たんです……!」

 

犬吠埼さんは少し逡巡した様子を見せた後、ゆっくりと、されども、はっきりとした口調でそう言った。

その言葉は俺にある種の納得をさせるものになった。

 

「犬吠埼さんのご両親……ですか。申し訳ございませんが、ご両親と自分は面識もなく、大したことは存じ上げません。よろしければ、ご両親と親交のあった方をこちらからご紹介いたしましょうか?」

 

「そ、そうではないんです!大橋の事故のことです。あなたなら、本当の事を教えてくれるって聞いたから来たんです!」

 

「………………本当の事……ですか」

 

やはり、複雑な話になりそうだ。

 

「あれは……只の事故じゃなかったんですよね?」

 

「何故……そのように思われたのですか?」

 

「少し前に、たまたま両親が話してるの聞いてしまったんです。詳しい内容は聞こえなかったんですけど、今、何か大変なことが起きてるっていうのは分かって……。それが今回の事故と無関係と思えなくて、両親の知り合いとか、知ってる大赦の人から知ってそうな人を辿って……それで―――」

 

「それで、真鍋さんにたどり着いたわけですか……。彼女はなんと?」

 

「私は教えられないけど、教えてくれる人を紹介するって……ここに」

 

「そういうことですか……」

 

彼女がここに来た理由は凡そ分かった。

後は……真鍋さんの思惑を知る必要があるな。

 

「やっぱり、知ってるんですね!?お願いです!本当の事を教えてください!」

 

俺が沈黙した様子を見て、犬吠埼さんが身を乗り出して聞いて来た。

どうやら、俺がこの件について事情を知っていると判断したらしい。

それにしても、かなりの剣幕だ。

……それもそうだろう、何人もの人間にたらい回しにされたようなものなのだ。

そう思うのも無理はないだろう。

さて、どう答えるべきか。

正しい答えが存在しないな………。

仮に、全てを正直に話したとする。

道義的には正しい事だろうが、彼女は俺を尋ねてくるほどの行動力を持った人だ。

復讐のため、勇者になりたがる可能性は否めず、今後の彼女の処遇にも変化が生まれるだろう。

また、教えるということは機密漏洩と同義。

いくら勇者候補で、両親が大赦の職員であったからといっても、彼女自身は只の中学生だ。

また、この件を紹介してきたのは真鍋さんである以上、上に話が行ってる可能性もあり、そんな彼女に、今この場で情報を流すことはできない。

様々な面で、リスキーであるし、彼女自身に面倒が及ぶのは避けたい。

では、彼女に話さなければどうなるか。

一時的には、問題はないだろう。

しかし、彼女はある程度の情報を得ているため、いずれ大赦と何かしらの形で接触することは間違いなく、そうなれば、彼女の立場は非常に微妙なものとなる。

知らなかったとはいえ、彼女の行動は一歩間違えれば、世間に大赦の機密を流しかねないモノであったからだ。

そして、犬吠埼さんにこれ以上の行動を許せば、彼女の立場が危うくなるだけではなく、自分を含め、彼女と接触した全ての職員に責が及ぶだろう。

それは避けなければならない。

……個人的には、真実を教えてあげたい。

既に彼女は、両親の死に不審な点を感じており、そんな中で真実を隠され続けるのは、許せない行為であろう。

それに、俺が同じ立場ならきっと真実を知りたいと思う。

しかしながら、教えれば彼女を戦いに巻き込むことになりかねない。

無論、既に多くの人を巻き込んでいる身だ。

これからも多くを巻き込むことになるし、そんな感情を持つことは好ましくない。

それでも、可能な限り、犬吠埼ご夫妻の意を汲み取りたいけど…………。

真実を伝えるにせよ、伝えないにせよ、不用意な行動は慎まなければならない。

どちらにせよ…………結局、偽善だと言われるような行動であることに違いはないが……。

 

――分かってる。

俺の考えは余りにも矛盾している。

意を汲み取りたいと言いつつも、それはあくまで俺の想像。

ただご夫妻に対して、後ろめたさを感じているだけだ

真実を告げない根拠とはなりえない。

同様に、彼女を特別扱いするなんてことは、許されるはずもなし。

親がいない少女をも、これから戦いに巻き込もうとしているのに、中途半端な同情心を抱くわけにはいかない。

そもそも、銀達をこれからも戦わせようとしている身だ。

せめて、こういったことに余分な感情は抜きして、この人に対しても可能な限り誠実であるべきだ。

うん、やっぱり話すべきだと思う。

この先、犬吠埼さんがどのような立場になろうとも、この件について、彼女は知る権利がある。

無論、何もせずにただ知らせると、問題になるから、何かしらの手は打たなければならない。

なら、まずは―――

 

 

「お話しする前に、いくつか確認したいことがあるのですが、よろしいですか?」

 

「え、ええ……なんでしょう?」

 

「今までに、この件についてあなたが話した方の情報を教えてください」

 

「それは…………」

 

犬吠埼さんは顔を俯かせ、少々渋る様子を見せる。

 

「口止めされてるのは分かりますが、これはその方たちの為でもあります。それに、仮に彼らのうちの誰かが犬吠埼さんのことを上に漏らしていたら、少々良くないことになります」

 

「…………ですが」

 

「大丈夫です、念のための措置ですから。それが済み次第、あなたに全てをお話しします。信じていただけないでしょうか?」

 

「……本当ですか?」

 

「そう思って頂いて結構です」

 

 

彼女は、しばらく迷った様子を見せた後、おもむろにカバンから複数の名前と連絡先が書かれたメモを取り出し、俺に手渡してきた。

 

「絶対、この人たちに迷惑は掛からないんですね?」

 

俺がメモを受け取ろうと掴むと、彼女はメモを掴む手を離さず、俺の目を見てこういった。

 

「約束します」

 

その目を見つめ返しそう言うと、彼女はメモを手放した。

どうやら信じてもらえたらしい。

 

「ありがとうございます。では、少しだけここでお待ちください。お茶請けも新しいものを出しますので」

 

「あ……い、いえ!お気遣いなく」

 

「遠慮なさらずにどうぞ。どうやら気に入っていただけたようですし」

 

テーブルの上に用意されてたお菓子はキレイになくなっていた。

犬吠埼さんが全て食べたのだろう。

結構な量を用意してたはずだけど、皿は洗い立てのモノのようにキレイだった。

犬吠埼さんが少し赤面している。

まあ、恥ずかしいのはよく分かる。

状況を考えると緊張していたのも無理はないし、そのせいで余計に食べてしまったのだろう。

 

「あ、あはは……すみません……。あの、押しかけておいて申し訳ないんですがお時間ってどれくらいかかりますか?家に妹を残して来てるので…………」

 

とそこで、彼女はちらりと壁にかかった時計を見て言った。

見れば、もう辺りが暗くなる時間になっている。

妹さんのことが気になるのだろう。

この上にさらに時間がかかるというのなら、そう思うのも無理はない。

家の者を呼び、車の準備をするように伝える。

 

「それでは、詳しいお話はまたにしましょうか。それまでにお話しできる準備を整えておきますので。犬吠埼さんは明後日など、お時間はおありですか?」

 

「あ、はい。アタシはいつでも大丈夫です」

 

「それでは、当日迎えを行かせますね。もう少々お待ちください、今、車を回しますので」

 

「いえいえ、そこまでしてもらう訳には……」

 

「そう言わずに。結局、ここまで来てくださったのに、碌にお話もできませんでしたし、これくらいさせて下さい」

 

「す、すみませんね……」

 

犬吠埼さんが頭をかきながらそう言った。

 

「…………次にいらっしゃるときには心の準備だけはしてきて下さい。きっと、とてもショックを受けるお話だと思いますし、これまで通りではいられなくなるかもしれません」

 

「これまで通りって……」

 

「この件は、犬吠埼さんが思っていらっしゃる以上に、根が深いものです。知ってしまえば、後戻りはできません。それから、貴方がどのような選択をしようとも、その真実は今後、ずっと付きまとうことになります。知らないままでいればよかったと思われるかもしれない。次にいらっしゃる時まで、そのことをお考え下さい」

 

はっきり言って、彼女の想像を遥かに超えた話になるだろう。

俺だって、初めて知った時には、動揺を隠せなかった。

 

「…………それでも、それでもアタシは知りたいんです。何かあるってわかってるのに、知らないままでいることの嫌なんです。それに、お父さんやお母さんがいなくなったのに、これまで通りではいられませんから」

 

どこか、寂しそうなその言葉に、胸を締め付けられる思いがした。

そうだ、既に彼女の日常は崩れ去ってしまっている。

俺が分かったような事を言うべきではなかった。

 

「……すみません。失礼なことを申し上げました」

 

「いえ、いいんです。むしろ、心配をおかけしてすみません」

 

犬吠埼さんがそう言ってくれる。

不躾な言葉であったのに、優しい方だ。

そういう優しい人が、これほど苦しんでることに、やりきれなさを感じた。

 

 

 

 

 

 

「それでは、これで失礼します。今日はありがとうございました」

 

それから少しして、車の用意ができたので、俺は玄関まで見送りに来ていた。

そこでまた、違和感を感じた。

勘違いかもしれないけど……一応聞いておこう。

 

「こちらこそ、大したおもてなしもできずにすみませんでした。あと……勘違いされてるかもしれないので申し上げますけど、自分は犬吠埼さんよりも一つ下の年齢です。なので、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ?」

 

「えっ、一つ下ってことは……小学生!?ほんとに!?アタシの一個下!?」

 

犬吠埼さんが驚いた様子で声をあげる。

やはり、勘違いしてたようだ。

 

「ええ、そうですよ。なので、ほんとに敬語は使われなくて結構ですよ」

 

「でも、大赦の偉い人って……」

 

「確かに家はそれなりに大きいですけど、自分個人は、末端に籍を置いてるだけで、さして偉いわけではありません。きっと、真鍋さんが少々話を大きくしすぎただけですよ」

 

どうせ、真鍋さんが色々と吹き込んだんだろう。

大体予想はつく。

 

「いや、でも……ええ……?」

 

犬吠埼さんはなんだか、納得のいってないような感じだ。

 

「そんなに意外でした?」

 

「いや、話し方とか雰囲気とかで完全に年上だとばかり……。先輩にも背の低い人はいたし……」

 

「これでもランドセルをまだ背負ってますから」

 

「ラ、ランドセル……イメージが……。え、でもなら何でアタシの知りたいことを知ってるのよ?機密なんでしょ?」

 

「ええ、それについても、明後日、一緒にお話ししますね」

 

「は、はぁ………」

 

その後、二、三言葉を交わした後、犬吠埼さんはこの家を後にした。

なんだか、随分と締まらない別れ方になってしまったな……。

まあいい。

さて、部屋に戻ってお仕事の時間だ。

 

 

 

 

 

『意外と遅かったね』

 

部屋に戻って、犬吠埼さんから教えてもらった番号に電話を掛けると、開口一番こんな言葉がとんできた。

 

「何しろ、突然のことでしたから。真鍋さんが最初からいれば、少しは話も違ったんですよ?」

 

『おや、奇襲は好きなんじゃないのかい?人にあんなことを仕掛けておいて』

 

「するのはともかく、されるのは苦手でして」

 

『可愛げがないね。まったく』

 

「これは手厳しい。で、どういうことか説明していただいても?」

 

流石に、これは余りにも恣意的すぎる行動のように思える。

どこまで話が通っているのかなど、分からないことが多い。

 

『君、女の子が好きだろう?ちょっと早いクリスマスプレゼント……って言ったら満足かい?』

 

「流石に早すぎます。せめて、あと一月は待たないと」

 

『……嫌にノリがいいね君。なるほど、そっちが素って訳だ』

 

「そういう訳ではありませんが……。そういえば、犬吠埼さんになに吹き込んだんですか?結構、緊張してましたけど」

 

『なに、君が見かけよりずっと大人な大赦の偉い人で、気に障ったことを言えば、社会的に殺されちゃうよって言っただけだよ』

 

「なんてことを……」

 

道理であんなにかしこまっていたわけだ。

そんな言い方だと、犬吠埼さんが俺を自分よりも年上だと思うのも無理はない。

 

『実際そうだろ?まぁいい。くだらない掛け合いはここまでにしておいて、本題に入ろう』

 

「伺います」

 

さて、ここからだな。

 

『単刀直入に言おう、犬吠埼姉妹を勇者にしてやってくれ』

 

身構えた途端、真鍋さんはさらりととんでもない事を言った。

 

「……本気でおっしゃっているんですか?まともに答える気がなければ、切りますよ?」

 

『待て、最後まで話を聞け』

 

「………どうぞ」

 

『君も知っているだろう?彼女たちは現時点で勇者の有力候補となっている。だが、誰かさんのせいでその扱いがややこしいことになった』

 

「それが何か?」

 

『分かっているだろう?彼女たちは勇者にならない場合、君の進めている計画、例の防人に選ばれる可能性は高い』

 

「勇者にさせたいというよりも、防人にさせたくないと。理由をお聞きしても?」

 

『……あの子たちが死ぬ可能性を少しでも減らしたい。それに、勇者になれば、彼女達の身の安全は大赦に保証される。そのためにだ』

 

「人の事を言えた義理ではありませんが、矛盾してますね。ならなぜ、彼女達を戦わせないよう取り計らえと言わないんです?勇者の重責、知らないあなたでもないでしょうに」

 

『分かってる。だがこの先、君の立場では彼女を戦わせないように手を打つのは難しくなる。どの道、戦わせなくてはいけないのなら、より立場が守られる勇者にすべきだ。違うかい?』

 

今の言い方、少し違和感があった。

俺の立場?

 

「真鍋さん、俺の立場って、どういう意味ですか?」

 

『知りたいのなら、こちらのお願いを聞いてくれればいい。それで丸く済む』

 

「ふざけないでください。そもそも、自分がその言葉に乗ると本気で思っているんですか?」

 

『どうだろうね。正直なところ、半々だ。だけど、君は乗るさ。きっとね』

 

「自信がおありなようですが、そもそも今の俺にその権限はありません。第一、勇者の選定には人間が関われない部分があることを知っているはずです。三好夏凜のあれはあくまで特殊な例だと」

 

『君も嘘つきだね。権限がなくても、君は人を操れる。気持ち悪いぐらいにね。それに、次の勇者の選定にしても、特殊な存在がいるだろう』

 

「……何のことでしょう?」

 

『とぼけなくていい。結城友奈。彼女はかなり濃い『友奈』だ。君の御先祖以上にね。彼女が次の勇者に選ばれるのは間違いない。勇者適正値もそれを証明している。そして、彼女の傍に勇者適正値の高い人物を現勇者と共に配置すれば、その者たちが一緒に勇者に選ばれる可能性は非常に高い。そうだろう?』

 

「……あれ、確か、かなりの機密だったと思うですけど」

 

『これでも、情報収集は得意でね。大赦も外部への守りは強いけど、内部となるとそうでもないのさ』

 

「……で、仮にそれが可能だったとしても、彼女らを選ぶメリットがない以上、この話はここで終わりになりますが?」

 

『メリットもなにも、適正値に関していえば、彼女らが最有力だ。訓練所にいた面々は勇者適正値が高いとは言えない。楠芽吹も含めてね。それに、楠嬢の受けが悪いのは承知のはずだ。安芸さんも含め、彼女を勇者とするのは避けるべきだという意見は多い』

 

「だとしても、いえ……そうならば、放っておけばよかったのでは?」

 

『そうもいかない。ただ勇者になったのでは、親のいない彼女たちは一部の者に利用される可能性がある』

 

「待って下さい。そんなことができる連中がまだ残っているとは思えません。特に、今の首脳部がいる間は」

 

『事情を知りたいかい?だが、駄目だ。君がこの件について確約してくれない限りはね。ただ、すべて真実だ』

 

「なぜ、そこまで彼女達に肩入れするのですか?ただの同情という訳ではなさそうですが」

 

『……犬吠埼さんには昔、世話になってね』

 

「そう……ですか」

 

『あの子たちを危険な目に合わせるということは分かってる。だがそれ以外に方法はなくてね』

 

「……………いいでしょう。条件は?」

 

『そう来なくっちゃね。私が求めるのは、勇者選定に彼女達を君から推薦すること。そして、彼女達の後見を赤嶺で行うことの二点だ』

 

「引き換えには何を?」

 

『現時点における、大赦内のありとあらゆる情報。特に、君に秘匿されている情報を教えよう。おまけで、お偉方の弱みもね。あとは、私個人の忠誠といったところかな?』

 

真鍋さんが楽しそうに話す。

本気かどうか怪しいと言わざるを得ないな….。

 

「残念ですが、情報ならこちらでも集められます。あなたがヒントをくれたので、取引材料にはなりません」

 

『どうかな?現状、君の伝手は封じられているはずだ。そう簡単にはいかないよ。それに君の協力者とて、この件に関しては箝口令を布かれている。気になるなら、調べてみるといい』

 

「そうします。いずれにせよ、今すぐに返事をするわけにもいきませんし」

 

『ああ、それでいい。だが、お早めにどうぞ?君にとって、取り返しのつかないことになるかもよ?』

 

「その時はその時です。……それと、確認ですが犬吠埼さんが接触した方々は、この件を上に知らせなかったのですか?」

 

『させていないよ。こっちにも都合があってね』

 

させてない?

これは、犬吠埼さんと接触した面々は真鍋さんと繋がりがあったということか。

となると、この状況は偶然発生したものではなく、意図的に引き起こされたと考えるべき。

ちょっと嫌な感じがするな……。

 

「……分かりました」

 

『君はきっと、この取引に乗る。真実を教えれば、あの子は必ず勇者になりたがるだろうし、それに、君は僕の持つ情報をきっと知りたがる』

 

「さて……どうでしょう?」

 

『まあいいさ。断られた時はまた考えるしね』

 

「………最後に一つだけ教えてください。真鍋さん……あなた、本当に彼女たちのために行動してるんですか?」

 

『………………どうだろうね。案外、全部が嘘かもよ?』

 

さっきと言ってる事が違う。

増々怪しい。

が、少々様子が変わっていた。

 

「……答える気はないと。本当に、取引を成立させる気があるんですか?」

 

『心外だね。大ありさ』

 

「はぁ……。まあいいです。ただ相応の覚悟はなさってください」

 

『そっちこそ、自分に押しつぶされないようにね』

 

彼女がその言葉を告げた直後、プツリと通話は切れた。

随分と嫌な捨て台詞だ。

とはいえ、彼女との会話で凡その状況は予想できた。

問題は、彼女の言をどこまで信じていいのか。

行動に明確な一貫性もなければ、今までのような論理性もない。

他にもっと良い手段はあったはずなのに、何故それを選ばなかったのか。

そうなると、取引に応じたら、罠でしたという可能性も否定できない。

それでも、犬吠埼さんが出てきている時点で、動かないという選択肢は潰されたも同然だ。

なんだか、嫌な予感がする。

どちらにせよ、今はこの件に集中するしかあるまい。

部屋の本棚から、ある百科事典を取り出し、辞典の間に挟んでいた書類を抜き取る。

書類の中身は、今まで俺が接触してきた名家の人間の連絡先。

赤嶺としての権限が使えなくとも、動けるようにと準備していた代物だ。

春信さんの連絡先だけ、夏凜の写真を送るために登録しておいたが、それ以外の多くの人達との連絡手段はこちらに、確保していた。

ここ最近、両親は家を空けているし、少しぐらい動いても問題はないはず。

部屋の時計を見ると、まだ何とか、電話を入れても失礼には当たらない時間だった。

メールも色々と打たないといけない。

さて……まずは。

書類を見ながら、電話番号を入力する。

久しぶりの、家を介さない工作になる。

時間がかかりそうだ――――

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし、春信君?……うん、予定通り。これで、あの子も動くだろうね。……………ああ、分かってるよ。安芸さんには悪いけどね。ただ、監視は要らないと思う。むしろ、こちらが把握していたことが知られたら厄介そうだし……はいはい。使える物は、でしょ?だけど、一つだけ覚えておいてよね」

 

彼女は楽しそうに、気楽に話す。

内容の不可解さとは裏腹に。

だが、突然そのトーンは下がる。

 

「私にここまでさせたんだから、覚悟はしろ。もしこれであの子たちに何かあれば、私は君を許さない」

 

怒りをにじませた声。

そして、その声には、一抹の悔恨がにじんでいた。

 

「……確かに、私が言えた義理ではなかったね。ごめんごめん、つい気が立っちゃって」

 

声の様子が元に戻る。

 

「……分かってるのなら、結構。それじゃ、我らが救世主様にご期待しよう。あれ?救世主は鷲尾のお嬢ちゃんだったっけ?ま、どっちでも同じか」

 

ふざけたような言葉。

だが、その声は冷たく響く。

 

「ああ、一元的な戦争指導。その実現は可及的速やかに―――」

 

 

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