樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話 作:exemoon
ふと、目が覚めた。
枕もとの時計を見ると、今は四時五十分。
目覚ましなしでこの時間に起きれるとは、我ながら、体が慣れてきたと見える。
大赦の朝は早い。
ここに住み込んでる神官は朝五時には起き出して、身支度を整え始める。
故に、俺もそれに合わせて起きるようにしている。
「おー、さぶさぶ……」
掛け布団をめくり、上半身を起こすと、不意にそんな言葉が漏れる。
大赦本部に来てから、早二ヶ月。
もうすっかり冬だ。
寒さが身に染みる。
寝台からそろりと足を下ろし、床に素足を付けると、冷たさが足から全身に上っていく。
やっぱり、寒いのは少し苦手かもしれない。
それでも、だいぶ慣れてはきたが……。
寝台横に設置された、手すりに左手をかけ、ゆっくりと立ち上がる。
数ヶ月間リハビリを行ってきたが、左足が未だにうまく動かない。
一番左足の損傷が激しかったらしく、何度手術をしても、完治はしないだろうとのことだった。
まあ、歩けるようになっただけでも、奇跡的らしいので、文句のつけようもないのだけれど……。
そうして、顔を洗おうと一歩踏み出した時、部屋に誰かが入ってくる気配がした。
あらまあ……今日は早いな……。
顔を部屋の入口の方へと向けると、俺の世話役をしてくれてる女性神官の方たちが薄い微笑と共に立っていた。
「おはようございます、早乙女さん、久保さんも。今日は早いんですね」
「おはようございます、頼人様。そろそろ頼人様が目覚められるかと思いましたので、早めに参りました。やっぱり、またお一人で起きられてたのですね。呼び鈴を鳴らして頂ければよいのに」
筆頭の神官さんが口を開く。
早乙女さん。
ここに来てから、ずっと俺の世話をしてくれてる方。
最初の内は、言葉も動きも何もかもが凄くお堅い感じだったけど、最近はとても柔らかく、優しく接してくれてる。
また、単なるお世話係という訳でもなく、秘書としての仕事もしてもらっている。
「顔を洗うだけのつもりでしたから。手を借りるほどの事でもありませんしね」
「頼人様、私共のことを考えて下さるのは嬉しいのですが、もっと頼って下さってもよいのですよ?ぞんざいに扱って下さっても私共はよいのですから」
「ぞんざいって、そうはいきませんよ」
「要するに、もっと、気楽になさってくださいってことです。私共は頼人様にお仕えしてるんですから」
「十分、気楽にさせて頂いてますよ。皆さんのおかげで」
「嘘でも嬉しいです。それじゃあ、お召し替えをさせて頂きますね?」
「はい、お願いします」
そうして、いつものように彼女達に着替えを手伝ってもらう。
本当なら一人でやりたいし、そうすべきなのだけど、なかなかどうしてそうもいかない。
俺の負担を少しでも減らすためだと言われれば、断ることは難しい。
ただ、女性に全部任せるのは中々恥ずかしいので、一度、せめて男性に変えてくれないかと言ったのだが、早乙女さんに何でもするのでどうかこの御役目からは外さないでほしいと直談判され、なんやかんやで彼女のお世話になってる。
秋隆がいてくれたら…と思うのだが、秋隆は基本的に赤嶺の仕事をしてもらってるので、大赦内で俺につきっきりという訳にもいかない。
だが、流石に暫く一緒にいたら慣れてくるもので、今や、彼女のおかげで大分、楽をさせてもらっている。
そうして、身支度など済ませたら、軽い運動をするために部屋を移動する。
大赦内に設けられた、俺のリハビリの為の部屋。
本当に、頭が痛くなる話だ。
わざわざ、俺のリハビリや運動の為に、器具などをそろえて部屋を作っているとは、中々に信じがたい。
まあ、とてもありがたい話ではあるのだが……。
専用の器具などがあるから、足がうまく動かなくても筋トレや有酸素運動ができるし、体力を戻せるのは喜ばしい。
筋力などもかなり衰えてるから、できるだけ元に戻したいし。
一応、俺が使わない時間は他の神官の方や職員の方が使えるように開放してもらってるし、そう悪くない事でもない。
それでも、こう優遇されると気後れしてしまうけど……
簡単な運動やストレッチを終えた後、汗を流すために浴場へと向かう。
さすがに風呂場では、付き添いは断ってる。
危なくないかと結構気にされたけど、流石に一々風呂にまで付き合ってもらうのは申し訳なさすぎるし、それに、風呂場でくらい一人になりたい。
それでも、という声があったので相談した結果、浴場に手すりを新設してもらうことでこの件は決着を見た。
体の汗をシャワーで軽く洗い流した後、水風呂へと浸かる。
寒いったらありゃしないが、巫女の子たちは滝垢離を毎日してるそうだから、この程度で文句を言うわけにはいかない。
この入浴には一応、垢離としての役割もあるのだ。
俺は脚がよくないので、滝垢離などは少々危険でできない。
故に、浴場で水風呂に浸かることでその代わりとしてるのだ。
まあ、入った後すぐに隣の温かい湯船に入れるので、まるで辛くはないのだけど。
浴場を出て、着替えたら朝食になる。
俺に用意された住まいは、執務室なども兼ねた部屋など、複数の部屋で構成されており、一個人に与えられるものにしては、馬鹿みたいに広い。
そのため、複数人で食事をとるのも余裕なので、毎朝、それなりに大きな丸テーブルを囲み、色々な神官の方と共に、朝食を取りながら今後の戦略や、研究についてなどバーテックスに関わる様々なことについて話し合う。
今日は、勇者システムについての話題だった。
「やはり、実戦データなしには頭打ちという訳ですか」
確認するように左隣に座る丸眼鏡をかけた男性に尋ねる。
「ええ……。勿論、なくとも技術研究自体はそれなりに進むんですが、新規データのあるなしじゃ、まるで研究の進み方は違いますね」
防衛研究部一課課長の伊藤さん。
防衛研究部はバーテックス関連部署の統合、一元化がすすめられた影響により、開発部とバーテックス研究部が統合され出来た部署で、一課が勇者システムの開発を、二課がバーテックスの研究を行う形で分けられている。
伊藤さんは元々、サイバー課の勇者システム開発係の係長だった方だが、改革をきっかけに、開発係は一気に部に拡大され、そのまま部長へと出世するという中々珍しい出世の仕方をした人だ。
とはいえ、これは襲来を乗り切るまでの一時的な措置で開発部の混乱を抑えるためにという配慮からの人事だった。
ただ、その後、癖の強い面々を纏め上げた功績や、勇者システムのアップデートの功績が認められ、防衛研究部一課の課長として正式に就任した。
自分自身、前からお世話になってる人物で、色んな無茶を聞いてもらった。
今も、勇者システムに関しては、この人に頼りっぱなしだ。
「伊藤さん、それでも以前より遥かに研究速度は上がったと聞きましたけど?」
右隣に座る春信さんが尋ねる。
春信さんは現在、俺の補佐官をやってくれていて、この朝食会の人選なども任せている。
「はい、それはもう。ただ、扱いに困る連中も多いんですけどね……」
「例のマッドですか……。神樹様の一部を切り取って研究したいなど、よく大赦に入れたものだな……」
「一歩間違えれば危険人物ですもんね」
春信さんの意見に同意する。
ほんと、この世界では珍しいやばい人って印象だ。
「いえ頼人様、一歩間違えなくても危険人物です。先日も、霊的エネルギーを極限まで圧縮し、臨界点で開放することで広範囲を爆破する兵器など考えてたんですが……」
「ん、発想自体はよいのでは?何か問題でも?」
「ええ、問題なのは、勇者システムとリンクしていることを前提にした理論ですので……要するに、勇者様ごと爆発する自爆兵器みたいな代物なんです。精霊のバリアがあるから問題ないと当人は言い張ってますが……」
「「うわぁ……」」
春信さんとはもる。
いやはや、発想がクレイジーすぎる。
開発に関しては天才なのらしいが……。
うん、まさにマッドだ。
伊藤さんが抑えててくれてるようでよかった。
「もっとも、データの揃い具合では、この理論を別のところで使える可能性もあるんですが……」
「それは、七月まで待って下さい。そこからはデータに不自由しなくなると思いますので。それまでは、他の研究も交えて、手広くやって頂ければ」
「かしこまりました。なんとか彼らに待てをさせておきます」
「苦労をお掛けしますね……」
「いえ、ジャジャ馬ぞろいですが、なんだかんだでいい人たちですよ。それに、頼人様がいつもご配慮下さるおかげで、ずいぶんやりやすいですし」
伊藤さんがくすりと笑う。
良い人だ……。
こういう人が手伝ってくれていて本当に助かるな。
朝食を終えると、自室に移る。
そこで、新聞などに目を通しながら、珈琲を楽しむ。
また、銀達からメッセージが飛んできてたりするので端末でSNSにアクセスしたりして過ごす。
この時間は本当に大切に思えるけど……残念ながらそんなに時間はとれない。
その後すぐに、執務室に移動しなくてはならず、そこで様々な部署の神官と会談を行う。
今日は、防衛計画部の神官と十五分間、会談。
「つまり、ゴールドタワーの工期の短縮が可能になると?」
ゴールドタワー。
結界外の探査を担う予定の防人と呼ばれる少女たちの、根拠地となる予定の建物だ。
元々が、遊戯施設で、タワーの中間層が鉄骨のみという構造だったのだが、防人が生活できるように、大規模な改修工事が現在行われている。
ちなみにかなりの突貫工事だ。
なお、大赦内では上里の提案で千景殿と呼ばれたりもしている。
俺は余りこの呼び名は使わないけど……。
「ええ、工事全般について根本的な見直しを行い、工法など様々な点で調整を行えば、予定より三週間早められるとのことです」
「ありがたい話ですが……安全面や業者との摩擦は大丈夫でしたか?」
「安全面はご心配なく、技術面で今までより優れた工法を取り入れた結果、むしろ安全性は以前よりも高くなっています。摩擦についても、以前から管理を任せているところは引き続き任せてくれるのならと、先方も納得してくれています。頼人様の御裁可を頂ければ、すぐにでも取り掛かれます」
「やはり、この件は宮武さんにお任せしてよかったですね。すぐにでもお願いします。正式な書面は追ってお送りするので、先に動いていただいて結構です」
その後、間髪入れずに春信さんと十分間会談し、それが終わると、勇者システムの統合運用全般の研究や訓練の調整などを行う、運用部の神官と会談する。
「やはり、これ以上は実際に戦わないと分からないと……」
「ええ、勇者と防人の共同運用となると、前例がありませんから。また、防人は旧システム同様に、個々人の技量によりその性能が大きく左右されます。実際に、防人となる少女たちの練度が想定以上に達するかが問題ですね」
「しかも、戦場が戦場、防人の心理的負担は相当のモノでしょうし。初陣で戦えなくなる防人が出てくる可能性も考慮しなければなりませんしね。一応、デフュージングなどを積極的にしてもらう予定ですが、それがどこまで効果を発揮するかも分かりませんから」
「難しい問題です。ただ、勇者適正がある以上、ストレスなどへの耐性は一定程度あるとは言われてますが……」
「それも、樹海の中での話ですからね。結界外の過酷な環境下では話も違ってくるでしょうし。ただ、その分、初陣を乗り越えれば、精強な勇者になることは間違いないと思います」
「初陣、ですか……。確かに、何事も始めが肝心と言いますね」
「ええ。何にせよ、今は準備を怠らないことが肝心です。大和田さん、今後ともよろしくお願いします」
会談を終えると、すぐさま大赦内の会議室に移動する。
最近の議題は、この世界の真実を国民に発表するか否かというところがメインになっている。
とはいえ、これに関しては大方の意見はまとまっている。
流石に、いきなり発表した場合、非常に危険な事態になることは想像に難くないので、反抗計画の成算が立つまでは発表せず、また発表に際しても、可能な限り綿密に関係各署と話を詰め、世論を可能な限り誘導した状態で行うべきという話になっている。
まあ、まだまだ先の話だし、この件に関してはゆっくりと考えていけばよいだろう。
何しろ、世論は非常に危険な存在だ。
慎重に事を進めなければ、必ずやどこかで破綻する。
場合によっては全ての事を済ませた後に発表する手もある。
会議では、その他、巫女の扱いや組織改革についての話だったり、今後の組織方針についてなどを話し合う。
ただ、困るのは、どんな話題でも多くの人が俺に意見を求めてくるところだ。
既に俺は、大赦の幹部として扱われていることに加え、対策組織の一元化が進められたことを功績扱いされたこと、先日、国防に関わる全権を握ったという点、そして勇者という称号のおかげで、議長の役割を果たしている乃木の当主よりも、はっきり言って、発言力が高くなってしまっている。
故に迂闊な発言はできない。
そういった俺の意見を重視しすぎる傾向を、乃木が抑えてくれればいいのに、むしろ乃木までもが一緒に俺の意見を求めてくる。
目の前に俺の親父がいるのに……。
自由に自分の職務をやれるのは助かるのだが、正直こういった場面では困る。
最近、特にだが、みんな俺の年齢というモノを忘れている気がする。
中身はともかく、俺は小学生なのだが……。
会議を終えると、また執務室で話し合い。
兎に角、話し合わなければいけないことが多い。
春信さんをはじめとした補佐官の方達や総務部の方たちと共に、ゴールドタワーの人事について話し合う。
「教育に関する責任者としては、烏丸女史が適任ではないでしょうか?彼女は以前から、巫女様の教育係のようなこともしてましたし。今も、防人予定者の家族には彼女が接触していますから、能力的にも信頼関係の構築という面でも彼女がふさわしいかと」
「そう言った面では適任かもしれんが、千景殿において必要なのはむしろ、管理能力だろう。その点に関しては花本か十六夜のほうが良いのでは?」
「だが、烏丸は巫女様との信頼関係をすでに構築している。そもそも、教師としての経験は花本も十六夜もない。彼女以上の人材はそれこそ、安芸ぐらいしかいないだろう。これ以上の人物は見込めないと思うが」
「なら、安芸を千景殿につけさせるのは?彼女も教師として役に立つでしょうし」
「いえ、彼女には、今後とも勇者のお目付け役をやって頂きます。ゴールドタワーを任せる訳にはいきません」
「ならば、やはり……」
「ええ。烏丸さんが適任だと思います。あとは、彼女の意思次第ですね」
話がまとまったら、昼食……なのだが、これも完全な自由とはいかない。
大抵、名家の人と共に食事をとったりする。
今日は、乃木夫妻。園子の両親だ。
彼らの影響力の高さから、時折頼み事などもしている。
今日もそうだった。
「なるほど、この件に関して、私たちの方からも、他家に働きかけておいてほしいんだね」
「はい。不躾なお願いであることは承知していますが、お力添えを頂ければと」
「ああ、だけど、この件なら上里や花本に頼めば動いてくれるのでは?」
「ええ。先日、お会いした際に、ご助力を確約して頂きました」
「流石、周到だね……」
本当なら、親父も一緒に、というようなことになるのだが、大抵先方は俺だけと一緒に食事をとりたがる。
理由は……簡単だ。
「それで……頼人君。園子のことをどう思うかしら?」
でた。
母君のキラーパス。
「ええ、とても良い子だと思います。賢くて、優しいですし」
「それは良かったわ。園子はあなたのことをよく話してくれてたの」
「ああ、君のことはずっと聞いていたから、仲はいいのだろう?君さえよければ―――」
この通り、自分の娘を俺とくっつけたがる面々が非常に多いのだ。
親父はこの点に関しては結構厳格というか、大人になってから決めるべきだというスタンスを崩さないので、先に俺を落とそうという目論見の人が多く、結果として親父抜きでの食事会になることが多い。
穏便に断るのも大変なのだ。
普通に考えたら、名誉なことなんだろうけど……胃が痛くなる……。
「お気持ちは大変ありがたいのですが、今は仕事のこと以外考えられないんです。申し訳ないのですが、反抗計画が完遂するまでは―――」
「その後なら、考えてくれるのね?」
「いえ……そういったお話はできることなら、娘さんの意思を尊重してあげてください。差し出がましい事ですが、娘さんとよく相談されからの方が、お話もまとまりやすいかと」
「その点なら、問題ない。園子も君のことを好いているよ」
「いえ、ですから―――」
ああ、胃が痛い……。
何というかストレートすぎてやばい。
乃木家はある種の執念みたいのを感じるから怖い。
こういうのはよくない……。
「頼人君。勝手な話だと思うけど、私たちは園子に幸せになってもらいたいんだ。私たちは園子を守れる、笑顔にできる人に傍に居てほしいと思っている。君ならそれができると思ってるんだ」
「ええ、それに、貴方と出会ってから園子には笑顔が増えたわ。貴方には園子の傍にいてほしいの」
「買いかぶりです。それに―――」
「頼人様、そろそろお時間でございます」
と、そこで後ろに控えていた早乙女さんが声をかけてくれる。
ぎりぎりな行為だが、正直助かった。
見れば、お二人が無言で早乙女さんに圧力をかけている。
怖い……さっさとお暇しよう。
「申し訳ありません。お話の続きはまたいずれ」
「ああ、忙しいところすまなかったね」
挨拶を済ませて、部屋を出る。
食事時とは思えない緊張感だった……。
それでも、落ち着いた顔を崩せないのは中々辛いところだ。
「すみません早乙女さん。正直助かりました」
自室に戻り、早乙女さんに礼を言う。
「いいのですよ、いつものことですから。頼人様はああいう口車に乗せられてはいけませんよ?きれいなままでいてくださいね。……熱いので、お気付けください」
ソファーに座った俺に、珈琲を差し出しながら、早乙女さんは言う。
お礼を言って受け取り、ゆっくりと啜る。
……おいしい。
冬は特に温かな珈琲が美味く感じる。
「自分も赤嶺の人間ですし、良くないこともしてきました。早乙女さんが言うように、きれいな存在じゃないですよ?」
「何をおっしゃっているのですか?頼人様は伝統と格式に乗るだけの他家の連中とは違います。結局、連中は頼人様がいらっしゃらなければ何もできなかったんですから」
「早乙女さん、その辺で。一応ここ、大赦の中なんですから」
「失礼しました。……早く、お引越ししたいですね」
「もうすぐですから、もう少しだけ我慢してください」
早乙女さんは時々言動が危うい感じになる。
慕ってくれてるのはいいのだが、時々他家に対して、攻撃的になる。
気持ちが分かる面もあるのだが、彼女自身のためにも、もう少し押さえておいてもらいたい。
と、そこで少し眠気を覚える。
「少し寝ます。いつもどおり二十分後に起こしてください」
「はい、お休みなさいませ」
昼食後は大抵、このように少しの時間、睡眠をとる。
休憩時間は必要だし、短時間の昼寝は疲労回復にもパフォーマンス向上にもなる。
珈琲を寝る前に飲んどけば、起きるのも楽だし。
まあ一番の理由は、ここで休まないと疲れた顔を周りに見せかねないからだ。
つくづく体力が戻り切ってないことが痛く感じる。
昼寝をした後は、再び執務室に移り、各部署からの要望書や、報告書に目を通す。
自分の裁可が必要な書類などは、春信さん等の、補佐官の方達と話し合いながら処理し、直接話す必要のあるものは別途、纏めておく。
それが終わったら、各部署の人員を集めて会議。
こっちの議題は、主に、今後の反抗計画についてで、全般的な方針などを話し合ったりする。
時間がないので、何もかもを突貫でやってもらってるから、こういう時には可能な限り、細部を詰めておかないといけない。
その他にも、大赦内の状況について話したりもする。
やらないといけないことが多すぎる。
それが終わると、夜まで可能な限り、多くの人と会う。
神官の方、管轄の違う別の部署の方、他家の方、場合によっては巫女の方たちとも。
夕食も、住み込みで働いている方たちと共にして、打ち合わせなどと一緒にする。
何をするにも、人との繋がりは大切だ。
俺の唯一の武器でもある以上、この繋がりを絶やすわけにはいかない。
それに、直接話して分かることもある。
この大赦にも、個人として人格面で優れている方はそれなりにいる。
道徳の授業が学校で多く設けられているだけはある。
しかし、組織人としては、全体的に主体性に欠けている面が見られる。
これは旧体制の影響が未だに残っていると考えられた。
元々、神官達は首脳部や神託に絶対的な服従を行うことを求められ、そのように行動してきた。
無論、改善の方向へと向かっているが、長年染みついた行動パターンと言うモノは中々変わらない。
首脳部が俺の人事を認めるのも、なんとなく分かる。
何はともあれ、このように改革すべき点は多々あるということが話していればよく分かり、同時にその解決案も話し合えば生まれることもある。
自分がこの世界の人たちとは少し違う視点を持つように、彼等からしか見えない視点もあるのだと気付かされることもある。
本当に、まだまだ学ばないといけない事ばかりだと苦笑してしまう。
そうして、食事後にまた入浴して、就寝時間となる。
大赦は朝が早い分、夜も早い。
九時には消灯したりする。
だが、俺はそのまま寝る訳にはいかない。
日付が変わるくらいまでの時間、上がってきた戦術研究の報告書に目を通しながら、自分でも検討を重ねる。
仕事が多い分、このように勉強する時間は限られている。
そのため、こういう時間をうまく使わないといけない。
ただ、この時間は同時に俺にとってかけがえのない時間にもなる。
『もしもし~みんな、聞こえる~?』
『ああ、園子。ばっちりだ』
『私の方も感度良好よ』
『ったく、あんたらも毎日毎日飽きないわね』
『とか言いつつも、毎日参加する夏凜くんなのであった』
『う、うっさいわよ、銀!たまたま時間があっただけよ!』
『でも、夏凜ちゃん。いつもきまってこの時間空けてくれてるのよ?』
「そっか、夏凜も毎日時間作ってくれてるんだ。ありがとな」
『べ、別に作ってなんか!』
『いや~、にぼっしーいいね~。電話越しでも創作意欲が湧いてくるよ~』
イヤホンから柔らかな声が響く。
この作業をしている間、俺はSNSで銀達と話す。
数少ない、自由な時間。
日常の残り香。
今日もまた、いつものようにお互いのことを話し合う。
ただ、話していると、どうしようもなく神樹館に戻りたくなる。
それでも、我慢しないといけない。
今の俺は、そういった我が儘を言うわけにはいかない。
たとえ祭り上げられた立場であろうとも、周囲の期待を裏切るわけにはいかない。
それが、この子達の為なんだから――――
作者の妄想考察
興味のない方はそのまま飛ばして頂いて大丈夫です。
参考までにどうぞ。
かなり、個人的な見解なので、鵜呑みにはされないようにお願いします。
後半殆どツッコミですが……。
大赦
情報が出れば出るほどやべー組織というのがよく分かる。
腐敗とか経年劣化が凄まじい。
そもそも、ここまで腐敗した原因の一つは名家制度にあると思われる。
というのも、名家指定された家は大赦から特別な援助が受けられることが明言されており、また、名家が台頭しているという設定から、大赦の首脳部が名家の人間で占められていたのは間違いない。
いわば、名家制度は貴族制度と同義と言える。
そして、一部の名家が権力を独占していれば、馴れ合いや忖度が横行し、腐敗するのは明らか。
特に、大赦は圧倒的な権力を持つため、腐敗のリスクは特に高い。
それでも、数百年の平和が保たれたのは、主に神樹の恵みによるものだと思われる。
ゆゆゆ世界は、はっきり言って現代社会の食糧問題、エネルギー問題、経済問題、外交問題がないに等しいと考えられ、その分のリソースを教育、環境、社会福祉問題に当てれば、社会問題はほとんど解決できると考えられる。(実際、道徳の時間が増やされている描写があるなど教育に気を遣っていたと見られる)
つまり、ゆゆゆ世界はびっくりするほど社会的には健全だと考えられるのである。
そして、閉鎖社会である以上、社会環境の変化も乏しい(ゆゆゆ世界の文明レベルが二十一世紀のそれと大差ないのが証拠)。
すなわち、政府や大赦などの首脳部が無能であっても、慣習や前例に従って動いていれば、問題が生まれないものと考えられる。
そうなると、大赦の首脳部に求められるのは、いかに前例や慣習、伝統を守るのかであって、リーダーシップも何もいらない。
むしろ、変化を齎すものは酷く嫌われかねない。
まあ元から、日本は事なかれ主義的なところがあるから、というのもあるが、下手に動いて既得権益を損ないたくないと考える面々が多数存在すると考えられるから。
要するに、大赦の首脳部が伝統に縛られた者であっても問題ない、むしろ、伝統を遵守する者が好まれたことと考えられる。
実際、『追憶の園子』などで神官達の柔軟性のなさが指摘されている。
そう言う面々が、戦争指導をやれと言われても、もちろん無理。
そもそも、全体的に平和すぎる分、西暦を生きてた人間よりもはるかに戦争の知識が不足していると考えられる。
実際、まともな戦争指導が行われた描写も皆無。
こんなんじゃ、戦争になんないよ……。
おそらくだが、単純な資質という面では、神世紀の大赦首脳部は、西暦の大社首脳部とどっこい、もしくはそれ以下と考えられる。
というのは、流石に戦争が遠くなりすぎてて、危機感やバーテックスへの恐怖がかなり欠如してるから。
劇パト2の後藤さんのセリフの元ネタ、ダニガン先生の言葉がここまでしっくりくるのも珍しい。
『虐殺の場から遠ざかると、楽観主義が現実にとってかわる。最高の意思決定のレベルでは、往々にして現実が無視される。戦争に負けているときは、とくにその傾向が強い』
完全に大赦首脳部ですね、本当にありがとうございました。
首脳部がこんなんじゃ、下の人間も勿論、伝統に縛られる。
伝統を打ち壊そうという人間はまず淘汰される。
やっぱりディストピアじゃないか……。
そういう状況で、安芸先生とか春信さんとか、一部の人間がいくら頑張っても駄目なもんは駄目。
根本的に首脳部が変わらなきゃダメ。
多分だけど、理想と現実の狭間で苦しんでる人間もかなり多かったのではないかと予想される。
あの世界は、道徳の授業が増えてる分モラルも全体的に高く、まともな人は結構いると思われる。
実際、ゆゆゆいなどで、大赦入ったばっかだけど頑張りマス!的なフレッシュな人もいたし。
それでも、首脳部が無能だと全部だめ。
くめゆの番外編で、神官は大赦と同じことしか考えない、あくまで手足に過ぎないと言われているように、一神官には、まるで権限がない。
そうして、気高い精神を持った人々も権威主義に取り込まれて腐っていく。
私は悲しい(ポロロン)。
また、妄想に近い事ではあるが、大赦の首脳部には明確なリーダーがいないものと思われる。
というのは、わすゆの勇者御記にある乃木家の発言権が大赦内で増したという記述が根拠。
まず、乃木家の発言力は絶大だというのは、わすゆ内でも言われてたことであるが、ならば、発言権が増すというのは、どういうことなのだろうか?
元から絶大で、全ての権限を持ちうるのなら、今更、発言権が増しても意味がない。
大赦は乃木と上里のツートップという発言から、上里に比べて、という趣旨の可能性もあるが、そもそもツートップという時点で、大赦内に明確な指導者となる人間がいないことと考えられる。
つまり、某ジェダイ評議会みたいに、明確な指導者はいないけど、発言権の高い一部の人間達が全体的な組織運営をしているのではないだろうか。
事実、防人側の最終決戦を描いた、『落花枝に帰らず、破鏡再び照らさずにて』、大赦内の思惑が一致していなかったとの安芸先生の証言がある。
おそらくではあるが、大赦の実権を上里ひなたが独占したことにトラウマを覚えた層が、明確な指導者を立てることを良しとせず、若葉とひなたの死後、首脳部の形を都合のいいように変えたのではないだろうか。
もしそうだとすると、かなり恐ろしい状況だったと予想される。。
会議などしても、派閥の力関係や発言力の競い合いが重視され、結局ことなかれ主義で完結する。
いわば、専制主義体制特有の、家柄、格式主義とから生じる人事の流動性の欠如という短所と民主主義体制に見られる足の引っ張り合いや意思決定が遅いという欠点の双方を抱えた最悪の支配体制。
船頭多くして船山に上る。
多分、現代だったら、国が亡ぶ奴。
それでも、前述のとおり、平和なうちは、難しい事は何もないから、問題ない。
その分有事の際は、やばい。
普通の民主国家でさえ、戦争が起きれば戦時体制になり、意思決定が非常に迅速になるのに、大赦はおそらく平時の意思決定プロセスから変わってない。
理由を大赦の人間に聞いたら多分こうなる。
だって、そんな前例ないから。
これはもう駄目みたいですね……。
おそらくだが、宗教色の強い組織であるため、その分、伝統というのがさらに大事にされてしまったのだと推測。
あと、全体的に設定を見直したらツッコミどころが満載。
くめゆで大赦は勇者の勇気を信じて、反抗することにしたで!とか、大赦は世界を取り戻すことを誓っていた!
とか言ってるけど、バーテックス観測されたの神世紀二七〇年代やで?
もっとはよ動けたんちゃう?二十年以上、君ら何してたん?
わすゆで合同訓練できてなかったとか、訓練時間が十分じゃなかったとか言われてるけどマジ?
大赦、大丈夫?
あと、何で、神樹の寿命尽きかけてるタイミングから動くん?
そもそも、勇者が暴走したのに、防人の扱いが雑すぎる。
個人的には、防人関係が一番の大赦無能の象徴のように思える。
というのも、防人は犠牲を前提にしてる分、高い損耗率が予想されてたのに、予備人員を育ててもいない。
つまり、当初の大赦の計画通りなら、防人は戦えば戦うほど、初期の人員は減っていき、訓練を十分に受けていない新兵が増え、さらに犠牲が増えるという悪循環が起きていたと考えられる。
めぶーが滅茶苦茶頑張ったから、何とかなってたけど、こんな感じだったら、防人たちの怒りが有頂天に達してもおかしくない。
というかなる。
風先輩とか東郷さんが反乱起こしたばっかなのに、どうして防人が反乱を起こさないと思えるのか。
仮に、勇者全員使って、止めようとしても、防人は三十二人、めぶーが陽動使うなりなんなり、戦略立てて動いたら、まず大赦への攻撃は可能。
防人レベルの性能でも、一般人の虐殺は十分に可能。
虐殺しなくても、制圧はできるだろうし、一人でも大赦に乗り込めば作戦は成功したも同然。
敵は大赦にあり!とかめぶーが言って、防人が蜂起する話、誰か書いて(他力本願)。
纏めると、大赦は意思決定プロセスがどうしようもなく、戦争に向いてなくて、伝統や前例に縛られた組織であるため、そういった問題点や腐敗、経年劣化問題を解決することもできない。
おまけに首脳部は、指導者としての才覚も持たず、家柄と格式だけで成りあがった者たちで構成されている。
会議は名家同士のパワーゲームに終始し、まともな戦争指導もできない。
そういった、上の無能に下の人間は全面的に服従せねばならず、良い心を持った者も大赦の腐敗に絶望しながら腐っていく。
うん、纏めるとかなりひどい仮説になってしまった……。
とはいえ、このレベルの腐り方じゃないと、前述のようなミスをしまくるかと思えてしまう。
可哀そうなのは、大赦に所属しながら良心を忘れてない安芸先生みたいな人達。
クーデター起こさなきゃ(義務感)。
大満開の章はこういう、やべー首脳部が纏めて吹き飛んでるから、安芸先生や春信さんがまともな組織運営することを期待。
もっとも、大満開の章では、大赦は力を失ってる可能性高いけど………。
お目汚し失礼いたしました。