樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

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今年も可能な限り、更新していく所存ですので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。

亀更新は許して………




ふと、気が付けば、地獄にいた。

紅く焼け爛れた大地。

その様はまるで溶岩。

空は暗く、そこら中に化け物が蠢いている。

まさしく、地獄。

その光景だけなら、知っていた。

けれど、その光景には致命的に欠けているものがあった。

厳密には―――その光景しかなかった。

神樹の姿が致命的に欠けていた。

代わりに、見知った存在が大地に呑まれていた。

守ると誓った大切な人たち。

大切な仲間たち。

愛している少女。

 

彼らが、人の形を崩し、紅い大地に呑まれていく。

だが、俺はなにもできない。

声は出ず、体は動かず、涙さえも出ない。

ただ、彼らが大地に溶けていく様を見ているだけ。

 

不意に、彼等の口が動き始める。

殆ど人の形を保っていないのに、その口が動いていることだけは分かる。

聞こえないはずなのに、聞こえる。

 

貴方を信じてついて来たのに

 

貴方ならやれると思ったのに

 

貴方なら救えたのに

 

声が俺を責め立てる

 

お前が俺達を殺した

 

お前が私達を巻き込んだ

 

皆を地獄へ引きずり込んだのはお前だ

 

そうして、みんなみんな溶けていく。

紅い大地に溶けていく。

やがて、炎が全てを覆いつくして――――

 

 

 

 

 

 

 

「は……ぁ……は……ぁ……」

 

肺が活動を再開し、急激に空気を取り込む。

体中が熱く、湿っていて、酷い吐き気を感じる。

その不快感が、これは現実だと教えてくれた。

体を起こし、枕元に置いてある水差しに手を伸ばす。

コップに水を入れ、口を潤す。

ゆっくりと吐き気が収まっていく。

おかげで、思考にゆとりを持つことができた。

 

ああ……まただ。

また、この夢だ。

 

大赦に来て以来、この妙な夢を見る機会が増えた。

夢は、決まって俺があることを考えた日に見てしまう。

今の自分の仕事を人に任せて、銀や皆に会いに行きたいと考えた時だ。

夢を見ると一時的にその欲は恐怖と責任感でかき消すことができるが、どうしても考えてしまう時がある。

結局、俺は中途半端なんだろう。

分かっていても、止められない。

銀の声が無性に聞きたくなる。

枕元に置いてあった端末を手に取り、銀に電話を掛けようとして……気付く。

まだ、四時だ。

銀が起きてるはずないし、電話して起きたとしても、今の自分の声を聞かせれば心配をかけてしまうだけだ。

深呼吸し、感情を落ち着かせる。

…………もう、大丈夫。

この程度で赤嶺頼人が動じてはいけない。

とはいえ、二度寝するような気分でもない。

少し、本を読もう。

寝台横の手すりを掴みながら、ゆっくりと立ち上がり、部屋の本棚まで移動する。

こういう時は読み慣れた孫子がいい。

 

 

椅子に座り、本を開く。

勝ち易きに勝つ。

まず勝ちて後に戦う。

孫子の中でも、この言には特に影響を受けた。

結局、戦術をいくら研究しようとも、蠍座、天秤座、射手座の三体相手に勝つことはできなかった。

多くの人が、俺があの戦いで勝利したと、救国の英雄になったというが、それは大きな間違いだ。

事実上、俺はあの戦いに勝利できなかった。

あいつらが勝てるように指揮を執ることができなかった。

指揮官としては、間違いなく完全な敗北だった。

それを精霊の力で、自分の負傷で誤魔化しただけだ。

戦術だけでは限界がある。

勝てる状況を戦いの前に整えておく、戦略の方がよほど重要だ。

とはいえ、戦略的な見識についても俺はまだまだだと言わざるを得ない。

瀬戸大橋跡地の合戦、俺は十二分に乗り越えられる準備を整えられたと考えていたが、結果は辛勝。

あいつらにも大きな負担をかけてしまった。

全く……自分の未熟さを感じて仕方がない。

こんなのが英雄と呼ばれるなんて、世も末だろう。

 

それにしても、こうして本を読んでいると、前世の友人から聞いた話を思い出す。

どこかの誰かの受け売りだと言ってた言葉、指導者を志す者は読書を欠かしてはいけない、という文言。

その時は当たり前だと思ったが、今の立場になって考えてみれば、つくづく道理だと感じる。

本を読めば、歴史が知れる。

歴史を紐解けば、人間が起こしうる殆どの失敗は、過去の人々も起こしている。

マーク・トウェイン曰く、歴史は同じようには繰り返さないが韻を踏む、らしい。

要するに、歴史において全く同じ状況が繰り返されるわけではないが、同じ性質の事柄は繰り返されるということだ。

終末戦争時の大社も例に漏れず、見事に過去のリズムを踏んでいる。

情報統制の失敗による、治安の悪化。

第二次大戦時の日本においても、情報統制は失敗したし、もっといえば、ベトナム戦争においてはそれがきっかけで世界各地で反戦運動が起き、最強だったはずのアメリカは敗れた。

誤った判断により生じた勇者の喪失。

これもよくある話だ。

ミッドウェーやインパールもその類型だし、致命的な判断ミスにより壊滅的な被害が生まれるなんてことは日常での交通事故や医療ミスなど民間レベルまで広げるといくらでもある。

そして、巫女による事実上のクーデター。

これは、その後の大改革を見るに乙巳の変、というよりも大化の改新そのものだ。

見事なまでに韻を踏んでいる。

こうして歴史を見つめなおすと、本当に笑えない。

考えてみれば、今だってそうだ。

例えば、江戸時代における黒船の来航。

当時の幕府の混乱は有名だが、真に恐ろしいのは、黒船の来航を幕府はその前年に知っていたという事実だ。

幕府は多少防備を強化したが、他の外国船と同じように打ち払えばよいと、黒船を甘く見ていた。

その結果として、ペリーの強硬な態度に屈する形で、幕府は不平等条約を米国と結ぶこととなり、幕府の崩壊が始まった。

この構図は、大赦と恐ろしい程に重なる。

かつてのデータから、バーテックスが増強されていくという事実を知っていたのに、バーテックスの存在を甘く見、結果として、勇者が全滅しかかるという事態を招いた。

そして、この一件が引き金となり、それまでの体制が崩れる羽目になった。

いやはや……頭が痛くなってきそうだ。

ただ、注意しなければいけないのは、歴史から学ぶというのは言葉にすれば簡単ではあるが、実際できるかと言うと非常に難しいということだ。

この点に関してヘーゲルは、かなり辛辣な言を残している。

曰く、民衆や政府が歴史から何かを学んだことは一度たりともなく、歴史から引き出された教訓から行動したことなど全くない。

理由はというと、それぞれの時代はそれぞれに固有の条件の下に独自の状況を形成する、からでその為、他の時代の教訓は役に立たないという。

確かに、時代ごとに人々の価値観は大きく異なるものだし、それが他国ともなればまるで状況が違うなんてことは多々ある。

また、為政者が歴史を学ばず、失敗したなんて言われてしまうような事例は腐るほどある。

実際、俺の前世であった、西暦の世界の人間と神世紀の人間ですら、価値観や文化などに差がある。

理由は、神樹の存在と、世界が四国で完結しているという点にあろう。

神世紀と西暦は、根本的な常識からして異なってしまっている。

おかげで、西暦の歴史が自分達の今と地続きになっているという、簡単なことすら理解できていない人間が多い。

これは西暦の時代の世界を、根本的に違う世界の話だと考えてしまっていることが原因で、それにより歴史の軽視につながっている面がある。

神という存在のせいで、人間の力を信じられなくなった者も少なくない。

これが、大赦の腐敗に拍車をかけた面は否めない。

まあ、神との戦争だなんて御伽噺染みた状況は、終末戦争以前には考えられなかった。

戦争指導が神職に任されていた状況を鑑みても、何故歴史から学ばなかった、と大社や大赦を非難するのはやや酷かもしれない。

とはいえ、個人的にはヘーゲルの言について、全てが正しいと思うことはできない。

その根拠もまた歴史にある。

武帝は始皇帝を手本にし中国全土を回り、三国志の英雄、曹操は光武帝を手本に人心を掌握した。

そして、徳川家康が貞観政要から多大な影響を受け、治世の手本にしたことも有名だ。

戦後、日本が敗戦の反省を踏まえ大きく成長したのもその一類型だとも考えられる。

そもそも、歴史を研究し、その教訓を纏めたものが孫子であり、戦争論であり、君主論だった。

一度たりともというのは無理があるように思える。

E.H.カーも、「人間は何一つ歴史から学ばないという主張は,誰の目にも明らかな事実によって反駁される」と述べているし。

もっとも、ヘーゲルが哲学者であったことや、この言を発した講義が歴史の中に神を見出す弁神論を目的にしたものであったことを鑑みるに、俺の浅はかな批判は全く的外れなモノなのだろうし、現にこういう議論はかなりされている。

とはいえ、この議論自体は俺にとって重要ではない。

重要なのは、人は歴史から学ぼうと努力することはできるということ、これに尽きると思う。

たとえ、ヘーゲルの言の全てが正しいのだとしても、本を読むなど学ぼうとする姿勢を崩さない限り、自分の行いが絶対に正しいという傲慢に陥ることはないし、致命的な判断ミスをするリスクも減らせる。

それとは別に、それぞれの時代はそれぞれに固有の条件の下に独自の状況を形成する、という点については全面的に同意できる。

この点は、孫子や君主論など、昔の書物を読むにあたっては特に重要だと感じる。

君主論は当時の西洋情勢を踏まえたものであり、道徳的観念や求められる君主像など、日本をはじめとした東洋的思想のそれとは大きく異なっている。

また、神との戦争において、孫子や戦争論の論理の全てが適応されるかと言うと否だと言わざるを得ない。

だが、本質的な面で、それらの書物の有用性は微塵も揺らいでいない。

彼を知り己を知れば百戦殆からず。

罠を見ぬくには狐でなくてはならず、狼を追い散らすには、ライオンでなければならない。

指揮官は困難な戦況や惨状に自分自身が堪え、さらに部下にも堪えさせねばならない。

これ等の考え方を己の血肉とし、あくまで判断基準の一つとする。

さすれば、書物の古さなど問題ではなくなる。

守破離にも通ずる考え方だ。

勿論、これだけ常識が通じない戦争である以上、単一の書物に囚われるのは危険なので、可能な限り多くの考え方を学ぶことは重要だ。

呉子をはじめとした孫子以外の武経七書を読んだり、君主論や戦争論を学ぶのもその一環だ。

十八史略を入り口に史記や漢書にも目を通したし、過去の為政者の伝記や手記や、ミルやウェーバーなどの政治学に関する書物も可能な限り読むようにしている。

挑む相手は神。

どれだけ学んでも学び足りない。

むしろ、学べば学ぶほど不安になる。

人間同士の戦争ですら、勝利までの道のりは途轍もなく複雑で信じられないほど困難なものであるのに、神に勝利するなんてことが可能なのかと考えてしまう。

歴史上の偉人たちは、この四国の何倍も大きな国を統治し、多くの戦いや困難を乗り越えていった。

西暦には、神樹の恵みなど存在せず、また思想や宗教の統一がされていないことが多い。

外交問題、食糧問題や、エネルギー問題など、今の四国には存在しない問題も多く抱えていた。

それでも、彼等は多くの人々を救い、不可能を可能にしていった。

俺は、必要と感じることを無理矢理推し進めているだけで、国政には直接関与していない。

ただ、大赦の内部組織の頭を務めているだけ。

執務の殆どを周りの人間に頼る形で。

それだけで、こんなにも苦労している。

こんな俺が、うまくやれるのだろうか……。

俺が間違えていれば、文字通り世界が滅びる。

人間という種族が、いや神以外の全てが燃え尽きる。

こんな仕事、誰もやりたがらない訳だ。

特に、神を絶対視する大赦の神官のそれは俺以上だろう。

俺も結末を考えただけで、吐き気がしてくるほどだ。

俺があと五年程、年をとっていたら、もう少し楽をできただろうに……。

こうも若すぎると、神官の方たちは皆、年上になってしまうから、人との接し方や指示の出し方など一挙手一投足に気を使わないといけない。

心理学の本に加え、カーネギーの自己啓発本にまで手を出すことになるとは正直思っていなかった。

まあ、読んだことのない類の本で、意外と為にはなったけど。

こうして考えて見ると、自分を作っている辺り、俺は指導者としては二流なのだろう。

勇者という権威がなければ、こうはならなかった。

本当なら、勇者への信仰や個人崇拝なんてものは壊してしまいたかった。

否定してしまいたかった。

だが、それを利用している以上、自分で否定することはできない。

こんな中途半端な指導者がいるだろうか……?

たまに、真に指導者としての才を持つのは園子ではないかと思う。

戦いの時、誰よりも俺の指示の意図を理解してくれるし、地頭は俺より間違いなく良い。

いざという時の爆発力もあるし、園子自身は気付いていないが人を惹き付けるカリスマ性も持ち合わせている。

俺のような前世の知識と経験で天才を装っているのとは違う、本物の天才だ。

自分達がもう少し年を取っていたなら、園子がトップで自分がその補佐をすれば、かなり楽をできたろう。

まあ、できればこんなきな臭い世界に園子には足を踏み入れてほしくはないから、これでよかったとも思う。

約束を破った形になったのは申し訳ないけど、園子やあいつらにはこれ以上、苦労を掛けたくない。

あいつらは俺とは違って、人生で経験していないことが多い。

貴重な学生生活を送る時間を失ってほしくない。

直接バーテックスと戦えない俺が、こういうところを担当すべきなのは、最初から分かっていたこと。

やると決めた以上、自分を信じるしかない。

俺がもっと頑張ればいいだけの話。

そもそも防人となる子たちの自由を奪い、戦いを強要している身だ。

そんな俺が、安穏と学生生活を送るわけにはいかないのも事実。

結局、俺がやってるのは事実上の徴兵。

しかも、年端もいかない少女たちを対象にした。

西暦なら、世界中から非難されるような所業だ。

ここまでしておいて、もし彼女達を死なせでもしたら………。

ほんの少し、脳裏をよぎるだけで酷く気分が悪くなる。

 

 

 

「おはようございます頼人様。……また、眠れなかったのですか?」

 

と、そこで早乙女さんたちがやってきた。

もうそんな時間か……。

 

「おはようございます。いえ、ちょっと早く目が覚めただけですよ。今日は大切な日ですから」

 

そう、今日は大切な日だ。

とても、大切な日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慰霊碑に花を添え、手を合わせる。

ここは大赦が管理している、とある慰霊碑。

英霊之碑。

過去の、勇者、巫女、鏑矢などの御役目に就いていた方たちの碑だ。

俺の先祖や園子や銀の先祖、須美や弥勒さんの先祖の名もここにある。

最前列には、初代勇者の方達の碑がある。

そして、今日、その列の無記名だった碑に新たに名が刻まれた。

 

郡千景。

 

ようやく、彼女を再び勇者に認めることを、上に納得させることができた。

国防の実権を手にして以来、根気強く説得し続けた甲斐があった。

慰霊碑を見て思う。

三百年……。

余りにも、長い時間だ……。

………果たして、郡さんはこのことを喜ぶのだろうか?

いや、今更過ぎると、怒るだろう……。

それほどに、惨い仕打ちだった。

戦いに殉じた者から、その名誉を奪うことは許されない所業だ。

だが、たとえ憎まれようと、罵られようとも、この礼儀だけは絶対に怠ることはできない。

こうでもしないと、本当の意味で大赦は変わったのだと、胸を張ることはできない。

自己満足だと言われても、立場を悪くすると言われようとも、この責務にだけは逃げてはならない。

なにせ、多くの少女を戦いに駆り立てている身だ。

彼女達の一人たりとも、絶対に死なせないと、ここに眠る方々に誓うくらいのことをしなければ今までと何も変わらない。

この偉大なる先人達の努力がなければ、今の世界はないのだから………。

この世界の礎を築いたのは、守ってきたのは、まさしく彼女達だ。

彼女達の献身により、この世界の安寧が保たれてきた。

彼女達を犠牲にして、この世界は生き永らえてきた。

どれほど辛かっただろう……。

どれほど痛かっただろう……。

どれほどの……絶望だったのだろう……。

俺には想像することしかできない……だが、ほんの少しなら分かる。

きっと、ここに名前を刻まれていない多くの人達がいたのだろう。

名を残せずとも、悩み、苦しみながら、それでも戦い続けていたのだろう。

 

……もう、神の時代は終わりにしなければならない。

彼女達の想いに報いる道を選択しなければならない。

彼女達の想いはまだ、この世界に生き続けているのだから……。

その為にも、もっと頑張らないと………。

今、この世界を生きる人たちの為にも。

彼女らの悲願に報いるためにも。

俺がやらなきゃいけない―――俺が――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ独裁者様。自己陶酔の時間は終わったのかい?』

 

「真鍋さん……開口一番、何言ってくれてるんですか……?」

 

迎えの車の中、真鍋さんに用があって電話したら、いきなり皮肉が飛んできた。

しかも、割と心に刺さる奴。

 

『正直な感想だよ。今日、だったんだろ?まったく、こんなことに私の貴重な情報を使いやがって……』

 

真鍋さんが疲れた様子で言う。

 

「こんなことって…………。あの……真鍋さん、自分に忠誠を、とか言ってませんでしたっけ?忠誠心を微塵も感じられないんですが……」

 

そう、結局俺はあの後、真鍋さんと取引をした。

犬吠埼姉妹が勇者になることが殆ど確定してしまった以上、取引を受けないという選択肢はなかったからだ。

まあ、真鍋さんが了承するとは思っていなかったから、少し驚いたけど。

 

『へぇ。君、人に忠誠心求めるんだ。酷い人だね』

 

「別に求めてはいませんが……先に言ったの、真鍋さんですよね?」

 

『そうだよ。だから協力してるじゃん』

 

「じゃあ、もう少しだけでいいのでオブラートに……」

 

厳しい意見をくれるのはありがたいのだが、流石に攻撃力が高すぎる。

もうちょっとでいいから穏便に話してほしい。

 

『ふん。自己満足のために、貴重な情報を使うような人にそんなことをしてやるわけないだろ』

 

「すみません……。確かに自己満足にすぎないかもしれませんが、それでも、これは絶対必要なことなんです」

 

『はぁ……。君は何言ってるんだい?君が見るべきは未来だ。過去じゃない。過去の為に、未来の駒を消費するなんて、馬鹿げてるとしか言えないじゃないか』

 

「おっしゃることは分かりますが、これくらいしないと申し訳が立ちませんから。それに、丸っきり無駄という訳でもありませんよ?」

 

『上里と花本の事を言ってるのかい?確かに、多少は両家の心証がよくなったかもしれないけど、それよりもマイナスな面が大きいと思えるけどね』

 

「たとえそうでもいいんですよ。とりあえず、この件は置いといて本題に入りましょう。旧反対派の隠しルート、洗い出しは終わりましたか?」

 

『八、九割方はね。全く、人の仕事を増やしてくれちゃって』

 

「すみません。この件に一番精通してるのは真鍋さんですから、秋隆には別の件を頼んでますし」

 

『やれやれ……。とりあえず、隠しルートが使われた形跡はないね。最も、まだ見つかってないのもあるから、そっちで動かれてたらわからんね。まぁ、監視はしてるし、そんなことする度胸もないでしょ。まあ、君を嫉む人間はごまんといるが、そう、神経質になる必要はないと思うよ?』

 

「今は大事な時期ですから。少しでも不確定要素は潰しときたいんですよ」

 

『その大事な時期にこんなことしたのは誰だい、まったく……』

 

「ふふ、でも結局は協力してくれましたよね?感謝してます。いつも、違う側面からの正論を言ってくれますし、仕事も速くてすごく助かってます」

 

『……君、変わったね。前の方が幾分ましだ。そういう所、本当に気にいらない』

 

真鍋さんが苦々しい、本当に嫌そうな口調でそう言う。

骨の髄まで嫌われてるなぁ……。

でも、彼女に助けられているのは事実だ。

一時は、彼女のことを嫌に思ったりもしたけれど、なんだかんだで彼女は、よくやってくれている。

 

「……子供でいる訳にはいきませんから。それより……犬吠埼さんの様子、聞いてもいいですか?」

 

『………精神的には安定してるよ。使用人も断って、姉妹だけでちゃんと生活できてる。ただ、君は少し恨まれてるみたいだけどね』

 

「……当然ですね。あんなこと言っておいて、結局勇者になることが決まってしまいましたから……しかも、妹さんまで巻き込んで……恨まない方がおかしいですよ」

 

『ああ、そうかい。…………そういえば、今、大橋のあの場所にいるんだけど、いつもより花が一つ多いね。……君か?』

 

「……………真鍋さんも…行ってたんですね」

 

『……なんだ、さっき人に過去を振り返るなと言ってたばかりだとでも言いたいのかい?』

 

「いえ、ただ……先ほどの問いを思い出して。改めて、ちゃんと答えさせてもらいませんか?」

 

『さっきのって……』

 

「……今日あの場所に行ったのも、郡さんの件も……ただ、忘れたくなかっただけなんです。ただ、それだけなんです」

 

『……………』

 

「理解してほしいとは言いません。結局、自分の我儘ですから」

 

『……………やっぱり、君は嫌いだ』

 

真鍋さんは小さくそう言うと、しばらくだまって、やがて大きなため息を吐いた。

 

『……嘘だ』

 

「……え?」

 

『さっきの恨まれてるってのは嘘だ。安芸さんがよくあの子たちの面倒を見ているらしくて、ついでに君の弁護をしてるそうだよ。あの人に感謝しとくんだね』

 

「安芸先生が………」

 

自分が恨まれてしまうかもしれないのに……安芸先生は優しすぎる。

俺のことなど放っておいてくれていいのに……。

 

『前々から言おうと思ってたけどね、何もかもを自分で背負ってる風な態度、気持ち悪いから止めてくれ。一々、腹立つんだよ』

 

「そんなつもりはなかったんですけどね。分かりました、気をつけます」

 

『そうやって、肯定するとこも嫌いだ。………この際だから言っておくよ。君の苦労人を気取ってるとこも嫌いだし、自分一人で世界をどうにかできると考えてるとこも嫌いだ。家の力でのし上がったのも嫌いだし、今日みたく善人を気取っているのも嫌いだ。ああ、私は君の何もかもが嫌いだ』

 

「真鍋さん……」

 

『それを分かってて、私に頼るんだから………。ったく、ここまで危なっかしくと手を出したくなってしまうだろ……しょうがないから、もう少し使われてやる。精々愛想を尽かされないように励むんだね』

 

「ええ、頑張ります」

 

『頑張らなくていいからボーナスを増やしてくれ。頼んだよ勇者様』

 

その言葉を最後に、電話はぷつりと切れた。

勇者様……か。

変わったものだな……俺も彼女も…………。

 

 

 

 

 

 

 

頼人が大赦に戻ると、春信から様々な報告を受けた。

早乙女は現在、別件で席を外していた。

 

「現状、防人の訓練は予定通りに進行しています。特に、楠芽吹の実力が突出しており、彼女が周りにも影響を与えているようですね」

 

「流石ですね……。それで彼女らの精神状態などは如何ですか?何か問題などはありませんか?」

 

「精神的には全体的に安定していますね。多少のトラブルはあるようですが許容範囲内とのことです」

 

「そうですか。近いうちに視察したいですね。移転先の施設も見ておきたいですし、予定を早められませんか?」

 

「今からでも、六月中旬になってしまいますがよろしいでしょうか?」

 

「ええ。それでお願いします」

 

「かしこまりました。それと、少々お耳に入れておきたいことが」

 

不意に春信が頼人にいつもと違う様子で話しかけた。

 

「なんでしょう?」

 

「東郷美森様が、来週末より巫女の訓練をこちらにて始められるとのことです」

 

「須美が……?」

 

頼人は口に出して気付く。

彼女はもう鷲尾須美という名ではない。

彼女が東郷家に戻ってから既に、二ヶ月も経ってる。

頼人はそのことに、ほんの少しの切なさを感じた。

 

「はい、本人の強い希望があったとのことで、休日は可能な限りこちらに来られたいと」

 

「そう……ですか……」

 

「どうなさいますか?」

 

「……自分が口を出すことではありません。どのみち、いつかは訓練をしてもらう必要がありましたし。それより、エネルギー問題に関する報告を聞かせてもらえませんか?」

 

「かしこまりました。先日の専門家会議で―――」

 

報告を受けながらも、頼人の頭の中は須美が大赦に来るという事実が大きく占めていた。

何故、どうしてこのタイミングで、と考えるも答えは出ない。

先日通話した時もそんな話題はまるで出なかった。

と、そこで頼人は、自分がこの話題一つで随分、動揺していることに気付いた。

少しの期待と不安が心の中でせめぎ合ってる。

まったく、こんな体たらくでは……。

こんなことに心を動かされるなんて、許されるはずもないのに。

頼人は自嘲気味にそう思った。

 

「―――ですので、火力発電には頼れません。水力、風力、太陽光発電のみでは全国の電力は賄いきれないため、備蓄燃料が尽きるまでに、如何に化石燃料を確保できるかが課題になります。こちらが詳細の資料になります」

 

「予想はしていましたが、なかなか厳しいですね……。結局、外界頼りになりそうですね」

 

「はい。ですが、頼人様の予測通りならば問題はないかと」

 

「そう願います。もっとも、それもすべて反抗計画がうまくいけばの話になりますし」

 

「……国造り……うまくいくと良いのですが」

 

「どうでしょうかね。どのみち、儀式の実施は早くて来年でしょうし、その前に敵の戦力も叩いておく必要がありますから。天の神の出方も考えると課題はいっぱいです。もっとも、目的さえ果たせれば、儀式の成否はあまり重要ではありませんが」

 

「ですが、手段と目的を逆に考えている者はそれなり以上に居ます。よろしいのですか?」

 

「今はまだいいです。春信さんが分かってくれていればそれで」

 

「……買い被るのはおやめください」

 

この部屋には今、春信と頼人しかいないとはいえ、少々危険な発言だ。

春信は否定するしかない。

 

「そんなことありません。自分にもしものことがあれば後のことは春信さんにお任せするつもりなんですから。春信さんにもそのつもりでいてもらわないと」

 

頼人は、自分の後任がいるとしたら、春信以外にいないと感じていた。

事務処理能力や他部署との折衝など、組織運営の能力に関して、頼人は春信に遠く及ばないことを分かっており、事実、頼人が強権を振るえているのも春信の手腕によるものが大であった。

そして、春信には人を纏め上げる資質もあり、なおかつ、今の状況も正確に理解できている。

統率者として必要な才能を充分に満たしている。

頼人は、春信の才能は自分以上にあるだろうと考えていた。

というのも、頼人は、自分のこの立場を得られたのは家の力や勇者の称号のおかげだと考えており、この体制下であれば、自分以上に仕事をできる人間は多いだろうと考えていたのだ。

 

「……頼人様、あまり軽々しく仰らないでください。私などでは……」

 

とはいえ、春信からすればたまったものではない。

他の幹部職なら自身にも務まるだろうという自負はあったものの、頼人のポストを継げる自信はなかった。

これは、頼人のポストが大赦内で最も特殊なモノであることが原因であった。

事実上、頼人が長を務める鎮守府と呼ばれる大赦の内部組織は、大赦の首脳部の意向すら無視しうる、いわば、『国家内部における国家』のような組織となっている。

そのような体制が許される背景には、赤嶺家の後ろ盾や、勇者の称号の持つ絶対的な権威、頼人の異常なまでの人心掌握能力の高さなどがあり、春信からすれば、この役職は頼人にしかできないとしか思えなかった。

だが、頼人の考えは違った。

現在は非常時であるため、自身に何かあったとしてもその役職は誰かにすぐに引き継がれるだろうと、この体制が簡単には崩れないと確信しており、自身が手を打っておけば、万一の時も円滑に職務が引き継がれるだろうと考えていた。

 

「春信さんだから言うんですよ。この状況をどうにかするまでは死ぬつもりはありませんが、何かあっても大丈夫なように備えておかなければならないのですか―――」

 

その言葉を言い終わる前に、頼人は苦し気な咳をした。

春信が、すぐさま頼人の背中をさすり、咳が収まったところで水をゆっくりと飲ませる。

 

「すみません、だいぶ楽になりました」

 

「お気になさらないでください。すぐに人を―――」

 

頼人が落ち着いたのを確認し、春信が他の者を呼ぼうとすると、不意に腕を掴まれた。

 

「大丈夫です。人を呼ぶほどのことじゃありません」

 

「しかし………」

 

春信は無理にでも人を呼ぶべきではないかと迷った。

頼人はここ最近、体調を崩すことが増えてきている。

それは、大赦の御役目という激務に加え、戦衣を身に纏っての訓練を開始したためであった。

だが、周囲に疲弊した様子を見せることは殆どなかった。

頼人が、自分が弱っている様子を見せれば、周囲を動揺させてしまうと考えているからだ。

春信もそのことを分かってはいたのだが、それでも、一度休ませるべきではないかと考えたのだった。

 

「頼人様……一度休まれたほうがよろしいのではないでしょうか。今のスケジュールは過密にもほどがあります」

 

春信からすれば、よくこれほど持っているものだという認識であった。

精霊を宿し、ボロボロになった体を十分に癒やしきることもできず、今なお、殆ど休まず激務に身を晒し続けている。

体調が悪かろうが、発熱しようが、頼人はほとんど休まず仕事を続ける。

その過酷さを、傍に居続けた春信は誰よりも理解していた。

 

「そういう訳にもいきません。今、無駄にできる時間なんてないんですから」

 

だが、春信の心配の言葉にも、頼人は首を縦にはふらない。

承諾すれば、友人に会うことだって可能であるのにも関わらず。

 

「ですが、その前に頼人様が倒れられては元も子もありません」

 

「……鞠躬尽力(きっきゅうじんりょく)し、死して後に已む。成敗利鈍(せいばいりどん)に至りては、臣の明の能く(あらかじめ)()するに非ざるなり」

 

「……出師の表……ですか」

 

「ええ、この先、成功するか失敗するか分からない。だからこそ、死力を尽くす。自分もその精神に倣いたいと思います。課題は多く、時間もないのですから、自分だけが休んでいるわけにもいきません。……大丈夫ですよ、自分は若いので多少無理しても問題ありません。あと数年程度は問題なくもちます」

 

「ならば………ならば、せめて壁外調査への参加はお見送りください。これ以上、ご無理をなされば………」

 

「それもできません。自分が前線に出ねば彼女達に要らぬ疑念を抱かせてしまいますし、そもそも防人は皆、実戦経験がありません。いくら勇者の護衛があるとしても、彼女達の統制が取れなくなる危険性は否定しきれません。その危険性を減らすためにも、彼女たちの信頼を勝ち得るためにも、何があろうとも彼女達と共に戦う必要があるんです」

 

「頼人様……」

 

「どのみち、戦衣に慣れておかないと次の襲来の時が危ないんですから。見方を変えれば、自分の為です。どうか、この我儘を聞いて頂けませんか?」

 

結局、頼人は変わらずに仕事を続けた。

それが、周囲にどのような影響を与えるかも知らず。

 

 

 

その日の夕方、春信は頃合いを見計らって早乙女の下を訪れた。

 

「早乙女さん、お話が……」

 

「ああ、三好君………。頼人様のこと?」

 

「はい、今の頼人様がオーバーワーク状態にあるのことは間違いありません。体調の悪さを隠していらっしゃいますが、これ以上は危険です。早乙女さんの方で一度、無理にでも休んでいただくように手配はできませんか?」

 

「無理ね………頼人様は絶対に首を縦には振らない」

 

「………既にお諫めされていたんですね」

 

「ええ。何度もお止めしたわ、何度も。けれど、時間がない今、休むわけにはいかないと………」

 

春信は小さく嘆息した。

確かに、頼人の言葉には一理ある。

今この瞬間にも、神樹の寿命は刻一刻と迫っているのだ。

そのような危機的状況であるのに、自分だけ休んでいていいはずがないという理屈は分かる。

だが、このまま仕事を続けていれば、その前に頼人の体が持たない。

 

「医者はなんと?今しがた検診していたんですよね」

 

「既に過労になりかけているそうよ。………できることなら、しばらくの間、休養を取るべきって。……けど、頼人様は休む気はないとおっしゃってるわ」

 

「やはり………」

 

このままではまずい。

春信は焦燥感にかられた。

きっと、今のままでも彼は仕事をこなして見せるだろう。

先ほどのような体調が悪そうな様子も二人の前でしか見せておらず、今も、ほとんどの仕事を恐ろしい程に卒なくこなしている。

周囲への接し方も微塵も変わっていない。

言い換えれば、彼の負担は変わらない。

今しばらくは問題ないだろう。

だが、結界外の探査が始まれば、彼の負担は激増する。

その負担に、彼は耐えられるだろうか?

彼の肉体は怪我から治りきっておらず、体力も回復しきってはいない。

普段の激務と合わされば、彼の身体が駄目になってしまうかもしれない。

それでも、彼は仕事を行い続けるだろう。

なにせ、四肢を砕きながらも、バーテックスと戦い続けたような人間だ。

今の異常なまでの仕事への執着からも、下手をすれば、血を吐きながらでも働こうとしかねない。

だが、こんなところで彼を失うわけにはいかない。

第一、彼に何かあれば、他の勇者たちが黙ってはいまい。

二ヶ月前のことを思い出す。

あの奇襲にはしてやられた。

交渉事には慣れていたはずだったが、十二の少女にここまで振り回されることになるとは思っても見なかった。

子供の意地も、実力が伴えば、非常に危険なものになるという証左だろう。

おかげで、東郷美森を彼に接触させる手伝いをする羽目になった。

やはり、乃木園子の狙いが、彼を自分達の傍に置くことにあるのは明白だ。

この状況に彼をおいたことを、乃木園子をはじめとした勇者達は快く思っていない。

夏凜にも、チクチクとその件で攻められる。

これで、彼が倒れでもしたら………。

考えるだに恐ろしい。

と、そこで春信は、二か月前と状況がやや変わっていることに気付いた。

状況が変わっている以上、乃木園子に協力することは悪手ではない。

優先順位を考えたらむしろ好手ではないか?

ならば………。

 

「早乙女さん、聞いていただきたいことがあります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香川県讃州市にある、とある中学校の家庭科準備室。

そこに、乃木園子を筆頭とした四人の勇者が集まっていた。

 

「―――わかりました~。また連絡しますね~」

 

園子が端末を操作し、通話を切る。

 

「どうしたの、そのっち?嬉しそうだけど……朗報?」

 

「そうだよ~。にぼっしーのお兄さんが協力してくれるんだって~」

 

「そう……!これで……!」

 

「ああ、一歩前進だな!」

 

「それにしても、なんというか、あれね………身内が迷惑かけてるわね……」

 

「夏凜は悪くないだろ?気にすんなって」

 

「けどそのっち、あの人がこっちに協力するってことは頼人君は………」

 

「……うん、すごく無理してるみたい。だからね、わっしー。ライ君をお願い」

 

「……ええ、そのために準備してきたんだもの」

 

「気を付けてね。安芸先生でもライ君に会えないくらいだもん。私達の狙いがバレちゃったら、きっと邪魔されちゃうから」

 

「任せてそのっち。もしもの時は……実力を行使するから」

 

「あんたまで暴走してどーすんのよ。」

 

「おいおい、頼人を誘拐する気じゃないだろうな……」

 

「大丈夫よ。ばれないようにするから」

 

「東郷……ばれないように立ち回るってことよね……?ばれないように暴れるってことじゃないわよね……?」

 

「あの……美森さん……?わたくしめもちょっと不安になって来たんですが、大丈夫ですよね……?」

 

夏凜と銀が心配して声を掛ける。

二人が声を掛けたのは、かつて鷲尾須美と呼ばれた少女。

彼女は中学に入る際に生家に戻っており、東郷美森に名を戻している。

美森自身は以前と同じ、須美という呼び方でよいと言ったのだが、流石に学校ではややこしい為、それぞれ名字や名前で呼んでいる。

それでもタマに、須美と呼んでしまうらしいが。

なお、園子は相も変わらずわっしー呼びだ。

こういう時、あだ名って便利。

 

「二人とも心配しないで。大船に乗ったつもりでいなさい。そう、例えるなら戦艦長門に乗った気分で!」

 

「また長門か……」

 

「長門は凄いのよ!憎き米帝の水爆を二度も受けて、それでもなお、三日も沈まずに持ちこたえたんだから……!」

 

「あーうん、分かった、分かったから」

 

「園子、これ大丈夫なの?もう暴走してる気がするけど………」

 

「大丈夫、大丈夫~。きっと、久しぶりにライ君に会えるって思って少し興奮してるだけだよ~」

 

「少し………これが……?」

 

夏凜が目を向けると、美森が銀に絡んで、旧世紀の知識を吹き込もうとしている。

 

「いい機会だから、長門の戦歴についてじっくり語ってあげるわ!」

 

「もういいから!もう十分聞いたからー!」

 

「何言ってるの?いつぞやの合宿の分だけではまるで語り足りないわ。長門の凄さ、もっと教えてあげる」

 

夏凜がこれで少しかと園子に目で訴える。

 

「……うん!いつも通りだから大丈夫だよ~!」

 

「こっちの目を見て言いなさいよ!ったく、先行きが不安だわ……」

 

彼女達がそうこう話していると、不意に部室の扉が開き、二人の少女が部屋に入ってくる。

 

「結城友奈、もどりましたー!」

 

「たっだいまー。いやー、やっぱバレーとか運動系の手伝いは腰に来るわねー」

 

「ゆーゆ、ふーみん先輩。おかえりなさ~い」

 

「おかえりなさい。友奈ちゃん、風先輩。今、お茶とぼた餅を用意しますね」

 

銀に絡んでいた美森が、一瞬で二人の出迎えに移る。

「変わり身はええな……」と銀は言ったが、どうやら美森には届かなかったらしい。

部屋に入ってきた二人は結城友奈と犬吠埼風。

先日、勇者に選ばれた少女達だ。

 

「わーい!東郷さんのぼた餅!」

 

「ありがと東郷。ほんと、よくできた後輩ねー。誰かさんも見習ってほしいものだわ」

 

二人が早速、ぼた餅に舌鼓を打つ。

 

「何よ風。この完璧な後輩のどこに不満があるっての?」

 

「べっつにー。ただ、ほんとに完璧な後輩は、先輩には敬語を使うってもんよねー」

 

「そうね、尊敬できる先輩には敬語を使うべきよね」

 

「ほう、つまり私は尊敬には値しないと?」

 

「それ以外の言葉に聞こえたかしら、犬先輩」

 

その言葉をきっかけに、風と夏凜がじゃれ合い始める。

最早、日常の風景の一つだ。

園子は二人のじゃれ合いを見て、目を輝かしながら何かメモを取っている。

「うひょ~いいよいいよ~!」とか言って、最早別の世界へ行ってしまっている。

あの三人にはしばらく近づかないようにしようと銀は決めた。

 

「ところで、銀ちゃん、東郷さん。さっき、何の話してたの?部室の外まで聞こえてたよ」

 

「よく聞いてくれたわ友奈ちゃん。我が国の誇る戦艦長門について話していたの。友奈ちゃんにも教えてあげるわ」

 

「ちょ、ちょっと難しそうだね……」

 

「友奈にまで変な事吹き込むのはヤメロ」

 

銀が美森に軽くチョップする。

 

「変なことじゃないのに……」

 

美森が口をとがらせ、いじけるように言う。

 

「そういや友奈。安芸先生はどーしたんだ?一緒じゃなかったのか?」

 

「安芸先生は、何かの打ち合わせがあるとか言ってたよ?遅くなるかもしれないから、先に解散してていいって」

 

「そっか、それじゃ、かめやにでも行かないか?アタシ、結構お腹すいちゃってさー」

 

「そうね。今日は他にすることもないし」

 

「さんせー!そうだ、樹ちゃんも時間あったら呼ぶのはどうかな?」

 

「おお、ありだな!そうと決まれば……って三人とも何やってんだ?」

 

銀が三人に目をやると、風と夏凜が園子を部屋の隅に追い詰めている。

 

「は、はわわ~。にぼっしー、ふーみん先輩。お願いだから、この子は取らないで~!一生懸命育てたんよ~!」

 

「何が育てたよ!私達をネタにした怪しげなメモじゃない!」

 

「ふふふ、安心しなさい園子。そのメモは私達が責任もって育ててあげるから。そう……地獄の業火の中で」

 

夏凜と風が、じりじりと園子との距離を詰める。

狙いは園子のメモらしい。

 

「あわわわわ。ミ、ミノさん、わっしー助けて~!」

 

「すまんが園子、年貢の納め時だ。おとなしくお縄につけ」

 

「そのっち、たまには大人しくメモを差し出すべきよ」

 

「み、見捨てられた~!?」

 

騒がしい声が部室に響きわたる。

楽しい日常の光景。

ここは讃州中学勇者部。

世界を守る勇者たちが、日常を謳歌する場所だ。




鎮守府

頼人が長を務める大赦の内部組織。
国防に関わる全ての部署がこの鎮守府という括りにまとめられている。
名前の由来は日本海軍のあれ………ではなく防人同様古代日本からで、陸奥国に置かれた軍政を司る役所の鎮守府から。
鎮守という言葉には元来、その土地を鎮護する神、もしくはその神を祀る社という意味がある。
すなわち、土地神の集合体たる神樹とも、言い換えれば大赦の信仰とも縁のある名称であり、軍政を司るという性格とも合致したためこの名がつけられた。
とはいえ、名前のイメージ的には海軍のあれなので、美森はこの名前に大層興奮したとかしなかったとか。
なお、ここの長を務める頼人には、新たな御役目の名が用意されていたが、本人が嫌がったため役職名で呼ばれることがほぼなく、それ故、頼人は大赦内でも名前で呼ばれている。
また、外部から大量の人材を登用した結果、最早大赦ではないと頼人を嫌う人間から揶揄されるほど組織性格が変質しているが、組織の目的はこの上なく大赦元来の目的に即したものであるため、ある種、大赦の中でも、最も大社らしい組織と言えるかもしれない。
ちなみに、民間上がりの人間が多く所属しているため、大赦本庁で仕事をするには摩擦が大きく、後、増えた人員も全ては抱えられないので、現在お引越しの準備中。
組織の成立過程とか、能力主義なとことか、イメージ的にはZガンダムのティターンズ。
だけどこっちは毒ガスとかは撒かない。
地球至上主義とか、地球から人を一掃しようとかやべー思想もない。
女みたいな名前だなと、人の名をからかうような輩も多分いない。
綺麗なティターンズ。
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