樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

35 / 46
大満開の章のプレッシャーに耐えきれずにプロローグだけ投稿。
本編進めずに何やってるんだろう……。
どうか許して……。


[IF]乃木若葉の章
IF:プロローグ


―――初めに感じたのは、刺すような消毒液の匂い。

無機質で、温かみの欠片もない匂い。

病院の……匂い。

瞼を開くと白い天井が目に入る。

ピッ、ピッ、と規則的な電子音が聞こえる。

以前聞いたことがある……心電図の音か。

そっか……俺は病院にいるのか。

何でだろう……?

ぼんやりとした頭を働かせ、それまでの記憶を手繰り寄せる。

幸い、思い出すの簡単だった。

そう……遠足の帰りに、バーテックスの襲来があった。

そこで、園子と須美が戦闘不能になり、銀も重傷を負った。

だから、俺が戦った。

勇者と精霊、田村丸の力を借りて。

てっきり、俺は死んだと思ってたけど、一命をとりとめたらしい。

だったら……だったらまた銀に会える。

あいつらとまた居られる。

そのことに気付いた瞬間、心に火がついた。

胸が燃えるように熱い。

帰れる。

生きられる。

ただそれだけなのに、涙が出てしまいそうになるほど嬉しい。

ああ……はやく銀に会いたい。

会って抱きしめたい。

その為にも、まずは人を呼ばないと。

きっと銀は、俺のことを心配しているはずだ。

少しでも早く、俺が生きてることを教えてやらないと。

ベッドの脇のナースコールを押そうと、手を伸ばし―――違和感に気付いた。

正確には―――違和感がないことに気付いた。

 

「あ……れ……?」

 

ふと、手のひらを見る。

傷一つない手。

体のあちこちも確かめてみる。

………おかしい。

自分の最後の記憶では、俺はまさしく満身創痍となっていた。

体中傷だらけだったし、左腕は持っていかれてた。

なのに、今の俺は五体満足で、傷なんて何もない。

 

おかしい……こんなこと、あり得ないはずなのに……。

冷静さを失いそうになる思考をどうにか繋ぎ止め、自分を落ち着かせようと試みる。

落ち着け……きっと、医者の腕が飛び切り良くて、それなりに長い期間寝ていただけだ。

大丈夫。

こういうことだってありうるはずだ。

大丈夫、大丈夫。

深呼吸して、息を整える。

ふと病室を見回すと、カーテンの間から日が漏れてることに気付いた。

どうやら、天気は悪くないらしい。

窓からの眺めでも見て、心を落ち着けよう。

きっと、少しは落ち着くはずだ。

落ち着いた状態でないと、銀にまた要らない心配をかけてしまう。

ベッドから降り、窓のカーテンを開く。

目の前に、いつもの大橋市の景色が広がる。

少し遠くには見慣れた瀬戸大橋も見える。

いつ見ても、綺麗なモノだ。

徐々にだが、精神が落ち着いていく。

これが、俺が、俺達が守った街なのだと感慨を覚える余裕さえ生まれた。

それにしても、いい眺めだ。

瀬戸大橋が、こんなにはっきり見えるとは。

さぁ、落ち着いたところで人を呼ぼう。

と、窓に背を向けようとして、ふと、さっきの景色に違和感を覚えた。

今しがた見たものに、何かが足りなかったような気がする。

それは耐えがたい焦燥感に変わり、俺の背中を這いずり回る。

予感がする。

気づいてしまえば、後戻りが出来なくなる予感。

心臓が早鐘を打ち始める。

嫌な予感が止まらない。

妙な吐き気がしてくる。

いや、考えすぎだ。

そんなはずはない。

意を決して、再び景色へ目を向ける。

 

「――――あ」

 

気付いた。

気付いてしまった。

大橋には橋脚ごとに通行を禁ずるための茅の輪が設置されていた。

だが、あの大橋にはそれがない。

襲来を知らせる鈴もない。

それは……まるで前世に見た大橋のようで―――

 

「はは………そんな……」

 

きっと寝ている間に、大橋も模様替えをしただけだ。

馬鹿な考えは止めないと。

そうだ、テレビでもつければ…………。

ベッド脇の机にある、テレビをつけようとして、また気付かなくていいものに気付いてしまう。

病室用のテレビ。

何の変哲もない、小さなそれ。

問題は、そのテレビに刻印されていたメーカー名。

よく見たメーカー。

けれど、赤嶺頼人として、そのメーカーの名を見たことはなかった。

言ってしまえば………その名は神世紀には存在しない、前世でしか見たことのないメーカーだった。

 

「―――――」

 

焦燥感に耐えられず、病室を飛び出す。

有り得ない。

ありえない。

アリエナイ。

そう思っても、頭はいかれた仮説を弾き出している。

その思考から逃げるように、走る。

走る。

走る。

走る。

 

「あっ、ちょっと君!走っちゃだめだよ」

 

走っていると白衣の男性に呼び止められた。

ここの医者らしい。

ちょうどよかった。

 

「ここは……ここはどこですか!?銀は、園子は、須美は……!?」

 

余りにも慌てすぎて、掴みかかるような姿勢で尋ねてしまう。

保証が欲しい。

ここが俺のいた世界なんだという保証が。

 

「君は……。そうか、落ち着きなさい。もう大丈夫だよ。ここは坂出の病院だ。何も心配することはない」

 

「さか……いで……?」

 

坂出。

それは、二百年以上前に消えた地名。

かつての大橋市の名。

 

「ああ、四国の香川だ。ここは神樹様に守られているから安全だよ。襲われる心配はない」

 

「―――――」

 

 

―――アリエナイ

 

襲われる心配はない。

神樹様に守られている。

 

―――アリエナイ

 

その言葉が意味することは――――

 

―――アリエナイ

 

口が干上がる。

嫌な妄想が現実味を帯びてくる。

聞きたくない。

聞きたくない。

けれど、口が勝手に動いてしまう。

頭のおかしい質問をしてしまう。

 

 

「今は………いつですか……?」

 

「今日?今日は七月十四日だよ」

 

「そうじゃなくて……年は……今は何年ですか……?」

 

笑い飛ばしてほしい。

今は二九八年だと笑ってほしい。

 

「たった一人で辛かったね。年が分からなくなっても仕方がないよ」

 

「いいから……答えてください」

 

俺がそう言うと、医者は肩をすくめて言った。

 

「今は二〇一六年だよ。もうすぐ、あの日から一年だ」

 

―――瞬間、五感が掻き消えた。

姿勢を保てず、床に倒れ込む。

 

「君!君!大丈夫かい!?誰か!患者が――――」

 

医者が何か言ってたけど、何を言ってるのかワカラナイ。

ワカラナイ。

ワカリタクナイ。

 

 

意識が闇に墜ちていく。

現実を受け止めきれずに堕ちていく。

けど、冷たい床の感触が、これはどうしようもない現実だと教えてくる。

本当に、ふざけた話だ。

今、俺が居るのは、三百年前の日本。

俺の世界は、俺の全ては、あっけなく消えてしまった。

 

 




田村丸
坂上田村麻呂をオリジナルとした英雄、坂上田村丸。
大嶽丸を倒して、鈴鹿御前を嫁にした。
ちなみに、頼人と最も相性のいい精霊だが、性能は大嶽丸より数段劣る。
こっちのルートだと頼人は、少しでも生き残る可能性をあげるため、大嶽丸より負担の少ない田村丸を使用して三体の完成体と戦ったが、そもそもの性能が劣る上に黄泉返りの力もないので、三体の殲滅こそできたが蠍の毒を食らい死亡。
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、という言葉を知らず、中途半端に生きようとした結果死んでしまったのだが、何故か西暦。

続きは、のわゆが万一アニメ化したら……と思っていましたが、一応アンケートを取らせて頂きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。