樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

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変化

二〇一六年九月末日。

暑さはまだ続くものの、朝夕の涼しさから秋を感じ始められる季節。

教室から外を眺めると、綺麗な秋晴れが広がっている。

少しだけその風景を眺めると、若葉はいつものように、朝早くから教室で軽い掃除を始めた。

何というほどでもない日課。

小学校でずっと委員長を務めていた名残だ。

 

「おはよう、若葉。今日も早いな」

 

登校してきた背の高い少年は赤嶺頼人。

二ヶ月前に丸亀城に来た勇者。

この特別学級に通う、唯一の男子。

 

「おはよう、頼人。お前こそ、今日も早くから走っていたのだろう?」

 

「ここに来てからの習慣だから。……と、掃除手伝うよ」

 

「ああ、すまない」

 

「気にするな。若葉がいつもやってくれてるんだから、礼を言うのはこっちの方なんだ」

 

そう言って、頼人は若葉の掃除を手伝い始める。

若葉にとって、頼人は不思議な存在だった。

唯一の男性勇者であることもそうだが、立ち居振る舞いが同年代とは思えないほどに大人びていて、女所帯である丸亀城の特別学級にもあっという間に馴染んでしまった。

また、戦闘訓練、座学、どちらも優秀で、特に武術は、若葉ですら一本もとれないほどに秀でている。

それだけに、若葉は不思議になる。

頼人は一体、どこから来て、どう生きてきたのか。

 

「今日っ、こそっ、はっ、タマがっ!って、ああ~。またタマが三番手か~」

 

教室の扉ががらりと音を立てて開くと、球子がハイテンションで入ってきた。

しかし、若葉と頼人の姿を見た途端、肩を落としてしまう。

 

「おはよう土居。ん、伊予島はどうしたんだ?」

 

「あんずか?あんずならここにいるぞ」

 

「はぁ……はぁ……タマっち……せんぱい……はや、すぎるよ……」

 

球子の後ろには、膝に手をつき、息を切らしている杏がいた。

 

「あんずー、ラストスパートくらいタマについてこれなきゃだめだぞー?」

 

「そうは言ってもー……」

 

「おはよ、二人とも。ほら杏。これ飲んで。新品だから」

 

「あ、ありがとうございます、頼人さん……」

 

杏は頼人からペットボトルを受け取ると、両手でゆっくりと飲み始めた。

こういう時に思うが、頼人は誰よりも周りをよく見ている。

調子が悪そうな者がいればすぐに気付き、素早くフォローに回る。

その姿を見ていると、若葉も少し見習わなければならないという気持ちになる。

 

「頼人、前から思ってたけど、飲み物何本持ってきてるんだ?」

 

「確かに、よく皆に渡しているな。皆の分までわざわざ用意してるのか?」

 

「あげるためだけって訳じゃないけど、少し多めに持っとくことにしてる。五百ミリのを五、六本」

 

「地味な多さだな……」

 

「大きな水筒とかではダメなのか?そっちの方が色々と楽だと思うが」

 

「こっちのほうが何かと便利なんだ。持ち運びも楽だし、こういう時誰かにあげられるし」

 

そうこう話していると、ひなたが登校してきた。

 

「おはようございます、皆さん」

 

穏やかな声と表情、気品あふれる立ち振る舞い。

とても同学年とは思えない,若葉の一番の親友。

最近は頼人と大社絡みの話をしていることが多く、二人だけで話をしていることもある。

だからという訳はないが、若葉は少し心配になる。

ひなたが大社に行くときは、頼人もまた同行している。

言ってしまえば、頼人は若葉の知らないひなたを知っている。

そのことを考えると、ひなたが頼人に取られてしまいそうで、若葉は少しもやもやとした気分になる。

もっとも、実際に若葉がひなた本人にそんな事を言えば、「嫉妬してる若葉ちゃん、可愛いです」なんて言われて写真を撮られるだけだろうが。

 

「むぅぅぅ。やっぱりひなたの胸、成長が早すぎる気がするぞ……」

 

気がつけば、球子がひなたの胸を凝視していた。

 

「あの、球子さん?恥ずかしいので、あまり胸を凝視しないでくれませんか……?」

 

「分かった!じゃあ代わりに揉んで測る!」

 

「た、球子さん!?」

 

球子がひなたに手を伸ばすも、その手がひなたの胸に届くことはなかった。

若葉が球子を羽交い絞めにしたからだ。

 

「やめろ土居!」

 

「離せ若葉!タマはあのブツを確かめなきゃいけないんだぁぁ!」

 

「落ち着け!」

 

球子は若葉の腕の中で暴れる。

こういう時に感じるが、球子は少々落ち着きがない。

おかげで、こういう時に少しだけ苦労する。

 

「ああそう言えば杏。昨日借りてたあれ、読み終わったよ。やっぱり訳が違うと分かりやすさが全然違うな。銘句も単語も訳し方のセンスがすごく良かった」

 

「分かります!昇火士って呼び方とかすごく素敵ですもんね!」

 

「そうだな。聖書とかの引用も、随分分かりやすくなってたしな。ベイティーとの論戦なんか、迫力が違ったし、最後の黙示録の印象も結構違うし」

 

「あの辺りは、知ってるのと知ってないのとでは感じ方も変わりますよね」

 

そんな三人を放って、杏と頼人は本の話をしていた。

こっちは逆に、落ち着きがありすぎる。

何とかしてバランスをとれないものか。

と、そこでまた、教室の扉ががらりと開いた。

 

「郡さんか、おはよう」

 

入ってきたのは郡千景。

若葉は一応、声を掛けるものの、返事はない。

いつものことだ。

彼女はコミュニケーションの面で、やや難がある。

今日も席に着くと、すぐにゲームを始めてしまう。

だが、最近になって、変わってきたこともあった。

 

「おはよう、郡さん。今日はFPS?」

 

頼人は千景の席の前に椅子を持っていくと、千景と同じゲーム機を起動させた。

 

「頼人の奴、すごい根気だな~。今日で何日目だ?」

 

「一か月以上はああしてるよね……」

 

頼人はここに来てしばらくすると、積極的に千景に話しかけるようになった。

いつも、彼女が登校すると近寄って、千景と同じゲームをしながら話しかけ続けている。

しかしながら、千景の反応は皆無。

まるで目に入っていないかのように振舞い続けている。

それでも頼人は話しかけ続ける。

何故あれほど声を掛け続けられるのだろうか。

 

「おっはよーございまーす!高嶋友奈、到着しました!ギリギリセーフだね!」

 

そうして始業のチャイム直前、教室に入ってきたのは、高嶋友奈。

 

「おはよう、友奈。間にあって良かったが、時間ギリギリというのはあまり感心しないな」

 

「えへへ。ごめんね若葉ちゃん。明日からは気を付けるよー」

 

そう言って友奈は周りと挨拶を交わしながら自分の席に着く。

千景にも挨拶をしていたが、返事は返ってこない。

良くも悪くも、いつもの光景。

やがて、チャイムが鳴ると共に教師が入室し、午前の授業が始まった。

 

 

 

 

「あれ、頼人はどうしたんだ?」

 

昼休みの時間になり、若葉は食堂に行こうとすると、ふと球子に尋ねられた。

その言葉で若葉も教室を見渡すが、いない。

 

「さっきまでそこにいたんだが……いないな」

 

「球子さん、頼人さんに何か用でもあったんですか?」

 

「いやあ昔、槍に登ったって話を頼人がしてたからさぁ、お昼にそれを聞こうと思ってたんだ」

 

「のぼる……槍に?」

 

若葉の脳裏には、立てた槍を足場に、曲芸師のように立つ頼人の姿がイメージされた。

そんな特技が頼人にあったとは……。

若葉も興味を持ってしまう。

 

「すごいね!頼人君ってそんな特技があったんだ!」

 

「特技……?まあ特技と言えなくもないか……」

 

友奈も似たようなことを考えたらしく、興味津々で話を聞こうとしている。

だが、球子の反応は鈍かった。

 

「タマっち先輩、その言い方じゃ誤解させちゃうでしょ。タマっち先輩が言った槍は、武器の槍じゃなくて槍ヶ岳のことなんです」

 

「槍ヶ岳……なんだ、山のことか」

 

「確か、長野にある山でしたよね。日本アルプスでしたか」

 

「槍は北アルプスだな!日本で五番目に高い山なんだぞ!」

 

ひなたの言葉に応えるかのように、球子が嬉しそうに語る。

なるほど、と若葉は納得した。

球子はアウトドアが好きだと言っていたから、そういった話で頼人と仲が良くなったのか。

 

「しかしそんな山、小学生が登れるものなのか?随分険しい山なのだろう?」

 

「う~ん。確かに、小学生で登るなんて話はほとんど聞かないな。だから頼人に聞きたかったんだけどさぁ……」

 

「頼人さん、どこかに行っちゃったもんね。しょうがないから、先にお昼食べようよ」

 

「そうだなー」

 

別に今すぐ聞かないといけないような話でもない。

先に昼食をとろうということになったが、そこで友奈が口を開いた。

 

「ねえねえ、それじゃあさ――――」

 

 

 

 

 

 

二の丸にある小さな机とベンチ。

何本かのシリアルバーとジュースの入ったペットボトルを傍らに置き、千景はゆっくりと腰を下ろす。

そして、ポケットから携帯ゲーム機を取り出し、電源を入れる。

イヤホンをしてしまえば、外部の世界から隔離される。

千景だけの世界。

誰にも邪魔されることはない。

なのに………。

 

「ああ、いたいた。郡さん、探したよ」

 

この少年は千景のパーソナルスペースに無遠慮に立ち入ってくる。

机を挟んで反対側のベンチに頼人は腰かけると、また千景に話しかけ始める。

 

「今日はいい天気だからさ、弁当を作って外で食べようって思ったんだ。郡さんもちょっと食べない?」

 

これまでは教室だけだったのに、ついに、こんなところまで来た。

千景は少しだけ苛立ちを感じて、すぐにそれを抑え込み、自分の世界に没頭する。

何も聞こえない。

何も感じない。

だから、大丈夫。

大丈夫。

大丈夫なはず、なのに………。

 

「あ、そのゲーム、確か協力プレーできたよね。一緒にやってみない?」

 

どうしてこの少年の言葉に、感情が揺さぶられるのだろうか―――

 

「いい加減にして……!どうして、そんなに付きまとうの……!?」

 

千景は声を荒げて、目の前の少年を睨みつけた。

何が楽しいのだろうか。

何が狙いなのだろうか。

過去の痛みやこれ以上傷つきたくないという無意識の怯えが、千景にそうさせた。

なのに、何故か頼人は嬉しそうに微笑んだ。

 

「やっと、話してくれたね」

 

「……え?」

 

「今まで郡さんが喋っているところを見たことがなかったからさ、声が聞けて嬉しいなって」

 

声を荒げた千景にも、頼人は全く動じていない。

それどころか、とても嬉しそうにしている。

 

「それで、付きまとう理由だっけ?嫌だったよね、ごめんね。でも、どうしても郡さんと話したかったからさ」

 

「私と……何を話したかったの……?」

 

千景はその答えに虚を突かれて、つい尋ねてしまった。

 

「色々。郡さんが何が好きなのかとか、ゲームの話だとか。そういう話」

 

……分からない。

何故、そんな反応をするのか。

何故、そんなに話したがるのか。

千景は少し混乱する。

 

「それでも、どうしても郡さんが嫌っていうのなら、これ以上は付きまとわない。流石に俺も、ストーカーになるつもりはないから」

 

「え……?」

 

そこで、頼人は一歩引く発言をした。

思いがけず、千景は戸惑った。

頼人の発言自体にではない。

その発言を、少しだけ寂しく思った、自分自身に戸惑ったのだ。

やめてほしい。

そう、たった一言口にするだけで、今までのように千景だけの時間が戻ってくる。

言えばいい。

そうすれば、きっと傷つくことはないはず。

なのに、その一言を口に出すことに、自分でもよく分からない躊躇いを感じる。

そこで、頼人が口を開いた。

 

「まあ、一つだけ条件があるんだけど」

 

「条件……?」

 

千景の目が不安に揺れる。

やっぱり、何か悪いことを考えていたのだろうか。

何か思惑があって自分に近付いていたのだろうか。

もし、そういうつもりだったら………。

千景の心に嫌なものが広がる。

 

「この二体の狩り方を教えてほしい……!この一週間、やってるんだけど全然狩れないんだよ……。横から見てたけど、郡さんすごくゲーム上手いでしょ?だから教えてほしくってさ」

 

頼人が見せたのは、モンスターを狩猟するゲーム。

その中でも、高位のクエストだった。

 

「……そんなこと?」

 

さすがの千景も呆気に取られる。

まさか、そういうことを条件に出されるとは思っていなかった。

 

「そんな事って……これでも苦労してるんだよ?睡眠時間削られるしさ……」

 

頼人は遠い目をして言う。

千景は少し考える。

そのゲームは千景もやりこんでいた。

今から始めたら、この昼休みの間に終わらせられるだろう。

そうだ。

このゲームだけして、約束を守ってもらおう。

それくらいならば、いいだろう。

 

「……それくらいだったら……手伝ってもいいわ」

「ほんと?助かるよ」

 

そういう頼人の言葉から目を背け、千景はゲームのカセットを切り替えた。

ゲーム機を再起動させながら、ふと千景は思った。

そういえば………誰かからお礼を言われるなんて、いつぶりだろう……?

 

 

 

 

「すご……。制限時間フルに使っても駄目だったのに、こんなにあっさり……」

 

「コツを掴めば、簡単よ……。ただ、もう少し武器を強化した方がいいわ……。その装備は、このレベル帯では厳しいから……」

 

それから間もなく、頼人の依頼は叶えられた。

確かに難易度の高いクエストではあったが、そのクエストを千景は何度もクリアしていた。

回復なし、初期防具という縛りプレーでもクリアできるほどだ。

 

「ほうほう。それじゃ、この武器作りたいんだけど、この素材はどこで取れるの?」

 

「それなら……こっちのクエストね……。二、三回クリアすれば作れるはずよ……」

 

「すごいな郡さん……。上手なのは知ってたけど、ここまでとは……」

 

「まぁ……。これだけが、私の特技だから……」

 

感嘆する頼人に、千景は少し照れながら言う。

今日のこの時間は、これまで千景が経験してこなかったことばかりだ。

誰かに褒められることも、誰かとこんな風にゲームをするなんてことも。

知らなかった。

同じゲームでも、同じクエストでも、誰かと一緒にすることで、こんなにも楽しく感じるなんて。

そう思ってしまうほどに千景は、他人と楽しく過ごした時間がなかった。

虐げられる生き方が染みついて、千景は人と接することに極端に憶病になっていた。

だからこそ、丸亀城でもほとんど会話せずに過ごしていた。

けれど、実際に話してみれば、ちっとも怖くなくて。

むしろ、誰かと一緒にいることの心地よさまで、思い出してしまった。

 

「ありがとう、郡さん。おかげで助かったよ」

 

「別に、いいわ……」

 

ありふれたお礼の言葉。

そんな言葉にすら、千景は温かいものを感じた。

それほどまでに、千景は、人との繋がりに飢えていた。

 

「ん、それじゃあ………」

 

頼人はそこで、ゲーム機を片付けた。

と、そこで千景は気付く。

これで、頼人が千景に付きまとうことは無くなる。

さっきのように、一緒にゲームをすることも……。

 

「あ……」

 

どうしよう。

さっきの話をなかったことには出来ないだろうか。

だけど、先に嫌がったのは千景の方だ。

今から言ってもと思うし、何より、どう言えばいいのかも分からない。

そんな言葉の紡ぎ方を、千景はとっくに忘れていた。

だからこそ、次の頼人の言葉は意外だった。

 

「少し遅くなったけど、ご飯食べよっか。はい、これ郡さんの」

 

頼人は弁当箱を広げて、割り箸を千景に手渡した。

千景はまた、虚をつかれる。

 

「カツオのたたきを竜田揚げにしてみたんだけど、食べてみてくれない?こういうのは高知県民に聞くのが一番だから」

 

「いい、の……?」

 

「いいも何も、お願いしてるのはこっちだよ?ほら、食べてみて」

 

「それ、じゃあ……いただくわ……」

 

外はカリッとしていて、中は柔らかく、味がよくしみ込んでいる。

優しい味。

思わず、感想が口を零れる。

 

「……美味しい」

 

「そっか、よかった。ほら、こっちの里芋も食べてみて?あ、高知じゃ田芋だったな」

 

そうして、頼人はまたお弁当を押し付けてきた。

誰かの手料理を食べたのも、とても久しぶりだ。

家族以外の手料理なんて、きっと初めてだろう。

 

「それで、さっきのことだけどさ。約束通り、最近してたようなことはやめるよ」

 

「…………」

 

予想通りの言葉。

分かっていても、少し落ち込みそうになる。

 

「けどさ、放課後とか一緒にゲームしたりとか、それくらいならいいでしょ?」

 

頼人は、何でもない事のように言った。

普通の、友達に語り掛けるかのように。

それが……無性に嬉しかった。

 

「ええ……。あと……さっきの話は気にしなくていいわ」

 

気がつけば、自分でも驚くくらいに簡単に言葉が出た。

そのことに少し焦って、けれど、頼人がその言葉に、「ありがとう」なんていうものだから、その焦りすらも、消えてしまった。

まるで、淡い夢のよう。

誰かと友達のように一緒に過ごす、ありふれた時間が、自分にも訪れるなんて、千景は想像できなかった。

この人なら、もしかすると―――

 

「あっ!みんな、いたよー!」

 

突然、背後から大きな声が響いた。

友奈の声だ。

千景が振り返ると、五人のクラスメイト達が揃っていた。

 

「あらまあ、みんなお揃いで。どうした?」

 

「どうしたじゃない!お前たちを探してたんだ!さあ飯を食わせろ!」

 

がるると球子が唸っている。

 

「飯?」

 

「実は、天気がいいから頼人さん達を探して、外でお昼を食べようってことになったんですけど、なかなかお二人が見つからなくて……」

 

「気がつけば、球子さんが飢えた獣のようになってしまったんですよ」

 

「まったく、土居は持ってきたおにぎりをすぐに食べようとするから、それを止めるのにも苦労した……」

 

三人が疲れたように言う。

 

「ま、まぁ見つかったから結果オーライだよ!」

 

「オーライには見えないけど……。もしかして、友奈の発案?」

 

「そうだよ。こういう日には、皆一緒にお外で食べるのが気持ちいいかなって!」

 

「なるほど納得」

 

そうして頼人と友奈たちが話していると、いつの間にか球子が傍に来ていた。

 

「二人して旨そうなもの食べてるじゃないか、タマにも食べさせタマえ!」

 

弁当箱にたった一つ残った、カツオの竜田揚げ。

それに球子は手を伸ばす。

しかし、その手は途中で止められた。

 

「これは私のモノよ……。横から手を出さないで」

 

千景が球子の手を止めていた。

それを見た球子はしばし黙り、そして………。

 

「ち、千景が喋ったぁぁぁ!?」

 

絶叫した。

 

「う、うるさいわね……」

 

すぐそばで起きた轟音に、千景は耳を抑えるも、球子はそれどころじゃ無い。

 

「見たかあんず!ち、千景がタマに話しかけたぞ!歴史的快挙だ!」

 

「タマっち先輩……。気持ちは分かるけど失礼すぎるよ……」

 

そう言いながら、杏も驚いているようだった。

確かに、千景はクラスメイトの言葉に反応することさえ稀だった。

その千景が何にせよ、球子と話したのだ。

実際、他の少女達も驚いていた。

そんな中、友奈だけが声をあげた。

 

「よーし!それじゃあぐんちゃん、頼人君、私達も食堂で色々用意してきたから、一緒に食べようよ!」

 

そう言って友奈は、机の上に色んな食べ物が詰まったビニール袋を置いた。

 

「友奈、そうは言うがあまり時間が……」

 

「あっ、忘れてた!」

 

「いっそのこと、みんなで仲良く遅れてしまいましょうか?」

 

「いや、それは駄目だろう……」

 

「今日ぐらいいーじゃんかー。まったく、若葉はお堅いな~」

 

「か、堅いだと?」

 

「タマっち先輩、喧嘩売るのは良くないよ?」

 

「いいんです杏さん。若葉ちゃんはそういう所も可愛いんですから」

 

「なっ、ひなた!」

 

わいわいがやがやと騒ぐ少女達。

 

「ほら、ぐんちゃん。このおにぎり美味しいよ?中身はお肉だよ!」

 

「え、ええ……」

 

千景は差し出されたおにぎりをついつい受け取ってしまう。

 

「待ちタマえ友奈。一口目はタマが食べると決めていたんだ!」

 

「大丈夫だよタマちゃん!いっぱいあるから!」

 

そうして球子もおにぎりを受け取り、口いっぱいに頬張り始める。

気がつけば、ちょっとしたピクニックのようになっていた。

 

「いいの、かしら……」

 

おにぎりを見つめていると、呟きが漏れた。

 

「勿論だよ!そのために用意してきたんだから!」

 

その千景のつぶやきに友奈が反応し、笑顔でそう言った。

 

「ああ。珍しいかもしれないけど、こういうのもたまにはいいんじゃない?」

 

「タマだけになっ!」

 

「待て。今のは狙ってない」

 

そうして、笑い声が生まれる。

食事中、友奈は千景によく話しかけてきて、ゆっくりとだが、自然に会話が生まれた。

友奈はとても聞き上手で、人との会話に慣れない千景でも話しやすく感じた。

やがて、昼休みの時間はあっという間に過ぎていった。

千景がここに来てから、一番騒々しくて、けれど、一番楽しいと思えた時間。

丸亀城での生活は、この時を境にして、変わり始める。

何故だか千景は、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――それで、そっちの様子は?」

 

『順調です。つい先日、父のところに情報提供の依頼が来ました』

 

「そうか。じゃあ、手筈通りに?」

 

『はい。例の興信所経由で、証拠は提出済みです。これなら、次のタイミングで議題に上がるかと』

 

「そうか……。いやはや、意外と速いな。流石美佳だよ」

 

『いえ、これは全て赤嶺様のおかげです。こんなに上手くいくだなんて、正直今でも信じられないくらいですから』 

 

「美佳が頑張ったからだよ。やっぱり、美佳は凄いよ」

 

『……もったいないお言葉です』

 

「また、かしこまりすぎ」

 

『そんなことありません。むしろ、畏まり足りないくらいです』

 

「そんな訳ないだろ……?まあいいや。それはそれとして、議題に上がったとして通過するかが問題だ。これからが本番だと考えておいた方がいい」

 

『心得ております。そちらの準備も進めていますから、ご安心ください』

 

「ん、信頼してるよ。とりあえず、次に話せるのはこっちが大社に行った時だと思う。これがばれるなんてことは避けたいから」

 

『かしこまりました。……あの、郡様の御様子は如何でしょうか?』

 

「ああ、今日、ようやく話せて、皆でお昼も食べられた。これからはきっと、色々話しやすくなると思う」

 

『そうですか……。よかった……』

 

「次に会った時には、写真とか見せるよ。楽しみにしててくれ」

 

『よ、よろしいのですか……!?』

 

「当然。というかいきなり興奮しすぎじゃない?」

 

『も、申し訳ありません……。つい……』

 

「いや、いいんだけどね……。それじゃあ、もう切るよ。バレるとまずいし」

 

『はい。失礼致します』

 

そうして、電話を切る。

途端、ため息が零れた。

別段、今の会話が疲れたという訳ではない。

原因は、自分自身にある。

今日の会話を振り返る。

我ながら、よくもまあ感情に流されたものだ。

あの時もそうだ。

頭で思うように行動できず、感情が身体を動かしていた。

今はまだ、「赤嶺頼人」の目的に合致した行動を続けているからいいものの、これ以上感情が先行するようなことがあれば、様々な問題が生まれてくる。

そうなれば、最悪――――

 

頭を振って、嫌な考えを追い出す。

大丈夫、いざとなれば感情の処理方法などいくらでもあるのだ。

今、考えるべき課題は別にある。

頭を切り替える。

 

美佳を通じて、大社内に橋頭堡ができつつあるが、その土台は脆弱。

蠟細工のように崩れやすい代物だ。

少なくとも、巫女だけでなく、複数の神官をこちら側につけさせなければならない。

時間はある。

あと、たった数ヶ月程度だが――――

 

 

 

 

 




最近驚いたこと。
大満開の章の西暦に鎮守庁なる組織ができてたこと。
偶然とはいえビビった………。
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