樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話 作:exemoon
本年も拙作をお読みくださり、誠にありがとうございます。
新年度一発目から投稿が遅いですが、何とか更新していきますので、今年もよろしくお願い致します。
本編もそろそろ更新しなきゃ……。
二〇一六年十二月上旬。
冷たい風が、木々を掻き鳴らす。
雲はどんよりと濁っていて、今にも雪が降りそうな空模様。
そんな天気の下で、人々は畑仕事をしていた。
「皆さん、今日はこれくらいにしておきましょう!雪も降って来そうですから!今日も、ありがとうございました!」
歌野の言葉で、周りの大人たちも手を止め、腰を上げる。
土作りも楽じゃないなぁ、今年はいいけど、来年の肥料も考えないといけねえしなー、そういえば隣のとこのジャガイモは結構採れたらしいぞ。
そんな言葉を交わしながら、畑から出ていく。
十二月は、いわゆる農閑期。
土作りや冬野菜の収穫くらいしかやることはなく、他の季節よりも手が空く時期だが、短時間とはいえ寒空の下働くのでそれなりに大変だ。
標高が高い諏訪は、寒さも厳しいため、汗をかいたままだとすぐに風邪をひいてしまう。
「うたのんお疲れ様。はい、温かいお茶持ってきたよ」
作業を終えた歌野に、水都がコップを差し出す。
「ありがと、みーちゃん」
コップを受け取った歌野がゆっくりとお茶を飲む様を、水都は目を細めて見つめる。
「ぷはぁ~。やっぱりこの時期は、ホットな麦茶が一番ね~」
「ふふ。うたのん、お年寄りみたいなこと言ってる」
「あらやだ。私はまだピチピチの小学生よ?」
「今時、ピチピチなんて言わないよ」
そうして、二人笑い合う。
バーテックスが現れてから、約一年半。
諏訪での暮らしは、二人にとっての日常になっていた。
「手伝ってくれる人も、ずいぶん増えてきたね」
歩きながら、水都がしみじみと呟く。
歌野一人で行っていた農作業も、一人また一人と増え、今では数多くの大人たちが協力してくれている。
「ええ。皆協力してくれて、ありがたいことだわ。一年前からしたらアンビリーバボーね」
「うたのんが頑張ったからだよ」
「私だけの力じゃないわ。みーちゃんも一杯手伝ってくれたじゃない」
「わ、私は大したことしてないよ……。畑仕事もあんまり手伝えなかったし……」
「そんなことないわ。みーちゃんがいつも一緒にいて、支えてきてくれたからできたのよ」
「支えると言っても、バーテックスの場所を教えることくらいしかできてないし……」
「それだけじゃないわ。今日だって寒い中待っててくれたし、戦いにだってついてきてくれる。これってすっごく、勇気をもらえるのよ。だから、みーちゃんも胸を張って?」
「う、うん……」
歌野の言葉に、ついつい水都は照れてしまう。
いつもそうだ。
歌野は、いつだって周りの人々に勇気を与える。
希望を与える。
水都が歌野を支えられているのも、歌野からもらった勇気のおかげなのだ。
「あら降ってきた。やっぱり、早めに解散したのはナイスな判断だったわね」
その言葉に水都も空を見上げると、灰色の空から、純白の粉雪が降り注いできていた。
この様子だと積もることはないだろうが、寒さは厳しくなるだろう。
風が強くなれば、余計だ。
天気が変わって、雪が強くなる可能性もある。
「うたのん、早く帰ろ?」
「そうね。けどその前に……」
「うたのん、ここに来るには少し早いんじゃないかな?」
水都は少しだけ口をとがらせて言った。
ここは諏訪大社本宮の参集殿。
四国と通信できる設備が整っている場所だ。
「ええ。けど、この後天気が悪くなったらここに来るのが大変になっちゃうから」
「それは分かるけど……」
理屈では分かるが、それでも水都は落ち着かない。
若葉と話す歌野はいつも楽しそうで、こんな事を言われると、なんだか、歌野が自分よりも若葉との時間を楽しみにしている気がしてしまう。
そんなことはないと頭では分かっていても、何故だかもやもやする。
と、そこで通信機器がノイズを立てた。
「あら、今日は向こうも早いわね」
歌野がそう呟いて通信機器に向かう。
「諏訪より白鳥です。乃木さん、今日は早いんですね?」
歌野は楽し気に声を掛けた。
しかし、歌野が予期した声は帰ってこなかった。
『勘違いさせて申し訳ありませんが、自分は若葉ではありません』
その声に歌野と水都は眉をひそめる。
いつもとは違う。
少し低くて、少女の声ではない。
男の子の声だ。
「そうでしたか、すみません。それじゃあ、あなたは……?」
『赤嶺頼人と言います。初めまして、白鳥歌野さん』
「故障……通信機器がか?」
突然の連絡に、若葉は思わず聞き返した。
「はい。厳密には、連動している録音装置の方が故障しているみたいで、修理の為、今日は通信できないそうです」
「そうか……。なら、仕方ないな……」
若葉は少しだけ落胆する。
諏訪との通信は、四国の『外』と唯一繋がることのできる時間であり、また、白鳥と話せる大切な時間だ。
白鳥と話していると、遠い地で戦っている同胞がいると実感できて、勇気をもらえる。
いわば、若葉にとっての、『日常』の一つだった。
諏訪が予断を許さない状況である以上、例え少しの間でも通信できないというのは、若葉を不安にさせる。
「諏訪へはもう伝えたのか?伝えてないなら私が―――」
「いえ、もう他の方がお伝えになったそうです。だから若葉ちゃん、今日のところは……」
「ああ……」
「元気を出してください。これから、頼人さんと稽古をするんですよね」
「……すまない。この程度のことで暗くなってはいかんな。……行ってくる」
「はい。行ってらっしゃい、若葉ちゃん」
型稽古。
多くの武術に共通するものであるが、この表記は、厳密には正しくない。
双方ともに、「かた」という古武術の伝承法が語源な訳であるが、無論、「型」という表現が正しくない理由がある。
「かた」は本来、業や精神を積み重ねにより生まれた、技であり術そのものであり、固定的な「鋳型」ではない。
それ故に、「形」なのだとされる。
しかしながら、「形」を再現するのは容易なことではない。
それを若葉は今、痛感していた。
「腰構えが甘いぞ。考え事か?」
頼人が、突きつけられた木刀を前に尋ねる。
最近、若葉は頼人に、剣術の型稽古に付き合ってもらっている。
何度やっても頼人に勝てない以上、自分の地力をあげるしかないと判断したからだ。
そうして、若葉は木刀を下ろしながら答える。
「すまない。一瞬、集中が途切れたようだ。もう一度頼む」
「分かった」
互いに、再び木刀を構える。
型稽古には、いわゆる取り手と受け手が存在し、二人合わさった動き自体が稽古で、二人揃わなければ稽古は成立しない。
取り手が勝ち、受け手が負ける動きをすると決まっている。
考え方によっては、協力関係にも見えるが、実態はそんな生易しいものではない。
二人が、木刀を右上腕部に水平に乗せるような姿勢をとり、同時に木刀を振り下ろす。
中段で木刀を合わせた後、頼人が一歩下がり、木刀を再び振り上げる。
そこに若葉が近づき、一気に木刀を斬り上げ……瞬間、首筋に頼人の木刀が静止していた。
その感触に、若葉は顔をしかめる。
「やっぱり、調子が悪いな。少し休むか?」
「……いや、もう一度頼む」
そう言って、再び構えをとる。
今の型稽古において、若葉は受け手ではなく、取り手だった。
すなわち、今のは本来の型稽古の動きではない。
本来であれば、今の頼人の斬撃が届く前に、若葉の木刀が頼人の胸に届いていなければならなかった。
しかし現実には、先に頼人の木刀が届いてしまった。
これでは、稽古として成り立っていない。
こうなる原因を、若葉は知っていた。
型稽古において、取り手も受け手もある種の術理の下、動く。
つまり、受け手も術理に反した動きはしておらず、受け手が正しく受けをとった場合、取り手の動きが甘ければ、型で決められた勝敗は逆転してしまうのだ。
普段は、こんなことはない。
若葉はまさしく、武術においては神童とも言える才の持ち主だ。
才なきものでは、何十年もかかる型通りの動きを、齢十二でしてしまえる。
こんな結果になった理由は、若葉の精神の揺らぎにあった。
諏訪が大変な状況で、自分達は只訓練だけしていればいいのだろうか。
そう思うと、ほんの僅かに気が散ってしまった。
きっと、他の誰にも気づかれることはないような、僅かな緩み。
しかし、剣には若葉の悩みが映ってしまった。
「……今日は、このくらいにしとこうか」
「待て頼人。まだ………!」
「こうもズレると、稽古にならない。これ以上続けるのはお互いに良くないし、今日はもう上がろう?」
「…………」
若葉は、何も言えなかった。
型が要求するのは、術理に従った体の捌き方、言ってしまえば身体操作術である。
決して、実戦の雛形ではない。
それ故に、型稽古は、型通りの動きが厳密に要求されるのであるが、今のような有様では型稽古は成立しない。
若葉は、自身の未熟さを痛感した。
勇者のリーダーであるのに、この程度のことで心を揺さぶられるという事実が、歯痒かった。
すると、頼人がふと声を掛けた。
「諏訪のことか?」
突然のことながらも、若葉はあまり驚かなかった。
頼人がこの手の情報に耳が早いことは、この数ヶ月でよく分かっていたからだ。
「……知っていたのか?」
「ひなたから聞いた。心配なんだな」
「ああ……。心配してどうにかなることではないと分かっているが、それでもな……」
諏訪の状況は、段々と悪くなってきている。
考えないようにしているが、それでも、今日のようなことがあるとつい考えてしまう。
このまま何もしなければ諏訪は………。
そう思うと、ここで訓練しているだけでいいのだろうか、という焦りがどうしても生まれてしまう。
「……なぁ、若葉は何で戦うって決めたんだ?」
「いきなりなんだ?」
脈絡のない質問に、若葉は疑問符を抱く。
「いや、聞いてなかったからさ。それとも、明確な理由なんてないのか?」
「……勿論ある。バーテックスに報いを受けさせ、奪われた世界を取り戻すためだ」
頼人の挑発的な言葉に乗るように、若葉は力強く言った。
あの日、あまりのも多くのものが奪われた。
命。
国土。
世界そのものが奪われてしまった。
そのことを考えると、怒りが若葉の胸の内を支配する。
「何事にも報いを……だったか」
「そうだ。それが乃木の生き様だ」
若葉の祖母がよく口にしていた戒めの一つ。
若葉自身も、大切にしている言葉だ。
「だけど、今はまだできない。それは分かっているよな?」
「……ああ」
諭すような頼人の言葉に頷く。
今の自分では、諏訪の助けになることも、バーテックスに報いを受けさせることもできない。
あの日も、バーテックス一体一体は倒せても、集合体は倒すことができなかった。
あれから必死で鍛えてきたとはいえ、勇者システムが完成していない以上、今戦っても勝てるかは分からない。
「なら、そういうことはシステムが完成してから考えればいい。それに、俺にはまだ勝ててないだろう?悩むのは俺に勝ってからにしタマえ」
頼人は冗談めかして言った。
しかし、若葉の心は晴れない。
「しかし………」
「大丈夫。四国の準備が整えば諏訪だって助けられる。白鳥さんは強いんだろう?なら、こっちの準備が整うまで持つさ。それとも、白鳥さんは信じられないか?」
「いや、そんなことはない!」
「なら、大丈夫だな」
そういって頼人は、若葉の頭をポンポンと優しく叩いた。
頼人は時折、こうして若葉の頭を撫でる。
「だからやめろ……」
そう言って軽く抗議するも、実際にはもうもう慣れていた。
根が甘えん坊なところがある若葉は、撫でられることは嫌いじゃない。
妙な感覚ではあるが、むしろ安心してしまう。
つくづくこの少年は不思議だ。
若葉の小さな不安も見逃さずに、こうして気付いてしまう。
それに、何故か頼人にはこういう不安を話せてしまう。
つくづく不思議な少年だ。
「結論が出たし、飯にしよう。流石に腹が減った」
「ああ、そうだな」
そうして、二人で食堂へ移動した。
足取りは、ここに来た時よりも少しだけ軽かった。
数日後、若葉は通信室にいた。
いつも通り、無線機のスイッチを入れ、通信を繋ぐ。
しばらくの雑音の後、落ち着いた少女の声が通信機から発せられた。
『諏訪より白鳥です。勇者通信を始めます』
「香川より乃木だ。よろしくお願いする。白鳥さん。前回の通信から少し間が開いたが、何か変わりないか?」
『目立った変化はあまりありません。変化と言うと、久しぶりに雪が積もったことくらいですね』
「そうか、諏訪は余り雪が積もらないのだったな」
諏訪地域は内陸性気候で、冬の寒さは厳しい。
一月二月などは、マイナス十度まで気温が下がる日もある。
だが、降雪量はそれほど多くなく、二十cmほどの積雪が一シーズンに三、四回あるだけだ。
『ええ。おかげで、いつもより作業が大変です』
言葉とは裏腹に、白鳥は楽しそうな声だ。
その声を聞くと、若葉はなんだか安心して、先日の不安が馬鹿みたいに思えた。
頼人の言う通り、諏訪はまだ大丈夫だろう。
『……そういえば乃木さん、一つ聞いてもいいですか?』
「ああ。何だろうか?」
『以前話していた、赤嶺さん。彼のお話を聞かせてもらえませんか?』
「ああ、構わないが……何か気になるのか?」
『そう大したことではありません。ただ、男の子で勇者というのは珍しいので、少し話を聞いてみたくなったんです』
「そういう事か。分かった。私の知っている限りのことを話そう」
それから、若葉は頼人について、様々な話をした。
剣術や居合に秀でている事。
大人びた性格で、他の勇者達とも仲が良い事。
また、時折大社に出入りしていて、大人の問題にも関与しているらしいという事。
『なるほど。乃木さんがそこまで言うとは、中々の方なんですね』
「そうだな。私の当面の目標は、あいつから一本取ることだ」
『ふふ、何だか乃木さんは、赤嶺さんにぞっこんみたいですね。上里さんに怒られちゃうんじゃないですか?』
「ば、馬鹿を言うな!私はそんな……!」
『冗談です。でも、その様子だと案外まんざらでもなさそうですね?』
また言い返しそうになるも、若葉は深呼吸し心を落ち着かせた。
相手のペースに嵌る必要はない。
「……やめてくれ白鳥さん。私達は今、色恋沙汰に現を抜かす暇などないんだ」
そう。
この危機的状況において、惚れた腫れただのと言っていて良い訳がない。
そんな甘さがあれば、いざという時に足を掬われる。
『そうですね……確かに私達の戦いは過酷です。ですが、だからといって、何かをしてはいけないだとか、日常を蔑ろにする必要はないんじゃないでしょうか?』
「しかし……」
『私は、今の日常が大切です。皆で畑を耕して、みーちゃんと美味しい蕎麦を食べて……。乃木さんにも、そういう日常はあるんじゃないですか?』
その言葉で、若葉はひなたとの日常を真っ先に思い出した。
昔からずっと親友同士で、それは丸亀城に来てからも変わっていない。
ご飯を作ってくれたり、耳かきをしてもらったり、世話になりっぱなしだ。
「そうだな……。白鳥さんの言うとおりだ」
若葉は、素直に首肯した。
非常時だから甘さを切り捨てなければならないのだとすれば、若葉はそういう日常をも切り捨てなければいけないことになる。
若葉としても、それは嫌だった。
「………とはいえ、恋愛は私達にはまだまだ早い。そういうのは、もう少し大人になってからにすべきだ」
そこは譲らなかった。
若葉の価値観は中々堅いのだ。
『…………』
「……白鳥さん?」
沈黙が返ってきたので、不審に思った若葉が名前を呼ぶ。
『あ、すみません。通信機の調子が悪いようです。それにしても、やっぱり、そこは譲らないんですね』
「ああ。慎みはもたなければならない」
『乃木さんらしいですね。……それより、そろそろあれをしませんか?』
と、そこで白鳥は、悪戯っぽい声を出した。
それで若葉も、白鳥が何をしようとしているのか理解した。
「……いいだろう。私もそろそろだと思っていたところだ。今日こそ決着をつけよう……」
「『うどんと蕎麦、どちらが優れているかを!!』」
そうして、いつものように熱い舌戦が始まった。
なお、今日も決着がつくことはなかった。
「―――うどんと蕎麦、どっちが優れてるか、ねぇ……」
「ああ。白鳥さんとはいつもこの話題を話しているのだが、なかなか決着がつかないんだ」
翌日の昼。
食堂で若葉は、諏訪との通信の話をしていた。
ちなみに、最近は七人で食事をとるようになった。
リーダーとして何が提案できるか考えた時、少しでも結束力を高めるために、纏まって食事をとるべきじゃないかと考えたのだ。
千景が友奈や頼人とは話すようになったことも、この考えを後押しした。
多少の反対は出たものの、頼人や友奈が説得したことにより、昼食は皆で食べることに決定した。
「決着って……そりゃあ、つかないだろうな……」
好みの問題だし、と頼人。
意外にもドライな反応だ。
「何を言う頼人!うどんが蕎麦より優れているのは自明の理ではないか!」
「ああ、うん。そうだなー」
頼人は流すように答えた。
「もの凄い気迫ですね……」
「若葉のうどん愛には少し引くぞ……」
杏や球子もまた、若葉の迫真の言葉に少し引いた様子で言う。
食べ物の論争は、どのようなものであれ過激になる。
骨付き鳥の親と若、きのことたけのこ、うどんと蕎麦。
一度勃発すれば、血で血を洗う闘争が始まってしまう。
ある種の宗教戦争ともいえるだろう。
「けど、白鳥さんはホントに蕎麦が好きなんだね!やっぱり、信州蕎麦ってそれだけ美味しいのかな?」
「美味いよ。本場物は本当に」
「頼人さん、長野で信州蕎麦を食べたことがあるんですか?」
「何度か。あのざる蕎麦は美味かった……」
ひなたの質問に、頼人は遠くを見るようにしてしみじみと語った。
思い出に浸っているようだ。
「何だ頼人。まさか、蕎麦派に寝返るつもりじゃないだろうな?」
若葉がギロリと頼人を睨む。
うどんへの愛は、時として危険なものにもなる。
「落ち着け若葉。俺はあくまでうどん派だ。うどんは命の源」
「うむ。それが分かっているなら良し」
「それでいいんですか……」
腕を組んで頷く若葉に杏はそう言うが、若葉は納得している。
うどん県民というのは複雑怪奇だ。
「けど、確かに香川のおうどんは美味しいよね!お昼はみんな、いつも自然にうどんになっちゃうし」
「ああ。香川県民は少ないのに、考えてみればちょっとだけ意外だな」
「ここのうどんはうまいからな!タマもついついうどんを頼んでしまうぞ!」
「そればかりは同感ね……」
「ふふ、皆さん、すっかりうどんのとりこですね」
やはり、勇者達にとってうどんは圧倒的に人気だ。
あの千景ですら、球子の言葉に賛同する。
「そういえば、もう年末だけど皆は年越しの時、蕎麦を食べてるのか?それともうどん?」
と、そこで頼人がそんなことを尋ねた。
途端、若葉に火がつく。
「当然うどんだ!四国では年越しうどんと相場が決まっている!」
「うん。若葉は分かる。聞かなくても分かる。そうじゃなくて、香川県民以外はどっちなのかなってさ」
「年越しはやっぱり蕎麦ですね」
「確かに、タマのとこもそうだったなー」
「私のところもそうだったよー」
「なっ……!?そんな馬鹿な……!年越しにうどんを食べないなんて……」
若葉は驚くが、やはり、香川県民以外の年越しは、蕎麦が主流だった。
もっとも、驚いているのは若葉くらいだったが……。
「ぐんちゃんはどうだった?」
「私は……あまり意識したことはないわ……」
そこで千景は少しだけ暗そうな顔をして言う。
そんな千景の言葉に頼人がすぐに反応し、こんな提案をした。
「そっか。それじゃあ今年は皆で一緒に食べようか」
「みんなで一緒に……?」
「ん。みんなで」
「頼人君!それすっごくいい考えだね!!年末だし――――そうだ!」
と、そこで友奈が大声を出した。
周りが驚き、友奈に視線が集まる。
「た、高嶋さん……?」
「ど、どうしたんだ友奈?やっぱり年越しは蕎麦じゃないと駄目なのか?」
「違うよタマちゃん!クリスマスだよ!もうすぐ!」
「そういえばそうだったな。町中でもイルミネーションが増えてきていた」
若葉が思い出すように言う。
どうやら友奈は、年末ということで思い出したらしい。
「そうだよ!だから、私達もクリスマスらしいことをしようよ!みんなで!」
「おお、いい考えだな友奈!タマも賛成だ!」
「クリスマスパーティー……!素敵ですね!」
「なら、骨付き鳥も用意しないといけませんね」
クリスマスパーティーという提案に、少女たちが湧き立つ。
若葉は一瞬反対しようとしたが、白鳥の言葉を思い出し、こういうのも認めるべきかと考え直した。
だが千景は、少々浮かない顔をしていた。
「千景は、クリスマスパーティーをしたことはあまりないのか?」
頼人が、少し小さな声でこっそり千景に尋ねる。
すると、千景は少し申し訳なさそうに答えた。
「ええ……。正直、よく分からないわ……。私の家では、クリスマスの時に……何かやったことなんて、ないから……」
「そっか。じゃあ一緒に準備しよっか。色々教えるから」
「赤嶺君……。いいの……?」
「当たり前だよ。色々と手伝ってもらうことにもなると思うし」
「……ありがとう。赤嶺君」
千景は少しだけ照れながら、微笑んだ。
「頼人、千景!お前たちも何かいい案を出しタマえ!」
「はいはい。球子様の仰せの通りに」
それから、トントン拍子で話は進み、丸亀城の教室で小さなクリスマスパーティーが開かれた。
小さなクリスマスツリーに、ちょっとした飾り付け。
クリスマスチキン代わりに、骨付き鳥を食べ、皆で用意したお菓子やケーキを楽しむだけのささやかなパーティー。
それでも、皆結構楽しんでいた。
パーティーの後は皆で部屋に集まって、ボードゲームやトランプで遊んだりして、クリスマスを楽しんだ。
本当に、ごく普通の中学生のように。
『クリスマスパーティー、そんなことがあったんですね』
「ああ。おかげで、皆の結束が強まった気がする。白鳥さんの言う通り、日常は大切にすべきだということがよく分かった。ありがとう」
それからしばらくして、若葉はクリスマスのことを、白鳥に話していた。
共にクリスマスを祝うことはできなかったが、せめて、こういう話題は共有したかったからだ。
それに、白鳥の言葉がなければ場の雰囲気を悪くしてしまっていたかもしれない。
そのことについても、若葉は礼を言っておきたかったのだ。
『そんな、お礼を言われるようなことではありません』
「いや、白鳥さんと話していると、いつも色々なことに気付かされる。本当に感謝している。直接会って、お礼を言いたいくらいだ」
これは、若葉の素直な気持ちだった。
丸亀城の勇者と同じように、白鳥のことも大切な仲間だと思っている若葉は、本当に白鳥に感謝していた。
『……そう、ですね。私も、乃木さんと会って、色々お話ししたいです』
「そうだな。会えた時には、本場の讃岐うどんを食べさせてやろう。きっと、蕎麦よりも気に入るはずだ」
若葉は、そろそろいつもの論争を始めようとして、白鳥に軽く挑発をした。
だが、白鳥は、いつものような反応を返さなかった。
普段であれば、間違いなく若葉の挑発に乗るはずなのに、だ。
『…………その前に、一つ、大事な話をしてもいいですか?』
と、そこで白鳥は口を開いた。
いつものような明るい雰囲気ではなく、言葉に重さを感じられる。
「大事な話……?」
『はい。とても大事なお話です』
「……分かった。聞こう」
若葉は、改めて姿勢を正し、返事をした。
白鳥が真剣な話をしようとしている以上、自らも真剣に聞かなければならない。
どんな話でも受け入れよう。
そう、若葉は決意した。
やがて、白鳥が再び口を開く。
『単刀直入に申し上げます。現在、諏訪は危機的状況にあります。このままだと、そう遠くないうちに諏訪は陥落するでしょう……。そのため――』
と、そこで言葉が少しだけ途切れた。
しばしの沈黙。
そして―――
『―――現時点をもって、諏訪は四国に……救援を要請します』
これは、諏訪の総意です。
そう白鳥は、絞り出すように宣言した。