樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

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遅くなって、本当に申し訳ありません……!
投稿頻度亀ですが、これからも投稿していきますので、何卒よろしくお願い致します……!
神世紀編の続きは今しばらくお待ちください(土下座)


ただ傍に

『政府が勇者の存在と諏訪の存在を発表し一ヶ月が経ちました。しかし、未だに政府への不信の声は拭えず、連日、真実を明らかにとデモが続いています』

 

アナウンサーが言い終えると映像はスタジオから、路上に移り変わった。

テロップによると、高松の駅前らしい。

大勢の人たちが道路を練り歩きながら、諏訪を見捨てるな、だとか、政府は真実を、だとか大声で叫んでいる。

まったく、平日だというのに、よくこんなに集まるものだ。

その自由な時間をアタシたちにも分けてほしい。

それにしても───

 

「いやーなんだか大変なことになっちゃったねー」

 

何となしにぼやいてみると、二段ベッドの下からすぐに反応があった。

 

「安芸先輩うるさいです。もう就寝時間なんですからさっさと音消してください」

 

「ちょっとくらいいいでしょー?どうせまだ九時なんだしさー」

 

アタシはスマホの動画アプリを閉じると、下のベッドに顔だけ出して抗弁した。

巫女の就寝時間はなんと九時。

花のJCには早すぎる。

そう、悪いのは環境であってアタシじゃない。

アタシに罪なし!

 

「私を含めて小学生の巫女は多いんです。中学生だからってはしゃがないで寝てください」

 

相変わらず花本ちゃんは冷たい。

シベリア並の寒さだ。

 

「それで、どうしてニュースなんて見てるんですか?らしくありませんね」

 

「いやーなんて言うか、ほら、アタシJCなんだしニュースの一つも見ておかないといけないでしょ」

 

「どんな理由ですか……どうせ、赤嶺様の誘いのこと考えていたんじゃないですか?」

 

思わず、言葉に詰まる。

やっぱり、花本ちゃんは聡い子だ。

察しがいい。

 

「あはは……よく分かるね、花本ちゃん……」

 

「安芸先輩が分かりやすいんです。……それで、また答えは出ないんですか?」

 

「………」

 

彼女の問いに答えず、枕に顔を埋める。

どれだけ考えても、どうしても答えは出ない

そうしてアタシは、いつものように事の発端を思い出していった。

 

 

 

二ヶ月前。

ちょうど、会議があるとかで上里ちゃんがここに来ていた時。

消灯時間も過ぎて、すやすやお休みしていると、突然、体を揺らされた。

 

「安芸先輩、起きてください」

 

声の主は花本ちゃん。

もう朝かと思いつつ、尋常じゃない眠気に脳みそは全然起きようとしない。

 

「うぅ……ん。あと、十分……」

 

「そんなに待てません。いいから起きてください」

 

「むりぃ……」

 

そんなに寝たつもりもないのに、どうしてこんなに起こしてくるんだろう?

遅刻なら遅刻で、いっそのこと放ってくれればいいのにぃ……。

そう思うくらい眠くて、アタシはさらに深く、布団の中に潜り込んだ

 

「はぁ……仕方ありませんね……。この手は使いたくなかったのですが……。安芸先輩、バーテックスが襲来しました。巫女が一人でも必要なので起きてください」

 

「ふぇっ……!?」

 

その花本ちゃんの言葉にアタシは驚きのあまり飛び起き───盛大に天井に頭をぶつけた。

 

「お、おほっ……!痛っ……いたひぃ……!」

 

眠気は一発で冷めて、痛みのせいでアタシはベッドをごろりごろりと転がりまわった。

 

「起きましたね。それじゃあ行きますよ」

 

と、涙目で頭を押さえるアタシに、花本ちゃんは冷ややかに告げた。

けれど、アタシはそれどころじゃない

 

「ば、ばーてっきゅす……バーテックスが来たの!?球子は、杏ちゃんは……!?」

 

「すみません。今のは嘘です」

 

痛みをこらえながら、ベッドから身を乗り出し尋ねると、花本ちゃんはまるで悪びれもせずに答えた。

 

「へ……う、そ……?」

 

痛みも忘れてペタンとしりもちをつく。

一瞬、頭が真っ白になったけど、少しすると思考力が戻り、同時に、怒りが込みあがってきた。

 

「な、なんでそんな嘘つくのよ!心臓止まるかと思ったじゃない!」

 

「静かにしてください。他の部屋の子が起きてしまいます」

 

「いや、だけど……!」

 

「そもそも、今晩はしばらく起きておくように伝えていましたよね?それを忘れて爆睡してたのは安芸先輩じゃないですか」

 

「あ、あれ……?そうだったっけ」

 

おかしい。

アタシが怒っていたはずだったのに、気が付けば怒られている。

 

「だいたい、もし起きなかったら天変地異がおこったとか、バーテックスが来たとか言って起こしてほしいといったのは安芸先輩じゃないですか」

 

「…………あ」

 

思い出した。

冗談のつもりで、そんな不謹慎極まりないことを言っていた気がする。

 

「……今の今まで忘れていたんですか」

 

呆れた様子の花本ちゃん。

……ふむふむ。

どうやらアタシが完全に悪いらしい。

………………。

 

「そ、それで、花本ちゃん。行くってどこにだっけ?」

 

アタシは全力でとぼけることにした。

だが、効果は薄かったようで、花本ちゃんがアタシを見る目は超冷たい。

うん、どう見ても軽蔑されている。

 

「はぁ……来れば分かります」

 

それだけ言うと、彼女は二段ベッドのはしごから降りて、部屋の扉を開けた。

 

「あっ、ちょっと待ってよー」

 

アタシは慌てて二段ベッドを降りて花本ちゃんを追いかけた。

うん、こうなっちゃったら仕方ないよね。

これ以上、花本ちゃんの機嫌を悪くしたらいけないし。

 

 

 

 

「あれ、ここって……」

 

連れてこられた場所は来客用の部屋。

確かここは上里ちゃんが泊っている部屋だったはず。

上里ちゃんのとこに行くなら初めからそういえばいいのに、どうしてあんな曖昧な言い方をしたんだろう?

と、そこで花本ちゃんがドアを三度ノックした。

 

「赤嶺様、安芸真鈴を連れてまいりました」

 

「えっ、赤嶺って……」

 

尋ねる間もなく、「どうぞ」という男の子の声が聞こえて、ドアが開かれた。

そこには、赤嶺君と上里ちゃんがいた。

湯呑みを片手に、ちゃぶ台を囲んでくつろいでいる。

 

「あなたが安芸真鈴さんですね。初めまして、赤嶺頼人です」

 

そう言って赤嶺君は座ったままぺこりと頭を下げた。

 

「え、あ……は、初めまして?」

 

「お二人ともどうぞ座って下さい。お菓子も用意してますから」

 

「う、うん」

 

上里ちゃんに促されて花本ちゃんと一緒に腰を下ろすと、見慣れないお菓子が出された。

真ん丸で結構大きい、手触りや匂いはドーナツっぽい。

確かこれって……なんだったっけ?

花本ちゃんに聞こうとするも、気づけば彼女はお菓子を頬張っている。

完全に慣れている動きだ。

 

「サーターアンダギー。沖縄のお菓子です」

 

「安芸さんもどうぞ。頼人さんと一緒に作ったんです」

 

「ああ、思い出した。確かにこんな形だったわね」

 

普段食べなれないから、すっかり忘れていた。

そういえば、赤嶺って名字は沖縄に多くて、赤嶺君も昔は沖縄にいたのかもしれない、なんて噂話を聞いたことがあった気がする。

案外、それが当たってるのかも。

そんなことを考えながら一口かじると、ほのかな甘さが口に広がった。

 

「あっ、美味しい……」

 

カリッとした表面とふっくらとした中の生地の食感が癖になる美味しさだ。

一つでも結構おなかにたまる。

 

「気に入ってもらえてよかったです。自分もそれ、好きでして」

 

そういいながら、赤嶺君はまた、お茶をすすった。

所作一つ一つが絵になる。

ううむ。

聞いていた以上、目を引く見た目だ。

おまけに、お菓子を作れて、おまけに本の話もできると聞く。

これ、球子はともかく杏ちゃんはコロッと恋しちゃうんじゃ?

実際、結構仲いいみたいだし。

そうなったら杏ちゃん苦労しそうだな~。

……って、違う違う。

今、アタシが考えるべきことはそんなことじゃなかった。

 

「それで、なんでアタシをここに?パジャマパーティーって感じじゃなさそうだけど……」

 

「その話は、全員揃ってからにしましょうか」

 

「全員?まだだれか来るの?」

 

そう尋ねた途端、後ろで部屋の扉が開く音がした。

振り返ると、そこにいたのは烏丸先生だった。

 

「か、烏丸先生……」

 

や、やばい。

これは絶対にやばい……!

 

「せ、先生。え、えっと、これは違くてですね……」

 

「烏丸先生、遅いですよ。赤嶺様をお待たせするなんて」

 

怒られると思ってとっさに言い訳しようとすると、代わりに花本ちゃんが口を開いた。

 

「見回りを抜け出してきているんだ。無茶を言うな」

 

烏丸先生はそう言いながら腰をかがめ、花本ちゃんのサーターアンダギーをひょいと掴んで、一口かじった。

 

「ふうん。結構うまいな」

 

「……烏丸先生、いい大人が人のものを勝手に取らないでください」

 

「深夜の会合を見逃してやってるんだ。少しぐらい構わないだろう?」

 

「そういう問題じゃ……」

 

「まあまあ花本さん、まだ沢山ありますから」

 

怒る花本ちゃんになだめる上里ちゃん。

それを見て笑う赤嶺君にいつも通り気だるげな烏丸先生。

あ、今あくびした。

やっぱり、ただのパジャマパーティーだったんじゃ……。

いやいや。

 

「えっと、烏丸先生もメンバーの一人ってことでいいの?」

 

「ああ。私がいた方がこれからする話も信じやすいだろうからな」

 

「そうですか?むしろ信用されなくなると思いますが」

 

「お前は私を何だと思っているんだ」

 

花本ちゃんは辛辣だ。

いったい何があったんだろうってくらい、容赦がない。

 

「二人ともそこまで。本題に入りましょう」

 

赤嶺君がそういった途端、花本ちゃんは「失礼しました」と頭を下げ、烏丸先生も口を閉じた。

 

「さて、安芸真鈴さん。貴方をここに呼んだのは、勧誘の為です」

 

「勧誘……?」

 

「ええ」と、言うと、赤嶺君は説明を始めた。

大社の構造的欠陥?だとか、諏訪の住民がとか、組織形態がどうとか、改革が何とか難しい言葉を色々使っていたけど、アタシはできるだけ真面目な顔をしてなるほどなるほどと頷きながらもまるで理解できていなかった。

うん、どうしようこれ。

 

「赤嶺、ちょっと待て」

 

「烏丸さん、どうかしましたか?」

 

「あまり難しい言葉を使うな。安芸が理解できていない」

 

「っと……そうですね、すみません。少し感覚がおかしくなってました」

 

ぎくり。

どうやら、理解できずにただ頷いてるだけなのがバレたらしい。

いけない。

これでは先輩の威厳というものが……!

 

「だ、大丈夫大丈夫!全部わかってるから!ええと、それで、諏訪の組織が何だったっけ?」

 

そう言うと、花本ちゃんは深いため息をつき、上里ちゃんも苦笑いした。

どうやらみんなは分かっているみたいだ。

恥ずかしい。

とても恥ずかしい……。

 

「安芸先輩……要するに、私達は諏訪の人たちを救出したいんですが、今の大社ではそれはできません。それどころか、このまま戦争を任せれば、勇者様や多くの人達が危険にさらされます。だから協力して改革しましょう、ということです」

 

花本ちゃんが溜息交じりで分かりやすく答えてくれた。

うう、私は中学生だというのに、小学生の花本ちゃんに呆れられるなんて……。

と、一瞬思うけどよく考えたらいつものことだ。

だけど……

 

「勧誘っていうのは、その活動に協力してってこと?」

 

「まぁ、そういうことですね」

 

赤嶺君が答えたが、どうにもピンと来ない。

 

「なんとなく分かったけど、本当にそんなことできるの?第一、改革っていってもなにするわけ?」

 

「組織再編に新しい人材のリクルートだったりと色々ありますが、当面の目標はトップのすげ替えですね」

 

「それって……」

 

「ええ。簡単に言うと、大社を丸ごと頂きます」

 

「は……?」

 

アタシはつい間の抜けた声をあげてしまった。

 

「とはいっても、手荒な真似はしません。可能な限り────」

 

「ま、待って。意味わからないんだけど、大社を頂くとか、え?どういう意味?」

 

「文字通りの意味だよ。大社を乗っ取るんだ。今の首脳部からな」

 

烏丸先生がいつになく真面目な声で答える。

馬鹿げた話を簡単に肯定してしまう。

 

「冗談でしょ……?そんなのできるわけないよ。冗談だよね……!?上里ちゃん、そうだよね!?」

 

あまりにも突飛な話に、アタシはまるでついていけない。

思わず大きな声をあげてしまった。

 

「安芸さん。信じられないと思いますが、これは全部本当のことです」

 

「そんな……!まさか、皆もそのつもりなの!?」

 

「安芸先輩、夜中なんですから声を落としてください。誰か来たらどうするんですか」

 

「だ、だけどさ!」

 

「安芸さん。ちゃんと説明しますから、落ち着いて座って下さい。ね?」

 

気が付けば、上里ちゃんが側に来ていて、アタシの手をそっと握っていた。

その温もりと、上里ちゃんの優しい声は妙にアタシを落ち着かせてくれて、おかげで、少しだけ冷静さを取り戻せた。

 

「どうする赤嶺?私から説明してもいいが」

 

「いえ、これくらいは自分で説明しますよ。抜けがあればお願いします」

 

「分かった」

 

烏丸先生と赤嶺君のやり取りを見て、やっぱり嘘じゃないんだと実感する。

いや、本当は最初から分かっていた。

上里ちゃんも花本ちゃんも冗談で、こんなことをするはずがないのだから。

 

「それで、どういうこと……?」

 

「ご存じの通り、今の大社は神官により運営されています。ですが神官は、政治、経済、軍事の素人、神事に詳しいだけの一般人。そんな彼らが、以前所属していた神社の規模や職位、階位に応じて高い地位に座っている。例えるなら大社は、未経験の素人しかいない防衛省ってところでしょうか」

 

赤嶺君の言葉は相変わらず少し難しかったけど、さっきよりずっと集中して聞いていたから、今度は何とか理解できた。

 

「だからって大社を奪おうっていうの?そんなの───」

 

「安芸先輩、まずは赤嶺様の話を最後まで聞いてください。質問はそれからで」

 

「…………」

 

花本ちゃんの言葉で、再び矛を収める。

今は我慢だ。

 

「確かに、大社の組織構造が歪だからとはいえ、それだけで奪う理由にはなりません。問題は、大社のスタンスにあります」

 

「……スタンス?」

 

「はい。四国防衛の為なら、ありとあらゆる存在を使い潰していいというスタンスです。勇者も含めて」

 

「───っ!そんなはず……!大人たちだって、そんなことは……!今だって、みんな頑張ってるじゃない!」

 

「ええ。彼らが人類のために並外れて努力していることは認めます。ですが、それが結果に結びつくとは限らない。現に大社は、いや、この国は諏訪を見捨てる腹積もりですから」

 

「だけど、それは諏訪の人たちを助ける方法がないからで……」

 

「勇者の白鳥さんだけなら四国に連れ帰る方法はいくらでもありますよ。人類の為を考えるならそうすべきなのに、それすらしようとしない。目先の政治しか見れない辺り、重症ですよ」

 

「…………」

 

言い返したい。

認めたくない。

それなりの時間をこの大社で過ごしてきたし、ここの人たちを信じたい。

けれど現実は、赤嶺君の言葉を裏付けている。

その事実が酷く、しんどい。

 

「……具体的にはどうするの?」

 

「まずは、この事実を公表します」

 

「公表って……そんなことしたら……!」

 

世間は大騒ぎになる。

それくらいのことはアタシにも分かった。

 

「それが狙いです。ただでさえ国への信頼や失われている今、こんな情報が流れてしまえば政府の致命傷になりかねない。国をもたせるには諏訪の救援くらいは言わないと」

 

「けど、それでどれだけの人の迷惑に────」

 

「諏訪の人々の命に比べれば、些末なことです」

 

赤嶺君は、そう言い切った。

その眼にはまるで迷いがない。

ああ、この子は本気だ。

本気で世界を変えられると思っている。

信じられないくらいの自信家だし、妄想だと言われるようなものだけど、彼の言葉を聞いているとなんだか上手くいきそうな気がしてくる

だからこそ、分からないことがあった。

 

「一つ聞いていい?」

 

「どうぞ」

 

「……どうしてアタシを勧誘するの?アタシは上里ちゃんや花本ちゃんと違って大した取り柄はないわよ?」

 

強いて言うなら、麻雀が少々得意なくらいだ。

 

「それは分かっています。ですが、勇者の巫女であるというだけで貴女には大きな価値があります。それに、貴女にしかできないこともあります」

 

「アタシにしか……できないこと?」

 

なんだろう?

正直、全然思いつかない。

だって、巫女としての力は上里ちゃんの方が上だし、神様に関する知識だって花本ちゃんの方が上だ。

 

「球子と杏の心を守り、精神的に支え続けられるのは、安芸真鈴さん。貴女しかいません」

 

「……え?」

 

「この戦いは間違いなく長引きます。戦いを経るごとに、彼女達は強くなるでしょう。ですが、同時に、精神は磨り減っていきます。勇者たちはまだ幼い。きっと、彼女達を支える存在が必要になります。貴女には、二人の帰る場所になってもらいたいんです」

 

「それって……アタシも丸亀城に行くってこと……?」

 

「ええ。今すぐは無理ですが、いずれ来ていただくつもりです」

 

「もしかして、花本ちゃんも?」

 

と、視線を向けると、花本ちゃんは黙って頷いた。

 

「無論、それ以外にも巫女として色々としていただきますが、それも可能な限り、貴女の要望に沿った形にするつもりです。協力、してくれますか?」

 

「…………」

 

アタシはすぐには答えられなかった。

いきなりこんな大きな話をされて、答えられる心構えはできていなかったし、何より迷いがあったから。

球子や杏ちゃんの傍に居られるなら、正直そうしたいと思う。

けど、アタシには弟がいる。

天恐で入院中の弟が。

アタシが大社に入ったのは、そうすることで弟の治療を優先的に行ってもらえるのではと思ったからだ。

もし、彼の誘いに乗って上手くいかなかったら……。

大社の大人達と敵対したら、弟の治療が打ち切られるんじゃ……?

そう思うと、簡単には答えられなかった。

どうしよう、と下を向いて考えていると、また赤嶺君に声を掛けられた。

 

「……安芸さんが心配してるのは、弟さんのことですか?」

 

その言葉に、思わず顔を上げる。

 

「心配しないで……とは言っても無理でしょうが、弟さんの身の安全も、治療体制も保証します」

 

そこまで分かってるなんて……。

アタシはこの時、初めて赤嶺君に怖さを感じた。

上里ちゃんにたまに感じるのに近い怖さを。

 

 

 

それから約二ヶ月。

彼の問いに答えられず、アタシは未だに答えを出せないままだった。

赤嶺君は、しばらく待つから、答えはゆっくり考えてからで構わないと言った。

だけど、考えている間にも皆は事を起こし、世間の様子はめまぐるしく変わりつつある。

アタシもそろそろ答えを出さなくてはいけないと思う。

だけど、迷いはどうしても振り切れない。

はぁ……ほんと、どうしたらいいんだろう……。

 

「安芸先輩は、何にそれほど引っかかっているんですか?」

 

「だって、この前の事件で大社も政府も大騒ぎでしょ?ああいう騒動を目の前で見てたら、慎重にもなるわよ……」

 

あれだけの騒ぎ、それに大赦を乗っ取ろうなんて陰謀、バレたらただでは済まないだろう。

それに、丸亀城に行くなんて話も、ここにいる他の巫女に少し申し訳ない。

自分だけいい思いをするような気がして、後ろめたい気持ちがある。

そもそも、上手くいくかも分からない。

だったら、関わらない方が……。

そう思っても、丸亀城に、球子や杏ちゃんのところに行きたいという気持ちも捨てきれない。

アタシは、どうすべきなんだろう……。

結局、夜通し考えても答えは出なかった。

 

 

 

 

 

「うう……。眠い、寒い、お布団に戻りたい……」

 

翌朝、アタシはちょっとした地獄を見ていた。

軽く徹夜したせいで、コンディションは最悪。

そんな状態で、巫女の日課の水垢離に放り込まれたからさあ大変。

暖かくなってきたとはいえ、ぶっ倒れてしまいそうだ。

 

「あの、安芸さん大丈夫?唇真っ青になってるけど」

 

見かねた大和田ちゃんが心配して声をかけてくれた。

 

「あ、あはは。ちょっとやばいかも……。わ、悪いけど、先出るね」

 

「え、ええ」

 

アタシは震えながら滝から出ると、ふらふらと歩きだした。

行先は脱衣所ではなく、大浴場。

扉を開けると、中にはいつも通り花本ちゃんが悠々と湯船につかっていた。

許せぬ。

 

「はあ。安芸先輩、また来たんですか……」

 

呆れた様子の花本ちゃん。

花本ちゃんは水恐怖症で、滝垢離の代わりにお風呂で身を清めることが許されている。

そういうわけで、今ここにはアタシたちしかいない。

おかげで、こういうマナー違反も平気でできちゃうのだ!

アタシは思いっきりジャンプして湯船に飛び込んだ。

ばっしゃーん。

ぶくぶく。

 

「ぷはぁ!あったか~!生き返る~!」

 

「なに飛び込んでるんですか馬鹿ですかさっさと出ていってください」

 

「よいではないか~。寒さに凍える先輩を、温かく迎えるというのが、後輩の務めというものでしょー?」

 

「そんな務め、引き受けた覚えはありません」

 

相変わらず花本ちゃんは冷たい。

でも、そんないつも通りの反応に少しだけ安心する。

色々あったみたいだけど、やっぱり花本ちゃんは花本ちゃんだ。

変わったこともあるけど……と、そこでふと、花本ちゃんに聞いてみたいことが生まれた。

 

「そういえばさ、花本ちゃん、最近よく郡ちゃんに会いに行くようになったよね?何かきっかけでもあったの?」

 

「……いきなりなんですか?」

 

「いやね、花本ちゃんが郡ちゃんに会いに行ったなんて話、少し前まで全然聞かなかったから、何かあったのかなって」

 

ただの興味本位の質問だったけど、花本ちゃんは少し気まずそうに眼をそらした。

もしや、聞かれたくない話だったかも。

 

「あっ、話したくなかったら全然いいよ?」

 

「いえ」と、花本ちゃんは首を振った。

どうやら話してくれるらしい。

 

「…………去年」

 

「ん?」

 

「去年、赤嶺様からお呼びがかかりまして、丸亀に行ったんです。待ち合わせ場所の喫茶店に入ると、クラッカーの音が鳴り響いて……郡様や赤嶺様が言ってくださったんです。誕生日おめでとう、と」

 

「それって……」

 

「はい。サプライズの誕生会でした。私はその日が自分の誕生日だということも忘れていて……。だけど……凄く嬉しかった……」

 

花本ちゃんは今まで見たことがないような優しいほほえみを浮かべながら、思い出を語っていた。

それほど嬉しかったのだろう。

 

「それに、忘れられていると思っていたのに、郡様は私を覚えていてくださった。名前も、会った時のことも」

 

「……そっか。それがきっかけで会うようになったんだ……。よかったね」

 

そう言うと花本ちゃんは「はい」と、珍しく素直に返事をした。

 

「ってことは、花本ちゃんが丸亀城に行くって決めたのもそれがあって?」

 

「いえ、それは少し違います」

 

「あれ、じゃあなんで?」

 

「……実を言うと、私は最初、丸亀城に行くつもりはなかったんです」

 

意外だ。

あれだけ郡ちゃん大好きの花本ちゃんが、丸亀城に行くつもりがなかっただなんて。

巫女の一人を丸亀城に送るってなった時、花本ちゃんも立候補してたし、最初から乗り気なんだと思っていたのに。

 

「赤嶺様がその話をされた時、一度お断りしたんです。愚かにも、『官を侵すの害は寒きより甚だし』なんて言葉を引用して」

 

「官を……それってどういう意味?」

 

「昔の中国の話です。酒に酔って寝ていた王に冠をかぶせる係の臣下が気づいて、王が風邪をひかないように、寝ている王に毛布を掛けてあげた。しかし、王は毛布を掛けた者を罰し、衣を管理している臣下も罰した。風邪をひくよりも、部下が他人の職分を侵すことの方がよくないからと」

 

「何それ?理不尽すぎない?」

 

ブラック企業も真っ青の所業だ。

絶対ろくな王様じゃない。

 

「そうかもしれません。ですが、重要なのは自分の職分を全うすることで、それ以上のことを無理にするのは害悪になる、というところです」

 

「なるほど、要するに身の程をわきまえろって話ね……だから花本ちゃんは丸亀城に行かない方がいいって思ってたの?」

 

「はい。だけど、すぐに赤嶺様はこう仰いました」

 

────なら、千景が寒くて震えていても、美佳は毛布を掛けてあげないの?

 

「私は何も言えませんでした。そうなれば、きっと私は、罰せられても毛布を掛ける。そんな当たり前のことに気づいていなかった自分が情けなくて……それで、ようやく分かったんです。私が丸亀城に行こうとしなかったのは……いえ、郡様に会おうとしなかったのは、私がただ臆病だったから……。それを認めたくなくて、職分を全うするのが重要だなんてもっともらしい理屈をつけていただけなんです」

 

「…………そっか」

 

知らなかった。

花本ちゃんがこんなことを考えていたなんて。

臆病、か……。

アタシもそうなのかもしれない。

大人や他人に悪いからと、周りに遠慮して……だから、あの時、アタシは勇者のお目付け役に立候補できなかった。

今だって、こうしてうじうじ悩んでいる。

アタシは………。

と、そこでいきなり花本ちゃんが湯船から立ち上がった。

 

「ですが、今は違います。こんなところにいてもできることはたかが知れている。だから、私は丸亀城に行きます。そこで、郡様をお支えする。そう、決めたんです」

 

「──────!」

 

花本ちゃんはすごいな……。

こんなこと、きっと、すごく勇気が必要だったはずなのに。

花本ちゃんは、自分の臆病さと戦って、前に進もうとしている。

本当に、すごい。

後輩がこんなに頑張っているのに、アタシも負けているわけにはいかないか────

 

「花本ちゃん……」

 

「何ですか?」

 

「色々丸見え」

 

ばっしゃーん。

花本ちゃんが湯船を蹴り、思いっきりお湯を掛けられた。

目や鼻にお湯が入って痛い。

 

「せっかく人が真面目な話をしてるのに馬鹿なんですか?いえ、そもそもデリカシーって言葉が先輩にはないんですか」

 

花本ちゃんは再び湯船に浸かり、絶対零度の視線を浴びせかけてくる。

 

「いやいや、まだ寒いし立ったままだと風邪ひくかなって」

 

「ならそう言えばいいだけじゃないですか」

 

花本ちゃんはそうため息をつくと、再び立ち上がった。

どうやら、もうお風呂から上がるみたいだ。

 

「あっ、待って花本ちゃん」

 

「今度は何ですか?これ以上戯れ言を言うなら殴りますよ」

 

「怖っ!じゃなくて、一つお願いが────」

 

 

 

 

数日後、アタシは授業が終わると、大社の近くにある小さな山に登っていた。

今日は結構暖かい。

 

「っと、やっと到着」

 

春になってきたって感じで、山頂まで来ると意外と汗をかく。

山の上からの景色は中々綺麗で、海や四国を守る壁まで見える。

 

「ほう。いい景色ですね」

 

声が聞こえて振り返ると、制服を着た赤嶺君の姿があった。

 

「赤嶺君、どこから来たのよ……」

 

山道からなら、視界に入っていたから気づくはず。

なのに、彼は音もなくどこからか現れた。

忍者や物の怪の所業だ。

というか……。

 

「どうやって来たの?丸亀城の方も、授業終わったばかりでしょ?」

 

「これですよ」と、赤嶺君は携帯を見せた。

その画面には、見慣れないアプリが映っている。

これは確か……。

 

「勇者システム?それ使って大丈夫なの?なんか色々バレそうだけど」

 

「大丈夫ですよ。色々細工してるので、大社にはバレません」

 

「ああ、そう……」

 

聞いたのは、ここに来るまでに一般人に見られなかったのかってことだけど……まあいいや。

この感じだと多分常習犯だし、心配するだけ無駄だろう。

大胆というかなんというか……。

 

「直接会って話を、ということは決心がついたんですか?」

 

「うん。だけどその前に聞きたいことがあって。いい?」

 

「なんでもどうぞ」

 

「……大社を取るとか言ってたでしょ?どうして、そんなことしようって決めたの?」

 

「あの時説明したことですが、それは────」

 

「諏訪のためだとか、そういう事じゃなくて。大社もまだできたばっかりでしょ?トップを追い出そうとかいきなり過ぎない?ううん、そもそも、大人たちを信じて待とうって思わなかったの?」

 

アタシがかすかに気になっていたこと。

それは、彼の動きがあまりにも早くて、躊躇いがなかったこと。

諏訪を助けるため、なんて名目だけど、そこから大社の大人を追い出そうだなんて、あまりにも話が飛びすぎている。

まるで大人を信用していない。

その理由を知りたかった。

 

「ああ。そういうことですか」

 

赤嶺君は、顎をこすりながら、納得したように何度か頷いた。

 

「正直、その発想はありませんでしたね」

 

「どうして?」

 

「一度それで、酷いことになりましたので」

 

「え……?」

 

一瞬、疑問の声が出て、それから、気づいた。

彼は、ここに来るまで、四国の外にいた。

そして、酷い状態でここにたどり着いた。

たった一人で……。

つまり────

 

「大したことじゃありません。皆が偉いというような人達のおかげで、色々と台無しになった。それだけのお話です」

 

「それって……」

 

「詳しい話はご勘弁を」

 

なんだか、頭を強く叩かれたような思いがした。

アタシは怖くて、最悪の事態なんてできるだけ考えないようにしていた。

だけど、彼は……赤嶺君は知ってるんだ。

誰もが考えないようにしている、その時を。

 

「こんなことを始めたのは、そのせい?アタシや花本ちゃんを丸亀城にって話も」

 

「まぁ、そういう面もありますが、貴女を丸亀城に、という所は私情だったりします」

 

「私情って……球子や杏ちゃんたちの為ってこと?」

 

「そんないいモノじゃないですよ。どちらかと言うと………そうですね、見てて少しイラッとしたからです」

 

「イラって、どうしてそう思うのよ?」

 

「貴女は贅沢すぎたからですよ。時間の使い方が」

 

「贅沢って、そんなはずないでしょ。どれだけアタシたちが時間に縛られていると────」

 

「いいや、贅沢ですよ。大切な人が近くにいて、少し無理をすれば、一緒にいられる。なのに、変に遠慮してこんなところで時間を浪費している」

 

流石にアタシも、この物言いには少しカチンときた。

好きでそうしてるわけじゃない。

アタシだって……。

 

「アタシだって側にいてあげたいって────」

 

「でも、貴女はあの時手を挙げなかった」

 

「ッ────!」

 

「確かに、勇者と一緒に過ごすには障害があるし、不安も分かります。けれど、そのリスクを侵すほどの価値が、今、この一瞬一瞬にある。なのに、貴女はそれがどれだけ貴重なものかまるで考えず、今日まで答えを遅らせた……!」

 

赤嶺君は「すみません、少し感情的になりました」と謝るとアタシから視線を外し、海を眺めた。

そして、視線を変えずに口をまた開いた。

 

「ですが、覚えておいてください。失うのは一瞬で……後悔は、思ってるより辛いですよ。貴女には、できるだけそういう思いはしてほしくない」

 

……驚いた。

これまで機械のように感情を表に出さなかったのに、こんなに感情的になるなんて。

でも……そうか。

きっと、この子は、今までに数えきれないほどのものを失って、だからこそ、その大切さを人一倍知っているんだ。

そんな彼からすれば、大切な友達に手が届く距離にいるのに、一緒にいようとしないことはひどく腹立たしかったんだろう。

彼はもう、そういう人たちには会えないから。

上里ちゃんや花本ちゃん達が、赤嶺君に協力する理由が、少しだけ分かった気がする。

……うん。

アタシも、覚悟を決めよう。

 

「……ねえ、赤嶺君」

 

「なんでしょう?」

 

振り返った赤嶺君に、まっすぐ視線をぶつける。

ここがきっと、世に言うルビコン川だ。

渡ったら最後、戻ることはできない。

ならばせめて、我が儘になろう。

戻れないのなら、後悔しないように全部やろう。

 

「……一つだけ約束して。球子と杏ちゃんを絶対に死なせないって」

 

「分かりました。あの二人は自分が守ります」

 

赤嶺君は、あっさりと、だけど確かに返事をしてくれた。

こんな、どこまで守れるかもわからない約束を。

 

「絶対よ。何があっても守って。守れなかったら、全部バラしちゃうから」

 

「何があっても、ですね。分かりました。ですが、弟さんの方はいいんですか?」

 

「そっちは保証してくれるんでしょ?」

 

「ふふ。ええ、その通りです」

 

赤嶺君は、軽く笑うと右手を差しだしてきた。

握り返すと、彼の手は思っていたより冷たかった。

 

「なんというか、これで、さじが投げられたって感じね」

 

アタシは、カエサルの言葉を自信たっぷりに言った。

 

「……安芸さん」

 

「何?まだ何かあるの?」

 

「それ、(さじ)じゃなくて(さい)です……」

 

「…………え?」

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