樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話 作:exemoon
それぞれ繋がりはありません
「御役目」
ある日、銀から絶対内緒だからな、と教えてもらった言葉。
曰く、壁の外からやってくる悪い奴らから世界を守る御役目。
それに、銀が選ばれたそうだ。
正直なところ、初めはまた銀が冗談を言っているのだと思った。
そんな荒唐無稽な話、簡単に信じられるはずがない。
だけど、銀の顔を見ると、不思議と、銀は本気でそう言っていると信じることができた。
なぜだろう。彼女は本当にいつも通りだったのに。
そうして、彼女の言葉を信じた途端、どうしようもなく怖くなった。
だって、世界を壊せるような存在と銀は戦うのだという。
世界を壊せる存在なら小さな少女を壊すことなど造作もないだろう。
だけど、戦えるのは神樹に選ばれたごく一部の少女だけだという。
彼女らは勇者と呼ばれるそうだ。
聞かされた話を受け止めきれなくて、その日は早めに家に帰った。
家に帰って、聞いた話を思い返す。
この話について考えると、とてつもない違和感が体を襲う。
―――あれ?
何かが、おかしい。
この話から湧く違和感は、同時に世界全体に対する違和感にまで波及する。
一つ一つ考えてみよう。
この世界に対して抱いていた違和感を自ら穿り返す。
この世界は神樹により死のウイルスから守られているらしい。
だが、この話自体に違和感を覚える。
現在は神世紀298年。つまり、死のウイルスとやらが蔓延して三百年近くたっているのだ。
前世の知識を掘り返す。
確か、ウイルスは自己増殖ができず、故に人などの生物に寄生し、増殖する。
そして、前世の記憶にあるインフルエンザウイルスやノロウイルスは空気中では長く生きることはできなかったはずだ。
三百年もの間、宿主もなしにウイルスが生きていられるだろうか?
それだけ時間があっても、ワクチンを作ることはできなかっただろうのか?
分からない。
正直、この世界は神樹の存在といい、前世とは常識が違いすぎる。
本当に、人間じゃどうすることもできない常識外のウイルスが存在する可能性も捨てきれない。
もしかしたら、人類以外には感染しても、あまり害はないウイルスなのかもしれない。
断定はできない。
が、教科書に書かれていることを鵜呑みにするのは危険だろう。
もう一つ、大きな違和感があった。
この世界の学校には神道の授業が存在する。
神樹という実物がいるのだから当然なのだろうが、問題はその授業の中で、天照大神などいわゆる天津神に関する記述がほとんどない。
本来、天照などは神道における最高神でもあり、神道を学ぶ上でその存在には深く触れなければならないはずだが授業では国津神に関する記述が多く占めている。
また自分が知る限り、現在この四国にある神社は、神樹を祀るものばかりで天津神を祀るところはない。
神樹は土地神の集合体らしいので、信仰を集中させるための策だとも考えられるが、歴史的建造物を大切にする日本において、いくらなんでも一つとして残っていないのは異常だ。
これ等の違和感に加え、謎の敵の存在。
四国から出られない人類。
不自然なまでに記述されていない天津神。
―――ふと、国譲りの逸話が思い出された。
発想が飛躍する。
ふと、建御名方神という神のことを思い出した。
日本神話において国譲りを天津神が迫った際、建御名方神は建御雷神と力比べをし、敗北。その後、諏訪に逃亡し、そこから出ないことを誓ったという。
今の人類を建御名方神に当てはめて考えてみる。
諏訪は四国にあたり、人類が建御名方神とすると、人類は世界をかけて三百年前に「何か」と力比べをし、四国へ敗走。以後四国から出ないことを「何か」に誓った、という感じになるだろうか。
思った以上にしっくりくる。
この説を事実と仮定して掘り下げてみる。
「何か」はおそらく天津神。
ここまで存在が隠されていては当然そうなるだろう。
おまけに国譲りの神話にもぴたりと符合している。
では、神樹という存在は何なのか。
いくつか考えられるが、最も有力なのは人類に味方した神々であるという考えだろう。
現に、今の四国の生活は神樹なくしては成り立たない。
まさか、敵である神が人類を助けているとは考えにくい。
もう一つ考えられるのは、神樹は人間を生かし監視する役目を天津神から与えられているという考え方。
あまり考えたくはないが、可能性は零ではない。
しかしながら、銀の言っていた「敵」が天津神、もしくはそれに準ずる存在であるならば神樹と天津神は敵対関係にあると考えられる。
ならば、やはり神樹は人類に味方していると考えるべきか。
ここまで考えて、少し冷静になる。
まったく、証拠も何もないただの想像。
発想が飛躍しすぎている。
推理とは到底言い難い。
いや、妄想だといってもいいくらいだ。
神々の戦いが現世で起きるなんてあり得るはずもない。
しかし、なぜだか笑い飛ばせない。
なにせ、神樹という存在が神話を肯定しているのだ。
状況証拠は揃っており、銀の教えてくれた「御役目」についても気になる。
やはり、大赦が国民に何かを隠しているのは間違いないだろう。
少なくとも、ウイルスにより四国から外に出られないという話は信じられそうにない。
それにしても、どのような形で「敵」は攻めてくるのだろう。
「敵」が天津神として、なぜこのタイミングで攻撃を仕掛けようとしているのだろう。
そもそも、なぜ戦うのが銀たちなのだろう。
何故「御役目」のことが隠蔽されてているのだろう。
現状分からないことだらけだ。
…………知りたい。
本当はこんなことに首を突っ込むべきではないのだろう。
しかし、銀がこの件について関わっているのなら放ってはおけない。
特に、命がかかわることであれば…
確か、赤嶺家は大赦のなかでもそれなりの力を持っていたはずだ。
ならば、「御役目」に関する詳しい情報を知りうる立場にあると思われる。
しかし、面と向かって両親に「御役目」やこの世界について尋ねる訳にもいかない。
搦手を使うしかあるまいか。
両親が家におらず、俺に甘い使用人がいる日をあらかじめ狙っておく。
目標は父の書斎。しかし、鍵がかかっていて父がいないときには入れない。
なにで、その日の前日に、父の書斎に入れてもらい気付かれないように窓の鍵だけ開けておく。
これが非常に難しかった。父は赤嶺の当主だけあって、その観察眼は侮れない。
そのため、父から不審がられないよう毎晩書斎に通うようにした。おかげで無事、気付かれずに窓の鍵を開けることができた。
そしてコトを起こす日。
使用人に買い物を頼み、家に一人でいる瞬間を作る。
その間に、窓から父の書斎に侵入し、情報を集める。
この日のためにパソコンのパスワードは入手しておいた。
結論から言うと、「御役目」や世界についての具体的な情報は得られなかった。
しかし、ヒントとなるような情報は得られた。
父のパソコン内にはとある書きかけのレポートがあった。
内容は、勇者とバーテックスの戦闘により生じた被害を原因とする治安への悪影響並びにその対応策。
どうやら、銀の言っていた「敵」とやらはバーテックスというらしい。
確か、最高点、山頂、頂点、天頂といった意味を持つ英単語。
到底、ウイルスから発生した怪物につける名だとは思えない。
増々、「敵」が天津神に関係するという説の信憑性が高くなる。
気になる点はまだある。樹海化という単語。このレポートによると、世界が神樹と同化し、その間、四国内の一切の時間が停止する。その世界で動けるのは勇者とバーテックスだけ。どうやらこの「樹海」が勇者の戦闘場所になるらしい。そして、この樹海の被害が、現実世界で自然現象としての被害になるとのこと。
未だ、全貌は分からないが、ある程度状況は掴めてきた。
これまでの情報を纏めると、四国外よりバーテックスと呼ばれる存在が侵攻してくる。
バーテックスについての詳細は不明。目的は神樹の破壊?
これを阻止するための存在が銀たち勇者。
此方も戦闘方法などの詳細は不明であるが、神樹に選ばれたこと、人類のために戦うことは確か。
戦闘中は四国は樹海化し、おそらく人々はそれを感知できない。
こんなところだろうか。
重要なのは、銀の話がある程度、裏付けられたということだろう。
まさか、父が冗談でこんな文書を作るはずもない。
まったく、冗談で済めばよかったものを…
やはり、大赦は色々と隠している。
こっちを洗ったほうが情報は得られそうだ。
この日を境に、俺は大赦について色々と嗅ぎまわるようになった。
赤嶺はそれなりに力のある家で、治安維持を主な役目としているらしい。
故に、俺はまず人脈を広げることを優先した。
赤嶺の家の大きさに加え俺自身の評判から、娘を俺と婚約させようとする家は昔から多い。
赤嶺の分家などはそれが顕著だ。
「御役目」について知ってから、俺は大赦内で一定の地位を占める家と関りを持ち、度々食事などを共にした。
そして、面会する日は単独で会いに行き、俺は親から話を聞いている体で家の者に大赦関係の様々な話題を振り、御役目等の情報を少しずつ聞き出していった。
無論、怪しまれないよう細心の注意を払っていたことに加え、個々から得られる情報はかなり断片的なものであったため、まとまった情報を得るのにはかなりの時間がかかったが。
そして、俺が樹海に入れることが分かって以降、俺を欲しがる家はますます増えた。
これは危険なことでもあったが、同時にチャンスでもあった。
「御役目」のためと言い、踏み込んだ情報を直接尋ねることができるようになったのだ。
これにより、それまでと比べ物にならないほどの情報を集めることができた。
勇者システムの件や、鷲尾須美が養子であること。
大橋のシステムについてや現状、勇者は大赦内で力のある家柄からしか輩出されないようにしていること。
その中でも特に貴重な情報として、過去にも勇者が存在したという事実や、バーテックスがこの数百年間現れていなかったことを知った。この情報は、話していた相手の失言によるもので、それ以上詳しく尋ねることはできなかった。
こちらとしては、断片的にとはいえ、核心をつく情報を手に入れられたうえ、彼らの弱みを握ることができたので万々歳なのだが。実際この情報のおかげで、俺自身に勇者のサポートをさせるか否かの大赦内の議論では、両親だけでなく彼らにも俺の立場向上を支持してもらえるよう取り計らえた。
このように分家の弱みを握ることで赤嶺の掌握は少しずつだが、着実に進んでいった。
対して情報収集については一定の成果を上げた後、流石に行き詰まった。
これ以上の機密情報を得るには直接大赦にアプローチするしかない。
問題はどのタイミングで揺さ振りをかけるか。
そんな折、二体目のバーテックスが現れ、合宿の話が持ち上がる。
非常に好都合なタイミングだった。
こうして、情報収集は次の段階へと入っていくのだった。
side:乃木園子
赤嶺頼人という少年は、乃木園子にとって初めての友人だった。
園子は赤ん坊のころからスローライフを貫いており、小学校でもそれは変わらなかった。
そのため、小学校に入りたての子供たちの中では彼女はやや浮いた存在だった。
彼女の速度に合わせるのは子供には難しく、またそれくらいの歳ごろでは、特に活発な者が人気を得るからだ。
そのため、彼女に自分から話しかけようとする子供は少なかった。
少数ながらも、乃木さんには失礼のないようにね、などと子に言い含めていた親がいたことも原因の一つだろう。
そんな彼女に初めて近づいてきたのが頼人であった。
変わっていることにその男子生徒は、友人が多くいるのに、彼女に話しかけていた。
彼女のマイペースな振る舞いもまるで気にせず、彼女を自らの環の中に入れた。
園子が初めてあだ名で呼んだ相手も頼人だった。
頼人をライトと呼ぶクラスメイトが多くおり、彼女もそれにあやかって、彼をライ君と呼ぶようになった。
そうして、彼女がクラスメイトと話す機会は多くなって、頼人以外の友達も作ることができた。
不思議なことに、赤嶺頼人は園子にしたようなことを、孤立しているクラスメイトみんなにしていた。
先生などは、赤嶺くんは優しいわね、としか反応していなかったが、彼の行動は少しおかしいほどだった。
なぜだか園子は、その光景を見るたびに、寂しくないのかな、と思ってしまう。
あまりにも平等に優しくするその姿は、見方によってはあまりにも歪。
けれども、いやだからこそ園子は彼の傍にいたいと思ってしまった。
その行動の真意は何であれ、確かに園子は、彼らは頼人に救われたところがあったのだ。
そう、頼人はどれだけ頼られても、どれだけ甘えられてもそれを許容していた。
必然的に彼の周りに人は集まる。だが、聡い園子には、頼人に対等な友人がいるようには思えなかった。
だから、彼が寂しくないように、頼人が心を許せる相手になりたいと園子は思ってしまった。
だから、園子は頼人のことをいつも見ていた。
それは、恋とも言えないような淡く優しい想いだった。
そして、時は経ち、頼人は急にある一人と行動することが増えてきた。
その相手は三ノ輪銀。園子にとっては、声が大きく気圧されてしまう少し苦手な相手だった。
だけど、銀と共にいる頼人の表情を見て、園子は理解してしまった。
銀は頼人にとって特別な人なのだと。
彼はもう孤独ではないのだと。
それは、喜ばしくも少し切ない気持ちを園子に感じさせた。
それからは、園子は友達として頼人との関係を続けている。
彼女の恋ではない淡い想いは終わったのだ。
side:鷲尾須美
赤嶺頼人という少年は鷲尾須美にとって親切なクラスメイトという認識だった。
何かと親切にしてくれる、三ノ輪銀といつもいるクラスの人気者の一人ぐらいにしか思っていなかった。
その認識が変わったのは、「御役目」が始まってからのことだ。
最初の「御役目」からしばらくして、勇者の三人は頼人により集められた。
頼人が勇者を集めた理由は、二回目の襲来に備え、勇者とある装備を共有するためであった。
それがインカム。勇者同士には不要であるが、頼人が勇者と樹海内で話すためには必須のものであった。
初め、須美はこんなものが役に立つのかと訝しんだ。
ある種、それは当然だろう。勇者でもない只の小学生が「御役目」において、適切なアドバイスを出せるとはだれも思わない。
しかし、二回目の襲来において、頼人は勇者が考えつかなかった作戦を提案し、その評価は一変した。
特に、須美自身その作戦に大きく貢献したことにより、自らへの自信を深め、彼を信頼するようになった。
だが、同時に彼が多くの人に評価されていることを知り、小さな競争心も生まれた。合宿で共に訓練をする中で、明確に仲間意識も生まれたとはいえ、彼が大人から評価されている面ばかりを見てその完璧さに近寄りがたさを感じたのだ。
しかし、合宿の最終日に休憩室でいかがわしいことをしている銀と頼人を説教したり、そのあと四人で色々なことを話し合う中でその近寄りがたさも感じなくなっていった。
こうして、須美は頼人とも友達になれると思い始めた。