樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

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書いてるたびに今後の勇者史外典と矛盾したらどうしようと不安になるので初投稿です。


陰陽

神樹館の生徒指導室、そこに俺と安芸先生はいた。

名目は、俺の進路相談だが…

 

「老人たちの動きは?」

 

「依然、静観を続けているわ。現状維持が多数派の様ね」

 

実際は時たま行う情報共有のための密会。

最も周りに不審がられないのは、やはり学校なのだ。

 

「そうですか。して、革新派の割合は?」

 

「全体の一割にも満たないわね。革新派自体主張がバラバラだし、取り込むのは難しそう」

 

「了解です。革新派、保守派共にプロファイリングを進めさせます。今端末使えないので、そちらの情報は秋隆に」

 

「分かったわ。例のプランは?」

 

「乃木と鷲尾は自分が直接交渉します。あそこの力はこの先必要になりますので、今の内にパイプを太くしておこうかと。親子の情があれば情報を漏らすこともしませんでしょうし。ただ、念のため三ノ輪には父に頼みます。分家なので、最悪こちらの存在が気取られてしまうので。赤嶺の動きはどうですか?」

 

「問題ないわね。特に不審がられてもいないし」

 

「了解しました。では、安芸先生は引き続き、大赦の監視と職員のチェックをお願いします」

 

「了解よ。…それにしても赤嶺くん、あなた最近ちゃんと寝てるの?今まで、授業中に眠そうにしてるなんてことなかったじゃない」

 

「三時間は寝てるので、まだ大丈夫ですよ。安芸先生こそ、仕事増やしてる立場が言うのもなんですが大丈夫なんですか?」

 

「私の方は大したことないわ。それより赤嶺くん、もう少し休みなさい。そんな調子じゃ、あなたの体が持たないわ。三ノ輪さんや乃木さん、鷲尾さんにも心配かけてるでしょ」

 

「…あんな仮説立ててしまったんです。おちおち寝てられないんですよ」

 

「……襲来の間が開くと、何かしらバーテックスは対策を講じてくる…か…。」

 

過去の戦闘記録。

それを見れば、嫌でもわかる。奴らは徐々に強大になっていった。

それが、今起こらないという保証はどこにもない。

 

「ええ。ですが、次の襲来までに勇者システムの強化も、増員も間に合いそうにはありません。西暦からオミットされた機能を緊急用に復活させたかったですが、流石に、今そんなことをすれば老人たちも黙っていませんし」

 

一応、保険はかけてるけど、あれは危険で未知数だし、そもそも使いどころが限定されすぎている。

 

「それで、全ての襲来パターンを検討してるのよね…。でも赤嶺くん、それを一人だけでするのは無茶よ。もっと、周りを頼りなさい」

 

「勿論、一人きりではありません。でも、自分が一番勇者とバーテックスの戦力を知っているんです。それに、必要な時に自分の頭に入ってなければ何の意味もない。だからやっぱり、自分がやらなきゃいけないんです」

 

「……ごめんなさい。本当はこんなこと、私たち大人がすべきことなのに…」

 

「気にしないでください。たまたま自分ができる立場にいただけですし、何より安芸先生がいなければここまで来れなかったんですから。さて…そろそろ休み時間も終わりますし、戻りますね」

 

気が付けば、もう教室に戻らないといけない時間になっている。

今日の「進路相談」はここまでだ。

 

 

教室に戻ると妙にリアルな瑞鶴の絵が黒板に描かれていた。

ついでに銀が顔を赤くして、園子と須美はにやにやしてこっちを見ている。

これは少々嫌な予感がする。

流石に教室でからかわれるのは、ご勘弁願いたい。

という訳で先手必勝。

 

「ただいま。それにしてもリアルな絵だねー。関係ないけど七面鳥が食べたくなってきちゃった」

 

須美にめっちゃ怒られた。

襟元掴まれてぐわんぐわん揺さぶられた。

ここまで過剰反応するとは…

しばらく帝国海軍を賛美しながら言い訳すると許してくれた。

ついでにこれ以後、須美に、書いた小説を読んでほしい、とかこの手の話題で鼻息を荒くして、迫られることが増えた。

やっぱこの子面白いわ。

 

 

 

それから数日経ち、学校から家に戻ると秋隆から思わぬ朗報を得られた。

 

「本当に、御記の隠蔽部分が分かったのか!?正直、駄目元だったんだが…どんな方法を使った?」

 

「ええ、こちらとしても難しいと思っていましたが、黒塗りによる隠蔽だったのが幸いしました。筆圧です。ESDAを使いました。」

 

ESDA、紙のへこんだ部分に静電気で特殊な粉末をため、筆圧痕を浮かび上がらせる装置。

思っていたより、かなりハイテクな方法だった。治安組織にパイプのある赤嶺だからこそ取れた方法だ。

とはいえ、こんな理由で情報が洩れるとは笑えてしまう。

 

「なるほど、大赦もそこまでは考えてなかったか…。よし、とにかく、中身を見せてくれ」

 

 

 

 

「郡千景さん……か……」

 

復元された御記を読みおわり、呟く。

やはり、勇者は五人いた。

大赦に隠蔽された存在。

だが、彼女もやはり真の勇者だったのだろう。

若葉さんの言葉がそれを裏付けている。

千景さんは自分のことを覚えていてほしいと、御記に書き残していた。

そんな彼女の願いすら葬られていたと思うと、やりきれない気持ちになる。

…だからせめて、俺だけでも覚えておこう。

そしていつか、彼女の名を取り戻すべきだ。

それが、彼女たちに守られた世界に生きる者の責務だと思う。

 

そして…

御記には、本当に彼女たちの素直な想いが記されていた。

やはり、初代勇者たちも銀やみんなと変わらない普通の女の子だったのだろう。

御記からは彼女たちの悲しみ、苦しみ、そして理不尽に抗い続ける強い意志を感じた。

ある日突然、世界の重みを背負わされ、どれだけ辛かっただろう。どれだけ苦しかったのだろう。

それでも彼女たちは戦い続けた。周りから非難されようとも…

その意志に心からの敬意を表する。

 

 

…感傷が過ぎるな。

どうにもいけない癖だ。

深呼吸して頭を切り替える。

正直、この御記で得られた情報はほとんど既知のものだった。

だがもう一つ、とても大きな収穫があった。

若葉さんは世界を取り戻すことをあきらめていなかった。

今日まで勇者システムや戦闘記録が残されていたのも、彼女たちの遺志を引き継いでのモノだろう。

これは、現状維持を望む者には、劇薬となる代物だ。

 

この数百年の時が証明している。

大赦は世界を取り戻すことを諦め、ただこの四国で生きていければいいと思ったのだろう。

大赦のシステムが全てを物語っている。

家柄中心体制による反乱の予防、隠蔽や情報操作に特化した性能、信仰を利用した人心の掌握。

一つの世界を平和に保つには、この上なく優秀な機関であるといえるだろう。

確かに、この三百年の平和を保った功績は、否定できない。

 

だが、今は戦時だ。

今のドクトリンでは、到底持たない。

それでも、このやり方で生きてきた連中は、固執するだろう。

伝統だから…と。

だが、それは若葉さんの遺志に反する。そこを攻める。

散々、自ら神聖化してきた初代勇者の言葉だ。

立派な大義名分になるに違いない。

これで計画の確度を上げられる。

 

「秋隆、最後の若葉さんの記述を材料に加えておいてくれ」

 

「かしこまりました。それ以外の記述はいかがいたしますか?」

 

「コピーして保存。いつでも取り出せるようにはしておけ。それと、乃木の当主とのアポはとれたか?」

 

「はい、ご要望通り、勇者が訓練している時間に。気付かれるへまもしていません」

 

「結構。親父殿は?」

 

「変わらず、分家を中心に根回しをお続けになっています」

 

「そうか。政界の方はどうだ?」

 

「はい。やはり、現政権は上層部の息がかかっていますので、そちらの内偵を中心に進めています」

 

「よし、引き続き頼む。……すまん、風邪薬を用意してくれないか?すこし、気分が良くない」

 

「かしこまりました。少々お待ちを」

 

秋隆が部屋を出ていく。

 

「………ふぅ」

 

流石に疲れがたまっている。身体が気怠いし、風邪だろう。

いまだ、勇者の休養期間内なので、襲来はないだろうが、そろそろ体調に気を付けていくべきだな。

ようやく、戦術研究もひと段落したし、少し休んでもいいはずだ。このところ、忙しすぎた。

念のため、かかりつけの医者を呼び、診てもらう。

案の定、疲れが溜まりすぎているせいだといわれた。

当然か。

薬を飲んで、しばらく休めばすぐに治るとのことだった。

 

次の日、俺は学校を休んだ。

最近までずっと、体調には気を使っていたので、本当に久しぶりの風邪だ。

最後にひいたのは、銀と出会ったときじゃないかと思ってしまうくらいだ。

昨日のうちに、部屋を整理しておいてよかった。

見舞いは一応断っているが、これで銀たちが来ても俺のしていることはバレないはずだ。

時刻はもう放課後、昨日の内から休んでおいたので、もう熱は下がったが…銀たちは来ちゃうんだろうなぁ。

一応、マスクをして部屋を除菌しておこう。

 

「頼人―来たぞー大丈夫かー?」

 

「やっほー、へいへいライ君大丈夫~?」

 

「お、お邪魔します、頼人君!お加減いかがでしょうか!」

 

「やあ、三人とも。こっちはもう熱も下がったし大丈夫だよー」

 

しばらくすると、マスクをつけた三人がやってきた。

秋隆にマスクを配るよう頼んでおいてよかった。さすがに勇者に風邪をうつすわけにはいかないし。

それにしても、銀と園子はいつも通りだけど、須美はなにやら緊張している。

なるほど、男子の部屋に今まで入ったことがなかったのだろう。

 

「まったく案の定、体調崩しちまって。あんま心配かけんなよー?」

 

「そうよ、頼人君!もうあなた一人の体ではないのよ?」

 

「なんにせよ、大丈夫そうでよかったよ~。あ、これお見舞いのゼリー。おいしいよ~?」

 

「ああ、園子ありがとう。皆、ご心配おかけして誠申し訳ない。しばらく休むことにするよ」

 

残り少ないが、勇者の休養期間中は彼女らと共に休もう。そのほうが、三人にも罪悪感を与えないだろうし。

まったく、普段自分たちが命を張っているんだから、こっちの心配なんてしなくてもいいのに…。

つくづく、この子たちは優しすぎる。

だけど…その優しさが勇者に選ばれた理由なのだとしたら………やりきれないな。

 

「みんな、来てくれて本当にありがとうね」

 

御役目のことを考えれば、今日会うべきではなかったんだろうけど、来てくれたのが嬉しくてつい甘えてしまっている。

 

「気にすんなって。お見舞いくらい当たり前だろ?」

 

「そ~だよ~?ライ君。気にせず休んでていいんだよ~?」

 

「ええ、いつも助けられてるし、これくらい当然のことだわ」

 

こうして話しているだけで心が安らぐ。

少し休んだら、また頑張ろう―――

 

 

それから少しの間ではあったが、俺は彼女たちと休みを過ごした。

正直、楽しかった。

大赦やバーテックスのことなどで気が休まるか少し不安であったが、それは全くの杞憂だった。

三人が行う下級生へのオリエンテーションの準備を手伝ったり、一緒にプールに行ったり、ただ教室で一緒に過ごしたり本当に良い時間だった。

そして、あの日は忘れられない。

最初は久しぶりに銀の家族と一緒に出掛けて、そのあと、須美と園子に合流して、四人で一緒に過ごしてそのまま銀の家で泊った。

ただ、それだけの日。

だけど、それこそが俺の日常だったんだ。

この日常がずっと続いてほしい。そんな小さな願い。

慣れないことをしていて、忘れかけていた自分の原点。

そのために、俺は俺にしかできないことをしよう。

 

 

 

それから、勇者の休養期間も終わりを告げ、訓練が再開された。

そして、俺はその訓練日を狙い、乃木家に来ていた。

 

「さて、赤嶺頼人くん。折り入って、話したいこととは何かな?」

 

目の前には、大柄な男性と、園子に似た女性が座っている。

人払いも済ませてある。

まずは第一段階だ。

問題は、彼らがどれだけ大赦の価値観に染まっているかだ。

 

「はい。それでは、まずこちらの資料からご覧ください」

 

そう言って、彼らに資料を渡す。

これでもう後戻りはできない。

 

「これは……?」

 

「西暦の勇者の戦闘記録を纏めたものです」

 

「それで、これを私たちに見せて何が言いたいんだい?」

 

「それでは、単刀直入に申し上げさせていただきます。」

 

そう言って、深呼吸する。

これから、俺は親の情を利用する。

その罪に向き合う。

 

「このままではご息女は戦死されます」

 

二人の顔が驚愕に歪む。

流石に、こんな子供にそんな衝撃的な事を言われるとは思ってもみなかったのだろう。

だが流石、乃木家の者というべきか。

すぐに平静を取り戻す。

 

「………理由を聞いても?」

 

「はい。そちらの資料にあるように、バーテックスは敗北を重ねた場合、強化、もしくは数を増やして襲撃してきています。そして、現在は勇者三人で一体のバーテックスに辛勝している有様。西暦では最大で七体の完成型バーテックスが襲来しました。現状の勇者達では、複数体相手では対応しきれません。そうなった場合、運が良くても勇者の戦死。運が悪ければ神樹様ごと世界は滅びます」

 

「あなたっ!」

 

「黙ってなさい。なぜ……そう言い切れるんだい?」

 

母君が叫ぼうとしたが、父君が抑える。

今の言い方で両方怒ると思ったが、父君は存外、冷静だ。

 

「自分が、最も近くで勇者の戦いを見てきたからです。そして、過去のデータをまとめたのも自分です。このままでは間違いなく世界は滅びます」

 

淡々と事実だけを語る。

本当にひどい事実を。

 

「………それで、本題は何だ?まさか、そんな話だけをしに来たわけじゃないだろう」

 

父君の冷静さが崩れかけている。

この反応なら…いけるか?

 

「はい。これから赤嶺はあるプランを大赦の上層部に提案します。そのプランに乃木家のご助力をいただきたいのです」

 

「その……プランとは?」

 

「勇者システムのアップデート並びに大赦外を含めた勇者の再選定及びその増員」

 

「なっ!?」

 

再び、父君の顔が歪む。

当然だろう。

この話はつまり―――

 

「つまり、伝統を崩せと……?」

 

伝統を崩す。それは言葉で言うほど生易しいものではない。

大赦の名家は主に「御役目」を担ったものが祖となっている。

そして、一番の名家である乃木家は初代勇者を輩出したことによりここまで大きくなっている。

つまり、外様が勇者を輩出した場合、それまでの大赦のパワーバランスが一変する可能性があるのだ。

実際、それを避けるために、鷲尾家は分家の東郷家から須美を養子としている。

まぁようするに、自分たちで力を独占しておきたいわけなのだ。

 

「今ならまだ間に合います。ご息女の、ひいては世界のことを考えれば、選択の余地はないかと思われますが」

 

「しかし……システムのアップデートだけでは不足なのかい?」

 

流石に食い下がるか。

確かにアップデートの提案だけなら敵はそう増えない。

だが、そんな事を言っている場合ではない。

 

「強化の具合によっては一概に不足とも言い切れませんでしょう。しかし、世界が滅びるというリスクを勘案すると、現状の三人体制はとても十分とは言えません。勇者の数を増やせば、個々人の負担も大幅に軽減されるでしょうし、増員のメリットはそのデメリットとは比較にならないほどだと思いますが」

 

「……………」

 

おそらく、今彼らは大赦としての立場と、親である立場の板挟みで悩んでいるのだろう。

辛い立場なのだろうが、ある意味前提が間違っている。

 

「どうやら、何か勘違いしているようですね。あなた方のご先祖である乃木若葉様を含め、初代勇者の皆様は皆、一般家庭の生まれでした。そして、巫女の才能がある者たちも生まれを問わず、各地から集められました。その頃の大赦は能力主義だったといえるでしょう。その初心を忘れないのであれば、家名にこだわることこそ、乃木若葉様の御遺志に反しているとは言えないでしょうか」

 

大赦はもともと、バーテックスに対応するために生まれた機関だ。

今の大赦がその本来の在り方に則るのなら、この提案には必ず乗るべきなのだ。

特に…乃木であるのならば。

さて、駄目押しだ。

 

「わかりやすく言いましょう。今ここで選択してください。ご息女を、世界を守る道を選ぶか。大赦の制度を守る道を選ぶか」

 

なんて、狡い言い方だろう。

これで大赦の制度を守るなんて言える人間はいない。

 

「………わかりました。その提案に乗りましょう」

 

「お前っ!?」

 

意外なことに、先に返答したのは母君の方だった。

 

「…これは乃木なら受け入れなければならない提案よ。それに、園子のためにもなるというのなら選択の余地はないわ」

 

「……しかし……そうか………そうだな」

 

ご両親ともに納得していただけたようだ。

これで、大赦は大いに揺れ動くことになるだろう。

 

「ありがとうございます。ご助力いただけるようで何よりです。提案時の詳しいお話は、再度父から連絡いたします。また、自分がこの件に関わっていることはくれぐれもご内密にお願いいたします」

 

「……分かりました。………どうか娘を…園子をよろしくお願いします」

 

母君からそう頼まれてしまう。

おかしいな。そんなこと頼まれるようなことは言ってないはずなのに。

 

「微力を尽くします。それでは自分はこれで失礼いたします。本日は貴重なお時間をありがとうございました」

 

挨拶をして部屋を出る。

まだ、体が強張っている。

とりあえず、これで乃木はクリアだ。次は鷲尾か…。

先に乃木をおさえている分、鷲尾の説得は容易だと思うが、あちらは養子だ。

未知数な部分がある。

とりあえず、最大派閥はおさえ、とっかかりは掴んだ。

乃木も鷲尾もこれからゆっくり落としていけばいい。

千里の道も一歩からだ。

 

 

 

 

「あれが…赤嶺の麒麟児か…」

 

乃木の当主が独り言ちる。

……麒麟児どころか怪物だ。

それほど彼にとって、先ほどの会談は衝撃的なものであった。

この数百年の時を経て、大赦は名家同士の馴れ合いによる体制を築いていた。

先の少年の提案に乗ることは、その馴れ合いが一気に崩れることを意味している。

それが分かっていながら、彼は、彼らは提案を飲まざるをえなかった。

………あれが本当に子どもの言葉なのか?

いずれにせよ、これで乃木は赤嶺と同じ旗に立つと他家からは思われることになる。

これから大赦内部はきな臭くなってくるだろう。

 

「ただいま~」

 

間延びした幼い声。

園子が部屋に入ってきた。

 

「ああ、お帰り園子。疲れただろう」

 

男は乃木の当主の顔ではなく父として、その少女を迎えた。

当主としての葛藤は無論あったが、父としての彼は先ほどの提案を喜ばしく思っていた。

娘のために動けるという点でもそうだが、その理由は先の少年自身にあった。

少年は、世界のためという点や乃木であるなら協力すべきだという点を強調していたが、彼自身は園子たち勇者のために行動していることが理解できた。

娘のために動いてくれる人間がいる事実は、僅かながらも彼自身の心を温かくしたのであった。

 

「ねぇ、お父さん。聞きたいことがあるんだけど~」

 

「ん、なんだい?」

 

園子が何かを聞こうとする。

少し、珍しい事だった。

なぜだか、その声色はいつもと違うように聞こえた。

口元は笑っているのに、目が笑っていない。

 

「ライ君と何を話してたの?」

 

 

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