樹海に入れる特殊体質の少年(前世持ち)が愛する三ノ輪銀のためにいろいろ頑張る話   作:exemoon

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火色舞う

大橋に現れたバーテックスは二体。

やはり、複数体で現れたか…。

 

『ええぇ!二体!?』

 

『そう来たか』

 

三人に動揺が走る。

 

『力を合わせれば、二体だろうと大丈夫よ!』

 

『それな!』

 

しかし、須美が周りを鼓舞し、すぐに皆落ち着きを取り戻す。

俺が口をはさむまでもなかった。

三人とも本当に成長したな…。

 

襲来した内の一体は例の蠍型だった。毒を持つという非常に危険な個体。西暦の勇者は奴に二人もやられたという。

もう一体は、データにないバーテックス。尾には鋏がついており、周囲に六本の棒のようなものを纏わせている。鋏付きとでも呼称するか。

さて、こういう場合には…

 

「銀は鋏付きを、園子は蠍型を相手取れ!須美は遊撃。蠍の棘には注意しろ。あれには絶対にあたるな!」

 

インカムから元気な返事が聞こえ、銀と園子が突撃していく。

こういった場合、銀と園子が一体ずつ相手取るの確定していた。わざわざ敵の割り振りをしたのは、盾を持つ園子の方が銀より蠍を相手にするリスクが低いからだ。

銀が突撃すると、鋏付きの六本の棒から板のようなものが生える。

どうやら、あれが盾の役割を果たしているらしい。

盾は銀の攻撃をものともしていない。

 

『わかりやすい!アタシ向きだ!』

 

三人の連携は見事だ。

二人が攻撃を受け流しつつ、敵の隙を作る。

そこを須美が矢で狙い、敵の体勢を崩し、さらに生まれた隙を二人が狙う。

そうして、三人で的確に相手にダメージを与えていく。

現状、明らかに優勢。

このままいけば、怪我人も出ずに倒しきれるだろう。

だが、こういう時こそ、奴に注意すべきだ。

大橋の奥を双眼鏡で睨み続ける。

………頼むから、現れないでくれ。

だが、その願いは届かなかったらしい。

レンズが光を捉えた。

 

「下がれっ!全力後退だ!下がれるとこまで下がれ!奴らの間合いでは絶対に防御するな!!」

 

三人が反射的に後退していく。

これまでの訓練の賜物だ。

数秒前まで彼女たちがいた場所に、無数の矢が刺さっていく。

…危ないところだった。警戒していなかったらと思うと冷や汗が出る。

 

『三体目っ!?…やばかったな』

 

『少しでも遅れていたら、やられていたわね………』

 

『危ないとこだったね~』

 

三人とも、落ち着きを失っていない。

よし、これならまだまだ十分戦えるな。

似た襲来パターンなら研究済みだ。

勝機は十分にある。

 

「三人ともよく聞いてくれ。作戦を伝える。まず、須美は蠍と鋏付きの射程外からあの二つ口が付いたバーテックスを攻撃しろ。その間、園子と銀で須美の盾になってくれ。二つ口が攻撃できなくなったところで、銀がとどめを刺せ。園子と須美は、銀が二つ口を倒し終わるまで、蠍と鋏付きの足止めをしろ。その後は、さっきと同じ方法で蠍と鋏付きを撃退する。質問はあるか?」

 

『ないけど…よくこの短時間でそこまで考えられたな』

 

『ほんとだよ~。私もそこまでは考えられなかったよー』

 

『さすが、頼人君ね!』

 

まあ、そのあたりは予習の差だ。

そんなに褒められたことじゃない。

特に、彼女たちには情報を隠している身だ。

罪悪感もある。

この戦闘が無事に終わったらいくらか事情を説明するかな。

過去の戦闘データが有効であるとわかれば、勇者に事情を伝えても構わなくなると思うし。

 

「理由は後で話す。今は戦闘に集中してくれ。勝って、全員で帰るぞ!」

 

そう言うと、三人が元気よく返事をしてくれる。

さて、ここからが本番だな。

 

 

須美が連続で二つ口に矢を放つ。

しかし、鋏付きの盾が邪魔をし、なかなか攻撃が当てられない。

そして、二つ口の動きが止まったかと思えば、口から幾千の光の矢が放たれ、土砂降りのように三人に降り注ぐ。

園子が槍を傘のようにして三人を守る。

やはり、口で言うように簡単にはいかないか……。

矢の雨が止んだかと思ったら、二つ口が矢を放っていた下の口を閉じ、上の口を開く。

口の中には長い槍のようなものが装填されている。

 

『わっしー!あの口を狙って!』

 

園子の声に反応し、須美が再び矢を放つ。

その瞬間、二つ口が槍を射出した。

 

『こんじょぉおおおお!』

 

射出された槍を銀が斧剣を重ねて受け止める。

対して、須美の放った矢は奴の口に飛び込み、二つ口の体勢が大きく崩れる。

攻撃する瞬間だけは、奴らも防御ができない。そこを狙ったのだ。

やはり、園子は天才だ。

 

『やった!』

 

「よし、今だっ!」

 

『うん!突っ込むよ~!』

 

園子を先頭に三人が突っ込む。

須美は走りながらも鋏付きの尾に矢を当てて、攻撃手段を封じる。

そして、園子は突っ込んだ勢いのまま、蠍に攻撃し銀から注意をそらす。

二つ口はもう回復したようだが、位置関係から三人に直接矢を当てることはできない。

須美と園子が作った道を駆け、銀が二つ口の懐に飛び込む。

 

『とった!!』

 

銀が叫ぶ。

二つ口は防御力が低い。銀の攻撃を受けては只では済まないだろう。

俺も勝利を確信する。

 

――――なんて、油断。

 

二つ口が突然、あらぬ方向に矢を放つ。

苦し紛れか……?

…………違う!!!

 

「園子、七時だ!」

 

園子は素早く体をひねり、斜め後ろの方向に盾を構える。

瞬間、その盾に矢が降り注いだ。

鋏付きの周りを漂っていた六枚の板。

あれは盾などではなく、反射板だったのだ。

あらぬ方向に飛ばされた矢を複数の反射板が偏向させ、園子へとたどり着かせた。

 

「須美、援護!」

 

そう叫ぶも間に合わない。

動きが止まった園子に蠍の尾が叩きつけられる。

 

『そのっち!!』

 

「駄目だ!須美!」

 

吹き飛ばされた園子を須美が抱き庇う。

その体に、蠍の尾が再び叩きつけられた。

華奢な二人の体が宙を舞う。

まずい。まずい。まずい。

 

「銀!一撃入れたら二人を回収して、後退しろ!」

 

二つ口を野放しにしていたらまともに下がることもできない。

危険だが、こうする他ない。

果たして、銀は俺の意を汲み、二つ口の上下の顎を切り裂いた。

直後に、二人の回収に向かってくれる。

 

「須美!園子!返事をしてくれ!」

 

二人に叫びかけるも、一向に返事は帰ってこない。

インカムがいかれたか…もしくは………。

悪寒が止まらない。考えるのも恐ろしい。

………俺のせいだ。

反射板を只の盾だと思い、バーテックスが連携攻撃を前提とした武装をもってるなど想像もしていなかった。

どこかで、油断が残っていた。

その結果がこれだ……。

 

『大丈夫だ、頼人!二人は気絶してるけどちゃんと生きてる!』

 

銀の声が耳に入る。

…よかった…本当に良かった。

一瞬、肩の力が抜ける。

 

「了解、一度ここまで連れてきてくれ。此方で治療する」

 

『………ごめん頼人。そこまで戻ってたら、奴も回復しちまうし、大橋を渡り切られる。だから、二人は手近な安全な所で、休んでてもらうよ』

 

「……まて、銀。……何を言ってる?」

 

おかしい。銀の言っている意味が分からない。

 

『戦えるのは私だけだからさ。ここは、怖くても頑張りどころだろ!』

 

「………待て、銀。頼むから待ってくれ!」

 

『大丈夫。頼人もみんなもアタシが守るから』

 

「命令だ!待て、銀!!!」

 

『…またね!』

 

「銀!?銀、返事をしろ!!」

 

それきり、銀からの返事は帰ってこなくなった。

まさかあいつ、インカムを捨てたのか!?

最早、迷ってはいられない。

保険を使う時が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者システム。

神樹との霊的経路を生成し、神の力をその身に宿すもの。

神樹が水源で霊的経路が水道管、勇者自身は力を放出する蛇口のようなものだろう。

樹海化が解除される際、俺は勇者と共に転送される。

その仕組みは、俺と勇者との間で呪術的な力をつなげ、体を勇者と同期させ転送するというものだ。

すなわち、俺と勇者の三人には霊的経路が確立されている。

そうであるならば、俺も勇者を介して神樹の力を行使できるのではないかと考え、研究を秘密裏に進めた。

しかしながら、この霊的経路は神樹によりもたらされたモノではない、人工的なモノ。

勇者と神樹の霊的経路が大きな太い水道管だとすると、俺と勇者の間で繋がっているそれはホースのようにか細い。

調べたところ、俺が神樹の力を行使できたとしても、勇者並みのスペックは持てず、むしろ他の勇者の性能が大幅に低下するため、使用するメリットはほとんどないとのこと。

 

研究結果では、三人全員の端末と俺自身の端末を物理的に接続し、霊的経路を最大限まで広げることでようやく勇者一人分に迫る性能を出せるとのことだった。ただ、その方法を取った場合、三人の勇者の性能は極限まで下がるため、やはり使いどころはない。

おまけに、出力が上がれば上がるほど、俺の肉体が神樹の力に耐えきれず壊死する可能性が高くなり、事実上研究は失敗に終わったかに思えた。

だが、そんな出来損ないな代物でも、活用できる道はあった。

途中で戦闘不能になった勇者の穴を、その力で埋めるという道。しかし、連携が大きな武器である今代の勇者とはその方法は相性が悪く、一工夫する必要があった。

そして、完成させたそのシステムを俺は疑似勇者システムと呼んだ。

 

 

 

 

端末を操作し、須美と園子を介して神の力をその身に宿らせる。

服が変化する。銀のものを模した赤い戦闘装束だ。

武器はない。もとより、そこまでの力は今はない。

途端、体中を激痛が走り、嘔吐感がせり上がる。

 

「がぁっ……!げほっ………!」

 

我慢できずに胃の中のものをその場で吐き出してしまう。

だが、時間はない。

痛みをこらえ、荷物と共に須美と園子の下へと向かう。

今の性能では銀は助けられない。

まずは彼女らの端末が必要だ。

急げ。

 

 

「ごめん、須美、園子。今は手当てしてる時間がないんだ」

 

小さく二人に謝る。

なんとか、須美と園子の下にたどり着けた。

手元の端末を操作し、須美と園子の手元に、彼女自身の端末を顕現させる。

そう、このシステムは限定的にだが彼女たちのシステムをコントロールできる。

もっとも、まともにコントロールできるのは、彼女たちが意識を失っている時だけだが。

自身の端末と彼女らの端末を専用のコードで物理的に接続させる。

こうしている時間すらもどかしい。

 

「がはっ……」

 

体の痛みが増す。

しかし、これで須美と園子の力を限定的に行使できる。

須美の弓と園子の槍を顕現させ、銀の下へと駆ける。

お願いだから、間に合ってくれ………!

走る。

走る。 

走る。

 

間違いなく、車なんかより遥かに素早く移動している。

だが、一秒一秒が長く感じ、焦りが深まっていく。

頭の中を嫌な想像が支配する。

いやだいやだいやだ。

銀を失うなんて絶対に嫌だ。

徐々に視界内のバーテックスが大きくなっていく。

銀は、銀は何処だ!?

 

―――いた!

 

一人で三体のバーテックスを圧倒している。

やっぱり銀はすごい。

心に安心感が生まれていく。

 

……そこで、一本の矢が銀の脇腹を貫いた。

 

「………は?」

 

間の抜けた声が出る間にも、銀は墜落していく。

そこに蠍の尾が叩きつけられた。

銀が地面に倒れ伏す。

意識が空白に染まる。

 

「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいん!!」

 

槍を二つ口へ投擲し、弓で蠍と鋏付きへ矢を連続で放つ。

 

「下がれぇえええええええ!!」

 

しかし、あまりにも威力が足りない。

足止めになっているのかも分からない。

だが、それでも銀の下へたどり着けた。

 

「よりと……?なんで…?」

 

茫然とした銀の声。

だが、俺の意識は混沌としていた。

 

よかった、生きてくれている!

 

血だらけだ、手当てしなきゃ!

 

まだちゃんと、生きてくれてる!

 

脇腹に穴が開いてる!どうしよう!?

 

間に合った、間に合った、間に合った!!

 

助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ!!

 

傷だらけの銀を、痛ましく思う気持ちと銀が生きていることを喜ぶ気持ちで精神が無茶苦茶になる。

だが、それでも俺の体は最適解を選び出した。

銀を抱えて、その場を離れる。

行先は、須美と園子がいた場所だ。

 

 

「はなしてくれ……頼人……あたしが戦わないと…」

 

「大丈夫だから、おとなしくしてて」

 

銀の手当てを素早く行っていく。

銀はまさしく満身創痍の体だった。

こんなになるまで、一人で…。

どれだけ怖かったんだろう、どれだけ苦しかったんだろう。

こうして手当てをしているだけで、辛くなっていく。

だけど、この分なら命に別状はない。

それだけが安心できる材料だった。

精神がわずかながらも落ち着きを取り戻していく。

さて、今度は俺の番だ。

 

「ごめんね、銀」

 

そう言って、彼女の首筋に自動注射器を刺す。

しばらく眠らせるだけの薬だ。

このまま戦えば間違いなく、銀は死ぬ。

それでも銀は戦い続けようとするだろう。

だから、強引にでもしばらくここで休んでてもらわなきゃいけない。

 

「よ…りと………な…に………を………」

 

銀が伸ばした手を握る。

ああ、やっぱりこの手を握ると落ち着いてくる。

 

「あの時、俺を見つけてくれてありがとう。銀のおかげで俺は一人じゃなくなった。人の温かさを思い出せた」

 

「何………いってる……んだ………?」

 

「夢みたいに幸せだったよ。本当に、銀に会えて良かった」

 

今までの思い出を振り返る。

思えば、楽しかったことばかりでつい口元がほころんでしまう。

 

「これから大変かもしれないけど、どうか幸せになって」

 

それだけ言って、銀のおでこに口づけする。

そして、いままで一度も口にしたことのない言葉を一言だけ囁く。

これで、十分だ。

 

「じゃあね」

 

「よ…り…………」

 

おやすみ、銀。

 

さて、始めよう。

今こそ保険を………切り札を使う時だ。

 

 

三体のバーテックスの下へ向かう。

走りながら、先ほど手に入れた銀の端末を自分のものと接続させる。

 

「ぐぅ……」

 

この痛みにも、段々慣れてきた。

それはさておき、最早奴らは大橋の出口付近まで迫ってきていた。

まさしく、時間がない。

だが、心は落ち着いている。

奴らの壁になるように立ちはだかり、銀の斧剣を顕現させる。

 

…さて、生涯、最初で最後の勇者の御役目だ。

心が滾る。

そう。この時、この瞬間だけは―――

 

 

―――赤嶺頼人は勇者である

 

 

「―――火色舞うよ」

 

先祖から受け継ぎし言葉。

これを言うのも最後かもしれない。

銀の、皆の顔を思い出す。

ああ、いい人生だった。

 

「来い―――」

 

保険としていた機能を呼び起こす。

勇者の休養期間中に改造していた端末。

そこには、俺を疑似的に勇者にするシステムのほかに、西暦の精霊を宿すシステムを仕込んでおいたのだ。

そうして、三人の勇者の力を通して、神樹の概念的記録に無理矢理アクセスし、ある精霊を引っ張り出す。

俺が相性的にかろうじて使えるある精霊。 

勇者でない俺が使えば、まず間違いなく死ぬという精霊。

躊躇いはない。

覚悟はとっくに済ませている。

 

「――――大嶽丸!!!」

 

かつての京の都で酒呑童子と並び称されたほどの大妖怪。

鬼神魔王と称えられるほどの強さを誇り、自身を守る武器である三明の剣を奪い取られなければ倒せないとされるほど。

西暦では日本三大妖怪の一指に入るとされた存在。

その埒外の力を身に宿す。

 

「がぁあああああああああああ!!」

 

先ほどまでとは比べ物にならないほどの激痛。

歯を食いしばり、根性で耐える。

自分でわかる。今この力を解除すれば間違いなく、自分は死に至る。

俺の装束が変化していき、斧剣が歪なほどに巨大になっていく。

差し詰め、こいつが、三明の剣ってところか。

迫りくるバーテックスを睨み、慎重に狙いを定める。

おそらく、俺がこの力を扱いきれるのは最初の一撃だけだ。

それ以降は肉体が持たない。

なら最初に狙う相手は決まっている。

 

「ぐぅうおおおおおおおおおお!!」

 

狙いは二つ口。銀の腹を貫いた仇。最初に奴を叩く。

精霊の力により極限まで引き上げられた脚力は、一息で俺の体をバーテックスに届かせる。

代償は俺の肉体。体中の筋肉、神経、そして内臓、脳に加速度的に負荷がかかっていく。

だが、この戦闘の間だけ持てば問題ない。

勇者を名乗る以上、初代勇者達や彼女たちに恥じない戦いをしなければならないのだから。

 

 

「ふぅきとべぇええええええ!!」

 

二つ口が矢を放つ間もなく、真っ二つになる。

今なら分かる。

神世紀の勇者システムと西暦の精霊システムを兼ねそろえたこの力は、間違いなく歴代の勇者の力を凌駕している。なら、たかが三体、鎧袖一触にせねば笑われる。

 

着地しようとすると、無様に地面を転がってしまう。

見れば、左足がひしゃげていた。

 

「ぐっ、げほっ……!!」

 

嫌な咳をしたと思ったら、胸元が赤く染まっている。

吐血もしたらしい。

こうも何も感じないあたり、最早痛覚が意味をなしていない。

好都合だ。

今の俺の動きにようやく気が付いたのか、蠍と鋏付きが此方を向く。

だが、遅い。

右足だけで無理やり跳躍する。

ぐちゅりという音。どうやら、右足も死んだらしい。

跳んだ勢いで、そのまま、二つ口の残った部分を切り裂いていく。

かつての銀の戦いを思い出し、その動きを再現する。

 

「―――――!!」

 

切り裂いた部分が次々と塵のように消えていく。

おかしなことに、根性と叫んでいるはずなのに何も聞こえない。

喉か、聴覚のどちらかがいかれたのか。

と、そこで、かすむ目が四角錐の物体を捉える。

なんだあれは?

分からないが、バーテックスの体内から出てきたものなら破壊してくべきだ。

 

四角錐の物体を切り裂く。その瞬間、膨大な光の奔流があふれ出てきた。

今のは一体………?

だが、目の前の敵は考える間も与えてくれない。

鋏付きの反射板が俺を挟み、押しつぶそうとしてくる。

運がいい。

反射板を弾け飛ばし、その反動で、鋏付きへ突っ込む。

 

「―――――!!!」

 

貴様らさえいなければ…。

鋏付きを頭から無茶苦茶に切り裂いていく。

刃がバターのように鋏付きの体を通り、俺が地面に墜ちる頃には奴の体は原型をほとんどとどめていなかった。

あと…一体………!!

 

体を起き上がらせようとしたところで、左腕がぐちゃぐちゃに折れ曲がっていることに気付く。

仕方がないので、左の斧剣を無理矢理、口で咥える。

次の瞬間、蠍が尾を叩きつけてきた。

右の斧剣を地面に叩きつけ、その反動で強引に回避する。

奴がもう一度、攻撃してくる前にこちらから仕掛ける…!

 

右の斧剣を奴に投擲し、奴の胴体へ突き刺す。

次で終わらせる。

本当に俺の体は良く持ってくれた。

 

右腕を使い、一息で蠍の下へ跳ねる。

見えてはいないが多分、右腕ももう使い物にならないだろう。

奴の棘が俺の体を掠めるが、もう遅い。

 

―――これで終わりだ

 

口に咥えた斧剣を、奴の体に刺さった斧剣に叩きつける。

瞬間、奴の体が砕け散った。

こちらの顎も砕けたらしく、血と涎にまみれた斧剣が落ちていくのが見える。

 

――――見たか、バーテックス。これが人間の気合と根性ってやつだ

 

奴らに向かって勝ち誇る。

俺は勇者の名に恥じない戦いができただろうか。

ああ、だんだんと目が視えなくなってきた。

意識も遠くなっていく。

……もう死ぬのだろうか。

だったら、最後に銀を抱きしめたかったな。

さっきは抱きしめ損ねてしまったし。

まぁ、血の匂いがする以外、五感は無くなっているみたいだから、分からないかもしれないけど。

ああ……何かいい匂いがしてきた。

どこか安心する、優しい匂い…銀の香りだ。

そっか、銀に抱きしめられているのか。

なら、思い残すことは…ない…かな………

 

 

 

 

 




色々展開考えてたけど浪漫には勝てなかったよ…。
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