Comer A Order   作:桜エビ

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またこの物書きなんか始めたよ


始まりはありふれていて

眩しい朝の太陽の中、風が髪をなびかせる。

この風は自然に吹いているものじゃない、私が走ってるから起きている物だ。

考える限り思いっきりで、本気で、全力で一点を見ながら走り続ける。

 

そして……

 

「また負けたぁ…」

 

200m、それが私達の走った距離だった。

私は荒い息のまま地面に重いっきり座り込む。

競争相手であった立上先輩がドリンクを持って屈んで手渡してくる。

立上紫蘭、3年生で絶世の美女とまではいかないけど美人さんという表現が似合う先輩だ。

 

「だから私はズルしてるんから気にしなくていいって。」

 

「いや、それ以上のハンデもらってこれですから……」

 

そんな立上先輩の左足は無機質な義足だった。

なんならドリンクを持ってない左手も、バランスを取るための最低限の機能しかない義手。

こういっては非常に失礼だけども、負けるとちょっと悔しい。いくら私が運動不足解消のために陸上部にいるというところを除いても。

 

ドリンクを受けとりながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

ここまでのハンディキャップを抱えながらも私が勝てない理由の一つに、立上先輩が望まぬ身体強化をされてるからだと本人から聞いた。

 

一種のドーピングだが、もう競技にはどうやっても出られないんだ、と寂しそうに笑う立上先輩を見て、ただズルしたかった訳ではないと私は確信してる。

 

「まだ走る?蓮華ちゃん。」

 

立ち上がった私をみて、自らも水分補給を行う

 

「走りますが、競争は終わりですかね……」

 

「りょーかい、私は長距離走りこみに行くよ。それじゃあね。」

 

やっぱり走るのが好きだっただけだと実感する。一時期周りの冷たい視線が突き刺さっていたらしいが、今は周囲にそういう目で見る人はいない。

邪魔なものがあろうとも、そんなのそっちのけで好きな物に打ち込める。そんな姿に憧れる私だった。

 

……誰に向かって言ってるのか自分でも分からないけれども言いたくて仕方ない。

 

 

あの人、正式な部員ではない。

 

 

「で、蓮華はまた勝てなかったと。」

 

「だね……やっぱりすごいなぁ。立上先輩。」

 

月本蓮華は朝練を終えて教室の席についた。

その途端に隣の席の女子が話しかけてくる。

赤峰 望、話したきっかけは隣の席なだけだったが、ソーシャルゲームの話で気が合い今や友人といえる仲だ。

 

「やっぱり身体強化が大きいんじゃないの?一種のドーピングなんでしょ?」

 

「そ、そうかもしれないけど、競技用の義足を調べたらんだ結構動かすの大変だって。ほら。」

 

そう言って端末から画像を見せる。

画像はパラリンピックのサイトであり、その中でも陸上をメインにした記事だ。そこに映る選手の足は膝から下が湾曲した板で出来ている義足だった。

 

「……これで蓮華より走るの速いの?体力テストの時ちょっと蓮華の走るところ見てたけど、平均よりは速かったよね。」

 

「記録はね…立上先輩、自分は男子の遅い子よりは確実に速いって言ってた。強化があったとしてもすごいと思うな……そういえば望ちゃんの方はどうなの?」

 

若干へこみながらも、蓮華は剣道部である望に聞き返す。

それに対し望も蓮華のようにがっくりと肩を落とし、首を振った。

 

「もう一回勧誘やってるけどダメっぽい…男子も女子も人集まらないや。男子は助っ人に一人当てがあって何とか出場できるらしいけど……」

 

「あちゃ…来年まで期待できなそうかな。」

 

「だねぇ」

 

人数不足に嘆き机に突っ伏す望だが、蓮華は人集めに協力するのが限界だ。

中学初めて出来た友人の力になれず少し残念に思っている蓮華。そんななか担任の椙元先生が入ってきた。

HRが、そしてその後に授業が始まる。

 

 

「はーい。次回までに13Pの演習と15,16Pの予習をしてきてください。」

 

今日の最後の授業である英語が終わった。

慣れてくれば一日などあっという間に終わるんだなと、蓮華は思いながら荷物を片付けつつ過ごすHR。

そして部活。

部室についた蓮華は荷物を置きつつ紫蘭の姿を探すが、見つからない。

 

「きょ、今日は立上先輩いない日ですか…」

 

「だねー。先輩勉学メインでこっちに来るのは走りたくて仕方ないときだもの。」

 

すぐそばにいた同学年の斎藤にたどたどしく声を掛けると、返ってくるは同意の言葉。

立上紫蘭が正式な部員として所属していないのは、上記の理由加え大会にすら出場できないことにある。

故に、このように出現頻度は決して高くはない。それに三年生で受験も気にしなければならない。

 

「…ん?」

 

その時、蓮華の視界の端に何かが光る。

自分が使っている、今カバンを置いたばかりのロッカーの隅に原因の品はあった。

つまんでみると、それは桜のような輝きを放つ宝石のようなものが、ネックレス用の穴が開いている金具にはめ込まれているものだった。

 

「…なにこれ」

 

「…奇麗…蓮華のなの?」

 

斎藤が気になったのか覗き込んできた。

身に覚えのない蓮華は思わず首を振る。

 

「こ、こんな高そうなもの持てない…」

 

「偽物かもしれないけどね…じゃあ誰のだろう…どこに落ちてたの?」

 

「それが、私のロッカーの隅…なの……」

 

そこまで斎藤と仲がいいわけではないが、それでもこの状況を伝えねばならず必死に話す蓮華。

それを聞き考え込む斎藤。

 

「開けた時すぐ近くにいたのは私だけだし…それにこのロッカー借りた時には無かったんでしょ?」

 

「……うん」

 

「となると分かんないなぁ。隣のロッカーと間違えたとかしか……とりあえず最初の集合の時に聞いてみて。」

 

「…そうするよ」

 

そう言ってジャージのポケットに入れた瞬間。

 

―――――――捨てないで

 

 

「っ!なに…!」

 

蓮華は何かの声を聞いた気がして周りを見回す。

だが、近くにいるのは斎藤だけ。それに、どちらかというと幼い少年のような声だった。

 

「蓮華、どうしたの急に?」

 

「お、思いだしたの!友達からちょっと預かってたんだった!」

 

集合時にこのことを話せば、とりあえずと先生預かりになるだろう。

何故かを蓮華自身が分からないまま、その声に彼女は従うかのように手放さないよう言い訳をしてしまった。

 

「なにそれ…借りものなら忘れないようにしなさいよ。」

 

少し噴き出すように笑いながら斎藤は言葉を返すと去って行った。

蓮華もそれに続くようにロッカーを後にする。

 

「月本ー遅いぞー」

 

「ごめんなさい!」

 

集合場所には既にみんな集まっていた。

蓮華は走って集合場所に到着する。彼女にとって、少し幸先の悪い部活動の始まりだった。

 

 

部活が終わった後、蓮華と望は校門前で待ち合わせすることがほとんどだ。

そして今日も部活終わりでスマホを見ると

 

『校門で待ってる』

 

と4分ほど前に連絡が来ていた。

先程まで着ていた運動着を手早く畳んでカバンに入れると、斎藤達に軽くさよならと別れを告げて部室を後にした。

 

校門前に着くと、待っていた望が振り返って声を掛ける。

 

「おつかれさまー」

 

「おつかれさま。待たせちゃった?」

 

「そんなことないよ……あー」

 

望は首を振りながら歩き始める。

だが校門手前の信号は二人が渡る前に赤く変わった。

仕方なく立ち止まると、望はため息をついた。

 

「はぁ、ツイてないな…ガチャは外すし変な物は拾うし……」

 

「わたしも変な物拾っちゃった…」

 

その瞬間二人で顔を見合わせると、さっ、とそろってカバンから何か取り出す。

蓮華は先程手に入れた宝石を、望は赤色の同じような宝石をその手の中に輝かせていた。

 

「…偶然にしちゃ出来すぎだよね。」

 

望はぽつりとこぼすように呟く。

 

「わたしなんて捨てないでって声まで聴いちゃった。」

 

「こわ……」

 

その時二人の宝石が僅かに輝きを増した。

 

『…私のことかい?』

 

「「うわぁああ!!!」」

 

二人は思わず宝石を取り落としながら尻餅をついた。

 

『驚かせてごめん。大丈夫…?』

 

宝石から聞こえているような気がするその声は、中性的な声で男女か判別がつかない。

二人は立ち上がりながら宝石を拾い上げる。

 

「う、うん…」

 

「びっくりした―」

 

蓮華、望の順で驚きの余韻が残る声で答える。

しかし、宝石はそんな二人を急かすように言葉を続けた。

 

『ほんとは色々説明したい事があるんだけど……緊急事態だ、向こう側の歩道を見て!』

 

二人は言われた方向を見渡すと、蓮華にとっては見慣れた人影が歩いていた。

だが、ふらつき存在感すら不安定に感じるその様子は、蓮華の知っているものでは無い。

 

「た、立上先輩、帰ったはずじゃ……」

 

『っ!……あのままじゃ拙い!追いかけて!』

 

空気を読んだのかと思わずにはいられない青信号。

一斉に二人は駆け出すが、それに気づいた紫蘭はふらついたまま走り出す。

疲労困憊という様子ではあるが、それでも足が速いという事実は無くならない。

 

「調子悪そうなのに速ぇ!はぁ、はぁ!」

 

「今つけてるの、はぁ、人の足そっくりの義足だから…!」

 

つかず離れずを続けるうちに、人気のないかつての都心部近郊にある廃ビルにたどり着いた。

そのころには二人とも息が切れていて、すぐにビルの中には入れなかった。

 

『急いで!あまり余裕はないよ!!』

 

「なんとなくわかっちゃいるが…はぁ…!」

 

「い、いま行くから…」

 

急いでビルの中に入り上を目指す。

蓮華たちは何か瘴気とも表現できる嫌な気配が上から降りてくるのをしっかりと感じていた。

 

そして四階にたどり着いたとき、紫蘭の背中を捉えた。

 

「立上先ぱ…」

 

ふらりと傾く。

その影は膝から崩れ落ちた。

 

「先輩!!!」

 

蓮華が駆け寄り、跪いて紫蘭の様子を確かめる。

 

「れんげ…?」

 

『意識はあるみたいだ…だけど。』

 

宝石からの声は緊張に染まる。

ふと蓮華が紫蘭の影になって見えなかった部分に目を向けると、黒い塊が蠢いていた。

 

「な、なんだありゃ…!」

 

『私達はモノノケと呼んでいる…人の持つ微弱な魔力を命諸共吸い取りかねない危険な存在だ』

 

望の恐れに染まった問いに宝石が答えた。

目の前にいるのは自分たちの命を喰らおうとする怪物だと知り、場に緊張が走る。

蓮華に至っては、手の震えが止まらない。

 

「ぁ…にげなきゃ…」

 

だが、足が動かない。立ちあがれない。手が震えて紫蘭を連れていくことすらままならない。

そんな蓮華の手を、紫蘭が握る。

蓮華は目を見開き、手を、そして紫蘭の顔を見つめた。

少し焦点の合わないぼんやりした瞳で、それでも微笑みかけて蓮華の心を癒した。

 

「…ここに連れてきたってことは、どうにかできる方法があるからだよね。」

 

「蓮華っ!何言ってるんだ、逃げないと!」

 

紫蘭を優しく横たわらせると、蓮華は立ち上がる。

宝石を胸に当てながら握りしめ、力強く紫蘭の前に。

 

そんな蓮華の目の前で、黒い塊は狼に似た化け物へと姿を変えた。シルエットは僅かにかすんではっきりとはしないが、低く唸り、今にも飛びついてきそうだ。

 

『もちろんだよ、私も手伝う。』

 

「どうすればいいの?」

 

『そのまま祈って。戦うための力を…』

 

宝石が輝き始める。

その桜色の光は蓮華を包み込むほどに強く眩かった。

 

モノノケはその光に危機感を抱いたのか、鋭い軌道で蓮華に飛び掛かった。

 

「蓮華ぇ!!」

 

望は叫ぶが、まばゆい光に目を開けていられない。

光が収まる直前、望は鈍く何かを切り裂いた音を耳にする。

回復した視界に立っている蓮華は、さっきまでとは全くの別物だった。

傷つけられたという意味ではない。

桜色を基調に白のラインがあるドレスのような服装で、手には槍のような武器を持っている。禍々しい瘴気とはまた違った不思議な雰囲気を纏っていた。

 

奥でモノノケが狼狽している。よく見ると右わき腹に傷のようなものがある。

蓮華がやったのか、と望は困惑する。

 

「はぁ、はぁ…これでいいの?」

 

『ああ、ここからはアドバイスはするけど君次第だ。』

 

「分かった!!」

 

再び飛び掛かってくるモノノケ。

蓮華の首元を狙う噛みつきに、槍を盾にして咥えさせた。

モノノケはその槍の柄に噛みつき、おぞましい顔が蓮華の視界を占める。

それもつかの間、突撃の勢いを受けきるとモノノケを突き飛ばして地面に叩き落す。

 

蓮華の息は初陣の緊張かかなり荒く、見ている望も緊張が続く。

モノノケは知ったことかと懲りずに飛び掛かってきた。

 

「…ッあああああ!!!」

 

蓮華は渾身の声と共に、カウンターに飛び掛かってきたモノノケの腹めがけて槍を突き出した。長い槍の間合いに、モノノケの攻撃が届く前にモノノケの腹に槍が突き刺さった。

蓮華はそのまま槍でモノノケを地面に抑え込み、背中まで槍を貫通させる。

勢いあまって地面にまで突き刺さった槍を手放し、尻餅をつく蓮華。

突き刺さったモノノケはしばらく暴れ悶えた後沈黙した。

 

「や、やった…やったよ望ちゃん!!」

 

「よ、よかったぁ…」

 

立ち上がる蓮華に対し、緊張の糸が解け地面に座り込む望。

蓮華は光を放ちながら元の姿に戻り、望に駆け寄った。

紫蘭も何とかふらつきながらも立ち上がる。

 

「立上先輩!!無事でよかったです!」

 

「無事かどうかはちょっと自信ないけど…まあ、何とかなったわね…」

 

紫蘭は未だに回復しきれていないのか、だるそうな表情を浮かべていた。

しかしその直後、上の方から物音がする。

蓮華が驚いて少し跳ね上がった

 

「普通に考えて勝手に入っちゃだめだよね…早く帰ろう…」

 

「立上先輩、でしたっけ?私でよければ肩を貸します。」

 

望が紫蘭に近寄り、手を差し伸べる。

それを手に取るものの、首を振ってすぐに放してしまった。

 

「大丈夫…んっ!」

 

「ちょっ…!」

 

そう言うと両手で頬を、顔を挟み込むように強く叩く。

あまりにもイイ音がしたため望は引き、蓮華は目を丸くして固まってしまった。

ふぅ、と軽く息を吐くと大分すっきりした表情で紫蘭は言う。

 

「大分意識もはっきりしてきたし大丈夫だよ。」

 

「そ、そうですか…きつかったら言ってくださいね…」

 

望はそういうと蓮華と共に階段に向かって歩き始める。

 

 

その時、紫蘭の後ろで何かが動いた。

後ろにはモノノケしかいない、いや逆に言えばいるのだ。

 

モノノケはまだ息があったのだ。

生き残るために先程魔力を吸ったことで弱っている紫蘭を喰らおうと、隙を伺っていたのだった。

モノノケを釘付けにしていた槍は変身を解いたときに消えている。

 

そして紫蘭が階段に向けて一歩踏み出したときに、モノノケは動いた。

手負いなのにも関わらず、音もなくなおかつ素早く紫蘭の無防備な背中に食らいつこうと迫る。

 

紫蘭は気づいたのか振りむき…

 

「手負いの獣には気をつけろ…よくある話だけど、お互い様よね。」

 

ぱしゅん、と気の抜けた音が響く。

モノノケは紫蘭に近づくどころか数メートル手前で額に穴を開け、絶命した。

紫蘭の左手でサプレッサーを付けたハンドガン、M9ベレッタが硝煙を燻らせている。

 

「立上先輩―いかないと危ないですよ!!」

 

「やっぱり肩貸しましょうかー?」

 

二人は紫蘭が遅いことを気にして、階段前で声を掛ける。

 

「大丈夫、物音が聞こえただけだから。今行くね。」

 

紫蘭は二人に見えないよう、M9を背中に隠して振り向いた。

安心して二人が階段を下り始めると、今日は使わないだろうと言わんばかりに分解して義足の中に収納したのだった。

 

地に伏し消え始めたモノノケに開いた穴は、紫蘭の額の物だけではない。

腹の横に、紫蘭の射撃と垂直に交わるような大きく空いた穴がもう一つあったのだ。

 

 

――――――紫蘭たちがいるビルの向かい側から700m

 

今さっきまで戦闘が起こっていた階がよく見える場所に、二つの人影があった。

一人は背格好こそ中学生だが、鎧のようなものを身に着け、長い髪から辛うじて女子かもと推察できるくらいである。

大型の銃のようなものを構えていて、銃口らしき部分からは白煙がもくもくと上がり続けていた。

もう一人はその横に立ち、望遠鏡で紫蘭が階段から今まさに降りようとするところを観察していた。同じく中学生くらいの男子で、黒く短い髪と羽織ったぼろぼろの都市迷彩柄のマントを風に揺らす。

 

紫蘭が視界から消えると、望遠鏡を顔から放して彼は耳の無線機に指を当てる。

 

「こちらアキレス…ただの練習のつもりだったんですが、厄介なことになりました。新しい魔法少女…制服からしてうちの中学の女子です。」

 

淡々と述べられる現状。3人が去って行った場所を見つめ続けながら話は進む。

 

「はい……紫蘭なら適任かと…………了解、これより鎮圧に加えチーム3-1の監視依頼も追加、受諾します…オーバー。撤退だ、厄介なことになったな。」

 

「全くですマスター」

 

「マスターはやめろと言ってるだろう…」

 

長い通話を終えると、彼はもう一人の肩を軽く叩いて撤退を促す。

彼女は彼をからかうと、武器を置いて立ち上った。置いてあった武器は光の粒子になって消えていく。

 

「お前も無茶するなぁ…」

 

耳に再び手を当てると、親しそうに会話をし始めるのだった。

 

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